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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十五章:魔宮の最奥

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フィリカの実力

魔境探索を始めてすぐにぶち当たるのが戦力の確認だ。

フィリカの戦力を疑うわけではなくとも、誰しもどの程度かは知りたいだろう。

特にネーブルは戦況に応じて投じられる手に加えるべく、その性能を知るのは急務だと考えていた。

そんなところへ、対フィリカにおいて非常に勝手のいい魔物が現れた。


「フィリカ、あれを倒してみないか?」

「へぇ…ネーブル、お前性悪って言われるだろう?」


「馬鹿言え、俺ほど勤勉に職務を全うする指揮官は居ないぜ?」

「まぁ、この場に居る以上、指揮官(ネーブル)の意見をフル無視するわけにもいかないか」


「せっかくだしAランク討伐者の実力を見せてくれよ?」


理熾は初めての情報に驚くが、実力の見えていなかったフィリカのランクに納得してしまう。

手際の良さやジンとの対立、ギルバートやエリルを始めとした貴族連中、そしてガゼルとの繋がりを思えば至極当然な結論でもあった。

しかしヴァルトルギルドのAランク、『暴君』のマリネ・ガーゼや『鉄壁』のボシル・ルーアと同じランク、だとは思えなかった。


「………ハッサクか」

「ご明察。しかもランクアップを拒んでるらしいな」


「余り深入りすると誤射するかもしれんから気をつけろよ?」


ニヤリ、と表情を緩めるネーブルに対し、フィリカは視線が鋭く引き絞られる。

Aランクの二人と戦ったことのある理熾からすると、追加された情報でようやく合点がいく。

ただ、今は少々険悪になりつつある状況にドキドキしながら見守る他なかった。


「俺は怠惰でもあるからな。

 攻略対象(てき)じゃなけりゃこれ以上調べるつもりはないさ」

「ふん、私がいつ敵に回ったんだ?

 非協力的なのと敵対的なのとでは全く意味が違うだろうが」


「お前の場合、線引きが難しいんだよ。

 普通は何かしらの交渉が成立するはずなんだけどなぁ…」


肩を竦めながらネーブルが返す。

実際、フィリカの判断基準は『楽しさ』だ。

今は理熾やラボリに関わることで満たされているが、それはいつまで続くかもわからない。

首輪を掛けられない大戦力が傍に居る…それは管理者の誰もが頭を悩ませる問題だった。


「そいつはご愁傷様だな。

 ともあれ、今はリオ君一筋だから、後五十年は大丈夫だろうな」

「ははっ、俺の主人(マスター)も大した相手に惚れられたもんだね」

「惚れっ! ちょっと、フィリカさん?!」


「なんだホナミ、リオ君を独り占めする気か?」

「ひとrッ?! ち、違うよ!」


「そうか、シオリも特に意見がないようだし問題ないな」


二人で遊ぶフィリカが「フィリカさん?」との声に振り向くと、ギリギリと手甲を握りしめる理熾が居た。

短時間でやり過ぎたと即座に謝るフィリカだったが、顔のすぐ傍を理熾の《剛拳》が通過した。

わりと洒落にならない速度と威力に、魔法士のフィリカが絶句する。

改めて幼馴染二人で(・)遊ぶのは注意が必要だと心に戒めた。


「こほん…えー、すまなかった。

 とりあえず、このパーティの指揮官の言うことを聞いてあの天然古亀(アレムタートル)を狩るとしよう」


さらりと話題を戻したフィリカ。

誤魔化しきれるわけもないが、これ以上まごまごしていても始まらない。

周りも呆れ気味に進行を妨げずに見守る。

フィリカは意気揚々に眼下の森の陰に見える天然古亀(アレムタートル)の説明を始めた。


「あいつは魔法攻撃を相克の属性で中和する」


フィリカの手により、無詠唱で上空から放たれた《火炎弾(フレアバレット)》は、天然古亀(アレムタートル)に届く二十m以上手前に展開された《水流壁(ウォーターウォール)》によって阻まれる。

一般的な天然古亀(アレムタートル)は、相克する属性をぶつけるのが精一杯なのに、魔境産というだけで魔法を編むにまで至るらしい。

何とも恐ろしい場所である。


「…こんな風にな?

