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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ

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ラボリ防衛戦

俺は主人(マスター)との念話を終えてふぅと一息を入れる。

まったく、あの主人と出会ってからというもの、余りにも多忙すぎる。

舞い込む事柄のほぼ全てが『大仕事』と呼ばれるようなものばかり。

解決した物事のほとんどは事後承諾の形で処理されているが、正規の手順で依頼を受ければ、ギルドや貴族が何度も頭を下げにくるような話だ。


今回のものもその中の一つ。

未開拓迷宮(ダンジョン)の開拓及び攻略を、たった1パーティ(6人+おまけ)でやろうというんだから正気の沙汰じゃない。

いや、もっと正確に表現すれば、その1パーティを更に2つに割った人員で並行処理してるんだからな。

いくら手持ちの駒がそれぞれ優秀で、スキルや能力が足りていても、普通は断るような内容だ。


だというのに自ら進んで…それも『許可を貰って(・・・)参加してくれる』んだからギルバートは諸手を挙げて喜んでいるはずだ。

まぁ…本人(マスター)にその自覚が無いから、今後何かあった時には俺が交渉材料として利用するか。


(という訳だ。

 スミレ、地上に居るヤツは全員呼び戻す。

 すぐにあいつ等の傍に《転移門(のぞき穴)》に頼む。

 開けさえしてくれれば俺が【以心伝心】で繋ぐから合図をくれ)

(はい)


スミレは【索敵】や【超感覚】(シックスセンス)を持つ斥候(ハッサク)くらいしか分からない門を開く。

ただの移動手段でしかなかった【空間魔法】は、我が主人が関わった今では、余りにも汎用性の高い技術へと昇華してしまった。


ちなみに。

主人との連絡を終えても声を殺して【以心伝心】でやり取りしているのは、単に外に漏らさないためだ。

さっきのように転がり込んでくるやつも居るらしいしな。


そんな俺等が今居るのはラボリ開拓地に建つ、それほど大きくない唯一の木造建築。

雑魚寝出来る休憩所として皆に解放されている広間と、各担当の責任者が対策や方針を話し合う会議室。

そしてラボリの責任者が使う執務室の3部屋という構造。


その誰も居なかった、出入りに制限の掛かる執務室に、「少し借りるぞ」と一言断りを入れて貸し切ったため、俺とスミレだけが居る。

急ごしらえのこの小屋だが、ラボリで上げられる報告の集積地で下される判断の出発地だ。

現場責任者からの報告がここに上がり、指示がここから下される。

つまり…この部屋に人の目や耳が無くとも、扉の向こう側には誰かしら人が詰めている。

ま、わざわざ大声で話すような馬鹿は…主人の方にくっついて行ってるから本当に念のためだがな。


(ネ、ネーブルさん!)


スミレの慌てた思念が押し寄せるが、まだ時間的猶予はある。

警備兵が魔物を発見してから恐らくまだ30分~1時間以内。

早ければまだ15分という可能性もある。

開拓が進んでいるとはいえ、森との距離を思えば余裕があるとは言えないが、まだ慌てる時間じゃない。

初動が大事ではあるものの、俺達以上の速度で周りが動けないから慌てたところでほとんど意味も無い。

だから俺は慌てるスミレに対して余裕を持って対応する。


(んーどした?)

(座標の認識は出来るのですが、転移系の魔法が使えませんっ!!)


…くそ。

スミレでダメならガーランドの誰もが無理だな。

本当に主人と居ると日常的に非常事態が起こりやがる。

まさかたった一瞬で俺達の優位性を根こそぎ無くすとはな…。

激変する状況に思わず正面で腕を組んで思考を追いつかせる。


(……距離は関係あるか?)

(…いえ、関係無いようです。

 あぁ、ご主人様(マスター)の反応が捉えられなくなりましたっ!!)


主人の連絡からほんの1~2分でこの状況変化とは…。

無言で慌てるという器用な行動をうするスミレを横目に俺は思わず一つ舌打ちをする。

そうなると一気に全員呼び寄せるのは無理だな…。

迎えを出すしかない…が、現状はそれを許さないな。

あいつ等が自力で戻ってくるのを待つしかない。


(スミレ、落ち着け。

 主人はアレで『生存能力』は群を抜いてる。

 そんな簡単にどうにかならないから今は気にするな)

(は、はい!)


(それよりも他への対策だな…。

 座標は拾えるんだったか?

