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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
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もう一つの戦場

「おいおい、マジか」


俺の第一声はそんな間の抜けたものだった。

目の前からハッサクが消えたと思った瞬間、俺の意識も飛んだらしい。

で、気付いたら今だ。

立ったまま寝てた…訳はねぇよなぁ?


何にしても一瞬でも完全な無防備なんてのは戦場では考えられないほどの失態だ。

こんなことだからフィリカにも捕まるってことか。

はぁ…ネーブルなら対策も打てるのか?


頭をガシガシ掻きながらそんなことを考えつつ周囲を見渡す。

どちらにしても今はそれどころじゃない。

目の前から消えた二人を見付け出して主人(マスター)と合流するのが先決だ。

少なくとも話はそれから…いや、まずはスミレに連絡を入れた方が良いか?


…あぁ、くそ。

そんな簡単なことも無理か。

これだけ気配に満たされてりゃハッサクでなくても分かる。

すぐそばを魔物がうようよしている場所でスミレ呼ぶ訳にもいかないからな。

溜息混じりにそんなことを考えていたところへ、すぐ傍の地面を割って魔物が顔を出した。


っは!

ここで迷宮亜竜(ダンジョンワーム)とは恐れ入る。

大方『丁度良い獲物が居たから狩ろうぜ』って感じか。

サイズは3mそこそこ、属性は付いて無いから大したことないだろうが…まぁ、そうだよなっ!


俺は身体を軽く傾け、振り向き様に刀を引き抜き《一閃》を見舞う。

間髪入れずに地面と水平に突っ込んできたのは別のワーム。

頭から身体の半ばまでを上下に斬り分け絶命させる。

いくらタフなこいつらも頭が割れれば死ぬしかない。

ま、いくらかなら動き回るんだけどな。


こいつらは群で狩りをするから面倒だ。

基本戦法は囮役を立て、注目を集めてからの波状攻撃。

しかも身内が死んでもあんまり気にせずに突っ込んでくるしっと!

新たに足元を割って現れ、食いついて来るワームの動きを見切り、軽く真上に跳び上がる。

追随するように地面からずるりと生える口の端を蹴り込み勢いを逸らせ、真横に刀を引いて輪切りに両断。

これくらいの厚みなら武技もいらんか…相変わらず良い刀だ。


斬り落とした頭を蹴り飛ばし、最初に俺に威嚇してきた囮役のワームの口に突っ込む。

身内の肉って美味いのかね?

…ま、味わう時間もやらんがな。


開いていた3m程の距離を一歩で渡り、上段から斜めに斬り落とす。

両手で握った刀は武技も乗せていないが十分な威力。

武技を使うと普通に武器を振るうより遥かに威力が上がるが、その分揺り返しの(むりをした)反動も大きく、何らかの行動阻害が発生する。

要は武技にばかり頼ると隙がでかいという訳だ。


だから地力の差が余り無い場合と、一人の時は余り使わないのが普通。

基本的に決める時と逃げる時に使い、それ以外は技後硬直(ディレイ)を考えて『繋げる』ように。

…その点、あの主人は全部が必殺の威力を出すから特別だけどな。

そして『アレは反則だ』と苦々しく思う。


3体を1分と掛けずに斬り伏せ、ほとんど付いていない血を刀を振って払って鞘に落とす。

状態を維持する【最適化】も付いているこの刀はたったこれだけで十分だ。

俺が持ち帰れる量を遥かに超えるワームはとりあえず放置。

機会があれば拾いに来れば良いか。


それよりも現状を思えば手っ取り早いのは退却だが…そもそも『何処まで下がれば良い』んだ?

安全圏なんてものを作れるような環境じゃないし、俺は主人みたいに便利に出来てない。

てことはとにかくどっかへ進めば良いってことか?

当ても無く歩いて距離が開くことを思うと動かない方が良いのか?


