↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

331/537

ラボリ防衛戦5

理熾に軽く小突かれてふらつき「きゅ、急に何なんだ!」と抗議してくる中年(ラザフォード)はとりあえず無視。

シュミットから話を聞く前に概要を把握した理熾は、相変わらずの神の采配に苦い顔をする。

最初から分かってやっていたなら最悪で、知らなかったのなら何故今なのか分からない。

後数瞬で整理された話が聞けるというのに。


警備兵に「こちらへ」と促されるままに小屋に入る。

会議室に通されると、全員の目が理熾達へと向いた。

その中から責任者であるシュミットが声を掛けた。


「……リオ君?

 もしかして今戻ったの?」

「はい、ついさっき上がってきたとこです」


「それはまた間の悪い…」


そう、間の悪いタイミングだ。

迷宮へと侵入する魔物もいるので一概には言えないだろうが、中に居ればこの『最悪』に立ち会わなくて良かったかもしれない。

それも(優秀な奴隷持ちとはいえ)子供の理熾が…という意味でシュミットは嘆いたのだ。


そして「いいえ」と考えを振り切って頭を振り、状況説明が始まった。

今のところ探索組みで地上へと戻ってきているのは理熾だけ。

迷宮内に伝令を飛ばせるほど余裕は無いので中の詳細は分からないが、日数的にそろそろ上がってくるタイミングではあるようだ。

その時についでにラザフォードの話になり、理熾が


「探索者パーティ以外の人だったので話し合いの末一緒に上がってきました」

「…【戒めの鎖】(それ)は?」


「護衛として雇われたんですが、この人の素性を知らないんですよ。

 なので背中を刺されないためにちょっと不自由になってもらっています。

 それもラザフォードさんは了承済み…って、外に出ましたし取りますか?」

「いやいや、拘束具(これ)があるから護衛してくれるんだろう?」


「………という感じで合意の上です。

 あ、もう地上(そと)ですし良い大人が鎖に繋がれてるとか嫌でしょ。

 外しますから勝手に生き残ってください」

「外したら守ってくれないんじゃないのかい?

 それならば断固拒否する!

 ぼくはこう見えてもひ弱(インテリ)だから、肉体労働なんて出来ない!」


「見たまんまだよ…。

 そんなに殴り合いが嫌なら魔法使いなよ…」

「感覚でしか説明出来ないあんなものは技術じゃないっ!」

「お、落ち着いてください。

 非戦闘員でも今は戦闘を強いられるタイミングです。

 前で槍を持て、とまでは言いませんが、弓での援護はお願いします」


子供(13歳)に守れと迫る中年ラザフォード(40オーバー?)を、シュミット(24歳)が制止した。

周囲に佇む警備兵や作業の進捗を伝えに来た工兵はドン引き。

何というか凄い光景である。

気を取り直すように


「それよりも相談役から伝言があります」

「ネーブルから?」


「はい。

 『魔物を集めてくるから好きに動いてくれ』だそうです」


そんなネーブルの伝言を受け、理熾は「うーん…Lv上げしようかなぁ」と呟く。

【神託】には『押し返せ』とあるが、恐らくその意味は目標の殲滅だろう。

理熾が参戦しなくとも、ネーブル達が『連れてくる』以上は放っておいても何とかなりそうなのだ。

問題はただ数が多いだけなのだから。


そんなことを考える理熾の呟きを聞いている側は状況を理解しているのかと驚くしかない。

シュミットも同じく「なっ…危険ですよ!」と声を掛ける。

しかし


「それはラボリ(ここ)に居る時点で皆同じですよ。

 後は前に行くか、後ろに立て篭もるかの違いだけ。

 そしてそもそも戦力が足りてないんだから、立て篭もる側には護衛も割けないでしょ?

