84、悲劇は未だに……
冒険者ギルドでスリを捕まえたリリは、ギルドから感謝の言葉と銀貨三枚を貰い嬉しそうにしていた。
対する俺はと言うと、連れの女の子が頑張っているときに、絡んできた男達に手も足も出ない為すがままのヘタレだという烙印を押されていた。
そんな不名誉な烙印を押されたが、まぁ、実際何も気付かなかったのだから仕方のないことだ。
俺は周囲の憐れむような目を無視しながら、リリを連れて宿屋に戻った。
宿屋に戻った俺は、直ぐに設置型テレポートを部屋の壁に設置する。
今日は宿屋に泊るつもりだが、やはりトイレだけはウォシュレットじゃないと我慢できないからだ。
フッ、今更ぼっとんトイレは俺には無理だ……
「お兄ちゃん、今日はこの部屋で寝るの?」
「あぁ、そうだ。もしかしたらジャイアントエアスネークが、夜中に現れるかもしれないからな」
「そっか。それで明日は何するの?」
「暫くはガーリアにいるつもりだけど、そうだな、まずは奴隷商かな」
せっかくだからジャイアントエアスネークを倒すつもりだが、元々このガーリアの街にも店を出すつもりだから、いつものように奴隷商に行って奴隷を買おうと思っている。
カインの街からお店の店長となる人を連れて来ても良いのだけど、転勤させるのは気が引けるのと、砂漠という独特な土地柄ということを踏まえ、最初はやはり奴隷が良いとだろうと判断した。
「そう、良い人が見つかると良いね」
「そうだな。リリ、先に風呂入る?」
「えっ、一番風呂なんだから、お兄ちゃんから入ったら?」
「俺は麗華さんと、いつもの定期連絡をしてから入るよ」
「そうなんだ、だったら先に入るね」
「あぁ、そうしてくれ」
少し前まで麗華さん達との連絡は滅多にしなかったが、麗華さんに余程の事がない限り毎日連絡したほうが良いと言われ、取り敢えず毎日念話をするようになった。
毎日の念話はコミュニケーションの一環と、大した話じゃなくても話題を共有した方が今後に生かせるからと彼女が話していたからで、確かに世間話みたいな会話でも、もしかしたら大事な事が隠れてるかもしれないと考えたからだ。
リリが部屋を出たのを確認してから、俺は麗華さんに念話を送る。
(麗華さん、今宜しいですか?)
(はいはい、待ってましたよ)
(あぁ、遅れてごめん)
(いえいえ、大丈夫ですよ)
(それで、今日は何かありましたか?)
(そうですね、今日はギルバート様の所に行って来たけど、ちょっと気になる話を聞きました)
(気になる話ですか?)
(ええ、どうも最近公国の方からドリントの街に亡命してくる人が増えていて、今後トラブルが起きないか心配だと、ギルバート様が話していました)
ギルバート様が治めるロンバード辺境伯領は、隣国ガーランド公国からの侵略を受け最近まで戦争をしており、その戦争が原因で辺境伯領は多数の領民が死に、更に食料面でも甚大なる被害を被った。
その隣国、ガーランド公国からの亡命者となれば、辺境伯領に住む領民は納得しないだろう。
家族の敵討ちと言って亡命者を殺す可能性は当然として、辺境伯が亡命者を庇えばその怒りは辺境伯に向けられ、領主であるギルバート様への信頼も地に落ちるだろう。
(そんなに増えているのか?)
(ええ、今のところ十数名らしいのですが、亡命者の話だと今後増える可能性があるそうです)
(でも不思議だよね、どうして態々敵国である辺境伯領に亡命するんだ?)
