83、混乱。
街の中心に向かって歩いていると、ガリムの宿屋と書かれた看板を見つけ俺達は中に入り部屋を一つ借りる。
一度部屋を確認した俺とリリは、宿屋を出て冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに行くのは、ジャイアントエアスネークの詳しい話を聞きたいことと、やはり街のことを知るには冒険者ギルドが一番だからだ。
冒険者ギルドの場所は宿屋の主人に聞いていたので直ぐに分かったが、ギルドの入り口付近は大勢の人で溢れていて只ならぬ様相を呈していた。
誰もがジャイアントエアスネークに脅威を感じて、情報を得るために集まってきてるのだろう。
ガーリアの街の冒険者ギルドの建物は、他の建物と同じく真っ白な屋根に真っ白な壁に覆いつくされており、教会を彷彿させる造りの建物だ。
屋根や壁の境を感じさせない真っ白な見た目は、漆喰等の材料自体の白さではなく、異世界では珍しくペンキの様な塗料で塗られているようだ。
推測だが、どうやらガーリアの街の建物全てにこの白い塗料が塗られていて、砂漠特有の厳しい日差しを反射して、熱を吸収し難い構造だと思われる。
建物の中に入っても数多くの冒険者で溢れかえり、ふと受付の方に目をやれば、多くの興奮した冒険者が受付の女性に詰め寄っている光景が見て取れる。
(リリ、どうやらギルドと冒険者が揉めてるようだから、今日は依頼を受けずに情報だけ手に入れるとしよう)
(うん、なんか皆怖い…… )
(だな、取り敢えず掲示板の方に行ってみよう)
(うん)
俺とリリは、さっそく掲示板を見に行っていろいろ調べてみる。
当然の事だが、掲示板の一番目立つところには、ジャイアントエアスネークの目撃情報を書き記したビラが貼られており、実際に確認された場合は一時的な避難を強く求めていた。
目撃者は数名いるが、朝早く日が昇る前に実物を見たというよりも、巨大な影を見たという話らしく現状注意喚起だけのようだ。
問題は注意喚起が続く限り魔物討伐や薬草採集は禁止となっており、それに伴い魔物の買取も禁止となっていた。
更に、無断で魔物討伐や薬草採集を行った場合、冒険者ギルドカードの剥奪という厳しい処分が下されると明記されている点にある。
(これが揉めてる原因かな)
(これって?)
(魔物の買取禁止と、ギルドカードの剥奪だよ)
(あぁ、そうだね)
(そういう事だ)
ジャイアントエアスネークの危険性は理解するが、冒険者の仕事には危険が伴うものだが、それを承知のうえで魔物討伐や薬草採集を行う者が冒険者だ。
よって冒険者の仕事は全て自己責任であり、その事に冒険者ギルドが口を挟むものではない。
それなのに今回のギルドの処置は、危険だから仕事をするなと言っているようなもので、冒険者に言わせたらお門違いの話だ。
普段は冒険者が死のうが怪我しようが気にも留めないくせに、ジャイアントエアスネークの時だけ過剰とも思える措置に冒険者が憤るの仕方ない。
まっ、それだけジャイアントエアスネークが危険という事だが、冒険者にしてみたら生活が懸かっている分、簡単に納得はできないだろう。
ジャイアントエアスネークの存在が確認されるか、過剰とも思える禁止措置に最低でも期限を設けない限り、この騒ぎは収まらないと思われる。
(ダメだね、ジャイアントエアスネークの情報だけで、他に役立つ情報は無さそうだ。それに依頼も受けらないならギルドにいても仕方無いよな、街でも探索しようか)
(うん。ここ怖いから、早く出よ)
(あぁ、そうしよう)
冒険者ギルドはジャイアントエアスネークの事だけで、他の情報を得られないと判断した俺とリリがギルドを出ようとしたとき、まるでどこかのラノベで見たようなテンプレが起こった。
「おいお前、こんな所で女の子を連れまわして何考えているんだよ、このロリコン野郎!」
振り返ると、先程受付の女性と揉めていた男が、敵意を剥き出しにして俺に絡んできた。どうやら受付の女性に相手にしてもらえなかったらしく、今度はそのストレスの履き口を俺に切り替えたようだ。
ここで関わったら面倒この上ないので、俺は完全無視を決め込む。
