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第十章 ラ・ルーブ・ブランシュ・レジョン

 ~ラ・ルーブ・ブランシュ・レジョン~


 ナポレオンの軍隊は、今日も忙しく動いていた。


 共和国政府の命令により、100名規模の砲兵隊はパリの治安維持に駆り出され、王党派との戦いに身を投じ、時には国境沿いで他国の侵略を防ぐために各地へ派遣される。

 大砲が轟き、銃声が鳴り響き、やがて戦いは敵味方入り乱れた肉弾戦へと移行する。


 そんな混沌の戦場で、ひときわ異彩を放つ小部隊があった。

 指揮官はフランソワ。副官はソンエイ。

 ソンエイは中国皇帝を代々守った近衛兵隊長の家系に連なる武術の達人。その技は、剣を振るえば風を裂き、拳を放てば岩を砕く。

 フランソワは高貴なるリシュリュー公爵家の令嬢でありながら、男装して兵士となった少女。ソンエイに戦いを学び、戦場ではまさに無双の存在となる。


 二人が並び立つだけで、兵士たちは自然と集まってくる。彼女らの傍で戦えば生き延びられる——そんな確信が兵士たちの心に芽生えるのだ。


 その様子を見たナポレオンの副官ルイは、フランソワを軽歩兵の指揮官に推薦した。

 提案はすぐに受け入れられ、フランソワは20名の兵士を率いる小隊長に任命される。ソンエイは副官として彼女を支える。


 任命された時、フランソワは18歳。

 少女の面影を残しながらも、軍服に身を包んだその姿は、美麗な青年士官そのものだった。

 気品と威厳を兼ね備えたその佇まいに、兵士たちの士気は自然と高まる。


 しかし、彼女の軍服には一つだけ異質な点があった。

 それは左胸の穴。かつて銃殺された兵士の服を着ているために空いた穴だった。

 そこに侍女のマリーが紋章を縫い付けた。

 本来ならば、リシュリュー公爵家の山猫の紋章を使うべきところ。しかし、それでは身分が露見してしまう。

 そこでマリーは、白い狼の紋章を新たに作り、穴の部分に丁寧に縫い付けた。


 兵士たちは、どうしてもフランソワの膨らんだ胸に目が行ってしまう。

 だが、そこにある白狼の紋章を見た瞬間、彼女の持つカリスマと相まって、圧倒されるのだった。

 彼女が率いる小隊の兵士たちはフランソワの信奉者。士気は高く、部隊は最強の精鋭となった。 


 フランソワが率いる部隊は、白い狼が率いる部隊。


『la louve blanche légion』(ラ・ルーヴ・ブランシュ・レジョン)』と、呼ばれた。


 その、ラ・ルーブ・ブランシュ・レジョンの真価が発揮されたのが、南フランスの港湾都市——トゥーロンでの戦いである。


 トゥーロンでは反革命派が反乱を起こし、イギリス・スペイン艦隊を呼び入れて都市を占拠してしまった。

 共和国軍はこれを鎮圧すべく、ナポレオン率いる砲兵隊を派遣する。

 だが、その前段階として、フランソワ率いる軽歩兵小隊が現地に赴いた。


 兵士たちはソンエイから手ほどきを受け、銃を使わず、銃剣やサーベルのみで敵を倒す術を身につけていた。

 音を立てずに敵を排除するその技術は、隠密活動に最適だった。


 トゥーロンに到着したフランソワたちは、まず地形を調査。反乱軍の配置を把握し、各所に潜む敵部隊を次々と殲滅(せんめつ)していく。

 彼女らの活躍により、ナポレオンは海軍基地を砲撃できる位置を確保することができた。

 そのうえで、砲兵隊の一斉砲撃が始まる。

 イギリス・スペイン艦隊は撤退を余儀なくされ、トゥーロンは12月、共和国軍の手に戻った。


 この作戦の成功により、ナポレオンは「共和国の英雄」として一躍注目を浴びる。そしてその功績が認められ、准将への大抜擢を受けることとなる。

 だが、その陰には、白狼の紋章を胸に掲げ、男装の麗人として戦場を駆け抜けたフランソワと、無音の剣を振るうソンエイの姿があった。



 第11章 一歩前 に続く

 


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