 また、物理攻撃に対しては、高い瞬発力による手、足、頭を強固な甲羅へと収納することで対応する」

「詳細知らなかったけどそんな魔物なんですね」


「あぁ、このため、複数の属性を持つのが特徴だ。

 今のは《火炎弾(フレアバレット)》だったが、《水球弾(ウォーターバレット)》なら逆に火属性で防ぐし、《岩石弾(ロックバレット)》なら風や同じ土で対抗する。

 リオ君の【魔女の一撃】(イノセンスノヴァ)の核にも使っているが、用途はともかくかなり希少価値の高い魔物とも言える」

「あれが材料かぁ…でも戦った記憶がないや」


「何ともひどい物言いだ」


珍しく、そして倒しにくい魔物の代表格。

霊亀と比べれば格段に落ちるものの、魔法士の天敵でありながら物理攻撃にも固い。

ちなみに討伐ランク…というより攻略難易度がCなので、意外と倒せる者も少ないのが特徴だ。


「で、お前はどうするんだ?」

「魔法士(わたし)らしいやり方を取るさ」


ネーブルの問いかけに、軽く手を振って答える。

そのまま数歩前に出て《障壁》の端に立ち、天然古亀(アレムタートル)を睥睨する。


「それでは小手調べだ」


そう言って並ぶのは《火炎弾《フレアバレット》》、《水球弾(ウォーターバレット)》、《岩石弾(ロックバレット)》、《風撃弾(ウインドバレット)》の四種、三発ずつ。

無詠唱で展開された魔法に、ライムが絶句するのは、複数属性の魔法を併用する器用さと秘められた威力によるもの。

魔法士の最高峰に位置する詩織からしても、随分と驚かされる光景だった。


かの魔物は『相克する』という特徴を持つため、それならば庇いきれない種類の属性で攻撃してやれば良いとの机上の空論(かいとう)。

天然古亀(アレムタートル)目指して落下していく初級魔法に対し、展開された魔法は《水流壁(ウォーターウォール)》と《風障壁(ウインドウォール)》の二つ。

いずれもが『流れ』によって攻撃を逸らせる防御魔法になる。


「ふむ…少し弱いらしいな」


防御魔法に着弾を確認したフィリカの呟き。

着弾して蒸気に煙る向こう側では、天然古亀(アレムタートル)の周辺の木々がいくつかなぎ倒されて炎上していたが、本体はほぼ無傷…少々焦げたくらいだろうか。

悠々と歩くその姿は霊亀を彷彿とさせるものがあるが、実は本能が『このままでは狩られる』と訴えているらしく、天然古亀(アレムタートル)からすると必死に逃げている最中だった。

鉄壁とも言える相克の魔法を複数属性で突破してくる化け物が相手では、守ることだけに特化した天然古亀(アレムタートル)では太刀打ちできなかった。


「では次の手だ」


無詠唱で展開されたのは【精霊魔法】の中でも速度に特化した《金色(こんじき)の矢》。

その概要は無属性を入れ物に見立て、基本四属性を内包して放たれる見た目からして派手な魔法だ。

ちなみにこの魔法、緊急依頼(ハイオーク)の幕引きに使ったものだが、理熾は初見でもあった。


一時的に滞空していた十本の《金色(こんじき)の矢》は、フィリカが手を降ろした瞬間に放たれる。

物理速度に迫る速度は初級魔法とは比較にならない。

また、威力に置いても刺されば削り取り、弾かれるなら爆発する…と、気軽に放たれてはたまらない性能を保有する。


何より基本の四属性を内包するため『相克』の防御不可。

時間差で重ね掛けするこも可能だが、それにはもっと遅い弾速でなくては対応しきれない。

申し分ない威力と速度、それに加えてこの数。

たった二本で防御魔法を貫通して吹き散らし、必死ながらもゆっくり逃げる天然古亀(アレムタートル)に降り注いだ。


「もう少し粘るかと思ったが」

「無理だろどう考えても…威力が違いすぎる」


「さすがに【精霊魔法】までは防げないらしいな」

「えげつねぇ…もっと間に段階とかあるだろ」


「しかし硬度の高い甲羅に穴が開くのはどうなのだ。

 素材にもできないじゃないか…あ、リオ君あれ拾っておいてくれるか?」


フィリカは飄々と言ってのけ、お披露目はあっさり終わった。

しかし総じて『魔法士』を名乗る者は黙るしかなかった。


詩織のように範囲殲滅を要求するでも、穂波のように数をこなさせるでもない。

結果だけ見ればたかだかCランクの魔物を倒しただけなのだが…それ自体が間違いだったとしか言えない。

いくら魔法士では倒しにくいとはいえ、天然古亀(アレムタートル)には荷が重すぎたのだ。


「魔力量はどれくらい減るんだ?」


《障壁》の端に立ち、森を見下ろすフィリカの背にネーブルが問うた。

ゆっくりと振り向くフィリカに疲労の色はなく、いつもの冷然とした笑みが浮かぶ。


「今の《金色(こんじき)の矢》か?

 そうだな、三パーセントってところか」

「あの数と威力がまだ三十回は撃てるのかよ…」


「【精霊魔法】は威力に対して魔力消費が小さいからな」

「その分すぐに暴走するだろ」


「よく知っているな」


魔法の起点を精霊(ほか)に任せる性質上、命令の不備で容易に暴走する。

ネーブルに感心するフィリカだが、本人から言わせればそんなものは常識だ。


「今のは単体用ですよね?

 範囲攻撃とかあるんですか?」

「あるにはある。

 ただ消費、速度、威力に正確性などなど、色々と含めると《金色(こんじき)の矢》が初級にして奥義かもしれないな」


「…もしかして独自術式(オリジナル)ですか?」

「少し違うが、使い手も少なくて契約精霊の影響も大きいから似たようなものだな」

「その魔法、汎用性が高すぎだろう…」


「だからこそ磨き上げるんだろう?」


今度はニヤリと意味深に頬を上げるが、そう簡単にそんな境地に至られては困る。

ただ、フィリカに関して言えば、長命種だからこその飽き(・・)を、何事にも『突き詰める楽しみ』に転嫁していた。

長い生を楽しむ秘訣でもあった。

お読みくださりありがとうございます。

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