「おい待てよ、お前聞こえない振りしても無駄だぞ、ここはロリコン野郎の来る場所じゃない。分かったらさっさとガキを連れて、とっとと此処から出ていけ!」
俺は男に対して完全無視を決め込み、リリの手を引き出口へと向かうが、男には仲間が居たらしく俺の前に二人の男が立ち塞がる。
「おいおい、出ていく前に冒険者の品位を下げたんだから、迷惑料くらい置いていけや。ガッハハハー--ッ!」
「こいつ、俺達にビビってるぜ! ゲヘヘヘヘヘー--!」
立ち塞がった二人の男は、醜悪な顔を歪ませながら品の無い声で高笑いする。
まったく面倒な状況だが、ギルド内で銃を使うわけにも行かないから、ここはテレポートで逃げようかな……
と思った瞬間、乾いた発砲音がギルド内に響き渡り、俺の判断が遅かったことに気づいた。
慌てて振り返ると、既に銃を構えたリリと、悲鳴を上げながら転げ回る男がいた。
リリが男を銃で撃ったのはひと目で分かるが、転げ回っている男は最初に声を掛けてきた男でもなく、俺の前に立ち塞がった男達でもない。
俺にはリリが全く無関係な男を銃で撃ったように思えたが、直ぐに彼女の真意を理解した。
「あぁ、これ、私のカバンだわ!」
「おいおい、こいつスリだぞ!」
「なに? みんな逃がすな、捕まえるぞ!」
撃たれた男が立ち上がろうとした瞬間、大勢の冒険者が飛びかかった。
その光景を俺が目で追いかけていたら、再び発砲音が鳴り響き俺の前に立ち塞がっていた二人の男が悲鳴を上げて転げまわり、更に最初に文句を言ってきた男も悲鳴を上げて転げまわっていた。
「お兄ちゃん、この人達グルよ」
「えっ、そうなのか?」
「うん、カバンを取った男が捕まったのを見て、慌てて逃げようとしてたから間違いないよ」
「そっか。でも、いきなり銃で撃つなんて、ちょっとやり過ぎじゃないのか?」
「大丈夫よ、ゴム弾だから。痛みはあるけど、怪我はしてないはずよ」
「そ、そっか。ゴム弾なんだね、良くやった」
「うん!」
えぇぇええぇー----- リリって、こんなに周囲の状況を理解しながら、行動できる子だったのか?
誕生日を迎えたから?
そんな事ある訳ないか…… それにしても女の子の成長って早すぎるだろ。
俺の知らぬ間に、全てを理解して全てを終わらせたリリの行動に、少しだけ怖くなる。
「お嬢ちゃん、凄いな!」
「えっ、べ、別に…… 」
リリは急に照れ臭くなったのか、男達を捕まえたギルドの職員が声を掛けてくると、慌てて俺の後ろに隠れるように回り込んだ。
「いやぁ、それにしてもお手柄だよ。最近ギルド内でスリが良く発生してたが、こいつらが犯人だったんだな」
「えっ、なんの話ですか?」
「いやね、ここ最近ジャイアントエアスネークのせいで、ギルドには大勢の人が集まってきてトラブルも結構多かったんだけど、まさかトラブルを起こしてその間に仲間がスリを犯してたなんて、思ってもいなかったよ」
あぁ、そういう事か。
大勢の目を集めるために態とトラブルを起こして、その間に仲間がスリをするなんて良く聞く話だが、実際に目の当たりにしても意外と気付かないもんだ。
それにしても、リリは良く気付いたよ。
「リリ、良く気付いたな」
「うん、最初から怪しかったの」
「えっ、どこが?」
「なんとなく、あの男たちが仲間のような気がしてたから注意して見てたら、男が女の人のカバンを持って行こうとしたの。だから、撃っちゃった」
「へ、へぇー、そうなんだ」
なんじゃそれ、それってただの勘ってことだよね。
「いつだってお兄ちゃんの役に立ちたいと考えていたら、なんとなく周囲の状況が見えるようになってきたんだ」
「ふ、ふ~ん。そうなんだ」
「うん」
そういえば、ドリッシュ帝国の近衛兵隊長ガイアスが俺に剣を向けた時も、真っ先にリリが反応してガイアスの剣を吹き飛ばしていた。
あの時のリリの反応も、異常に早かった気がする。
「お兄ちゃんの周囲で起こる事は、いつだって注意深く見てるからね」
「そ、そっか。えらいな」
「うん!」
ニコニコと笑いながら話すリリだが、俺は彼女に対して強い疑念を覚えていた。
もしかしたら、その異常なまでの素早い状況把握能力で、俺に近づく女性も排除しているのではないかと……




