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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
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未開拓迷宮の守護者2

このアガタという魔物に対する理熾の印象を一言でまとめると『変わり者』だ。

魔物としてはわざわざ回り道となる言葉を交わし、目的を尋ねて対応を変える。

そして好奇心に突き動かされ、取引にも乗る。

見た目はまんま魔物ではあるものの、やっていることは『人と同じ』なのだ。


だからわざわざ目的をぼかし、カマをかけ合うような会話より、明確な答えが出るように問うた。

それが裏目に出るかもしれないが、元々守護者(ボス)とは戦う可能性もあったのだ。

今たまたま回避出来るかもしれない状況なだけで。

であれば『敵対するかも?』と、色々と気に掛けて質問することも無い。

必要な情報が手に入るかもしれないのだから、存分に問いただせば良いのだ。


それに理熾は目的に沿って遠回りなやり取りも出来ないことは無いが、得意と言えるほどではない。

基本的に理熾が出来る会話術は、単に他者が零した情報の揚げ足取り。

結局目的の情報を手に入れられるかは、相手が口を滑らせるかどうか(ネーブルは意図的に出来る)。


となれば精神をすり減らしながら嫌われそうな会話を紡ぐより、直接問いただした方が余程お互いの精神のためだろう。

だがそんなド直球を放り込まれた側がいつも同じ思いで準備万端な訳も無い。

アガタは髑髏の眼窩の奥に、ぼんやり輝く光を揺らがせて問い返した。


『…おぬし、何者じゃ?』

「そこらに居る子供ですよ。

 その反応は知ってるみたいですね。

 案内とかしてくれると嬉しいんですが」


『ふむ…して、わしに案内させてどうするつもりじゃ?

 まさか<迷宮創造者(ダンジョンメーカー)>を使い、わしの棲家(この迷宮)を好き勝手する気ではあるまいな』

「え、うーん…今のところはその人を迷宮(ダンジョン)から連れ出すくらいかな?」


理熾の目的はあくまで捕縛。

そしてこれ以上迷宮を使って暴れさせないために迷宮から引き剥がすことだ。

今更かもしれないが、このラボリを改造し、大氾濫やら過剰に魔物を溜め込まないようにするために。


『連れ出す?

 迷宮での絶対者を外に?』

「あー…これって『人の常識』だから通用しないかもしれませんが。

 迷宮って一応災害指定(Bランク)以上の魔物扱いだから、個人が勝手に動かせちゃうとまずいんですよ」


と理熾は取って付けたような理由を告げる。

実際その通りではあるものの、『<迷宮創造者>が居ることを知っている者』というのが、迷宮関係者以外だと理熾しか居ない。

そのことを思えば一足飛びの情報ではあるものの、確認する術が無いアガタだからこそ、通用する話でもあった。


『なるほどなるほど。

 良かろう、わしが案内しようではないか』

「あ、良いんだ?」


『うむ、ちとわしとしても困っておってな。

 そういう理由ならばうってつけ、という訳だ』


そう言ってアガタは背後へと向き直り、奥にある扉へと歩き出した。

理熾は背にしていた壁に、ポールのような《障壁》を弱く這わせた。

丁度竪樋(たてどい)のような感じで、その引っ掛かりを握って昔の消防士のように滑り降り、その背に追いつく。

無言で歩くのもと思った理熾はその道中で《障壁》の話を持ち出した。


「じゃぁさっきの報酬ってことで」

『気の早い小僧じゃの。

 まだわしが<迷宮創造者>の下へ連れて行くかどうかも分からぬのに』


「んーまぁ、そうだけど。

 だからってアガタさんに時間稼ぎする必要も無いしさ。

 さっき戦おうとしたことを思えば僕を格下って思ってるんでしょ?」

『カカッ!

 戦いもせん内から勝った気など馬鹿のすることじゃろ?

 それに守護者としての立場では、どうしても抗うことになるしのぉ』


とアガタが不思議なことを言い出した。

連れ込まれた迷宮に義理立て(?)する必要など無い。

特に知能のあるアガタなら、違和感を持って対処するだろう。

たとえば守護役など放棄して迷宮外を目指すといったふうに。


「それは本能的なもの?」

『そうだのぉ。

 わしとしての意識は当然ある。

 それとは別に『迷宮に囚われている』とも言えるかも知れぬな。


 そうさの…わしは他の魔物とは違って、言うなれば迷宮の防衛装置に組み込まれておる。

 一心同体とまでは言わぬが、核を蔑ろにされれば言い表せぬ不快感を伴う。

 であれば、知能のあるなしに関わらず、それを排除しようとするのは当然の行いだと思わぬか?』


「…もしかして迷宮から直接魔力とか貰ってたり?」

『カッ、おぬし本当に鋭いのぉ』


アガタは感心するように相槌を打つ。

理熾とリコのように繋がっているのだから、確かに『不快感』も持つだろう。


『それに今から種明かししようとしている『隠し玉』以外にも数多あるようだしの?』

「そんなにある訳じゃないんだけどなぁ」


『つまりいくつかはある訳じゃな。

 いやはや、末恐ろしい小僧じゃて』


かしゃんかしゃんと錫杖を鳴らしながら歩く髑髏の表情は分からないが、なにやらえらく楽しそうだった。

『会話する魔物』というものを始めてみる理熾からすると『話し相手って珍しいのかも?』と思わずには居られない。

寂しいという感傷があるかは分からないが、やはり会話まで出来ると思えばこういったやり取りに飢えていても仕方ないだろう。


「そうかな?