 つまり前が突破されれば終わりってこと。


 その点、戦力になる僕は前に出てた方が安全。

 だって後ろまで魔物が流れるようなら前は全滅してるから、一人残った僕だけで戦わないといけないしね」


そして「それに比べたら先頭に立つ方がよっぽど安全」と語る。

過信なのか、勇猛なのか、それとも単なる効率なのか…。

理熾という子供を『初めてまともに見る大人達』は判断が付かない。

ただその考えは周囲を納得させるだけの重みがあった。


「では戦うと…?」

「そのつもり。

 段取りは誰に聞けば良いのかな?」

「それならば私が」


前に出てきたデリックが答える。

手早く作戦を聞くが、作戦と呼べる程ではない。

そもそも少数精鋭が本家のネーブルが考えたのだから仕方ない。


概要だが、まずは非戦闘員が遠距離から矢を放つ。

殺す必要など無く、単なる負傷と足止めが目的だ。

だからたとえ前衛に魔物が届いたとしても、更に奥に居るであろう魔物に向けて矢を放ち続けることになっている。

狙いなど定めず山形で良いが、前衛にだけは当てぬように徹底することになっている。


ここで重要なのは延々と放たれる矢による、魔物達の『戦意喪失』だ。

誰しも頭に血が上っていれば本能が逃走を叫んでいても気にせず突っ込んでくる。

通常であれば、この『周りを見えなくしての討伐』は強靭な魔物を狩るのに有効な手段だが、今回は話が違う。

一気に訪れるであろう魔物達が、出来るだけゆっくりと戦闘へ入るように配慮しなくてはならない。

そのことによって多少強くなろうとも、数の暴力で蹂躙されるよりは遥かにマシなのだから。


だから『頭を冷やさせるため』に矢を射掛けるという側面もある。

故に『襲ってはいけない場所だ』と本能に刻みさえすればとりあえず逃げられても良いのだ。

こうして危機感を持たせることによって戦力を削ぐことも目的にしていた。


その次はもう障害物(柵)での足止めが始まる。

準備期間や道具が無いので遠距離から安全に戦うという戦法が無さ過ぎるのだ。

そして柵の後ろから槍を突き出して仕留めるのが前衛の役目。

柵の前に死体が積み上がり、障害物として役に立たなくなったら後方にある次の柵へと全員移動。

逃げ込むための柵の隙間に新たな杭を打って柵を繋いで新たな『前線』を構築する。

こうして二重三重に防衛ラインを形成しつつ、突貫する魔物を少しずつ削っていく算段だ。


号令に従い撤退するのだが、逃げ遅れた場合は残念ながら見捨てる。

戦力として失うのは手痛いのだが、そのために入口を塞がなければ決壊するのは目に見えている。

その場で『損切り』をしくじれば全員が死ぬのだから仕方ないと割り切るしかない。

柵と魔物に挟まれて死ぬのは馬鹿らしいので、必ず聞き逃すなというお達しが出ている。


この作戦のために、馬鹿みたいに柵が形成され、槍は出せるだけ全部を整備に回されている。

たとえ刃が鈍っても、柄が折れても、即座に取り替えられるように。

デリックの説明を聞いて質問を挟む。


「…ここに魔法士は居るの?」

「2名だけ。

 風と水がそれぞれ1名ずつで、残念ながら戦力としては数えられない」


「なるほど…」


こんな子供に対しても真摯に答えてくれる辺り好感触だ。

相手からすると『相談役(ネーブル)の上司』という立場からなのかもしれないが、たったそれだけでも理熾にはありがたい。


「その『戦力として考えられない』っていうのは、魔法の威力は低いってことだよね?」

「あぁ、威力よりは利便性で来てもらった非戦闘員なのでね」


「なら風の人に『声が届くように魔法を使って』って伝えておいて」

「「「は?」」」


皆が皆ぽかんとする。

風を操るだけの魔法士が出来るとも思えない内容を話したからだ。

だが確信を持って言えることがある。


「喉に手を当てて声を出せば分かると思うんだけど、音って『空気の振動』なんだよね。

 だからその振動が『綺麗に耳まで届けば音が聞こえる』って訳。

 んー…でも忙しい戦場じゃ個別にってちょっと難しいか…あ、そうだ今回の指揮官ってデリックさんだよね?」

「あ、あぁ…確かにそうだが」


「なら、風の人を横に付けて、号令を大きくしましょう」

「は?」


「空気の振動を『強く大きく』すれば音が大きくなるんです。

 魔物相手なら指示を聞かれても大丈夫だし、それならいっそ拡声器(・・・)として使いましょう」

「確かにそういう魔法具はあるが…」


「え、そうなの?

 なら風使いをそんなところで無駄にするのはもったいないね」

「いや…ここには無い。

 風魔法で代用出来るならばそれに越したことは無いが…」


「じゃぁ練習させてみて。

 無理なら別のもので代用するしか無いけど、これで引き際を間違う確率は減りそうだね」

「う…うむ…」


そう言ってすぐに指示をする。

今回は『使えない』と思っていた者だ。

出来るならばそれに越したことはないし、むしろ出来なくても問題ない。

それなら一度やらせてみようという訳だ。


無属性の【音魔法】でしか発現出来ない効果なのだが、刻印術式化した《音声増幅》というのが割りと容易に手に入る。

使う場面や欲しがる者が少ないので、多少高価では魔法具としてはそこまで高くは無い。

必要に駆られるならば普通はそちらを使うため、風魔法を利用しようなどと誰も思わないのだ。


「それと水の人は水の温度とか変えられるの?」

「ある程度は。

 だが熱湯や冷水となると少し難しい。

 自然に存在する15~30度くらいなら大丈夫だと思えるが…」


「んじゃそれで。

 魔物が来たら出来るだけ冷たい水を被せよう。

 頭が冷えればそれで良いし、体温が下がれば動きが鈍る」

「そんなに水は出せないと思うのだが…」


「良いよ良いよ。

 広範囲の地面が柔らかくなる程度の水で。

 敵が入ってくる側の地面は僕がスコップ(これ)で耕しとくからさ」

「は?」


取り出した【魔女の一撃】(イノセンスノヴァ)を肩に担いで話を続ける。


「ほら、何するにも地面を踏みしめるでしょ?

 足場が悪いと体力使うし、転んじゃう。

 ラボリの周りを走りまわってここにくるんだから、疲れてるはずだしさ。

 最後の一押しにちょっとした沼に足を入れさせて泥遊びしてもらおうかな、って思って」

「むぅ…」


言っていることは的を射ているだろう。

が、基本的にそれらは『持久戦』だからこそ意味を成す。

一気に押しかけられてはいくら足場が悪くとも踏み固められるし、踏破されてしまえば意味がない。


それにそんな準備時間は無いだろうと思うのだが、理熾を工兵として参戦させるなら安全だろうとデリックは黙した。

同じく、有効かどうかはやってみないと分からない方法を取り入れる。

少しでも確率を上げるのは指揮官の務めなのだから。


「んじゃ僕は周辺掘り返してくるね?」

「リオ君!

 ぼくを守ってくれないのかい!?」


「ははは、冗談は態度だけにしてよ。

 後でちゃんと迎えに来るから、周りの人の言うことを聞いて大人しくしててね」

「ま、待ってくれ!」


あっさりと【戒めの鎖】を外して理熾は小屋の外へと出て行く。

それを追うラザフォードは、玄関扉を抜けた辺りで(恐らく理熾に)小屋の中に叩き込まれていた。

状況の把握と提案を経て嵐のように去る理熾と、情けない大人(ラザフォード)を眺め、全員が狐につままれたような顔しか出来なかった。

お読みくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。