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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
310/537

骸骨兵

理熾は《障壁》の足場を踏み締め前に出る。

進行を邪魔する目の前の木々を回避する経路は既にイメージ済みだが、《障壁》を渡り歩いても風や葉のこすれる音が漏れてしまう。

そんな音を頼りにこちらを探す相手が、理熾を捕捉する前に近接した。


駆け込む勢いを殺さぬように【黒鎖鋼の剣】を《亜空間》から引き出して骸骨兵(スケルトン)の左脛を右下から掬い斬る。

理熾の膂力と剣の切れ味に、高硬度だろうと思われる灰色の骨もあっさり斜めに切断。

驚く間もなく滑るように膝を落とす骸骨兵の左脇を通り過ぎ、振り抜いた剣を《亜空間》へ仕舞いつつ、低くなった骸骨兵の骨盤へと回し蹴りを入れた。


激変する状況と刻一刻と着実に崩される体勢。

傾ぐ上半身を保つため、反射的に大剣を突き立てようとした地面には、《亜空間》から亀の甲羅のような丸みを帯びた盾を既に配置済み。

貫くだけの重量も勢いも無い剣先は、粗悪な盾の丸みに沿うように更に前へと滑る。


予想外の事態に姿勢を立て直すどころか大剣の重量にまで引かれ、更に前のめりに傾く骸骨兵。

そこへ追い討ちを掛けるのはリコ。

【重力魔法】と共に開かれた《亜空間》から、オークなどから巻き上げた粗悪品のハンマーなどの重量鈍器がドサドサと落とされる。

それ程高さは無かったが、骨格しかない骸骨兵は軽いため、姿勢を崩すだけなら十分な重圧となる。

ここまでやってようやく地面へ転がし、背中へ飛び乗るように理熾は軽く跳躍する。

着地の勢いそのままに、肩甲骨付近を《亜空間》から取り出した【魔女の一撃】(イノセンスノヴァ)で打撃した。

骨を砕くため鈍器として、まさしく全力で振り下ろした。


不死者として強化された骨格だが、ただの一撃で直径1m程が爆発するように弾けた。

骨格しかない魔物である骸骨兵なのだから、普通なら向こう側の骨や地面が見えるはず。

だがそこには木の洞のように薄い暗闇が存在していた。

やはりここがこの骸骨兵の本体なのだろう。


再確認もそこそこに、通常の使い方である地面を掘り返すようにその暗闇へと【魔女の一撃】(スコップ)を突き立てる。

魔力をも纏わせたスコップは易々と暗闇を貫いたが、空を切るような思いの外軽い手応えにすっぽ抜けてしまう。

ただ威力として申し分なかったようで、更に奥にある肋骨を突き破って地面へと突き刺さって止まった。

『敵に何もさせない』という最善手を打ち続けた理熾は、一連の動きを思い返し『及第点、かな?』と評価する。


手持ちの武器を自分の意思とは別に手放すのは危険だから、最後にスコップから手が離れたのは減点。

どちらにせよ今回のように、一度じっくりと見定めていれば別だが、やはり不死者の本体を戦闘中に一人で探すのは困難だ。

そんな分析をしながら背中から飛び降り、倒した骸骨兵を背にして《亜空間》へと回収しようとする。

が、上手くいかず(アレ?)と軽く俯いて原因を思い浮かべる。


(ました、うえ!)


