大会の裏側で3
集団戦本戦、4組から2組へと減らされる三回戦。
準々決勝とも呼ばれる2試合目が理熾達アリスの本日のお仕事である。
『集団戦の試合も残すところ後2試合!
この戦いで勝った方が決勝戦のチケットを手にします!』
そう、既に準決勝の第1試合は終了済みだ。
勝ち残ったのは〝ハウリングエッジ〟というパーティが理熾達最後の障害になる。
とはいえまずは目の前の相手を片付けてからだが。
『まさかまさかでここまでやってまいりました。
初出場の最年少学生パーティ〝アリス〟!
挑むは、遥か格上Bランクの〝ブレイク〟!
Dランク迷宮であるアレクセイならば楽々突破してしまうパーティです!
これはさすがのアリスも分が悪いか!?』
相手は前回よりさらに一つ上のBランクパーティ〝ブレイク〟。
実況者の言うように、守護者としてBランクの双頭犬オルトロスが出てきたことを含めても突破出来る実力のあるパーティである。
分の良し悪し以前に、普通なら相対するだけで無茶な組み合わせだと認識されるだろう。
『ブレイクはご存知の通り、湖上の町『トトラ』で大発生した水精馬の群討伐を成し遂げたパーティです』
水精馬単体で見れば然程強くは無いものの、自身の生存圏である水辺から離れず、討伐が難しいとされている魔物。
つまり相手の土俵で戦わざるをえず、しかもその場が水上・水中という、人としては死地に他ならない。
何せ水に引きこまれたらそれで終わりなのだから、難易度はかなり高いだろう。
となれば戦術面で長け、なおかつ実行する能力があるという証明だ。
現にベスト4に食い込んでいる時点でその実力を示している。
『しかし、しかしです!
対するアリスも負けておりません!
アシュレイ選手はBランクのウィニアを。
スミレ選手も格上Cランクのスイフトをそれぞれ『無傷』で倒しております!
個人の能力で考えればもしかするとアリスの方が勝っているかもしれません!』
理熾はともかく、個人の戦力を思えばたった三人でも吊り合うと考えてしまう者も多いのかもしれない。
その証明として倍率はほぼ同じ。
アレクセイ攻略しか実績の無い学生パーティが、Bランクと同等に扱われているという無茶な状況でもあった。
だが、期待させる『何か』が理熾達アリスにはあった。
「いやぁ、相変わらず熱烈な紹介だねぇ」
「アシュレイさんがウィニア倒したからだろうね」
「スミレも紹介されてるよ?」
「ということは僕が一番目立ってない!」
「「それは(ない/ありません)」」
「そうかなぁ」
と温くやり合う理熾達。
緊張感など皆無で完全に遠足のノリだった。
対するブレイクは『たかだか学生の記録保持者相手に負けられない』とどうしても気負う。
そして武器や道具を消耗品のように湯水の如く使うアリスに不快感を持つ。
あれは『貴族の財力を背景に遊んでいる』という風に。
『強力な魔法士と前衛を擁する高火力殲滅型、攻撃特化パーティ〝ブレイク〟!
その苛烈なまでの攻撃密度の前に耐えられるものなどなし!
対するは多くの話題を掻っ攫うアレクセイ攻略パーティ〝アリス〟!
メルカノ家の天才アシュレイ、<人形遣い>スミレ、魔術紙片使いリオ!
異色の取り合わせが織り成す戦闘は観客の目を釘付けにして魅了します!』
と、何とも無駄に持ち上げてくれるものである。
相手パーティのランクはB、防御力よりも攻撃力へと偏らせた理熾と同じようなタイプだ。
ちなみにアリスにしか紹介が無いのは、単に人数が少ないためだったりする。
(さて、どうしようかな)
(今回は考えて無いの?)
(真正面から潰すか、姑息に潰すか迷ってる)
(真正面!!)
(んーなら最初は防御で固めないとダメだよ?)
(あ、なるほど。
『攻撃特化の攻撃を受けきる』ってことかな)
(賢くなったねぇ…)
(何かすっごい馬鹿にされてるっ!!)
