【緊急依頼】魔物討伐
情報も準備も整わない中、問題勃発です。
危険な状況にあるにも関わらず、指揮官は余裕です。
相変わらずのジンクオリティ。
とにかく状況が不明だ。
今回に関しては既に罠を張っている以上、必ず予定の方角から敵が来なければならない。
それが出来なければ、全ての準備が無駄になる上に準備した自分達に牙を剥くのだから。
こうなると理熾も黙っていられない。
フィリカの見学会は極力安全でなければならない。
理熾よりも強いかもしれないが、招待した以上は安全の確保を怠るわけには行かないのだ。
「ジンさん、斥候って出しました?」
意を決して指揮官のジンに声を掛ける。
理熾としては狙われてる疑惑があるため超嫌なのだが、その辺はもう後回しである。
「ん?
君はフィリカの…新人の弓兵か。
斥候はまだ出していないがどうかしたのか?」
どうかしたのかではない。
何を出し惜しみしているのか分からないが、既に大問題だ。
罠を設置する前ならただの地上戦なのだが、罠がある以上話は変わる。
踏み入れてはならないエリアが出てしまっているのだ。
このエリアをどちらが上手く使えるかで、危険度と被害が変わる。
一刻も早く斥候を出して情報収集の後、最悪囮が必要になるのだから。
「今すぐ出してください。
敵の位置によっては、僕達が罠の餌食になるんです」
「そうはいっても、罠は敵側に設置している。
普通に考えれば問題ないだろう?
まぁ…君がそういうなら(飼いならすためにも)すぐにでも準備するが」
話は聞いてもらえて何よりだが、余り積極的ではないようだ。
「だったら何で斥候部隊が居るんだよ」と理熾は疑問でならない。
というか敵の居場所が斥候を出していないから分からないことに気付いて欲しい。
必要が無いなら部隊化もせず、単なる地上戦でよかったのだ。
ついでに罠も張らなければ本当に情報戦の要素を排除できたのにと思う。
というか考え無いなら土壁だけにしとけば問題なかったのになぁ。
それならどっちが前面でも良いんだから。
要は罠に対して自分達と敵戦力の配置場所が問題なのだ。
罠には踏み入れられないので、その配置が自分と敵側の間にあれば良い。
が、今は相手が何処にいるかがわからない。
敵と、罠に自分達が挟まれる可能性もあるのだ。
扱えないものを陳列して敵に使われるなんて余りにも馬鹿馬鹿しい。
しかも陳列する物の整備や用意、設置までやってくれているとか相手からすると笑いしか出ない。
「準備ではなく、今すぐ出してください。
下手をするとこの地点を既に越えている可能性もあるので」
「平原には見えないのだが?」
「魔物なんだから森くらい歩くでしょう!」
「そ、そうか!」
予想すらしなかったらしい。
普段のオークの生息域は平原ではなく、森なのに、どんな頭をしているのだろうか。
余りにも困ったちゃんだ。
そもそも平原を移動していると仮定したとする。
現在は16時を過ぎているので、発見から既に8時間以上経っている。
人間が歩いたとしても時速4kmが出るのだ。
オークたちが遅くとも30km以上移動していておかしくない。
休憩を入れたとしても、この時間差、距離はありえない。
何より「猶予が無い」と時間を遅らせるのを拒否したくせに一体何を言っているのだ。
これでは戦意喪失されるのも当然である。
理熾としては既に撤退したい。
もうむしろ今すぐこの場所を放棄して一度アルスに引き返すというのも手だ。
オーク50でも厳しいのに、罠エリアとの挟撃に耐えられるわけが無いのだから。
そうは思うも、実行は出来ないだろう。
例えこの場から撤退するとしても、時間は掛かる。
全ての準備を放置して帰るのは…100歩譲って良いとしよう。
それで随分と時間の節約になるのだから。
しかし帰路で敵と交戦できるだけの戦力を持ったまま帰るというのはとても難しい。
全ての準備品を置いて帰るのだから当然だが。
だからもし撤退するのならば、敵と合わない、もしくは極少数であることが大前提だ。
各自が身に着けている装備だけで倒せる敵でなければ、単に弱くなった獲物の群でしかないのだ。
そしてその帰れる保障が斥候を派遣していないことで得られていない。
これでは危険すぎて実行など絶対出来ない。
「斥候、すぐに出ろ。
現状のオークどもの位置を一刻も早く発見してくれ」
ジンはすぐに指示を出す。
今回は忠告として受け取ってくれたのだろうか。
ほっと息を吐いた瞬間、次の指示が飛ぶ。
「フィリカ!
