第91話「暴走する乙女心」
どうしよう………
目が合わせられない………
──翌日。
リリスは自室の寝台に潜り込み、布団の中で小さく丸まっていた。
「蓮の顔が見れないっ……!」
思い浮かぶのは、昨日の言葉。
『一緒にいてくれますか?』
『一緒にいます。いつまでも』
「~~っっっ!!!」
布団の中でドタンバタンと暴れ、頬を真っ赤に染める。
「こ、コレって……コレってっ……!」
そして次の瞬間、感情が抑えきれず――
「ニャーっっっ!!!」
勢いよく布団から飛び出し、頭を抱えて転げ回る。
「ど、ど、ど、どうしようっ……っ」
羞恥とときめきで胸が破裂しそうになりながら、リリスは再び布団に潜り込んだ。
「これって…………けっ、結婚ってこと……?」
自分の口から出た言葉に、余計に混乱して目をぐるぐるさせる。
「あわわわわ、ま、ま、魔王になる前に……人妻になるってこと!?!」
布団の中でジタバタと暴れる音が、しばらく鳴りやまなかった。
──そこへ。
「リリス様ぁ〜、朝ごはんが出来………って、まだ布団の中ッスか?」
扉を開けて顔をのぞかせたバルが首をかしげる。
「うぅ、バルぅ………」
布団の中から情けない声が漏れる。
「どうしたんッスか〜? ご飯冷めちゃうッスよ?」
「……人妻になっちゃう……っ」
「………………」
バルは一瞬固まり、次の瞬間、派手にのけぞった。
「な、なに言ってんスかアアーーッ!?!?
ど、どうしてリリス様がいきなり人妻になるんスかァ!?」
「そ、それは……ほら、昨日……」
「……昨日?」
「昨日、その……我が蓮に……えっと……その……」
バルはポンと手を打った。
「ああ〜〜、あの“告白”ッスか!」
「〜〜〜っ!!」
リリスの顔が一気に真っ赤に染まる。
「一緒にい───」
「ニャーッそれ以上言うなっ!!」
猫みたいに飛び上がって口をふさごうとするリリス。
「あ、はい」
バルはあっさり黙った。
「でも……それが……どうして人妻になるんスか?」
「だって……“一緒にいる”って……言ってくれたから……」
足をもじもじさせ、視線を泳がせるリリス。
「いやいや、“一緒にいます”って言っても、“添い遂げます”と“一緒にいます”は天と地ほどの差っスよ?」
「そ、それでも……蓮は言ったもん……!」
リリスは頬をぷくっとふくらませる。
「いやいや、言ったもんって……子どもじゃないんスから……」
その時──
「バルさん、リリスさんは?」
ひょこっと顔をのぞかせる蓮。
「うにゃっ!?」
リリスがビクンと跳ね上がる。
「あ、蓮兄ぃ!ちょうどいいところに──実は昨日のもごもご……!?」
言いかけたバルの口を、リリスが咄嗟に氷魔法でガッチリ封じる。
「もごもごもごっ……!」
そんな様子に首をかしげながら、蓮はにこやかに。
「朝ごはん、出来てますよ?」
「す、すぐ行くっ!今すぐ行くっ!!」
リリスは布団を蹴飛ばし、真っ赤な顔のまま立ち上がる。
「はい。お待ちしておりますね」
蓮は柔らかな笑みを残し、食堂へと戻っていった。
リリスはその背中を見送りながら、胸を押さえ、ぽつりと。
「……ちゃんと喋れた……えへへ……」
頬をほんのり桜色に染め、夢心地でふらふらと歩き出す。
一方で、口を氷で塞がれたままのバルは、顔を真っ青にしてガクガク震えていた。
「……っ……!!(死ぬっス……!)」
そんなバルをあっさり置き去りにして、リリスは弾む足取りで食堂へ駆けていった。
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