 で、さっきの方法は簡単。

 【空間魔法】の《障壁》を足場にするだけ。

 何で今まで誰もしなかったのか不思議なくらいだよね」


と、理熾は大きめの《障壁》を足元に階段状に展開する。

そこへ「ガッガッ」と《障壁》をわざと蹴り付けてから乗り、「こういう風にね」と付け加えた。


『おぉ…何とも…。

 《障壁》を防御以外に利用するなぞついぞ気付かなんだ。

 そうか…なるほど、利用者の多い《結界》では再現不能だからか。

 いや、そもそも属性の無い魔法というのは珍しい…普通は自然属性を付与して魔法を編むからの。

 属性を付与するとなると《結界》の性質も随分と変わってくる…。

 例えば《火炎壁(ファイヤーウォール)》というのも立派に《結界》の系統とされておるし』

「え、そうなの?

 あれじゃ攻撃止められそうにないよ?」


素朴な疑問である。

実体の無い炎では質量のある物理的な攻撃を受け止められない。

それでは『防御魔法』としては役立たずでは無いのだろうか。

理熾はそういう風に感じたのだ。


『あれは攻勢防壁と呼ばれ取るものじゃ。

 焼滅(ダメージ)を前提とした『生物に対する通過を許さぬ壁』で《結界》と分類されておる。

 だから燃やし尽くせない《岩石弾(ロックバレット)》などにはめっぽう弱い。


 防御という意味なら《土砂壁(アースウォール)》は物・魔を問わぬ安定の強度を持つのぉ。

 ただ重量がものを言うので展開速度に劣るのと、広範囲を覆うには膨大な魔力が必要となる。

 軽いものなら《風障壁(ウインドウォール)》や《水流壁(ウォーターウォール)》が主流じゃろうか。

 これらは出も早く、量で押し留めるのではなく、『流れ』を利用して逸らせる防御壁なので比較的魔力の損耗は緩やかかの』


《結界》と呼ばれる技術は随分と汎用性が高いようだ。

いや、もっと広義で『敵の邪魔をする魔法』が《結界》として扱われるらしいことを今更ながら知る。


『そして無属性というのはなかなか難しいものでな。

 『何らかの属性を付与しない=魔力のみで形成する』ことになる。

 つまり『属性化させない分補助が無くて非効率』という訳じゃの。

 現象化しないというのは全ての設定を術師が行わねばならず、処理能力を余計に使うのじゃ。


 とはいえ、属性を付与しない魔法というのは魔法的でありがなら物理面でも強靭じゃ。

 魔法防御という意味ではどの属性にも対応出来、常に一定の強度を持つので信頼性は高い。

 その反面、消費魔力・処理能力は属性魔法に比べて多く必要とする。

 加えて『多属性使い』は属性の相性でも魔法を使うため、無属性の方が随分と遅れを取ってしまうのが実情じゃ』


といった魔法の講義を受ける。

属性を用いた魔法は、当然相性が発生する。

効果的な防御魔法を習得していれば、無属性の出る幕は無いということなのだろう。

防御魔法に関してはとりあえず全属性を使えるようになっておいた方が良いのかもしれない。

ただ理熾としてはどうしても刻印術式を利用した無属性の《結界》が一番使い勝手が良かったのだ。


刻印術式は魔力を通すだけで初期設定されている魔法を展開する。

普通はその刻印側の初期設定を微調整して使い勝手を向上させていくのだが、そこを更に踏み込んで利用しているのが理熾とスミレだ。

簡易展開するだけならば不要な各種の設定を、【空間魔法】の《障壁》の工程をそのまま流用して全て術者側で行って発動している。

というのも、展開する《結界》の詳細を設定するのは面倒だが、その分自由度が高く、運用効率や魔力消耗を遥かに抑えられるからだ。

要は『発動体が【空間魔法】(自分)刻印術式(魔石)か』という違いだけで《結界》を使用していたのだ。


特にこの二人に限れば『攻撃を防ぐ』という点で自前の《障壁》を持つため磐石。

使い分けと応用によって汎用性を格段に上げ、本来防御目的である《障壁》は足場、《結界》は攻撃手段にすら昇華している。

さらに理熾に限れば、近接戦闘まで行えるので物理的な回避能力まで備わっている。

これでは属性を付与した結界系列の魔法を新たに覚える必要があるのか、という前提に立ち戻ってしまう。

まぁ、そもそも二人共が属性魔法を使えないという回避不能な理由もあるが。


「なるほど。

 僕も属性魔法使えれば少しは考えるんだけどね」


とそんな風に未だに属性魔法を持たない理熾は無いものねだりをする。

だからこそ汎用性だけは(・・・)一級品の【魔女の一撃】(スコップ)を持っていたりする訳だが。


『いやいや、十分だとも。

 たかだか13の齢で空を歩くのだからの』

「仲間に教えたら一瞬で出来るようになったけどね…」


『クカカッ。

 この場合は逆じゃろう。

 種明かしが無ければ到達出来ぬ技術であろうよ』


と表情は無くとも感情豊かなアガタは、頭蓋を上げて楽しげに笑う。

ほんの十数分のやり取りしかないというのに、可愛い孫に対する態度と同じように見えた。

しかしそれも扉を前に途切れた。


『さて、リオや。

 この先に(くだん)の<迷宮創造者>が()る。

 先の言葉を違えた時はわしが相手になるかもしれぬので気を付けよ』

「そうなの?

 でも今のところそんな予定は無いから大丈夫だと思うよ」


そんな風に気楽に答える理熾。

アガタの事を理熾が信じているのか、疑っているのかはアガタには分からない。

ただ『好ましい』と感じるだけだ。

だから


『そうか、ならば安心だの』


と優しげに送り出す言葉だけを告げた。

お読みくださりありがとうございます。

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