 この地図上に石を現在地に置いてくれ)


そう、そんなことよりもやるべきことが目の前にある。

周囲を取り巻く魔物を抑えるか殲滅しなきゃならんからな。

しかも門を開けないということは『開拓地も閉じ込められた』ということだ。

せめて逃走経路くらい確保しないことにはどうにもならん。


(ダメです!

 さっきまでは確かに反応を捉えられたのにっ!)

(そうか…)


まったく…状況は悪化しかしないな。

顎に手をやり被害を抑えるべく確認を続ける。


(アシュレイはハッサクかレモンと同行していたか?)

(いえ…近くにレモンさんが居ましたが、それでも300m程離れていたかと…)


とにかく先ほど拾った反応の位置に石を置かせる。

なるほど、距離はそれなりにあるな…近いのからハッサク、レモン、アシュレイの順か。

出来れば逆の順番が一番近いのが良かったんだがままならんな。

何とも面倒な話だが、アシュレイもこの森で生きていけるだけの能力はあるだろう。

少なくともアレクセイを抜けたあいつなら、Dランク程度に引けは取らないはずだ。


(…なら何とかなるか)


俺は慌てるスミレを抑えるべくわざと言葉を重ねた。

さて、と切り替えライムを【以心伝心】で呼ぼうとして気付いた。

反応が捉えられない。


…なるほど、これは確かに不安に駆られる。

ラボリの開拓地全域など俺の認識範囲内だというのに、だ。

俺達が普段扱う連絡の伝達速度は、他者と比較することが馬鹿らしいほど圧倒的に早い。

遠近問わずスミレが、近距離なら俺や主人がそれぞれ即応に近しい連絡手段を持つ。

反面、こんな事態に陥ると途端に身動きが取りづらくなる。


伝令などの通常の手段でやり取りすれば良いだけだと思うだろう?

だがそうはいかない。

普段とは勝手が違う分、通常の手段でやり取りをすれば入れ違いの可能性が大いに出てくるからな。

まぁ…それでもあいつ等なら状況を見て即興(アドリブ)で何とかするだろ。


(スミレ、お前は俺から離れるな)

(はっはい!)


少なくとも地上組の指揮官は俺だからな。

ともかく、話を進めようか。

そんな静かな激動の数分間のやり取りを終えた俺達は執務室から出て指示を出す。


「カリム、報告は聞こえていたか?」

「はい…覚悟はしていましたが随分と物騒ですね」


声を掛けたのはギルバートが派遣した使用人のカリム。

念話ではないのは、俺達の連絡手段を他者に漏らさないためだ。

俺付きの補佐官(小間使い)という扱いでこの場に居る、俺と同じくらい年の小太りに見える男だ。

行動を共にしているという訳ではなく、ラボリに常駐していて俺の補佐も兼任してくれる。


驚くべきことにこのナリで標準的な騎士より強いにも関わらず、雑事を与えられている『文官』だ。

恐らく体格で小太りに見えるだけであの下は筋肉なんだろうな…本当に文官扱いかよ。

ともあれ何とも俺好みの駒を用意してくれたものだ。

やはりギルバート(あいつ)は『人を使う』のが上手い。


「あぁ、だから少し頼まれてくれ」

「何を致しましょう?」


「各開拓業務の責任者に状況を通達。

 『それぞれの判断で(・・・・・・・・)作業を中断。

  中断した場合、一度小屋に顔を出してくれ』ってな。

 後、どっかで手伝ってるライムに戻ってくるように伝えてくれ」

「承知しました」


あっさりとした返答と共に小屋を出て行く。

俺が直接指示を出せないのはラボリ開拓(ここ)の責任者じゃないからだ。

まぁ、多少の口出しが出来る相談役ではあるから、責任者達の『相談事には乗る』がね。

だから今のような『変則的な指示も可能』って訳だ。


(スミレ、念のためだ。

 ライムの反応は拾えるか?)

(………ダメ、です…すみません…)


(気落ちするなよ?

 俺のスキルも役立たずだからな)


そんな風に言い、肩をすくめて身振り手振りも追加して気分を紛らわせるようにおどける。

そもそも斥候も無しで(居ても瞬時には絶対に無理だが)すぐに居場所を特定出来る方が異常なんだからな。


はてさて…それにしてもどうしたものか…。

これは残念ながら大氾濫(スタンピード)だろうな。

となると迷宮の敵がメインで戦力は通常より高い。

種類は恐らく不死(アンデッド)系と動物(ビースト)系、追加で鳥(バード)系くらいか…?