こんな時にハッサクかネーブルの頭脳労働役がいないのはホントに困る。

俺にそんなややこしい選択肢を出すんじゃねぇよ。

そう思いつつ、つい先ほど黙らせたワームを眺める。

いやいや、死体(こいつら)の近くに居たら魔物寄ってくるじゃねぇか。


にしてもどうするか。

ましてや大声出して呼ぶなんて馬鹿のするこt


「ぎゃーみんなどこーーーー!!?」


…どうやら馬鹿は何処にでも居るらしい。

はぁ、とりあえず一人は見付かったからそれで良いか…。

アレはきっと『逃げてる声』だな。

遥か遠くにも関わらず、耳を澄ませば聞こえるわーきゃーと騒ぐ声を頼りに走り始める。

少しは黙って走れないのかあいつは。


にしても何だこの敵の数は。

くそっ!

近付いたら近付いただけ魔物が増えるってどういうことだ!!


アシュレイを追う進行方向に、馬鹿みたいに魔物が居る。

それ自体は森の中だから構わない。

だが、この魔物の中を突っ切って走り回ってるあいつはおかしい。


つい今も跳びかかって来たジャイアントアントの頭を踏み台に蹴り潰したところだ。

というか群を作る(アント)系が何で単独で居んだよ。

確かに斥候とかで単独行動することもある。

だがその場合は特殊な臭いを出しながらで、倒すとすぐに群がるはずだがそんな兆候は無い。

何かがおかしいと【超感覚】(シックスセンス)が知らせるが、その知らせに答えられる知識が足りない。


「っく、ハピリア、どっち行く?!」

「キューイッ!」


遥か先で行われる大声のやり取り。

くそうっ!!

あいつ、やたら上手く敵を掻い潜ってると思ったらそういうカラクリか!

1人と1匹(あのコンビ)で雑多な魔物の包囲を抜けているが、隠れる事無く逃げることを優先してる。

要は進行方向と周囲のほとんどの魔物の注目を集めて走ってやがるって訳だ!!


改めて表現するのは馬鹿馬鹿しい事実だ。

そのアシュレイを追撃中の魔物の群れに、追い掛けてる俺の方が突っ込んでる訳だな!

とんだ貧乏くじ引いてるぞっ!?

つーか、あのハピリア(ペット)なら俺の存在分かるんじゃないのか?!


そんな思いに駆られて声を出そうとするが、ここでアシュレイが止まると引き付けている『魔物達』に潰される可能性が高い。

いや、可能性どころかアシュレイ達(あいつら)を追ってるのを、後ろから俺が追っ掛けて潰してるからギリギリ拮抗してるんだ。

足を止めさせればまさに(・・・)ってやつだろ。

…そう考えたらあのコンビ、わざわざ『密集地帯』を突っ切ってないか!?


余りにも理不尽な状況に、今は居ないアシュレイのお守りを引き受けたハッサクを恨みつつ呟く。


「仕方ない…」


そう、これはもう仕方ない。

足止めが多すぎてこのまま追ってたらジリ貧だ。

時間が経つほどに全員が消耗し、俺は結局アシュレイには追い付けずに手詰まりになる。

動く気なら早い方が良い。



だから俺は、自分の身を見限った。



【狂戦士】(ベルセルク)に連なる全てのスキルを稼動。

【限界突破】(リミットブレイク)…全ての耐久限界制限の強制解除。

【戦闘思考】(バトルロジカル)…処理速度の増幅・仮想領域の拡張。

【技術増幅】(スキルアンプ)…スキルのみなし補正分(・・・・・・)の付加。

【肉体修復】(ビルドリペア)…損傷修復・体力回復能力の付与。


狂化によって得られる全てが、俺を『殲滅者』へと押し上げる。

俺は主人のように器用にスキルや魔法を使いまわせる訳じゃない。

持つのは戦いに必要な少しのパッシブスキルと、【皇気】という身体を強化するスキルのみ。

だが、それ故に俺は誰よりも強くなる。


【狂戦士】を全解放した俺の身は放たれた矢のように一気に前へと跳ぶ。

目の前を埋めていた有象無象の魔物の群など足止め用の壁にもならん。

進行に邪魔な全てを蹴り倒し、殴り飛ばし、斬り伏せる。

あぁ、これを使うと少し好戦的になるのが困ったもんだよなっ!!


