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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十四章:集う三神

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ヴァルトル訪問報告会

ヴァルトルからラボリに戻り、ネーブルと理熾が行った食べ歩きの話から始まった夕食時。

仕事でメルカノ家へ出掛けた二人に、周囲は『ちゃんと休めたんだな』と頬を緩ませていた。

ユスカとの会談も「ざまぁないな」といった言葉が飛び交う程度に好評だった。


しかしそれも束の間。

メルカノ家で遭ったウルスの話題になると全員の頬が一様引き攣った。


「待て待て!

 ラボリはまだ平定しきっていないぞ!?

 人が足りていないのを無理矢理回しているだけだ!」


椅子を倒して立ち上がり、制止したのはセルジ。

隣に座るセリナは目の前の皿にフォークをカチャンと落として呆然としていた。

既に二人は一杯一杯で、残念ながら新領地を獲得しても治めるだけの労働力が無い。

これ以上の仕事量は物理的に不可能な話だった。


「そっか…<迷宮創造者(ラザフォードさん)>がバレないように人を選ばないといけないんだね」

「その通りだ。

 この館の敷地に入れるだけでも随分と経歴を洗ってる。

 それこそハッサクまで使い、面接にまでこぎつけた時点で他の領地なら白すぎて怪しむくらいだ」


それもこれもラボリで雇用するための条件が厳しすぎるためだ。

言われてみればまさにその通り、ラボリは…いや、理熾の周りは秘密の宝庫。

まず第一に口の堅さが要求されるが、その秘匿性は国家機密よりも遥かに上。

他国の工作員を奪ったことから始まり、<空間使い(スミレ)>や<迷宮創造者(ラザフォード)>まで含めると世界常識を揺るがしかねない内容ばかり。


これらの秘密は支配者階級に緩やかに拡散しているが、それも『理解者のみ』にしか出回っていない事実だ。

そこに新たな人手を入れれば一気に広まりかねない。

いくら魔法契約で縛っても、新人達にも家族や友人が居る以上、漏れることを完全に防ぐことは難しい。

人を雇っている側からするといつ流出するかも分からず、これでは危なっかしくて簡単には人を増やせない。


特に<空間使い(ディメンショナー)>のスミレは直接的に莫大な富に繋がり、<迷宮創造者(ダンジョンメーカー)>のラザフォードを、高難度多層迷宮に据えられればどれだけの富みを生み出すか分からない。

あらゆる手段を用いても取り込みたい二人で、それが不可能な外野は暗殺者を送り込みかねず、どれだけ厳選しても足りないくらいだった。


「せめてここがおれとセリナが居なくても回らないと次の土地は不可能だ。

 そもそも隣り合ってもいない土地を管理するなど非効率も甚だしいし、魔境側に領地を得れば、ラザフォードを使って管理迷宮にするだろう?

