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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
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ラボリ防衛戦4

目を開けると周りを木々に囲まれていた。

確かボク達は森の側面を歩いてたはず…。

ハッサクに索敵、レモンに剣の扱い方の講習を受けながら。

なのに…


「え、なんで!

 皆何処行ったの…?」


置いていかれた…?

いや、リオ君もそうだけど、そんな無駄な意地悪をする人達じゃない。

理由があれば別だろうけど…え、もしかして何かあったの?

と不安が顔を出す。


リオ君達と居たことで『森の危険性』を嫌というほど知ってしまった。

木のせいで風の流れが複雑で、土や草のせいで臭いも入り混じって見通しが利かない。

こんなにも『まだらな気配』に囲まれた森では、いつ何が何処から襲ってくるかも分からない。


ボクが倒せる相手ならまだ良い。

いくら不意打ちを受けてもまだ何とかなる可能性もある。

けれどボクが苦戦したり、勝てない相手も『気付かない』のが厄介なんだ。


おぉ…早速来た!

木々の隙間から出て来たのはおなじみのオークが2体。

それぞれ手に斧と槍を持ってボクを見て何かニヤニヤ(?)してる…。

ボクが女ってことが分かってるからかな…はぁ、絶対になじみたくないね!

剣を鞘から引き抜いて構える。

今のボクなら絶対に負けない、そう言い聞かせて。


剣を返すように少し傾け、目に当たるように光を反射させて軽く挑発。

これで襲い掛かってきてくれれば…うん、来たね。

あぁ…ボクって少し前までこんな(・・・)だったんだろうなぁ。


そんな残念系の感想を浮かべながら、右側の槍を持つオークが左足を踏み出した瞬間に《風の斬撃(ウィンドスラッシュ)》を放つ。

無詠唱で放った魔法の威力はそんなに強くなくて、斬り飛ばすまでは行かない。

それでも大事な筋や腱を傷付け、踏みしめた足が地面に触れても体重を支えられない。

ボクにとっては十分な痛手でもある。


「ぷぎいぃぃぃ!!」


と負傷した槍オークが叫びながら前のめりに崩れて手を突いた。

無傷の斧持ちを対角に置くように、そして倒れ行く槍のオークとすれ違うように前に出て、通り過ぎ様に左肩を撫で斬る。

骨に引っ掛からないようにきちんと手首を戻しながら『筋肉だけを斬る』ように力まず少し浅く。

威力は無くていい…ただ鋭く速く。

目的の相手は勿論、他の敵に捕まらないように確実に負傷を与えることを忘れない。


悲鳴を上げながら崩れる槍オークの背後を通り過ぎ、向きを変えて両手で持っていた剣を手放した左手を突き出した。

呆気に取られている斧オークを見て思わず『そりゃそうだよね』と心の中で同意してしまう。

獲物と思ってたボクが、出遭って10秒も掛けずにあっさり味方を切り伏せちゃうんだからさ。

オーク達からすれば一瞬の出来事に思うだろうね。

…でもそんな余裕はあるのかな?


「風塵よ断て《風の斬撃》!」


今度は意表なんか突かなくて良い。

ただの力押しで斧オークを狙い撃つ。

辛うじて首や顔を庇うように腕を十字にして防いだけれどそれじゃ無理。

ただの斬撃じゃなくて風の属性魔法だからね。


無詠唱とは違って複数に分かれた魔法の刃は、斬撃を同時に浴びたように肉を裂き、血が噴出した。

浅くても複数の負傷を刻まれた両腕はかなりの重傷で、あっさりと斧を取り落とした。

ぶらんと腕を垂らして血を滴らせているところを見る。

…少なくとも今回の戦闘では使い物にならないだろうね。


2体揃って行動不能って意味なら十分な怪我。

あっさりと終わったけれどまだ足りない。

ボクはきっちりと止めを刺す。

『手負いが一番危ない』と教えられたから。


最初に攻撃したうつ伏せの槍オークは左半身がかなり危うい。

骨を断っていないから腕は繋がってるけど、左腕は骨を中心に、回るように周囲7割くらいを切り込んでる。

出血は酷いし、左足も力が入らず立ち上がれる状況じゃない。


右半身で這うように身体を引き摺っていたのを、仰向けに転がらないように気に掛けながら首筋に剣を落とす。

その様子を見て両腕が使えない斧オークは左右に揺れながら必死にバランスを取って逃げ出した。

そういえばこの2体とも武器をまったく使えて無いね。


「うん、その判断は正しい。

 けど…逃げるの遅すぎたね。

 焼け、熱せ、爆ぜろ、《炎弾(フレアバレット)》」


ボクは一言呟いて魔法を放った。

いくら魔力抵抗が低いオークでも、下級の(バレット)系に肉厚の全身を灰にする程の威力は無い。

けれど、撃ち込んだ《炎弾》は右足を酷く焼け爛れさせた。

両腕に続いて右足も壊れ、大きな悲鳴を上げて転がるのを冷めた目で見てしまう。


「そんな情けない声で鳴かないでよ。

 ボクは『危険を排除しろ』って言葉に従っただけなんだよ?