お前も手を貸せ!」
「い、や、だ、ね」
指揮官の命令をすげなく断る。
しかも聞き取りやすいように一文字ずつ区切って、しかも淡々と。余りの華麗さに真っ二つを幻視する。
本当に鬼である。
「ふざけるな!
今はお前の軽口に付き合っている暇は無い!」
今まで全くと言っていいほど現状把握には役立たずだったヤツが言う台詞ではない。
斥候も斥候で進言すれば良いだけの話なのだが…。
まぁ、毎回言っても聞いてくれないんだろうなぁ。
斥候の方々お疲れ様です。
と心の中で理熾は労う。
何せ斥候達は「すぐ出ろ」といわれただけで明確な指示が無くても適切な方向に向かっている。
行かなければならないのは知っていたし、動きたかったが指揮官が邪魔だった証拠である。
そんな中フィリカはついに切札を切る。
というか単なる事実なのだが。
「今回の私は見学だ。
だからカウンターでも依頼を受けていないし、支給品も受け取っていない」
「な!?」
やはり予想外だったらしい。
自分で言い出した24人の勇姿の数を数えていなかったようだ。
なんというか抜けすぎていないか、という感想を理熾は受ける。
状況判断が疎かというレベルではない。
戦力の把握は数や能力の把握でもあるし、敵の把握でもある。
それが出来ずに戦闘指揮を取るのはどうなのだろうか。
というよりこの場で言い放つフィリカのドSさに恐怖する。
「これが自分に向かないように」と理熾は切に願うばかりである。
「お前のお気に入りが危険なのにか!」
「うん?
あぁ、お前にはそう見えていたのか。
大丈夫だよ、この子が私を守ってくれるから」
近くに居た理熾の頭に手を置いて撫でながらあっさりと言い放つ。
その言葉にジンは絶句して理熾を見る。
フィリカが何を言ったのか分からない、という風に。
「何だと!?
この状況下で自分の身以上にお前を守るだと!?」
その状況を作り出したのはあんたですけどね、と理熾は言いたかった。
とても言いたかったが、空気を読んで口をつぐんだ。
「僕はとても大人です」と心に刻みながら。
今は断罪の時じゃない。
「そう言ったが、何か問題でも?」
ジンにとってなら、問題は山積みだった。
何せこの子供はフィリカのお気に入りで、お守りをしているのだと思っていた。
だからこそ、フィリカを使えると信じていたし、安心もしていた。
なのに「立場は逆だ」と本人が言い放つ。
参加者全員の経歴を見たわけではないが(この時点で問題)、それほどの実力者なら指揮官が知らないはずが無い。
何より他の参加者が理熾を知らないはずが無い。
「フィリカさん、一応頑張るけど逃げてね?」
頭を撫でられながらも苦笑いを浮かべつつ理熾が言う。
その光景が全てを物語っていた。
少なくともこの子供の言葉は全て真実だとジンは気付く。
フィリカの信頼(実は興味)を受けながらも頑張ると言える(理熾は額面通り)だけの実力があると。
ひいては敵が森を回る可能性も、自分達が罠を背負う可能性も。
あの魔女が信頼しているのだから。
ジンが驚きを顔に貼り付けているとフィリカが不意に顔を上げる。
「何か来るぞ」
「え…?
あぁ、森からだね」
フィリカの言葉に理熾は一瞬間を置いて応える。
それだけでもジンには十分驚愕に値する。
魔女と同列の会話が出来ている、と。
「敵影、30!