と【連携】上でぎゃぁぎゃぁとやり合う。
そんな無言のやり取りにアシュレイの身振り手振りも混ざれば周囲からすると一人で騒いで見え、意味が分からない。
今に始まったことでは無いかもしれないが、スミレがすかさず注意を入れる。
(お二方、余りはしゃぐのは…)
(ごめんなさい)
(あ、うん。
声も出て無いしね)
しれっと人のせいにする理熾。
とはいえ、どうしたものかと考えるのは仕方ない。
楽に戦うなら全員で前衛に突っ込んで後衛火力を機能させない。
理熾の感知能力、スミレの防御力で封殺しつつアシュレイとコッペリアの突破力で薙ぎ倒す。
そこに前衛よりも脆い中衛がフォローに来ればありがたい。
むしろ中衛から『数の優位』を削り、後は単純な力押しでいけばいつかは勝てるだろう。
急ぐならコッペリアを前衛に、後衛火力をアシュレイに任せて撃ちまくっても構わない。
【連携】で繋がるスミレの座標認識は、アシュレイの誤射までもを感知してコッペリアに伝えるからだ。
これを一般的なパーティで行うには尋常では無い練度が必要だろう。
そんなことを考える理熾の耳が良くない知らせを拾う。
『第1試合でもご説明したように、この三回戦からはルールを追加いたします!』
試合直前のこの場で新ルールの追加と来たが、そんな規約変更は誰も聞いていない。
観客達は第1試合で聞いている内容らしく、単に盛り上がるのみ…既に疑問も無いらしい。
だが、理熾は勿論、相手も同じらしく、驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。
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大会運営側が用意した、高い位置から見下ろすように作られている特等席。
そこには他国の賓客やガーランドの貴族、ギルドの重鎮など、VIP待遇の者達が集う。
集団戦の本戦一回戦の工程を全て終え、口々に今回の大会について話す。
そんな中の一人である俺は、その浅ましさに溜息が漏れる。
ここは戦力の品評会であり、勢力図を書き換えるための場所だ。
強者は必ず何処かの陣営が囲っているので出ず、弱者は予選で省かれる。
だから凡庸以上、最強未満のヤツラが競い合って『評価を受ける場所』だ。
そしてそれぞれの陣営が『見せられる力』を出す場所で、新たな力を欲する場所でもある。
俺は後者という訳だ。
「これでは呼び出した価値が無いな」
そう声が漏れる。
目を付けて表舞台に引きずり出した。
その際に様々な条件を上乗せされ、その大半を飲まされてようやく叶った、リオと言う討伐者の出場だ。
あの『不在』のガゼルと『廻天』のギルバートをどうやって抱き込んだんだか、と苦笑が浮かぶ。
苦労の末ようやく出てきたあの小娘…だったのはかなり驚いたな。
男とばかり聞いていたからな。
それにしても個人戦・集団戦のどちらも出場してくれたのは僥倖だった。
見られる機会がそれだけ増えたわけだからな。
ただ、これまでの戦績を思えば物足りないどころではなく、明らかに赤字だ。
個人戦の予選はフードを被り認識をずらして戦うという小細工を弄し、本戦では金で解決して戦いすらしない。
集団戦の予選は『背負って走る』という対応には意表を突かれたが、問題児アシュレイの速度について走れることが分かっただけ。
いや、あそこからあのグループのトップで到着したことを思えば十分な速度が出ていたと見るべきか?
それと戦況を構築し、読む力を持っていそうだが………そこまでだ。
本戦に至ってはポルンを呼び出して戦場でくつろぐ始末。
あの度胸だけは買うが、結局力の程はさっぱり分からない。
そして一番の問題が『予選突破で力量の証明』としていることだ。
つまり今すぐヤツが棄権や辞退で試合を降りても、単純に負けても口出しの権利は無い。
しかし俺としてはリスクを積み上げ手を回している…到底納得出来るわけがない。
「仕方ねぇか。
大人しくしてるつもりだったんだが…」
「これはファロ様、お久しぶりです」
「…スラヴァか。
引き篭もりの『不在』は元気か?」
アルスのサブマスターの一人、スラヴァへと向けるのは挑発するような視線と言葉。
口元にうっすらと笑みが思わず浮かぶ。
見栄張りに忙しい馬鹿共と違うホンモノが出てきたか。
こいつは退屈しのぎに丁度いい。
「えぇ、それはもう相変わらずです。
先日も勧誘して来ましたよ。
ほら、貴方がご執心のリオという若者ですよ」
「ふん、そのわりに大人しいじゃないか」
「そうですか?