 これじゃ弱いものいじめしてるみたいじゃないか。

 …そんな見苦しい態度取るならやっぱり最初から襲ってきちゃダメだよ」


ボクはそんな相手に伝わるはずも無い言葉を掛けながら首の後ろに剣を突き込む。

一瞬だけビクリと身体が微動したけれどそれだけ。

何だかボクは随分と冷たくなったかもしれないね。


しかし困った。

リオ君達と会ってから解体とか、持ち帰る部位の選別とかまったくやって無いんだよね。

忘れてはないけど…面倒臭い。


「…うん。

 皆とはぐれた緊急事態だし、ほったらかしで良いかな!」


と軽く面倒事を押し流した。

黙ってれば誰にもばれないだろうしね。

そんなことを一人で納得していると新しいのが顔を出した。

え…あれは、まさか…っ!


「獅子猿!?」


ゴブリンくらいならそこそこ大きな群に襲われても大丈夫。

でも獅子猿は別。

頭の良い群れる魔物に手を出すと痛い目に遭うのは実体験済み。

2体しかいないから、アレはきっと斥候だ!


やばいやばいっ!

もしかするとリオ君達に色々教えてもらった今なら倒せるかもしれないけどっ!

だからってわざわざ戦いたくない!


「ぎゃーみんなどこーーーー!!?」


そんな風に叫びながらボクは一目散に逃げ出した。



いくらなんでも数が多すぎるだろう。

木々の切れ目を見やり嘆息する。

実物を見ては居ないが、主人(マスター)が蠱毒をやらかした時くらいは居るんじゃないのか…?

まぁ、だからこそ脇役であるはずの俺らが出張ってるんけどな。


(ライム、強化を。

 それと重量の操作をその都度頼む)

(あいよ)


ライムの返事を聞きつつ背後を気にする。

作業班や騎士達は着々と準備を進めている。

質を求めない急造とはいえ、やはりまだまだ時間は掛かりそうだな。

となればこちらを気にする暇も無いか…。


(スミレは《障壁》を頼む。

 魔力が半分になったら必ず魔法薬を使用すること)

(はい)


(さて、ではいくかね。

 スミレは階段、ライムは重量緩和で一気に上がる(・・・)ぞ)


【以心伝心】を繋いだ二人は無言で頷く。

暫く俺が役に立つ場面は無いから別に良いんだが…こいつらホント有能だな。

そんなことを考えながらスミレが作り出した《障壁》の階段に足を掛け、【群雄割拠】を二人に施して行動を開始する。

空中を歩く俺達を見咎められる可能性を小さくするためにも迅速に駆け上がる。

ま、他のやつらはそれどころじゃ無いとは思うけどな。


高さにして30m超。

完全に木々の上に移動し、角度的にラボリからは見えない森の上を奥へと進む。

どちらにしても魔物を集める以上、近すぎても困るからな。


(出してくれ)

(すぐに)


暫く歩いたところで指示を出す。

スミレはすぐに《亜空間》から箱と液体が入った小瓶を取り出した。

箱は俺に、小瓶はライムに渡すのは体力の差か?

