報酬分配
本戦の集団戦を終えた三人はやはり抽選会場へと引き出され、次の相手が決定する。
首尾よく理熾が戦う場面が無かったことを思えば、上々と言った成果だろう。
出費が投剣一本ということを含めれば十分に完勝と言える内容だった。
「さて、お待ちかねの出場報酬は…4万カラドって凄いなぁ」
「確かにDとEが一日で稼ぐ額じゃ無いよねぇ。
あ、僕は何もして無いし二人で割って良いよ」
「「それはダメ(です)」」
と二人に止められる。
理熾としては何もしていないのだから、当然の言葉だったのだが。
思わず「えー?」と首を傾げると
「指示を出してもらって勝ったんです。
戦ってないとかそんな寂しいことを言わないでください」
「使った道具や装備は全部リオ君持ちでしょ?
ボクのも、スミレのも。
まずはその分を引いてから分割だよ」
まくし立てるように理熾へと迫る。
スミレも逞しくなったね、と感じながら消耗品の金額を告げる。
「う…なら魔術刻印施した投剣1本だね。
法陣機雷も使ってるけど拾い物だし、500カラドくらいだからそれ引いて…」
「計算が面倒だから1万ね。
そこから頭割りで各1万ずつで、スミレもそれで良いよね?」
「はい、構いません」
「え、いや、それは僕が貰いすg「「良い(の・んです)」」…あ、はい」
二人の仲は良好なようで安心する反面、今後もこうやって押し切られるんじゃ無いかと危惧する理熾。
理熾の場合、この程度のことならいくらでも譲歩するのだが。
ちなみに今回使った投剣の説明は余り大したものではない。
まず剣身に武器に付ける特性としては考えられない《結界》の刻印術式を刻む。
柄の部分に法陣機雷をはめ込むようにあしらい、そこに血魔石作成時に出た屑を導線代わりに添付し、起爆式を付与したものだ。
法陣機雷は少しの衝撃で暴発するので、起爆式の容量もかなり小さく済む。
拾い物と魔石の粉末屑と材料的には非常に安価だ。
とはいえ、それも材料持ち込みの『ノルン価格』だと思えば、施術費用だけで最低でも倍以上はするだろう。
ここに材料費まで含めば赤字街道まっしぐらとなるはずだ。
何より金額云々より、これらを手配した理熾への支払いなので二人とも高いとすら考えない。
その他にも色々と用意しているが、今のところ一番高価なものは…
「にしても、よくこれだけ入る《拡張空間》の装備を手に入れるよね。
借りてるのもかなりの容量があるよ?
ボクの手持ちで一番良いのって背負うタイプの荷物袋なのにさ」
とアシュレイが言うように、理熾とスミレの服に仕込まれた《拡張空間》と、アシュレイに貸した荷物袋が特注品だ。
理熾もスミレも服に仕込まれた《拡張空間》に加えて《亜空間》を持つので圧倒的な在庫を抱えられる。
用途に合わせてどちらから物を取り出すかは別としても、この利便性は今回発揮した通り。
その汎用性の高さは他者と比べるまでも無い。
この考え方を参考に、アシュレイにも荷物袋を用意した。
中には先程の投剣を始めとした様々なものが詰め込まれており、渡された段階で戦闘準備が完了するほどだった。
そんなモノを服に2つ縫い付けているので、抱えられる在庫量はネーブル達と比較しても倍以上の荷物を手ぶらで持ち歩ける。
これには公爵家のアシュレイも乾いた笑いしか出なかった。
「小さいのを一杯ってのも考えたんだけど、高性能を二つの方が使い勝手が良いって結論になったからね」
「だからってそれが出来るのは凄いことだと思うんだけど…」
「その辺は創意工夫が大好きな人が居るからね。
でもそれ『時価』だから、ちゃんと返してね?」
「どんな値が付くんだろう…」
「大会の面白さで決まるらしいよ」
「意味が分からない」
「僕もそう思う」
と笑いながらするやり取りで分かる通り、特性を付与したのはフィリカ。
素材の選定や設計、構想といった部分で主に関わり、物によっては作成にも参加していた。
ちなみにこの荷物袋。
所有者の魔力を吸い上げて空間を維持するので、ある意味でのろわれた荷物袋だったりする。
もしアシュレイ以外の一般人が一つでも装備すれば、半日と経たずに魔力を吸い尽くされる程度に燃費の悪いシロモノだからだ。
相変わらずピーキーさが群を抜いているが、『使い手を選ぶ』というだけで効果は一級品なので誰からも文句は出ない。
といった感じで、ノルンが作成したものへの支払いのほとんどは済んでいるが、フィリカ作成のものは割りと残っていたりする。
いろんな意味でちゃんと支払えれば良いな、と理熾も考えているところでもあった。
「それより明日は大丈夫?