「アシュレイ!!」


ようやく白髪の子供に追いつく。

声を掛けたがこちらには全く気が向いていない。

…なるほど、そりゃ無理だな。


アシュレイの前にはベノムというCランクの亜竜種。

亜竜…つまり竜の心臓を持たないが、姿が似ていたり厄介だったりする、同一ランクに比べて強靭な魔物のことだ。

このベノムは前者で、リザードのように地面を這うのではなく、尾でバランスを取りながら2本の後ろ足で立って走る蜥蜴のような見た目。

そしてリザードと比べて随分小さく、人よりも少し大きな2m弱の体高が一般的。

身体能力はCランクとしてなら低いが、麻痺毒を持つ面倒な魔物だ。


爪や牙は勿論だが、特に体高(2m)ほどもある長い尾の先は硬く尖り、素材としてなら槍の穂先にそのまま使えるほど。

それを鞭の様にしならせて振り回すから、簡単に近寄りづらく逃げ切り難い。

特にまっすぐ戦うアシュレイには、射程という意味でも相性の悪い相手だな。


そんな面倒なベノムだが、今の俺にとってはゴブリンと変わらない雑魚と同じ。

腰に吊ってある短刀を走りながら引き抜き、しならせ振り上げられた尾の根元を狙って投げ込んだ。

足を止めないために武技も乗せずに投げた短刀はピっと高い空を切る音を立てて一直線で空を走る。

狂化した能力で発射された短刀は、アシュレイに意識を向けていたベノムに一瞬で届いた。


たったそれだけで尾の根元が、半分程が削がれて突き刺さり、その威力に引き摺られる形で身体が半周回って俺の方を向いた。

尾が引き千切られそうな痛みより、驚きの方が上回ってるらしく苦痛の色は無い。

それでも反射的に好戦的な視線を向けてくるのは腐っても亜竜種と言うべきか。


でもま、もう遅いけどな?


走る速度を一切緩めず、持っていた刀を正面へと突き込む。

回避の挙動すら許さずに刀はあっさりと眉間に吸い込まれて頭蓋を貫通し、一瞬だけビクンと身体を揺らしたが、ただそれだけ。

ベノムの顔面に着地するように右足で蹴り込んだ俺は、姿勢を整えながら空中ですぐに頭蓋から刀を引き抜いた。


頭を破壊してはいるが、切れ味の良すぎるこの刀だと『運悪く』生き残るかもしれないからな。

さらに念のために反対の左足を首の部分に置いたまま着地し、地面に叩き付けつつ踏み込み、ゴリッと鈍い音を鳴らして首を完全に砕いておく。

少しだけ地面を滑ったが転がるような失態は無くて良かった。


「はぁ…」


ようやく追いついた…思わず溜息を吐き出して立ち上がる。

牽制のための剣を構えていたアシュレイを、身長差から見下ろすと「ひっ!」と喉を鳴らされた。

助けに来てその反応はねぇだろ…って、あぁ…そうか。

【狂戦士】解かねぇと。

使うと色々と過剰に処理するからか、身体が浅黒く、眼が深紅に染まるんだよなぁ。


「ちょっと待て」


顔の半分を手で覆って静止の言葉を告げ、スキルを一つずつゆっくりと落とす。

一気に落とさないのは反動が酷いからだ。

スキルを落とすごとにけだるくなる身体を支えつつ、処理を【肉体修復】へと移行させる。

はぁ、ゴリゴリと身体の中が鳴るのは流石に慣れないな。


「アシュレイ、振り向き様に横薙ぎに斬れ」

「え?」


近付いて来たのは水辺によく居る魔奏コウロギ。

羽を擦り合わせての消音で近付き、同じく羽を擦り合わせて爆音を操作し、攻撃する昆虫タイプの肉食系魔物だ。


間の抜けた声を上げる割に動きは悪くない。

指示通りあっさりと羽を断ち切ったところへ、俺の腰に残っていたもう1本の短刀を眉間に投げ込み絶命させる。

【狂戦士】の反動でちょっと力が入り難いが、こんなもんか。

手を握っては開き感覚を確かめる。


てか俺の短刀って投げる武器じゃないんだけどな…。

馬鹿みたいな主人のじゃない、投剣を少し用意してもらうのもありだな。

…しかし、何でこんな森の中(ところ)に居るんだろうな?