と疑問に思っている理熾にリコが警告を発した。

ほぼ同時に【直感】も稼動して『確率的に(・・・・)安全な経路』を導き出す。

その【直感】に瞬時に従い、《結界》を自身を中心にリコを含めて球体で展開し、跳び退くとようやく問題の全体像が見えた。

先程倒したと思っていた骸骨兵が豪腕を振り下ろしていたのだ。


跳び下がる理熾へと振り下ろされた腕は、ガシンと《結界》を掠めるように引っ掛けるだけに留まった。

流石に理熾が編んだ《結界》が砕けることはなかったが、まさに弾かれるように飛ばされてしまった。

しかも咄嗟の展開で球体に作ったがためにピンボールのように転げ回る。


10m程も転がされてようやく止まったのは《結界》を木々がめり込む形で受け止めてくれたため。

対する骸骨兵の腕の勢いは止まらず、ずがんという轟音を立てて腕は地面に激突し、土砂を巻き上げる。

しかも軽い骸骨兵はその反動で身を起こし、大剣を杖代わりに片足で立ち上がった。

改めて見るとその体格は随分と大きい。

眼窩の奥が薄ぼんやりと暗く赤い輝きを持ち、理熾を見下ろしていた。

こうなってはもう奇襲・不意打ちは無理な上に戦闘続行は免れない。


《結界》の中で転がされて視界がぐるぐると揺れる中、理熾は(何で生き返るの?!)と混乱するが、今はそんなことはどうでも良い。

すぐに頭を振って疑問を頭から追い出した。

そう、直近の問題は目の前にある現実なのだから。


「ぐあぁぁぁぁぁぁアアアァ!!」


何処で音を出しているのか不明だが、骸骨兵は威嚇するように吼える。

理熾は瞬時に《結界》を解いて立ち上がり、骸骨兵に対峙する。

既に見付かっているのだから隠れるだけ時間と労力の無駄遣いだ。


骸骨兵の損傷箇所は左の膝下、背中、心臓部、そして胸部…肋骨だ。

回復するのかは不明だが、特に行動の基点となる足が壊れている間に四肢を破壊した方が賢明だ。

どれだけ頑丈だろうが動く手段を奪ってしまえば死体と変わらない。

そう思って理熾は足に力を込めて踏み込んだが、すぐに力を抜いて立ち止まった。

その理由というのも、骸骨兵が杖代わりにしていた大剣を引き抜き両足で(・・・)仁王立ちしたからだ。


(嘘でしょ…完全に切り落としたのに…)


愕然とする理熾は足を止めていることに気付き横へと飛び退く。

骸骨兵に特に動きは無かったが、動き回っていた方が的にはされない。

木に寄り添うように移動を続けて様子を伺う。

見破られているので【隠密】を起動していても理熾を見逃すことは無いらしい。


そこへリコが(ました、にげる?)と撤退の提案を持ち出す。

不測の事態を思えば逃亡も一手。

態勢の立て直しに加え、身を隠せば改めて奇襲も行える。

だが


(いや、このまま行こう。

 さっきの足、復元したかと思ったけど単に繋がっただけ(・・・・・・)みたいだしね)


先程切り落とした足の骨が地面に落ちていなかったのだ。

復元したとすれば、何処かしらに骨が落ちている痕跡があるはずなのだから。

つまりレモンがポルンの時に行ったように切り離し、蹴り飛ばせば簡単には回復しないことを意図している。


…いや、これも理熾の予想でしかない。

ただ、時間は掛かっても復元するのかもしれないが、少なくとも今回は『繋いだ方が早かった』はずだ。

であれば能力や技量で言えば理熾の方が圧倒的に強いのだから、四肢を切り落とせばやはりどうとでもなる。


そんな中、一つ試しておかなくてはいけない。

眼窩に光る目…つまり頭が本体の可能性もある。

もし頭を壊して終わりならばそれに越したことは無いのだ。

理熾は新たに【士魂の強弓】を《亜空間》から取り出し、木々の間隙から抜け出して矢をつがえずに弦に指を掛ける。

矢の装填は放つ時だ。


敵に知性があるなら『戦士が何故弓だ』と疑問に思うだろう。

だが骸骨兵は単に『敵戦力への対処』という形で示し、一気に距離を潰して来たのだ。

馬鹿でかい身体で予想外に早い動きは肉という荷物が無いからだろうか。

たったの8mしかなかった距離は、骸骨兵にとっては4歩にも満たない。


大上段から躊躇無く大剣を振り下ろす骸骨兵に対し、理熾は横へと飛び退く。

まっすぐな太刀筋は読みやすく躱しやすい。

が、途中で刃を回して落下する角度が変わり、最初からの目論見かのように理熾が回避した分を横薙ぎに追い掛ける。

これでは拙いとリコが《亜空間》から目隠し用の盾を出し、理熾は《結界》を自身を基点に斜めに張っていなす態勢を取る。


再び攻撃的な斬撃音と地面を叩く爆発音が響いて土煙が舞う中、攻撃を《結界》で流した理熾は、その衝撃分だけ横へと加速した。

《結界》の本質は基点と共に移動する壁…つまり《結界》が押されれば『基点も押される』というところにある。

ただ予想外にも勢いが付き過ぎ、踏み締める地面は凸凹。

【体術】のバランス補正を思えば転ばないだろう。

だが転ぶかもしれない一欠片の可能性を、綺麗な《障壁》の飛び石の足場をリコが作ることで回避する。


即席の足場を蹴りながら勢いを殺し、姿勢を正して矢を放つ。

狙う場所は頭蓋の仄かに暗く光る目。

骸骨兵が振り下ろしの態勢で固まっている間に《二の矢》と《影矢》を射掛け、すぐに《亜空間》へと仕舞い込む。


今の攻防を思えば逃げ撃ちは可能だろう。

しかし、これで死なないのならば近接戦闘に切り替えるために前へと駆ける。

せっかく理熾と打ち合える敵(・・・・・・)が居るのだ。

貴重な経験を積める場面を逃す手は無い。

そんな思いを乗せた魔力を伴う矢は、寸分違わず眼窩へと突き刺さる。

頭蓋骨の後ろにまで威力は到達したらしく吹き飛ばし、そのまま骸骨兵は背後へと…今度は仰向けに言葉も無く倒れていく。


(ました、まだー)


