波紋の始まり2
しばらくアレン視点です。
退屈かもしれませんが、お付き合いお願いします。
一晩考えた末、至った結論は『直接謝罪すること』だった。
少し調べるだけで頼んだやつらの対応が酷いことが分かったのだ。
誤解とはいえ、彼女のパーティメンバーを怒らせたことは間違いない。
敗北に打ちひしがれつつも、謝罪しようと動き出した時には既に学園から出ており所在不明。
仕方なくアレクセイを攻略することを優先したが、実家からも『仲良くなれ』と指示を受けた。
元々謝罪はするつもりだったが、こうなれば運命と考える方が自然だ。
俺は「よし」と一言自分に声を掛け、行動を始める。
まずはメルカノ家にアシュレイの所在を問うことからはじめよう。
そうしてガーランドではなく、ヴァルトルへと移動した。
使いを出すことも考えたが…使者が理由を問われた時に事情を話すのは何か違う。
貴族の身分ではそれが普通だが、俺達は『学生』だ。
自身がやらかしたことなのだから、間接的な部分はともかく、直接的な対応は俺がするべきだろう。
「おぉ、よく来られたアレン殿」
「急な訪問で申し訳ありませんユスカ様」
「はは、かまわないさ。
アシュレイの相手をしてくれる数少ない人物だ。
ところで…喧嘩したそうだが、身体は大丈夫かね?」
ガートルード公爵はまだガーランドということで、にこやかに迎えてくれたのはユスカ様。
しかし初っ端から肩をぱんぱんと叩くような親しい挨拶にはさすがに面食らってしまう。
これは『お前がやったことは知っているぞ』という脅しなのか?
「えぇ、運良く闘技場での対決でしたので。
ただその時に使っていた装備の半分近くが壊れてしまって大変でしたが」
「…確かアレクセイで雇えるのはCランクまでだったかな?
そうなると人数にもよるが結構高額なはずだ。
あぁ、もう…あの馬鹿は本当に何処にでも迷惑を掛けて回るな…今回の訪問はもしかしてその賠償か?」
「い、いえ違います!
アシュレイ様に迷惑を掛けたのは間違いがありませんから」
「そうか…?
どうせあいつが何かやらかしたんじゃ…」
いつも問題の発信源だから仕方ないとはいえ、あいつはどれだけ家族に信用がないんだ…。
思わず呆れてしまうが、謝罪しに来た身としては表には出せない。
「そういえばアレクセイの記録を塗り替えたとかで父がはしゃいでいたらしいが…もしかして調子に乗ってるのかな?」
「…詳細はまだ来てませんか?」
と俺は思わず聞く。
少しどころか天狗になっても許されるくらいの所業なんだが…。
それすら報告が来ていないとは、アシュレイの連絡の疎かさが凄まじいな。
「アシュレイはいつも通りだし、父は父で忙しくやっているようで大した連絡が無い。
普段なら使いくらい送ってくるはずなんだがね。
仕事以外の手紙を書く暇すらないのかもしれない。
それに学園からも試験の全工程が終わっていないからか、正式な通知はまだ貰ってはいないね。
知っているなら教えてくれるかい?」
「はい。
アレクセイの試験運用が始まって以来の過去最速、最少数、最年少の三大記録は確定です」
「…んっ、んん?
えっと、もう一回言ってくれる?」
「最速探索突破、最少数パーティ、最年少到達者の三つが確定です。
また、巻き戻りなし、5層毎の区間記録も全て塗り替えています。
最短純粋探索期間、最多討伐証明、最高換金額など、これら全てがアレクセイでの実戦試験開始から数えての記録です」
それぞれ記録保持者が居ただろうすべてを塗り替えるという余りに馬鹿馬鹿しい成績。
聞けば聞くほど不正を疑うが、探すほどに『間違いは無い』という証明が増える。
しかも
「これからは非公式記録になりますが…。
アシュレイ様よりも若いEランク護衛者と、最低ランクの護衛を連れているというのもあります」
「………それは学園が公表した記録?」
「はい」
「…ふむ、何かあったな」
俺の話を聞くにつれて頭を抱えるような仕草をしていたユスカ様が静かに呟いた。
思わず「はい?」と聞き返したのも仕方ないと思いたい。
「何処かで誰かの茶々が入って正当化されたり、軌道修正することもあるだろう。
だが、あいつに限って言えば、最初からルールに沿って行動するはずが…いや、そんな発想もない」
言い切る姿は真剣そのもの。
どうやらまずいことを言ったのかもしれない。
「そもそもあいつは『ルールを使う』ことをしないタイプだ。
表面上の取り決めだけを頭に入れて行動するから、大筋だけしか合わない。
あの子の場合は、最後の最後まで揉めに揉めて結果的に認められることばかり。
だというのに、だ。
それだけおかしな記録を『学園が公表している』ということは証明がある。
そこまで先を見越した行動が出来る妹じゃないから恐らく何かがあった…一番きな臭いのはパーティメンバーか…」
家族というのは『こういうもの』なのだろうか。
それともアシュレイが特別なのだろうか。
変な方向に信用しているようだ。
「メンバーはアルス領のリオとスミレという討伐者です」
「リオ…?