特にスミレの相手ってCランクじゃなかったっけ?」
「はい、スイフトという方ですね。
大剣使いで攻撃が重いそうなので対応出来るかどうか…」
「その分遅いとは思うんだけど…それでもなぁ」
「うん、スミレは魔法士だしね。
物理同士なら牽制とかで何とかなりそうだけど、近付かれるとつらそうだね」
「ハンデもあるしね」
「はい…」
「あー…【空間魔法】を使わないってやつ?」
「<空間使い>ってバレちゃまずいからね」
「その代わりが木材兵ってスミレも多芸だよねぇ」
「ご主人様ほどじゃありません。
というよりご主人様が新しく手に入れたクラスの方が凄いです」
と何故かスミレが豊かな胸を張る。
<空間使い>を持っていたことはアシュレイにも既に告知しているので、理熾の扱いはやはり魔法士。
クラスチェンジしたことを話せば当然『何に?』という話にもなる。
「<重時空間士>なんだけど…」
「え、何それ?」
「まぁ、知らないよね。
クラスアップって普通しないって聞くし。
あ、誰にも言わないで欲しいんだけど<空間使い>の上位クラスだよ」
「<空間使い>の上位…。
それなら新しいの取ればよかったのに」
「まぁねぇ…でも【空間魔法】は使い勝手良いし伸ばそうと思ってさ」
理熾の使い方を見ていれば使い勝手の面で誰も口出し出来そうに無い。
『物を運べるだけ』の魔法士の価値はこれほどまでに上がったのだから。
しかし伸ばすといいつつも他属性を巻き込んだクラスなので広がりまである。
本当に言い方一つで何とでもなるという証明だろう。
「そういえばさ。
発火紙片って必要なの?」
「うん、僕が『魔法を使えない』って勘違いさせるためにね」
「ボクも使ってるけど…」
「あ、もう普通に戦って良いよ。
印象残すために予選だけは使って欲しかったんだよね」
フードを被っていたのはやはり誤解させるため。
誰がどんな動きをしていたかの認識を曖昧にすることと、魔術紙片の使い手だと認識させるためだ。
本戦に入った今ではもう名前も顔も知られているので、混同させることも出来ない。
なので通常の戦いに戻って良いという訳だ。
「いや、魔術紙片使えば簡単でしょ?」
「え、そんな勿体無いことしたくないよ」
「えぇ…?
だったら発火紙片も使わなくても…」
「そうすると魔法が使えることがばれちゃうでしょ」
「ややこしい…」
そして理熾が魔法を使えているのは、【魔女の一撃】にはめ込まれていた血魔石を使っているからだ。
その魔石は天然古亀の核から作られたもので【基本属性】の特性を持つ。
それを取り出し、新たに作成した台座に取り付け、腰に巻いてある装備として身に付けている。
増幅器である柄の部分が無いので、出力は半分以下に落ち込むが、魔法を使うだけなら十分な性能だ。
それを発火紙片を燃やしながら魔法を使うことで、理熾は『魔術紙片使い』を演出しているのだ。
ちなみにスミレは完全に属性魔法に素養が無く、理熾のような装備も持っていないので本物の魔術紙片を使っている。
そしてこのスミレの存在が、理熾が魔術紙片使いだということを誤認させている一因でもあるのだ。
「ま、アシュレイさんは存分に戦ってよ」
「小細工入れなくて良いのは助かるよ」
「スミレは【空間魔法】だけは使わないで。
《亜空間》も取り出すところだけ見られないように注意してね」
「出来れば木材兵だけで何とかなれば良いんですが…」
「魔術紙片ばら撒いても良いからさ」
「気を付けます」
「うんうん、スミレも本気が出せれば良いんだけどね」
「それはそれでどうなんでしょうか…?」
スミレの本気となると理熾と同じく投剣が飛び交う戦闘だ。
そんなものは最早個人の戦いとはいえなくなるので苦笑いしか浮かべられない。
『そこまでして勝て』なのか、言葉通り『強敵の相手』を求めているのかはスミレには分からなかった。
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