82、ガーリア
「久しぶりだね、お兄ちゃん」
「あぁ、本当に久しぶりだな」
ザードの街に設立する工場が決まり、そのための準備を麗華さん達に任せた俺は、異世界での販売網を広げるため、バスタアニア王国から二つ国を超えた南東の方角にあるレストリア王国に来ており、国境沿いの街ガーリアに向かって愛車のジ〇ニを走らせている。
レストニア王国は広大な土地の大部分が荒野となり、一部は完全に砂漠化していて、人の住める土地は限られているとジェームズが話していた。
昼間は暑く夜は寒い砂漠特有の寒暖差の激しい土地がらなので、旅人も滅多に通らず国民は国境沿いか、海岸沿いに街を作り暮らしているらしい。
何故そんな辺鄙な国に来ているかというと、実はちょっと気になる話をジェームズから聞いたからだ。
気になる話とは、ドロドロの黒い大地に覆われた悪魔の土地がレストリア王国には存在するらしく、その土地には魔物でさえ存在できないという話だ。
少しホラーっぽい話だが、なんとなく興味が湧いたので行く事にした。
勿論最初はバスタアニア王国周辺の国から店を広げるつもりでいたが、そこはロンダさんが自身に任せてくれと言ったので、彼を信用して任せることにした。
「お兄ちゃん、目的地はまだ?」
「国境超えてから二日目だから、そろそろ見えてくると思うけど、行った事ないから分からん」
「だよねぇ。ハァ、景色は変わらないし、外に出たら砂埃だらけで髪の毛ぱさぱさになるし、日差しが強いから日焼けしそうだし、レストリア王国の国民って、きっと我慢強い人ばかりだよね」
「かもな」
リリが文句言いたくなるのも良く分かる。
国境を超えてから暫くは異国の景色が珍しくて楽しかったけど、数時間も走ったら一切景色が変わらず、いや、変わってはいるだろうが、変化が感じられないというか、似たような景色が延々と続いてる感じだ。
いっそのことテレポートで移動しようかとも考えたが、リリが「せっかくのんびりできるんだから、ドライブしようよ」と話していたのでドライブを楽しむことにした。
だが、これだけ同じ景色が続けば、リリじゃなくても愚痴の一つくらい零したくなる。
「あっ! お兄ちゃん、魔物が出たよ」
「ん? あぁ、本当だ。よし、狩るか!」
「うん!」
最近の俺は魔物との戦いが面倒になっていて、車から降りることなく魔物退治を行っている。
つまり車ごと魔物の傍にテレポートを行い、一瞬で魔物の核を収納すると再びテレポートを発動して魔物との距離を取る。その後魔物が死んだことを確認したら、アイテムボックスに魔物を収納するだけだ。
魔物が複数いても関係なく、同じ作業を繰り返すだけで今のところ問題はない。
レストリア王国にはどんな魔物が存在するかというと、国境沿いはバスタアニア王国と似たような魔物だが、荒野に入ってからはミミズみたいな魔物が多い。
俗にいうサンドワームと言うやつだ。
ゴーテリアの孤児院で出たヘルワームのような巨大な魔物ではなく、大きさは精々五メートルくらいのものだ。
ただ、一匹出たら三十匹いる事を疑えという黒い存在と同じく、このサンドワームも砂場からポコポコ飛び出してくる。
イメージとしては、モグラ叩きを想像すれば良いと思う。
兎に角、あんな感じで地面から飛び出してくるので、それをテレポートとアイテムボックスを駆使しながら倒していくだけだ。
「今回もサンドワームだけだったね、お兄ちゃん」
「そうだね。もしかしたらレストリア王国って、サンドワームしかいないんじゃないか?」
「でも、ジェームズさんが巨大な蛇みたいな魔物が出るから注意しろって、言ってたよ」
「巨大な蛇かー、昼間は暑いから寝てるんじゃないの?」
「そうかな?」
俺達は昼間だけドライブして、日が暮れそうになるとマンションにテレポートしてお風呂に入ってから夕食を取り、その後はコーヒーを飲みながらのんびりテレビを見てるか、ゲームをしてるかで一日が終わる。