理熾が確認の視線を送る前に【索敵】での反応を拾ったのかもしれない。

傾ぐ体躯が途中で止まった。

よく見れば左足が後ろへと下げられ、身体を支えている。


既に予想される本体の箇所は打ち抜いている。

だから『敵の全て』を壊すべく、理熾は追い討ちを掛ける。

仰け反る骸骨兵の真正面へと踏み込み、今度は【紅蓮鉄鋼の斧】を取り出し、前進の勢いでもって振り回す。

狙いは上下に分断するように骨盤を。

ここを破壊されては動くのに随分支障が出るはずだ。


「せーのっ!!」


掛け声と共に振られた斧は【壊滅】(デストロイ)の特性に相応しい威力を吐き出す。

腰骨を切断どころか骨盤全体を粉砕して威力が落ちたはずなのに、体重の軽い理熾では勢いが止まらず振り回される。

すぐに《亜空間》へと仕舞うが、斧に引かれて回りすぎた体勢のまま骸骨兵の横合いを通り過ぎた。

敵が斧と矢の攻撃で怯んでいて(生者なら即死の負傷だが)幸いだった。

耐えられていれば叩き潰されていた可能性もあったのだから。


上下に分断された骸骨兵は達磨落としのように重力に引かれ、上半身がうつぶせ、下半身は仰向けに倒れる。

服の《拡張空間》からオレガノを引っ張り出して骸骨兵の下半身へとぞんざいに放り投げ、『砕く』どころか【消化】を指示する。

ここまでして短時間で復元するなら大したものだ。


理熾の手はまだ止まらない。

リコが《亜空間》から取り出してくれたスコップを片手に、理熾は5倍の【重力魔法】で骸骨兵を押さえつける。

しかし、軽い骨の身に加重してもちょっとした足止め以上の意味は無い。

だからこんなことでは終わりもしない。


更に《亜空間》からは超重量の【愚者の塊体】(ダミープロトコル)を5m程上空から板状で放り落とす。

いくら骨の耐久力が高かろうと災害指定(Bランク)双頭犬(オルトロス)を一時的に行動不能にしたコンボ攻撃に耐えられるとは思えない。

目論見通り、ずずん、と重苦しい音を立てて骸骨兵を押し潰して地面にめり込んだ。

地面自体は大して硬くはないが、それでも板が完全に沈むほどの圧力に骸骨兵が耐えられるとは思えない。


理熾は【重力魔法】を解いて様子を見る。

オレガノの方は骨の強度に手間取るものの、しっかりと食事を敢行していた。


(ふぅ…これで終わったかな?)

(おれがの、おいしそう)


息を抜く理熾の頭上で消化するオレガノを眺めたリコの感想。

思わず理熾は(え、食べたいの?)と確認してしまうが、リコは(んーんー)と否定した。

恐らく『美味しそうに食べてる…良いなぁ』とかそんな感じなのだろうと理熾は納得し、消え行く骸骨兵の気配を【索敵】で感じながら少し腰を下ろす。


一方的な戦いに見えて反省点は多くある。

やはり生者の見た目(骨だったので違和感があるが)をしている以上、弱点を求めてしまう。

それに破壊したことで意識から除外した部位が、気付けば回復しているのが余りにも危険だ。

切り落としたところであっさり繋がり、砕いたところで修復される。

その速度は個体差があるらしいが、切り刻む程に注意すべき部位が散乱して危険度が増すばかり。

とはいえ部位破壊をせずに倒そうと思えば本体を見付けなければならず本当に手間が掛かる。


そんなことを考えている中、ふと意識を向けると【愚者の塊体】に潰されているはずの反応は無くなっていた。

どれだけタフなのか、という感想を抱きながらスコップや板、その他の武器・盾を《亜空間》へと仕舞い込む。

板の下敷きになった上半身は手の平サイズにまで砕け散っていた。

その状況を見て我に返る。


「あ…討伐部位って何処?

 というか素材…は、オレガノが食べてるかぁ…」


上半身は潰れてバラバラ、下半身は消化済み(というか溶けてる食べ残しだけ)。

結構な強さだったので高額で売れただろうし、装備の補強にも役立ったはずだが…これでは流石にどうにもならない。

一瞬拾うことも考え…結局オレガノに食事を続行させた。

半分以上溶けてる骨を拾っても流石に素材にはならないだろう。

思考に沈む理熾に再び【索敵】を渡していたリコから


(ました、よこー!)


と警告が知らされるが、時既に遅し。

理熾は自動車に轢かれるように弾き飛ばされた。

お読みくださりありがとうございます。


とりあえず今回から暫くは3日に戻そうと思います。

恐らく続けられると思いますが…だめそうならまた泣き言言うかもしれません(。。;

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