表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
327/537

ラボリの迷宮創造者3

【魔女の一撃】(イノセンスノヴァ)に魔力を通し、止める間もなく流れるように紡がれた魔法は火属性の初歩。

攻撃魔法の中でも有名で、一番結果が分かりやすく、威力も望めるとされる|《火炎弾》《フレアバレット》。

ただしその規模が通常とは全く違った。


理熾の背後に増え行く全てが無詠唱。

1発に込めた魔力は破格で、通常の2倍。

1つ目の《火炎弾》を等間隔に複製(コピー)し、待機状態に(スタンバイ)される下位魔法は大気を焦がして揺らめく。

浮かぶ数は魔物に対して3発ずつの102。

ここまでやれば下手な上位魔法などよりも遥かに範囲や威力が高くなる。

そこで理熾はあえてにやりと不敵な笑みを浮かべる。


『本気を見せる』


そう告げた理熾の言葉に偽りは無いが、真実でもなかった。

ただ見せた方法とは別に、遥かに多くの手札を持っているというだけで。


事実、処理能力と魔力運用は確かに全力だが、倒すだけならそもそも《火炎弾》を100以上も浮かべる必要など無い。

遠距離に拘るなら【士魂の強弓】で撃ち抜けば良いし、《亜空間》から矢を放っても良い。

投剣で一掃することも出来るし、近付くことを解禁すれば殴り倒すことすら可能だ。

異種混合とはいえ、連携も取れないたかだか34体のD・E・Fランクの強化された魔物にいまさら臆する理熾ではない。


あえてこんな手法を取るのは、アガタに対して手札を隠すことと、『生粋の魔法士』だと誤認させること。

そして<迷宮創造者(ダンジョンメーカー)>に対し、『理熾には絶対に勝てない』と知らしめるためだ。


「僕と『敵対したこと』を後悔させてあげる」


そんな台詞と共に、【空間魔法】で底上げされた座標認識に従い、まずは1/3の《火炎弾》が端から順番に放たれた。

ほぼ同時とも言えそうな発射は、その実タイミングをずらすことによって標的設定と発射の処理を重ねない。

もし同時発射による過剰処理のせいで背後に浮かぶ《火炎弾》が維持出来ないようになっては意味が無いからだ。


断続的に飛来する《火炎弾》は、直撃すればその部位の肉が焼け爛れて欠損し、回避しても近場に着弾すれば炎に炙られ吹き飛ばされる。

アガタと<迷宮創造者>を除く、理熾を囲む全ての魔物へ飛来する《火炎弾》に阿鼻叫喚が上がった。


結果は命中しての部位欠損などによる重傷が全体の半分。

当たり所が良かったり掠める程度の軽傷が残りから更に半分、一撃必殺に等しい重態が残りからもう半分。

完全な回避に成功して無傷だったのはたったの3体ほど。

ただ無傷の魔物達も、緊急回避で体勢を崩しているか、着弾時の爆風に煽られて空中に吹き上げられていたりと多大な影響を受けている。

宙を舞う1体に関しては着地時に負傷するかもしれない。


同じことが出来そうなアガタには大きな反応は無いが、余りにも甚大な被害に絶句する<迷宮創造者>。

ただこれで終わりではない。

理熾の周囲にはまだ大量の《火炎弾》が残っているのだから。


「次で終わってくれるとありがたいね」


その言葉が終わる前に《火炎弾》の維持に使っていた処理分を照準へと回し、残りの2/3の《火炎弾》が放たれた。

牽制と呼べる威力を大幅に超える一発目により、回避行動の大半を封じられた魔物達に先程の倍の数の魔法が殺到する。


床の建材を吹き飛ばす振動、着弾を知らしめる魔物達の断末魔。

血肉を焦がし、沸騰・蒸発したことで悪くなった視界が晴れると、当然ながらそこに生き残りなど存在していなかった。

そもそも五体満足な死体もない。


「やりすぎた。

 これじゃ素材を持ち帰れないね」


理熾のおどけた言葉が下位魔法の《火炎弾》によって熱せられた空気に乗って響いた。

が、実はこの結果に一番衝撃を受けていたのは理熾だったりする。

倒すには十分だろうと思っていたが、ここまでするつもりは無かったし、なるとも思っていなかった。

余りの計算違いの威力に、手元にあるスコップの柄を握り直して『フィリカさん何てもの作ってんの…』と内心では責任転嫁に忙しかったりする。

ただ、混乱する理熾の頭で振り絞った言葉も、当事者達には笑えないものでしかなった。


骸骨は静観の姿勢。

唖然とした表情で沈黙していた中年はおもむろに口を開き


「うむ、投降する。

 丁重に扱ってくれたまえ」


