エピローグ
「行ってきまーす!」
「咲夜!お弁当忘れてます!」
「へ⁉本当⁉」
・・あの事件から一週間が過ぎた。
壊れた道路や施設などの修復もほぼほぼ終わり、事件以降不審なことは何も起きていない・・らしい。
「行ってきます!」
事情聴取についても、今回の事件の首謀者である木葉がある程度素直に情報を吐いているようでこの後の対策が練られ始めている・・らしい。
・・なぜこんなにも曖昧になっているかというとあの後気絶してから二日間眠り続け、目覚めた後も今日の今日まで筋肉痛でまともに動くことが出来ず、花さんからの会話しか聞いていないからだ。
・・まあ、後遺症がなかっただけ良かったんだろうけどさ。
想創で無理矢理体調を整えてからの全力使用と戦闘・・振り返ってみれば相当無茶をしたと改めて思う。今動けるのも運がいい方なんだろう・・。
「よう咲夜。久しぶりだな」
体を気遣いながらノロノロと登校していると灰に会う。
「あー。一度も見舞いに来なかった人だー」
「・・第一声がそれか」
ゴミを見るかのような灰。一週間ぶりだというのにその態度はどうかと思うんだが。
「しょうがないだろう。お前が使い物にならないせいで事件の後処理を全部任されていたんだから・・というかお前、そのこと知っているはずだろ?」
今回の事件。俺たちを除く死傷者や負傷者は無かったのだが土地や建物への被害がひどく後始末が大変だったらしく、灰は動けない俺の分まで働いたというわけだ。
・・で。今の知っているかという質問の答えだが。
「もちろん知っているけど?そんなことも分からないの?」
なに当たり前のことを言っているんだか・・・・親友の知能が少し心配になるよ。
「・・ふん!」「ぐはぁ⁉」
み、鳩尾に拳が・・俺、まだ回復しきってないんだけど・・?
その後も殴り殴られの楽しい(?)じゃれ合いをしながら登校する。教室に入りクラスメイトと挨拶をかわしながら鞄をおき・・帰ってしまったツバキの席を見る。
「・・・・」
あの後、ツバキは犯人を連れ協会に帰ってしまった。
・・事件のためにやって来たのだ。終わったのなら帰ってしまうのはしょうがない。しょうがないんだけど・・帰る前にもう一度話がしたかった。
・・俺はツバキに信じてもらうという約束を守ることが出来たのだろうか?
「・・なに暗い顔してるんだ?」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。灰に心配されてしまった。
「いや、ツバキに聞きたかったことがあってね。そのことを考えてたんだ」
「それなら本人に直接聞けばいいだろう?二度と会えない訳ではないんだから」
・・そうだよね。別に二度と会えないわけではないんだ。暗い顔をしちゃダメだよね。
「咲夜さん。おはようございます」
「あ、ツバキおはよ」
登校してきたツバキと挨拶を交わす。そうだよ、またいつか会え・・・・ん?
「・・・・?どうしたんですか?」
ツバキが・・普通に登校している⁉
「つ、ツバキ⁉どうしてここに⁉」
「しばらくここに配属されることになったんです」
「それってど・・」「「おはようツバキさん!」」
「うぉ⁉」
ツバキとの会話を遮るように挨拶をするクラスメイトたち。こいつら・・
「おはようツバキさん。久しぶりだね!」
「用事があったんだよね?もう大丈夫なの?」
「ツバキさま・・綺麗だ」
・・どうやら、ツバキも久しぶりに登校したようだ。貯まっていたこいつらの欲望が爆発してやがる。
壁が厚く、ツバキとは話せそうにないので灰に事情を聞くことにする。
「灰。三行」
「犯人から出た情報の中で、自分の目的に近づく情報が出たらしく目的達成のためにこの町に滞在することになったそうだ」
「・・なんでツバキが帰ってきたことを教えなかった?」
「一週間会ってないだろ?それに本人がお前に伝えているものだと思ってたんだよ」
・・灰には教えたのに俺は教えないなんて・・少しもやもやする。
「・・すみません!咲夜さんと話したいので通してください!」
ツバキの言葉を聞き、洗礼された動きで場所をあけ、俺に視線を向けるクラスメイトたち。彼らから放たれる異常な殺気は最後に戦った化け物にも引けを取らない。
「お久しぶりです咲夜さん。話したいことがあるので場所を変えてもいいですか?」
さらに鋭くなる殺意。はっきり言おう。めっちゃ怖い。
「う、うん。構わないよ・・」
どんなに視線が怖くてもツバキの誘いを無下にはできない。視線にビクビクしながら人気がない屋上に移動する。
「・・改めて、お久しぶりです咲夜さん。お身体は大丈夫ですか?」
「うん。大分動けるようになったよ」
言いながら腕を回す。少し痛む程度だ、じきに回復するだろう。
「・・連絡が遅れてすみません。咲夜さんが治る前には戻れる予定だったので話さずに帰ってしまいました」
「・・・・全然気にしてないから大丈夫だよ!」
さっきまでめちゃくちゃ気にしていたのは黙っておこう。
「それで・・話っていうのは?」
教室では話せない内容ということは事件のことくらいしか思いつかないけど、それなら灰も一緒でいいはずだよな・・?
「・・咲夜さんは犯人から出た情報や目的については聞いてますか?」
ツバキの質問に首を横に振る。俺が知っているのは何個か情報が出たことくらいだ。
「犯人の目的は神殺しだと言っていました」
神殺し・・随分とおっかない計画だこと。
「・・それと、兄が。兄さんが今回の事件に関与してることも知りました」
「・・⁉」
ツバキのお兄さんが、神殺しを⁉
「詳しく聞きだすことは出来なかったのですが、この町にある何かを求めて他の人がやってくると犯人・・いえ、ホオズキさんは仰っていました」
この町にある神殺しに関係する何か。それが目的ということか。
「ここに・・ここにいれば兄さんに会えるはずなんです」
嬉しさと戸惑いを混ぜたような顔で語るツバキ。
・・当然か。遂に手に入れた手掛かり。でも、手掛かりは手放しで喜べることばかりじゃなかったのだから。
「・・この話、どうして俺だけなの?灰も一緒に居ていいよね?」
・・いや、まてよ?これは二人だけのヒミツということなのか⁉そうにちがいない!
なーんて。ツバキに限ってそんなこと・・
「・・一番最初は咲夜さんに話しておきたかったんです」
「・・ひ?」
予想外の返答に変な声を出してしまう。
「もちろん後で橘さんにもお話します。けれど、その前に咲夜さんに・・私のことを助けてくれると言ってくれた咲夜さんにお話ししたかったんです」
笑顔のツバキ。その笑顔は・・お兄さんのことを語った時と同じだった。
・・これは自己満足だろう。ツバキは気にもしていないだろう。
「咲夜さんにお願いがあるんです」
「・・俺に出来ることなら喜んで」
それでも、俺は・・
「私は、兄さんを止めたいです・・協力、してくれませんか?」
差し出される右腕・・・・前は払われ、繋がれなかった右腕。
・・ツバキとの約束を、守れたんだ。
「・・・・もちろん!」
・・俺たちは強く手を握り合うのだった。