だとすれば着眼点は良い。

魔法士に肉体労働はさせるのもおかしな話だしな、と適当に納得する。


受け取った箱を開け、中身を取り出した。

中から出てきたのはコボルトの肉。

ギルドの解体所をフル稼働させて手に入れた素材は、10体分ずつ部位毎に分けて箱詰めされている。

何とも使いやすい形で梱包された肉は、全て主人とスミレの《亜空間》に仕舞われている。

あの馬鹿主人がたった一人で上げた戦果だ。


まさに馬鹿げた許容量だが、こういう時にはありがたい。

箱を左脇に抱えた俺は、コボルトの肉を適当に一掴みしてぽいと少し外れた場所の《障壁》に落とす。

そこへライムが手に持つ小瓶を振ってコボルトの血液を掛ける。

たったこれだけで『血の滴る新鮮なコボルトの肉』の完成だ。


スミレが《障壁》を解けば、《障壁》に付着していた血痕諸共コボルト肉はあっさり落下。

落下していく肉を横目に俺達は歩を進める。

時間は有限だからな。


俺達がやっているのは撒き餌だ。

だから実を言うと肉に血が掛からなくても別に良い。

必要なのは『血の臭い』と、餌となる『コボルトの肉』があるかどうかだけ。

主人が非力だった頃(年を考えれば一体いつの話のことかは気になるが)にゴブリン相手にやったという『釣り』と同じ。

そして主人とライムでやった囮役を肉にすり替えただけだ。


コボルトの肉という餌を撒いて魔物を誘き寄せ、少し距離を離して撒き、更に呼び寄せる。

こうすればまず肉が落ちた場所に魔物が集まり、次に落ちた場所に駆け寄ってくる。

その過程で魔物で同士討ちがあれば御の字。

蠱毒化する可能性は否めないが、自然を守ることより身を守る方が今は大事だ。


俺達はこうしてゆっくりと時間を掛けて肉を撒くことで時間稼ぎと共に魔物を連れ回す。

この方法をする時の注意点という訳じゃないが、少しずつ肉の量を増やさないといけない。

何故なら前の地点よりも魔物が増えているからな。

『撒き餌』の役目を果たす前に食べ尽くされたら困るだろ?


(…にしてもこんなに簡単にいくとはな)


森を見下ろし、思わず呆れるのは仕方ない。

いくら方法を思い付いたところでやれる者は限られている。

空を歩けるスミレが居なけりゃ主人とライムがやらかした決死のマラソン大会を開催するしかない。

少なくとも俺とライムでやるには色々足りないから死ぬだけだな。


だからスミレが居るのは当然のことで、護衛としての俺とライムが居ないことには危険過ぎる。

いくら優秀でも完全な戦闘者ではないスミレが魔物の群れを引き連れたり突っ込むのは論外だ。

空中を歩けるのは大きな利点だが、それでも空を飛ぶ魔物も居るし、転移系の魔法が使えない今は特に…


(っと…、あぶねぇ)


俺は【衝撃魔法】を放って弾き飛ばし、更に開いている右手で剣を抜いて斬り落とす。

飛んで来たのはクロースワロウという伝令役にも使われる飛行速度に特化した(バード)系の魔物。

成鳥は手の平よりも少し大きい程度のサイズで速さ故に捕獲が難しく、一番の問題なのが懐きにくいことか。

賢いので重宝するが、結局大概が卵から育てて使役する。

要は捕獲したところで余り意味は無いって訳だ。

あぁ、そういえば尾羽がそこそこ高く売れるんだったか?


だがまぁ…珍しい魔物でもないし、緊急事態の今を思えば撃墜(この対応)で十分だろう。

下で追加の餌となってくれてるだろうしな。


俺達三人の誰もが索敵系のスキルを持っていないから、察知能力は他の面子と比べて随分と低い。

どちらかと言えば全員補助・防御タイプ。

こんな風に敵陣に突っ込んで撹乱・攻撃って感じの行動はしない。

元々ただの防衛ラインの役目しか考えてなかったからな。

何とも無茶をしているもんだ。


だから見通しの良い空からでも、今みたいにちょっとした速度で突っ込んでこられると困る始末だ。

それでも大半の攻撃はスミレの《障壁》か、ライムの《結界》が阻む。

鉄壁とまで言わずとも随分強固な守りだろう。


それに対して遠距離の攻撃手段が俺の【衝撃魔法】か、スミレの《亜空間》という攻守のバランスの悪さ。

そもそも俺は<指揮官(コマンダー)>で剣士だからな。

剣士と言っても地上歩いてたら瞬殺だろうなぁ…と喧騒のする足元に視線を落としてそんなことを思う。


(さて、十分離れたことだし投げ落としながら周るか)

(おう)

(はい)


そんなあっさりとしたやり取りをし、歩く方角を変える。

ギルバートめ…帰ったら今回の件に対して絶対に追加請求してやる。

ただ非常時での経験なんぞ、そう簡単には買えないからな…それはそれで腹が立つ。

無事帰れればどれだけ請求してもあいつにとっては『黒字』だから笑いながら出しそうだしな。

お読みくださりありがとうございます。


詳しく書けば進行が遅くなり、表現を抑えれば話がただの箇条書きに…。

バランスって難しいですねぇ。

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