(それがですね、亡命者は全てゼノン伯爵領の領民らしく)
(ゼノン伯爵領って、辺境伯領の隣の領地だよな)
(そうです。そのゼノン伯爵領で、どうも内乱が起こりそうな話なんです)
内乱とはまた穏やかな話ではないが、それでも辺境伯領に亡命する理由にはならない。
普通なら同国内の他の領地に逃げるはずだからで、態々危険を冒して辺境伯領に亡命する理由にはならない。
(流石に内乱が起こる可能性があるからといっても、態々敵国である辺境伯領に亡命はしないだろう。一歩間違えれば亡命と同時に敵討ちと言われ、殺される可能性だってあるんだぞ)
(そこなんですけど、亡命者が言うには公国内の殆どの領地で大飢饉が起こり、その食料不足を辺境伯領の作物で補うために侵略戦争を起こしたようです)
(ハァ、本当に良くある話だな)
(そうですね。ですが実際は辺境伯領は土壇場で踏ん張り、公国軍を追い返したじゃないですか)
(あぁ、そうだな)
(勝てる寸前まで攻めておきながら結局逃げ帰った責任は、辺境伯領と国境を挟んだ領地であるゼノン伯爵が協力を惜しんだからだと言われてるしいですよ)
(そ、それは、酷いな)
(それでゼノン伯爵には戦争責任として領内で取れる作物の没収と、多額の金銭を国に支払うように命じられたらしいのです)
なんじゃそれ?
それって辺境伯領を侵略できなかったから、伯爵領の作物で各地の食料不足を補うって話だよね。
伯爵からしたら戦争に領民を奪われ更に作物も奪われてしまい、踏んだり蹴ったりな話だよな。
(それが本当だとしても、なぜ辺境伯領に亡命するんだ? それでも同国内の領地に逃げたほうが良いだろ)
(これは私の想像で、とても酷い話だと思いますが、伯爵領の領民は口減らしのために犠牲にするつもりではないでしょうか?)
(口減らしって…… )
そんな残酷な事を、実際に行う為政者が居るのだろうか?
確かに食べる者が少なくなれば食料不足は解消されるが、そのために一つの領地の領民を全て抹殺する計画と、そんな残酷な事を考えて実行する人がいるなんて、考えたくないし考えたくもない。
(国がひっくり返る程の大飢饉ならクーデターが起こっても不思議はないわけで、それを防ぐために侵略戦争をするぐらいなんだから、失敗した場合領地の一つくらい平気で犠牲にするんじゃないの?)
(だが、それは最早暴挙だろ)
(そうだね。まぁ、さっきの話は私の想像だけど、実際伯爵領では領民が他領に逃げられないように、関所が設けられ監視されてるらしいから、強ち間違ってないと思うよ)
(そうなのか…… それで、ギルバート様はどうするつもりだ?)
(悩んでいるみたいだよ。助けを求めてきた者を殺すわけにもいかないけど、辺境伯領の領民からしたら親や兄弟、子供の仇だからね。簡単には決められないと思うよ)
(そうだね…… )
もし麗華さんの想像が現実に行われたとしたら、更に亡命者は増えるだろうな。
そうなった時、ギルバート様はどうするのだろう?
そして、俺はどう動けば……
(それで、そっちの方はどうなの?)
(こっちは大きい蛇がいるだけで、別に問題ないから気にしないで)
(えっ、なにその大きな蛇って、かなり気になるんだけど)
(ジャイアントエアスネークという百メートルを超える蛇が………… )
それから暫く麗華さんと話をしていたら、リリがお風呂から上がってきたので念話を切り、今度は俺がお風呂に入った。
お風呂から上がり夕食を食べて、二つあるベッドの一つで横になりながら寛いでいると、部屋の外から騒々しい声が聞こえてくる。
「何か遭ったみたいだな、ちょっと行ってくる」
「リリも行く!」
「そっか、分かった」
頭の中にジャイアントエアスネークを思い浮かべながら、俺はリリと一緒に慌てて宿屋の一階にあるロビーへと足を走らせる。
ロビーには既に大勢の人がおり、やはり話題はジャイアントエアスネークの話ばかりだ。
「いったい何があったんですか?」
「詳しい事は分からないけど、どうやら北の住居にジャイアントエアスネークが出たらしく、十人前後が犠牲になったらしいよ」
「えっ、もう犠牲者が…… 」
「そうみたいだね。もう、この街は終わりだよ。夜が明けたら、さっさと逃げないとね。お客様も、逃げる準備したほうが良いよ」
「わ、分かった…… 」
俺の服の裾をリリが引っ張ってきて何か言いたそうにしてるが、言わなくても分かっている。
ジャイアントエアスネークは俺が絶対に殺してやるさ。
俺は、魔物の天敵だからな!