そんな感じだから夜の荒野を走る事が無いので、夜にどんな魔物が出るかは分からない。
なんとなくだが昼間は凄く暑いので、夜の方がもしかしたら魔物の出現率は多いかもしれない。
まっ、別に魔物退治がしたいわけではないので、夜に活動しようとは思わないけどね。
「お兄ちゃん、あれがそうじゃない?」
「ん? あぁ、そうかもね」
リリが指さす方向に目をやると、これまで見飽きる程見てきた荒野の景色とは違い、まるで別世界のような広大な緑地が現れる。
ジェームズの話によれば、砂漠のような荒野でも魔物の森は存在していて、不思議な事に魔物の森は荒野でも青々とした緑が生い茂り、地面を掘れば水が湧き出てくるらしく、開拓さえしてしまえば十分人が住める土地となるらしい。
レストリア王国では、そのような魔物の森を大昔に開拓して作った街が幾つも存在していて、それぞれが独特の文化を形成している。
「あれが、ガーリアかな?」
「だと思うよ」
「よし、リリ。ここからはテレポートで移動するぞ」
「うん。分かった」
初めての街なのであまり目立ちたくない俺とリリは、車をアイテムボックスに収納すると街の入り口付近までテレポートで移動する。
ガーリアの街の外周は荒野とは思えぬ緑豊かな木々に覆われており、町の中心に続くであろう街道を歩いていると、やがて屋根も白色で壁も白色な真っ白な街並みが見えてきた。
まるで雪が降り積もったような真っ白な街並みは、砂漠特有の強い日差しを浴びて美しく輝いている。
だが美しい街並みの入り口付近には、場違いかと思えるほど武装した多くの兵士? が集まっており、異様な空気に包まれていた。
「おい、お前たちは歩いて来たのか?」
「いえ、馬で来たのですが途中で馬が倒れてしまったため、仕方なく歩いてきました」
街の入り口に近づくと、三人の武装した男が俺達の前に走ってきて、そのうちの一人が俺に質問してきたので咄嗟に嘘をついた。
幾ら何でも俺とリリの二人だけであの荒野を歩いてくることは困難で、そんな事をすれば二人とも途中で死んでしまうだろう。
まして俺達は軽装どころか手ぶらで歩いているのだ。嘘を吐かなければ余計なトラブルに巻き込まれるのは火を見るよりも明らかだ。
「そっか、そりゃ災難だったな」
「まぁ、仕方ないさ。それよりも、何か遭ったのか?」
「あぁ、三日前にジャイアントエアスネークを見たと言う者が居ってな、見間違いだと思うが、念のためこうして警戒に出てるのさ」
「ジャイアントエアスネークとは?」
「成長したら百メートルを軽く超える巨大な蛇だよ。仮に目撃情報が本当なら、暫くは街を捨てて引っ越さねばならないからな」
百メートルを超える蛇って、どうして異世界にはミミズといい亀といい、巨大な魔物がいるんだよ!
そんな化け物が出たら、そりゃ街を捨てて逃げるしかないよな。
まったく、どんだけ人に優しくない世界なんだよ!
まぁ、もし戦う事になったら、いつもみたいにテレポートを使って高い所から落とせば良いか。
「こんな状況だから、街で馬車や馬を手に入れようとしても無理だと思うぞ」
「そっかぁ」
「とにかく暫くは街にいて、もしジャイアントエアスネークの現れたら、街の人と一緒に避難するんだな」
「分かった、ありがとう。それで悪いけど、どこか泊れる所は無いかな?」
「それなら、街の中心にガリムの宿屋と言う名の宿屋があるから、行ってみな」
「分かった、ありがとう」
なんだか大変な時に来たみたいだが、もしかして俺ってトラブル体質か?
いや、そうじゃない。もしこの街が無くなれば、将来的にアスクの商品を買う人が減るのだから、そう考えたら俺はついてるかもしれない。
蛇さえ倒せば、街の信用だって簡単に得られるからな。
そんな風に気楽に考えていた俺だが、まさかジャイアントエアスネークにあんな能力があるなって思いもしなかった。