私としてはむしろ逆の意見ですが」
「逆、だと?」
「えぇ、逆です。
戦いを主とする大会で『戦力を見せずに勝つ』のはどれほど難しいことでしょうか?」
好々爺然としたスラヴァは笑顔のまま告げた。
俺は顎に手を当てて考え「……なるほど、一理ある」とスラヴァの言葉を認める。
その通りだ。
個人戦の本戦でも相手の情報が無ければあんな交渉など出来ん。
集団戦の予選は『魔法士を背負う』というのはまずありえない対策だが、それを成すための下地を持ち込んでいる。
そう考えればあの道具にも多くの仕込みがされているんだろう。
本戦に至っては戦いすらしなかったからな。
戦力以前にそういった点で対策するタイプか…あぁ、そういえばアレクセイでは斥候だったか、と思い直す。
だが俺の視野が狭いとは考えない。
単に『他が俺とは違う部分に気が付くだけ』だ。
俺が気付かなくとも、たとえ知らなくとも、結果的に何とでもなるからな。
「だがそれじゃ面白くねぇな」
「…何をなさるつもりですか?」
警戒心を滲ませるスラヴァを前に、俺はにやりと口元を緩める。
単なる思い付きだ。
意見が通るとも思っていない。
だからこれは俺の仕掛ける『賭博』だ。
「いやなに、試合にちょっかいを出すなと言われているもんでな。
面倒だが『大会ルール』に手を加えようと思ってなぁ」
「…大会中にですか?」
「その方が盛り上がるだろ?
それに実戦じゃ『ルール変更』なんぞ日常だろう?」
何とも強引な話だが、価値はある。
それにこのままだと俺の一人負けの可能性もあるからな。
「まず個人戦の『棄権は禁止』だな。
スミレはリオの奴隷なんだろう?
だったらこの二人の対戦、そしてアシュレイ様と当たれば、その時点でまず確実にどちらかが棄権する」
「その予想は理解出来ます。
しかしそのルール変更は現実的ではありますまい」
「まぁな、だから本命は集団戦の追加ルール。
『パーティリーダーの戦闘不能で敗北』ならまだ望みがあるだろ」
これならリーダーに意識を向けさせられる。
防衛戦では拠点を守りながら戦闘する…つまり『何処かを気にしながら戦う』わけだ。
意識を割きながら戦うってのは、それだけでかなり戦力が削がれるし、実戦形式という意味では最適だ。
「ふむ…それでも勝つ気が無ければ意味がありませんな」
「はは、あの勝気なアシュレイ様が居れば引っ張ってくれるだろう?」
「それは確かに…否定出来ませぬなぁ」
「それとこれはギルド内の世間話だが。
俺が執心してる小娘に『棄権することは許さん』と伝えてくれ。
試合内容に口出しはしないのは了承済みだ。
だが、こっちも結構な賭け金を積んでいるんだから、それくらいのサービスは良いだろ?」
「何とも厳しい条件ですな。
勝つか打ちのめされるかしか無いというわけですか」
あぁ、辺境に居るサブマスターでもダメか。
馬鹿みたいにぬるい。
やはりガゼルが居るからアルスは回るんだろうな。
表情を取り繕う事無く苦笑が浮かぶ。
「馬鹿野郎。
腕比べの闘技大会ではそれが『普通』だ。
何をあの小娘に感化されてやがる。
殴り合いの祭典だぞ?
もっと泥臭く、血みどろになって目の前の敵と殺し合え。
むしろ大会ルールから『棄権』を取り下げてようやく最低限になるくらいだぞ。
『死ねる戦場』なんてくっそ甘いルールだけでも吐き気がするほど酷いのに、何を眠いことを言ってるんだ」
…また悪態ついちまったな。
まぁ、もう口から出たもんはしかたねぇ。
それに頭もすっきりもしたし、さくっとルール変更といこうか。
俺は両手をポケットに突っ込んで踵を返して歩き出す。
マナー違反なんぞ知ったことか。
「ではそのようにお伝えします。
ただ、これは強制力のない『おねがい』であることはご理解ください」
「構わんさ。
破るようなら俺の目とカンが悪いだけだ。
にしてもアルスのサブマスターを連絡役に使うとは大した新人だ」
「いえ、使ってるのはヴァルトルギルドマスターの貴方ですよ?」
「諍いの間に挟まれると大変だなぁスラヴァ」
俺は手を振って特設会場を後にした。
背後で溜息が聞こえた気がするが、俺の視野の広さでは捉えられんさ。
お読みくださりありがとうございます。
という感じで、ファロ初登場(多分
基本設定として俺様タイプ、粗野、戦闘特化、政治耐性持ちって感じ。
ようやく出てきたという感じがする…。




