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14 知りたくなかった現実

「なんですって?! 消えた?」

 スザクは川に近づき気配を探る。

「まだ近くにいるのはわかるのに、どこにいった……」

 辺りを見回すが、邪鬼じゃきは現れない。

「もしかして、どこか別の場所に行ったんでしょうか」

「それは無いわね。ここにいるのは間違いないもの」

 スザクが私に振り向いたところで、またあの邪鬼が川から姿を現した。

「ぐへへへ……」

 邪鬼は笑いながら、巨大な4本の腕をスザクに伸ばす。

 そして、がしっとスザクの体と羽を掴み、川に引きずりこもうとする。

「くっ……なんて力なの!」

「スザク!」

 私は急いで立ち上がり、刀を持って走り出した。

「スザクを離しなさい!」

 私は刀を構え、邪鬼の4本の腕に斬りかかった。

 「はあぁっ!」

 振り下ろした刀は、腕を切り落としスザクを解放した。

 スザクを掴んでいた手は、ボロボロになり消えていく。

「スザク、大丈夫ですか!」

「ふ、ふんっ。こんなことでお礼を言うと思わないでよね」

 スザクは持っていた扇で口元を隠した。あ、これは照れ隠しかな。

「それは気にしていませんよ。大丈夫ならよかった」

 私が笑顔を向けると、スザクはちらっとこちらを見る。

「2人とも、まだ邪鬼は元気だよ! 気を付けて!」

 せっかくいい雰囲気だったのに、シャオに邪魔されてしまった。

 振り向くと邪鬼の腕は元通りになっていた。

「があぁーっ!」

 邪鬼は大声を出し、今度は私に腕を伸ばしてくる。

「ことね、逃げて!」

 シャオは叫んだが、私が動く前に捕まってしまう。

「あぁっ!」

  邪鬼は、捕まえた私を握りつぶそうと手に力をこめる。

 苦しい、息が出来なくなる。私は意識が遠のきそうになる。

 その時、またあの声が頭の中に響き渡る。

「ちょっと今回は危ないみたいだな。体、借りるぜ……」

「なに言って……」

 私が言い終わる前に、意識がぼんやりしてきた。

「さぁ、この嬢ちゃんを離してもらおうか……」

「ぐうぅ?」

 すると、私の体から別の力が放たれ、邪鬼の手が離れた。

「がうぅっ!」

 邪鬼はそのまま吹き飛ばされ、川に尻もちをついた。

「さぁて、じゃぁ伸びている糸でも切りますか。どうせ、あんたには見えていないんだろ?」

「あんた、一体何者なの?」

「それは、もう少ししたらわかると思うぜ」

 私の体は勢いよく駆け出し、邪鬼の頭にある糸を切った。

 邪鬼は少し小さくなり、動きも鈍くなった。

 そこで私の意識がはっきりしてくる。

「あれ? また私どうしちゃったの?」

「それはこちらが聞きたいわよ。それより、早くあいつを倒すわよ」

「ぐうぅー……があぁーっ!」

 邪鬼は私たちを睨みつけ襲いかかってきた。

 すると、スザクは持っていた扇を邪鬼に向ける。

「燃えなさい、炎舞えんぶ!」

 スザクが扇を上に向けると、邪鬼が急に燃え始めた。

「ぎゃあぁーっ!」

 炎はどんどん邪鬼を包みこんだ。やがて、邪鬼の体は形を失い、消えると同時にたくさんの光の球が出てきた。

 それは、どんどん上に昇っていき消えていく。

「スザク、あれはなんですか?」

「あれは、人の魂よ」

「えっ!」

 スザクの言葉に、私は言葉を失う。

「さっきの邪鬼は、この村の人間をほとんど喰ったようね。だからいつもの邪鬼と違ったんだわ」

 スザクは構わず話しているが、私の耳には届かなかった。

「この村の人たちは、皆食べられちゃったんですか……?」

「えぇ、そうよ。それで力を蓄えたのね」

「私たちがもう少し早く着いていれば、助かった人もいたんでしょうか」

「それはわからないわね。たとえそうだったとしても、もう過ぎたことよ。気にしてたらキリがないわ」

 スザクの言っていることはわかる。でも……

 私は俯き拳を握る。強く、とても強く。

「う、うぅ……」

 気づいたら私は泣いていた。涙がどんどんあふれてくる。

「ことね、大丈夫かい?」

「助けられなかった……悔しいよー……」

 私が泣いていると、スザクが頭に手を置いた。

「私の炎はね、浄化の力もあるのよ。村人は喰われたけど、その魂は解放された」

 私は泣きはらした目をスザクに向ける。

「私たちが来て邪鬼を倒したことで、救われた魂もあるのよ、ことねちゃん」

 スザクはそう言って、優しく頭を撫でてくれた。

「うわあぁぁぁん!」

 私は耐えきれなくなって、大声で泣く。スザクとシャオは私が泣きやむまでそばにいてくれた。


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