「はぁ…しかしお前馬鹿だろ。

 何でこんな森の中で大声上げて走り回るんだよ…間一髪じゃねぇか」


ベノムに突き刺さった短刀を引き抜きながら声を掛ける。

追い付くのに頑張りすぎたからな。

暫く休憩しても文句は無いよな?


「え、あーいやぁははっ!」

「笑ってごまかすなよ…。

 後で主人に怒られても俺は知らんぞ?」


「そんなのみんなを呼ぶために決まってるよ。

 現にレモンはちゃんと来てくれたしさ!」

「そりゃ結果論だろ。

 間に合わなかったらどうする気だったんだよ」


「それはないよ」


胸を張るのは良いんだが、何だその自信は。

現実問題ぎりぎりだったじゃねぇか。

そんなことを思いながら魔奏コウロギに刺さった短刀も拾う。


「理由は?」


問いながらも手は止めない。

短刀はフィリカの作じゃないから手入れしねぇとな…。

服の《拡張空間》から手入れ用の布を取り出しさっと血糊を取る。

本格的な手入れは帰ってから、フィリカかノルンに頼むか。


「ボクの【庇護の宿命】(プロテクションロット)ハピリア(この子)

 どっちもボクを安全に向かわせてくれるからね。


 それと多分【庇護の宿命】は『実力以上の相手』にはそんなに効果が無いと思う。

 つまり明らかな戦力差を引っ繰り返す力は無い…ほら、リオ君と戦って勝てなかったでしょ?」


あぁ、俺は見てないが森でやりあったやつか。

結局主人が負けた話で落ち着いてなかったか…?


過剰労働した身体が軽く湯気を上げるのを感じつつ、服から水を取り出して口に含む。

【狂戦士】と【肉体修復】の併用は、消耗が激しいから何か食えればいいんだが…っと、そうか。

そこらの木を一本手折り、辛うじてくっついていたベノムの尾を長刀を使って輪切りにして突き刺す。

ついでに尾先は何かしらに使えるだろうから《拡張空間》に仕舞い込む。


用意した肉を指差し「焼いてくれ」と注文すると、苦笑いしながら《炎弾(フレアバレット)》を無詠唱で放って表面を炙ってくれた。

器用なヤツだなと思いながら表面を齧る…塩すら掛けてないがうめぇな。

下処理も無しで食ったが、上位の竜種でもない限り【肉体修復】がどうにかするだろ。

ベノムが持ってるのは所詮麻痺毒だしな。


「続けてくれ」

「うん、けど『獅子猿から逃げ切れた』よね?

 ということは、ボク自身がどうにかするのは無理でも『何かが何とかしてくれる』可能性は高かった」


え、何?

このお子様ってば他力本願ってこと?

ぽかんとアシュレイを見てしまう。


「ごめんねレモン。

 でも、あのまま何もしなかったら多分死んでたからさ」


ちゃんと自分が持つ能力や加護、状況を考えて賭けたのか。

っは、良くもまぁあの死にたがり(・・・・・)をここまで調教したもんだ。

だとしたら『他力本願』なんて蔑みは出来ないな。


「それだけ考えてるなら気にすんな。

 ここからは守ってやるから、ちゃんと言うこと聞けよ?」

「うん!」


子供の成長って早いんだなぁ…。

って、主人といい、こいつといい、早すぎるだろ…?

お読みくださりありがとうございます。


少し文字数が多くなりました。

レモンの真面目な戦闘シーンって始めてかもしれませんね。

楽しんで頂ければ幸いです。


にしても放置しすぎると話が分からなくなるけど、ちゃんと差し込んでおかないと時系列がおかしいっていう…同時進行って難しい(。。;

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