オークではなくウッドウルフだ!」
先ほど出て行った斥候が急いで帰ってきた。
森を移動していただけでなく、やはり回りこまれる寸前だったらしい。
こうなると罠を見破られている…少なくとも平原を行くのが危険というくらいは理解している可能性が高い。
うーん…ダメだ。
もう斥候とか言ってる場合じゃなくなってきた。
ここからは戦闘になっちゃうね…。
念のため自分のステ見ておこう。
自分のステータス確認すら準備として見る。
使える情報は多ければ多いほど良いのだ。
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名前:ミカナギ リオ
年齢:13
職業:武神・空間使い
称号:両立者/開拓者
Lv :7 (+1)
HP :915 (+60)
MP :831 (+55)
SP :25 (-35)
筋力:253 (+23)
敏捷:237 (+22)
体力:253 (+23)
知力:403 (+31)
魔力:152 (+17)
幸運:68 (+13)
所持金:14065カラド
武器:神威の護手(自動修復)
:黒鎖鋼の剣(腐食耐性/斬切) New
:黒鎖鋼の槍(腐食耐性/斬切) New
:紅蓮鉄鋼の斧(衝撃拡散/壊滅) New
:紅蓮鉄鋼の投剣(超重量/加速) New
:支給品の弓 New
:手ごろなナイフ
防具:常盤の外套(流体/最適/適温/対刃/吸魔) New
:常盤の戦着(流体/最適/適温/対刃/吸魔) New
:戦場の健脚(流体/最適/量重変化/硬化/適温/吸魔) New
装飾:繋ぎの指輪(空間魔法MP削減)
スキル
パッシブ
言語知識
HP回復速度上昇
MP回復速度上昇Lv2
武術指南Lv3
魔術指南Lv2
魔力感知Lv3
魔力操作Lv5
体術Lv9
成長力強Lv3
身体能力強Lv3
状態異常耐性Lv3
必要経験値減少
MP消費減少 New
アクティブ
空間魔法Lv2
索敵
隠密
解析 New
隠蔽 New
ユニーク
武神Lv2
・武器の心得(全武器装備開放:パッシブ)
・戦技の極意(全武技使用開放:アクティブ)
・二刀流(同一武器同時使用)
スキル取得Lv4 (+1)
・SPを消費してスキルを取得できる
消費SPが50以下のものから選択出来る
※ユニークスキルを除く
業
虚弱化
備考
討伐ランクF
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気付かぬ間にLvが1つ上がっていたらしい。
まぁ、確かにオーク(Lv16)を6体も倒せば1つくらい上がるよね…。
僕まだLv6だったしね。
にしても、装備が一気に豪華に…後、スキル取得が地味に上がってる。
と軽く見ていく。
今度から何かある前には一度見るようにする事も心に決める。
実戦で学ぶことはとても多い。
「っく…全員は森を注視しろ!
前衛は後衛を守るように前進展開!
後衛は敵影が見えた段階で矢を放て!」
既に手遅れだと思われる指示をする。
ウッドウルフ側にはわざわざ森から出る必要など無いのだから。
全員が森を警戒し、ジリジリと背中が焼けるような焦燥感の中、理熾がフィリカと気楽に話す。
「ねぇ、フィリカさん。
さっきのウッドウルフってのが、向かってこない可能性ってあるよね?」
「まぁ…あの位置取りなら、わざわざ今強襲しなくても良いな。
回り込んでから攻撃した方が有利だからな」
「だよねぇ…。
これはもう待ちじゃなくて攻めるタイミングじゃ?」
「斥候がもう少し情報を取って来れればよかったんだが…。
行ってすぐ帰ってきたところを見ると、距離もそれほど無いんだろう。
なのに出てこないということは、無視して街か、回りこみの2択では?」
「やっぱりかぁ」と理熾は嘆く。
この状況下で突撃できる人が居るとは思えない。
そもそも30とは十分に集団で、個人ではまず勝てない数である。
それに加えて無視を決め込む30の敵を挑発して引っ張ってくることなど誰も出来ないのだ。
「フィリカさん。
ウッドウルフってどの程度の強さ?」
「オークに比べて攻撃・防御共に無いが、かなり早い。
リオ君なら防具に覆われている部分なら、ダメージを受けない程度か。
オーク単体の単独撃破が単独の登竜門と言われているな。
ならウッドウルフの群撃破が集団戦の登竜門と言ったところか。
単体にそれほど脅威は無いため、各個撃破はそれほど難しくは無いが、こと群となると話が違って来るからな」
やはり狼と言われるだけある。
少なくともこちらも集団戦をする必要があるようだ。
個人戦ではやはり分が悪いらしい。
しかも速さがメインと来た。
油断すれば反撃すら出来ずに振り回されて餌確定なのだろう。
しかし対抗は出来そうだ。