あぁ、ならそっちだね」
「え?」
「先日アルス近郊で起きた未開拓迷宮ラボリの大氾濫を止めた功労者だ。
今は迷宮と同じ名前を付けられた土地としてギルバート様から下賜されて管理中だ。
今まで前に出てこなかったセリナ様が代官を務めているから、随分と力を入れているようだね」
あの子供はいったい何をやっているんだ。
一討伐者が貴族から領地を分けられるなんて…。
「何故そんな詳細にご存知なのですか?」
「ん…あぁ、アシュレイがそこで少しお世話になっててね。
ガーランド・ラボリ・アルスを行き来してると聞いているんだよ。
見聞を広げるには辺境は非常に良い場所だ。
クライン家当主のギルバート様はアルスを立て直した傑物だしね。
ただあの子が迷惑を掛けていないかと思うと心配ではあるけど…父から許可が下りているみたいだから」
何故その許可が降りたのか分からない様子だった。
ふむ…何かしら理由があるのだろうが…。
「ではアシュレイ様はこちらには戻っていないと?」
「そうなるね。
でもアシュレイのことだからなぁ。
フラッと戻ってくるかもしれないし何とも言えないのは心苦しいけれど。
そういえばアレン殿はどういった用件なのかな。
随分と後回しにしてしまって非常に今更な気もするのだけれど」
申し訳なさそうにする仕草をされるとこちらこそ困ってしまう。
謝りに来た当人が居らず、保護者相手に『謝りに来ました』と言わねばならないのだから。
「少しアシュレイ様に謝罪をしたくて」
「謝罪…って、あの子に?
あぁ、別にいらないよ。
さっきの小競り合いの話ならこっちが賠償する側だしね。
どうせ気にもしてないだろうから、気に病むだけ損だと思うよ?」
「かもしれません。
けれどそう返事を頂くまでは、許されていると考えるのは少し違う気がしますので」
「そうかい?
うーむ、アレン殿はなかなか堅物だね。
けれどその部分をアシュレイももう少し見習ってくれればありがたいんだが…」
「ありがとうございます。
一応の所在もつかめましたし、一度出向いてみます」
そう言って腰を上げる。
しかし「止めはしないけれど、罠にハメた方が早いと思うくらいだよ」というユスカ様の言葉に浮いた腰をすぐに下ろした。
思わず「罠、ですか…」と呟く俺の言葉を知ってか知らずか
「ふむ…よし、メルカノ家も手伝おう。
いやぁ、敵はアシュレイかぁ…面白くなってきたな!」
アシュレイへの扱いがおかしい気がするのは何故だろう。
いや、むしろ家族がアシュレイを追い詰めるとは、本当にどんな状況だろうか。
「カルロを呼んだ方が良いかな?
確かアシュレイの護衛を捕まえたのはあいつだったはずだし。
ということはアレクセイのメンバーもカルロの入れ知恵か?
…アシュレイと遊べる良い機会だってのに何で教えてくれないんだ」
「い、いえ…謝罪ですので、こちらでなんとかしますよ…?」
「ダメダメ。
アシュレイは『会おう』と思うと何故だか会えないから、本当に気にしなくて良いよ?
向かっても多分行き違いになるし、待ち構えていると来なくて、待ち合わせしてもすっぽかされる」
「そ、そんなにですか…?」
「そんなに、だ。
公爵家、が雇う護衛が毎回見失うんだよ?」
『公爵家』という言葉に力を入れる姿に思わず絶句する。
驚くほど説得力があった。
いやいや、そもそも逃げ出すってあいつは何をやってるんだか…。
「とりあえずエサを何にするか考えないとな…。
あ、そういえば後2ヶ月もしない内に五都祭か。
そこに呼び出せば来るかもしれないなぁ。
一応父とカルロに確認…は事後承諾で良いか。
それと面白そうだからメルカノ家としてファロにも声を掛けておこうか」
「あのファロ・ボーウェンですか?」
「そうそう、あの『勝利者』だよ。
アシュレイをあげるわけには行かないけど、メルカノ家の力を示すには丁度良い。
学生の身分なら父も許すだろうし、『アレクセイ覇者』ってのが興行的に金にもなって優勝して箔を付けるかもしれない」
目に見えてうきうきとしているのがよく分かる。
声まで弾ませて…やってることを思えば犯罪者を囲い込むような話になってるわけだけど…。
「だがやりすぎるのもまずいな…。
メルカノ家が前に出るとアシュレイが逃げ出す可能性がある。
ファロには『アシュレイを出す』って声だけ掛けるようにしておこう。
何か必要になればアレン殿か、ファロからこちらに連絡が来るようにしてくれるかな?」
「えっと…確定事項ですか?」
「謝罪をしに来たんだろう?
アシュレイを捕まえるのは一苦労だからね。
五都祭の会場で会わせてあげるよ。
ただそのために出来るのは口添えと金を出すくらいかな」
俺はそんなことを言いながら紙に何かを書き記すユスカ様を見ているしかなかった。
お読みくださりありがとうございます。
さて、気が付けばメルカノ家まで参加し、新たな登場人物が追加されました。
広がりを見せるヴァルトル領をご堪能ください。