 壁が必要ないほど周囲が平和なラボリだけでもこれだけ大変なのに、そんな魔境内にある中継地の管理まで手を割く余裕など何処にも無い!!」


セルジは『いっそ奴隷でも…』と脳裏を過ぎるが、使うなら終身奴隷しかありえない。

しかし奴隷に優しい理熾を見るとその思いも躊躇われた。

暖かい寝床と食事は与えられても、一度ラボリで働けば外には出せず、制限された区域で生きるしかなくなる。

そのこと自体は鉱山などの重労働が前提の奴隷達も覚悟していることだろう。


しかしラボリには同じ階級で、その能力と制約に加え忠誠心を持っているからこそ出歩ける例外のネーブル達が居る。

彼らの多岐に渡る知識と技術から、奴隷達と隔離して生活させる方法が無く、今後何処かで交わる瞬間が発生する。

ただ売られてきただけの奴隷に、ネーブル達と同等の権限は与えることなど出来ない以上、自由な彼らを見せるのは精神衛生上よろしくない。


最初は待遇に感謝してもいつかは不満を抱え、蔓延すれば簡単に組織は瓦解してしまう。

だからと奴隷の中にも階級制度を作ることすら想定するも、奴隷達に厳しく当れば理熾が難色を示し、優しくすれば付け上がる。

適切な階級を設けるには仕事の精査などの時間が足りないと八方塞り。

何より奴隷必須の産業を基盤の弱い開拓地でやるにはリスクが高すぎる。

特に失うものが無い奴隷達は武装蜂起や裏切りを起こしやすく、それを一度でも許せば最初からやり直しなのも痛い。

しかもその際は情報流出の可能性が高いので下手するとゲームオーバーになりかねない。


だからと気兼ねなく使い倒せるアール一族を投入するにも限界があり、結局地道に新規職員を探すしかない。

ただ誰を雇うにしても一生に関わる決断を迫るので、『急場を凌ぐ形』で引き入れるのにはどうしても躊躇いが生まれるのだ。


「うーん…まぁ、魔境に関してはまだ先っぽいから棚上げしようか。

 ラボリが何とかなったら、その方法を新領地に使い回す感じで、それぞれ何か案が浮かべば話に上げようか」

「………やめるとは言わんのか…」


「ユスカさんとウルスさんには『参加する』って言っちゃったからね。

 少なくとも攻略には顔出すし、顔出せば欲しくなくても土地を押し付けられるかもしれないでしょ?」

「っは、馬鹿言うな。

 確実に(・・・)押し付けられるさ。

 未開拓のラボリをたった三ヶ月で平定だぞ?」


ネーブルがセリナとセルジを絶望に突き落とす言葉を吐き出す。

代わりに口に付けたのは先程まで無かったはずの琥珀色のスープ。

セリナは『あんなもの用意したかな?』と一人首を傾げる。


実はラボリの夕食会は各々が取り分ける、バイキング形式に変わっていた。

これは料理が趣味に含まれるセリナが腕を振るえるようにと、時間が掛かる盛り付けや片付けを省くためだった。

他の者が取り皿の設置や洗い物などを受け持つことで、セリナが食事の用意に掛かる時間を半分近くにしていた。

ただ料理だけ作るのもしっくりこないらしく、時間が空くと全ての手配を一人でこなしていたりしている。


「時間が一番問われる拠点作りに駆り出されないわけが無い」

「………そういう意味での開拓ならお前達だろう?」


「そうだなぁ。

 ヴァルトル領を預かるガートルードか、ラボリ管轄のギルバート辺りから泣きつかれるんじゃないのか?」


のほほんとした態度のままセルジの問いに「ま、俺達が要請を聞き受ける理由は特に無いがな」と語るネーブル。

視線を鋭くして返したのはセルジだ。


「『出来る者』を遊ばせるほどガーランドは甘くない。

 特に突出地を手にした場合を考えれば、そう簡単に陥落させられない。

 どうあっても拠点化に巻き込まれて維持することになる…参加すれば地獄を見るぞ?」

「ラボリが忙しいのに?」


「抱える領地など取り上げられてしまえば終わりだ。

 少なくともここは『ガーランドの一部』なのだからな」

「ふはっ…良いねぇ。

 だが選択肢が一つだけだと思うなよ貴族共。

 今回の件でもカセレスからお呼びが掛かっていることだし、俺達は出て行くことにしようか主人(マスター)」


魔境掃討に貢献した者に領地を与えられると言われても、本人達が横に首を振ればそれまで。

もしも強行に押し付ければ、せっかく切り開いた管理地は遠くない未来に魔境に呑まれる。

責任追及しようにも、実力者であるほど『責を問う』ほど不利になるのは追及者。

二度と遠征に参加してもらわなくて良いのなら別だが。


だから実績のある者を逃がさないために「うん」と言わせるエサを持ち出すはずだ。

そのエサが何かは分からないが、理熾達が頷くほどのモノなら喜んで。

逆に利益が薄い積まれた仕事というなら誰が好き好んで受け取ってやるものか、というわけだ。

押し付けられるだけの実績がある事実を、強気の交渉材料にするのはネーブルらしかった。


「おれに当るなよネーブル。

 だがギルもガートルードも国に所属しているし、他国にしても『お前達の力を欲して呼び出してる』から、何処へ行っても然程変わらんだろう?」

「とまぁ、これが俺達が抱える周辺事情だ。

 察したか馬鹿主人?

 察したならこの場に居る全員にとりあえず謝っとけ」


選択を迫られたあの場では仕方の無い内容かもしれないが、今後を思えば問題が大きすぎた。

どちらにせよラボリの手が足りていない状況で仕事を増やすのは無茶だったのだ。

結局何処へ行っても仕事は山ほど積まれることが確定していることを理解した理熾は、素直に「ごめんなさい」と謝った。

しかしこれでヘタレる理熾でもなく、


「それともう一つあるんだ」


と新たな話題を切り出した。

お読みくださりありがとうございます。

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