少なくとも防具に覆われている部分なら無傷という保障を作成者から貰ったのだ。
ならば表に出ている頭以外は安全だとも言い換えられる。
まぁ、傷にならないだけで衝撃はあるだろうから無傷とは言えないかもしれないが。
ともあれ、対抗できる(しかも行く気がある)のは理熾くらいだ。
他の面子は30体という数に尻込みしている。
しかもこの後にオークも待っているのだから、体力は使いたくあるまい。
「うーん…。
今回は後衛のはずだったのになぁ」
と思わずぼやく。
別に最初から最後まで後衛のつもりは無かった。
後衛を志願したのは、最初から攻撃に参加できることと、味方の動きが見たかったからだ。
前者は単純に少しでもレベルを上げるため。
後者は人の動きを見て、自分の動きを修正するため。
武神や体術の恩恵で、人の動きを見れば大体の動きを投影出来るということに理熾は気付いたのだ。
だからこそ、今回の戦闘で人の動きを見て必要な行動パーツを集めたかったのだ。
そんな思惑があっさりと崩されてしまい「ままならないなぁ」という思いとともにぼやいたのだった。
だがそれも状況は変わったのだから、行動も変えるべきである。
「フィリカさん、出るけど付いてくる?」
理熾の中で出撃は既に決定事項になっていた。
指揮官の言葉など聞いていられないし、聞く意味が無いのが現実なので仕方ない。
頼り無さなら随一だろう。
「その為に来たんだしな。
守らなくて良いから、全力で行ってくれ」
フィリカはそう言って笑う。
さっきジンに言ったことと正反対のことを平気で言う辺り悪魔である。
ともかく。
ウッドウルフと呼ばれる魔物ではフィリカが被害を受けることは無いらしい。
守らなくて良いというのだから、間違いない。
ということは、最悪フィリカさん置いて帰っても良いってことだね。
壁というか罠というか。
そんな風に利用したら後が怖いから最終手段だけども。
勝手にそう判断する。
使えるものは使わなければならない状況なので仕方ない。
既に依頼内容よりも数が多いことが確定した。
危険度は上がる一方である。
「ジンさん。
このままだと回り込まれるか、無視されるので引っ張ってきます。
出来るだけ数は減らすつもりだけれど…連れてきた分の処理はお願いしますね」
無視されるなら、単に騎士団の出番になるだけだからまだ良い。
だが回り込まれると全滅の二文字しか浮かばない。
背後が罠では逃げ切れるのは良くて罠士と斥候のみになってしまう。
しかも彼らは戦力としては薄弱(それでも強いが)なので、逃げ切れるかもあやしいのだが。
今から罠を解除して回るのも難しい。
設置に比べて解除はとても面倒なのだから。
「はぁ!?
ウッドウルフを連れて来るだと!?
いや、むしろその中に突っ込むと言うのか?!」
「え、だって誰も行かないし。
罠を背負って行動範囲を削られた中で戦って勝てますか?」
もし罠を背負っても戦えると言うなら理熾も危険を冒す必要は無い。
単に安全にここで待ち伏せればそれで良いのだから。
「………無理だな」
少しの黙考の後、事実を告げる。
戦闘指揮を執るだけのことはある。
虚勢を張って出来ると言わないことには賞賛する。
「まー決死隊ってことで。
僕が…フィリカさんも付いてくるらしいんで行ってきます」
「そうか、フィリカが居れば安心だな」
理熾が機転を利かせて安全パイを見せてやる。
しかしジンが一安心しているところにフィリカがすかさず「見物だがな」と告げる。
「………」
「あんなこと言ってるぞ?」と美形の老人が情けない顔をしてフィリカを指差して理熾に顔を向ける。
正直、これが指揮官でいいのかと思う状態だ。
「ま、まぁ、という訳で行ってきます。
後はよろしく!
あ、反対側とかにも斥候お願いしますね!」
何故こうも爆弾を放り込むのだろうか。
フィリカにしてみれば「理熾の実力を広めるため」だろうが、今は混乱しかしないからやめて欲しい。
念のためにも斥候の話を出しておいた。
「わざわざ言うべきか?」とも思ったが、今は非常時だ。
可能性をとりあえず全部告げておく方が良い。
が、ジンの反応を見る限り新たに斥候を放っては居なかったようだ。
情報収集の重要さをまだ分かってないらしい。
「斥候は使い倒しといて!
誰が、何処に、どれだけ居るか。
誰が、何処に、どれだけで来るか。
少なくとも周囲5km、これくらいは把握してて!」
「わ、分かった!」
こうなると指揮官が誰だか最早分からなかった。
お読み下さりありがとうございます。
フィリカは相変わらず優秀で、理熾は大人はこんなくらいだと思っていました。
そもそもセリナも違う意味で聡いので気付きません。
世の中、役職ではなく中身なのだということに早く気付くべきかもしれません。




