第92話「戦場の朝ご飯」
「いただきます」
「い、い、いたりゃきます……っ!」
向かい合って座る二人。
沈黙の中、箸の音だけがカチャカチャと響く。
「……バルさんは──」
「や、やつは……ね、寝ておる! そ、そう、二度寝じゃっ!」
リリスはバタバタと手を振って、声を裏返す。
「……そうなんですね」
蓮は首をかしげつつも、それ以上は追及しない。
そしてまた、黙々と食事をする二人。
──その静寂を破るように、蓮が口を開いた。
「そういえば……リリスさんに、相談がありまして」
「そ、そ、そ、相談っ!?」
リリスの箸がカタリと落ちた。
(こ、心の準備がまだなのにっ! まさか……け、けっこんの──!)
「はい、実は……お子様向けに写経教室を──」
「こっ……こっ……こ、子供っ!?!?」
椅子からずり落ちそうになるリリス。
「はい。初めてのことですが、いい経験になるかと──」
(は、はじめて……子供……!? そ、それってつまり……っ!!)
頬を真っ赤にし、頭の中では暴走列車が全速前進。
(お、落ち着けリリスっ! これは将来設計の話じゃ! そ、そう、今後二人で築く未来の──!)
「そ、そ、その……子供は……な、何人欲し……?」
「そうですね……部屋が狭いので、十人もいれば──」
(い、一個小隊!?!?)
(初めてで軍編成!!?)
リリスの頭から、ぷしゅ〜っと湯気が立ちのぼる。
「是非協力していただけると──」
「…………き、協力ぅ……〜っ」
「難しいでしょうか?」
「ぅぅ……か、かかか考えさせてくださいっ……!」
顔を真っ赤にしたまま机に突っ伏すリリス。
蓮は首をかしげつつも、優しく笑って頷いた。
「わかりました。……出来たら、バルさんにも協力を───」
「………ぇ?」
「手が足りなくなると思いますので、雅さんにもお手伝いを頼もうかと」
「…………ふ」
「ふ?」
リリスは勢いよく顔を上げ、耳まで真っ赤に染めて叫ぶ。
「ふ、不潔ですっ!!」
次の瞬間、バタンと椅子を倒しながらその場を飛び出していった。
残された蓮は、椅子を直しながらぽつりと。
「……なにか変なこと言ったかな……?」
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