第90話「貴方と共に」
リリスはうつむき、肩を小さく震わせていた。
胸の奥で渦巻く不安が、堰を切ったようにあふれ出していく。
「……リリスさん」
蓮の声音は、やわらかく、それでいて逃げ場を与えぬほど真っ直ぐだった。
「私では……駄目ですか?」
はっとして顔を上げる。
涙に濡れた瞳が、蓮の真剣な眼差しを映した。
「……え……」
喉が震えるのに、声は言葉にならない。
「私では、貴方を支えることはできませんか」
その問いかけに、胸の奥が強く締めつけられる。
必死に答えようとしても、声は出なかった。
代わりに──リリスは俯いたまま、ほんのわずかに首を横に振る。
小さな仕草は、言葉以上に雄弁だった。
それは拒絶ではなく、溢れる感情の証。
蓮の瞳に、揺るがぬ意志が宿る。
「……私は、貴方を支えたい」
「それは……?」
「魔王候補とか、魔族とか……そんなことは関係ありません」
深く息を吸い、まっすぐに告げる。
「一人の人間として……貴方を支えていたいんです」
「っ……」
差し伸べられた手の温もりが、冷えた心をじんわりと満たしていく。
「だから……泣かないでください」
蓮の左手がそっとリリスの頬に触れ、流れる涙を拭った。
「何に悩んで、何に怯えて、何が貴方を泣かせているのか……私にはまだわかりません」
「だから……話してくれませんか。貴方のことを」
リリスは震える声で、ぽつりと呟いた。
「私は…私は………蓮と一緒にいたい」
「はい」
リリスの言葉は、震えながらも確かだった。
その先にある恐れを飲み込み、ついに口にした本心。
「魔族と人間………寿命が違う……それでも……」
言葉が途切れ、涙がまた溢れる。
「一緒にいてくれますか?」
蓮はゆっくりと頷き、リリスの手を強く、しかし優しく握りしめた。
「一緒にいます。いつまでも。」
◆◆◆
その頃バルは…
「咄嗟に電柱に隠れたッスけど……出れないッスぅ」
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