と状況を受け入れたのか、あっさりと両手を挙げて無抵抗を表現した。

ひらひらと手を振る様は挑発しているようにも見えたが、本人には決して茶化しているつもりは無く大真面目だった。


何せ魔物での排除や脅迫は通じない。

守護者(アガタ)という切札も出せない。


いつかはバテるかもしれないが、それがいつかも分からなければ賭けにもならない。

今まさにやって見せたように、どれだけ呼び出そうとも同じ結果になるだろう。

もしもここから更に魔物をけしかければ、理熾は<迷宮創造者>に対して『完全制圧』へと切り替える予想は容易い。

これでは負けを認めるより他は無く、討伐ではなく『捕縛』という話が出ている以上は素直に従った方が賢明だった。


理熾としてもアガタや中年という証人が居るので事実を誤魔化すことは出来ないが、目の前の大惨事をすぐにでも水に流したかった。

他の面子も気になるし、と理由を付けてでも。

この凶行を知られれば、周り(特にネーブル辺り)に何を言われるか分かったものではないのだから。

ただ、周りとしては理熾に認識差(ギャップ)があることは十分に理解しているので今更かもしれないが。


ここで利害が一致した。

信じるのは早いかもしれないが、目の前の中年の降伏宣言を受け入れる。


「とりあえず今すぐ地上に出たいです。

 空間圧縮式落とし穴?

 ってやつで外まで出れると嬉しいんですが」

「まぁ、待ちなs…いや、待ってください」


言い直した辺り、少しは『捕縛対象(自分の立場)』を理解しているようである。

態度に反映されていないのは何故なのかは不明だった。

「何か?」と先を促すと、中年は上げていた手を下ろして体を傾けた。


「自己紹介がまだだと思ってね。

 ぼくはラザフォード。

 なんとクラスは<迷宮創造者>だ」

「はぁ…理熾です。

 で、外に出れますか?」


早く移動したい理熾は結論を求める。

その淡白な反応にラザフォードは非常に残念そうにした。

いっそのこと縛り上げてしまってもいいな、と理熾は一瞬考える。

ただ、中年を抱えて移動する光景は第三者から見てどうなんだろうと思い直す。

状況が収束しそうでしない現状がもどかしく、焦っているのかもしれないと付け加えて。


「出来る…が、外は危険だ」

「何処の引き篭もりですか。

 迷宮の方がよっぽど…。

 って、そうか…クラスのお陰で迷宮の方が安全なんだね…」


「そういうこと。

 どうしたものかなぁ…あ、護衛してくれるなら付いていくけど?」

「…戦えないんですか?」


元々理熾はその可能性も考えていた。

フィリカは例外としても、ネーブル達は一芸に秀でてはいる反面、その他は周囲に随分と劣ってしまう。

この世界の常識が『特化型』なのだから仕方ない。

だからこれだけ特別製の稀少スキルを持っているのならば、他は大したことが無いだろうと予想した。

外へ引っ張り出せばただの弱者だろう、という風に。


「そうだねぇ。

 オークくらいなら一対一(サシ)でやれるけど、それ以上となるとてんでダメかな」

「分かりました。

 でも言うこと聞いてくださいよ?

 僕はともかく、仲間が容赦しない人ばっかだから本当に」


特に情報を搾り取(収集す)るハッサクを筆頭に、配下の面々を思い浮かべる。

理熾(子供)不審者(中年)を連れ帰ったら何を言われるか…そもそも理熾の立場が危うそうである。

それにしてもオークとは一対一(タイマン)出来るんだ、と意外な強さに秘かに驚いていた。

するとアガタが『おや、一人で来たのでは無かったのか』と質問が出た。


「うん、4層まではパーティ組んでね。

 そこではぐれちゃって、出ようと思って出口を探し回ってたらここに辿り付いた感じかな」

『迷宮内を一人でか…。

 まぁ、あの腕ならば容易いかの…<迷宮創造者>も安心よのぉ』


骸骨頭をカタカタ鳴らしながらそんなことを言う。

隣のラザフォードも同調するように


「おぉ…この罠だらけの迷宮を一人で?

 何という逸材だ!

 これならぼくの身の安全は保障されたものだな!」


等と喜んでいるが、そもそも『捕まえに来た相手』に対する反応ではない。

というか一人で相対しているのだから、味方が居る方が不自然だろう。

その辺は綺麗さっぱり棚上げされているらしい。

理熾は色んな意味で『この人大丈夫かなぁ』と嘆くのだった。

お読みくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