煽られたり追い立てられたりして在野の魔物巻き込まなきゃ良いんだが…それも無理だよなぁ。


何ともタイミングの悪い…昨日主人が『魔物が居ない』と嘆いてたのにな。

今日を休憩にしてこの場に残れば、いくらでも敵を用意してやれたのに。

などと考え思わず苦笑いが浮かぶ。

良くも悪くも『主人に毒されている』と。


(《亜空間》、《障壁》は使えるか?)

(はい、そちらは問題ありません。

 ただ転移はどちらも反応が鈍くて…使えても10mほどかと…)


(それは確かに役に立たんな)

(申し訳ありません…)


(責めてない。

 ただの状況確認だ。

 それにこの状況下で『身を守れる』だけで十分だ)


スミレは否定的な言葉に対し、過剰に反応しすぎだ。

相変わらず能力の割りに自己評価の低いやつだと溜息も出る。

どれだけ自分が有益か、ということが分かっていないらしい。


「中に引き篭もっていてもな…外に出るか。

 お前も少しは『戦場の空気』を浴びておいた方が良いだろう」


あえて声に出し、小屋の外へと出る。

この小屋で休憩している者も居るから、無言で出て行けば変に見えてしまうからな。


玄関を抜け、壁伝いに側面へと周る。

地面から少し床を上げているので小屋の外壁を背もたれにして座れる。

小屋の外周を移動して角を曲がって腰を下ろし、後ろをついてきたスミレも落ち着かせるために横に座らせた。

隣でそわそわしている雰囲気が初心で面白い。

分かりやすい敵軍を相手にするのではなく、こういう状況が入り組んだ『戦場』はやはり初めてなんだろうな。

あぁ、いや…そもそも大規模戦闘自体が前回のコボルトくらいだったか?


現状を思えば時間的猶予は余り無いが、逆に言えば『まだ残っている』ということだ。

今の内に整えられる準備を…っと、そうか。

なるほど、スミレが居るならあの方法が取れるか。

主人もなかなか生臭い手を使ってたもんだよなぁ。

思わずにやりと笑い


(スミレ、10mなら門が開けるんだな?)

(はい、短くてすみません…)


(いやいや、お前は十分優秀だ。

 だから門を俺の前に出してくれ。

 もう片方はお前の位置から最長距離で頭上(・・)に、あっちを向いてな)


俺は戦場となりそうな森の奥を指差し、眺めながら暢気にそんなことを注文する。

偵察・斥候能力を持つ者は既に放たれているだろう。

その程度の発想や練度も無く、魔物の跋扈する森の中…それも迷宮周辺に陣取れる訳が無いからな。

逆に言えばこの場には情報収集者が居ないという残念な状況だ。

もう少しすれば伝令や斥候から報告が上がってくるんだろうがな。


となれば、簡易的にでも俺が状況を見れれば重畳。

スミレが居ればいつでも何処でも手軽に、櫓に上がる事無く丁度上空からの視点が手に入るという訳だ。

いや、むしろ指揮官(おれ)自身が現場の確認が出来るなら動き易さは比較にならん。

その考えて開いてもらった門をのぞく。


………まぁ、それも周囲が平地なら、だけどな。

背の高い木で遮られちゃなぁ…少し先に『何か居る』くらいしか分からんな。

思わず溜息を零してしまう。

(すまん、もう良いぞ)と言うと首を傾げながら門を閉じるスミレに、気にするなと手をヒラヒラ上げる。


ともあれ、これはこれで味方にもバレにくい一つの方法だ。

主人やハッサクなら的確に指示出して情報収集出来るんだろうがなぁ…。

刻一刻と周囲がバタバタしてくるのを半眼で眺めながらそんな実験を終える。


にしてもほんとにスミレ(こいつ)は使えすぎるわ。

下手な斥候より斥候出来るからなぁ。

そりゃ誰も外に出す訳が無い。

相変わらずわたわた、そわそわと状況の遷移に翻弄されて落ち着かないスミレを眺めて思う。

主人はまったく何を考えているんだろうかね、と。

お読みくださりありがとうございます。


今回のような戦力の強制的な分割を、希望っぽい書き方でしたが、感想欄でいただいた時は驚きました。

後出しみたいなタイミングですが、ちゃんと最初から予定してましたよ?

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