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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ

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未開拓迷宮ラボリ6

アシュレイ達と別れて《空間転移》で飛んだ先は2kmほど離れた空中。

離れて戦う方がすぐ近くで狩るより、魔物を取り合うことにならないため余程賢い。

そんなことを思いつつ《障壁》の足場に降り立ち、理熾は一人「さてと」と呟いた。


一人になって不安が無いとは言い切れない。

どうしても罠の発見速度や発見率はハッサクの方が上だし、罠の解除も一人で出来るかは分からない。

【解析】で構造が分かって【解体】で無力化出来たとしても、その過程で発動を避けられるかどうかは別問題なのだから。


とはいえ罠の心配は余りしていない。

一人の時はパーティの時よりも被害を受ける可能性のある範囲が縮むため、気を配る対象がかなり狭まる。

今回の場合、アシュレイは気にかける必要があった。

この気遣いも通常パーティを想定すれば当然の気配りなので特別の不平はない。

むしろ気遣いの必要の無いレモンとハッサクを放置出来るのが特別なのだから。


といった理由から、一人で居る方が被害を受けるような罠の発見も容易く、発動してからの対処も間に合う可能性が高い。

それに理熾は【魔闘技】(まとうぎ)と【闘気】を身に纏う。

罠に掛かったところでダメージを受けなければ問題無い。

一人なのだから出し惜しみすることもない。


(リコおいで)

(はーい)


理熾は【連携】を通じて呼び出す。

未だアシュレイに隠しているリコ(今となってはどっちでも良い)はフードから飛び立った。

ハピリアを頭に乗せている彼女を思えば、妖精くらい大したことはなさそうだが成り行きだ。

自由になったリコはぐるんぐるんと理熾の周りを飛び回る。

最近昼の時間に自由行動させてやれていないので気分転換という意味もある。


(一緒の狩りは久しぶりだねリコ)


声を掛ける理熾は随分と緩く、嬉しいのかリコは上下に揺れて反応する。

こうして隠し事の数々を振り返るとやはり自分はソロの典型なのだと苦笑いが浮かぶ。

理熾は(それじゃ行こうか!)と【連携】を飛ばして移動を開始する。


5m程下の足元には魔物の気配。

理熾は《障壁》の足場を解いて落下した。

リコは【重力魔法】で周囲2m、地面までを2倍の加重を施し、足止めと共に落下速度を上げた。


瞬く間に近付く地面と魔物に対し、理熾は《亜空間》から【黒鎖鋼の槍】を逆手に左手で握り、直下へと投げ落とす。

落下の勢い乗せて放たれたただの投擲は、魔物の胴体を貫通して地面へ深々と突き刺さり、敵の動きを強制的に止めさせる。

しかしまだ落下中の理熾は手を緩めない。

さらに《亜空間》から【黒鎖鋼の剣】を右手に取り、落ちる勢いを乗せて振り下ろす。

狙い違わず振り抜いて着地する頃には首は綺麗に切断されて飛んでいってしまった。


まさしく真上からの強襲に一切反応出来なかった魔物の名前は、不死者(アンデッド)の中でも最下級の腐敗者(ゾンビ)。

しかも魔物の動物(ビースト)系ではなく、ただの野生の狼が素体となれば魔物(ゾンビウルフ)へと転化してもたかが知れている。

ただしすぐ近くに着地した理熾に、首を落とされ縫い止められていた胴体が、槍を支点にぐるりと回転して後ろ足で攻撃をしてくるタフさがある。

死後硬直とかそういう『ピクピク』という微動ではなく、完全に機能している動きをしていることに驚くしかない。


「うわっ!」


と思わず声を上げて跳び下がるが、縫い止められて行動を制限されているので元々威力はあってないようなもの。

それに胴の長さよりも遠く離れれば槍が刺さってるので届くはずも無い。

逃げる必要すらなかった可能性は高いが、いくら【最適化】で清潔に保たれている服でも、腐肉で汚れるのは真っ平ごめんでもある。


それよりも一体どうなっているのかと思うが、生者から外れた不死者は、やはり生き物の枷を外れているのだろう。

目の当たりにするのは初めて(レモンが瞬殺してた)なので驚きはしたが魔物としてはこの個体は弱い。

それに正攻法もある。


(リコ、頭は何処にあるかな?)


じたばたする目の前の身体を警戒しつつ、リコに【索敵】を渡して調べさせる。

ユニークスキルの【幻想術】(ファンタジア)を持つリコは理熾よりも一段階上でスキルを扱えるためだ。


(ました、あっちー)


ふよふよ漂うリコに続いて移動する。

不死者を殺す方法はとても簡単だ。

身体が機能しないほどに破壊するか、魔力の塊である本体を散らすかのどちらかだ。

見極めもいらず簡単なのが身体の破壊だが、それには時間も労力も掛かりすぎる。

しかもこちらは『結果的に殺せる』というだけで、負傷を負傷とも思わない不死者は、下手をすると身体を犠牲に攻撃してくる可能性まである。

つい先ほどのように。

それを考えれば随分と厄介な敵だろう。


対して後者はもっと簡単だ。

人で言えば脳や心臓といった致死性の重要器官を破壊するということ。

その部位を壊せば悪くて大ダメージ、普通は一撃必殺だ。

ただしその部位の配置には個体差があって見極めなければならず、順次変えている場合まであり、狙って壊すには難易度が高い。


(リコ、矢)

(はーい)


7m程移動した先に落ちていた頭目掛けて《亜空間》から合計5本。

ほとんど間を置かずに矢が殺到し事切れる。

一度不死者の魔力が霧散し、改めて結晶化を始めるこれが、魔晶石と呼ばれる対不死者の討伐部位だ。

つまりこれでようやく討伐成功という訳だ。


何とも手間が掛かると理熾は溜息を吐きながら、《亜空間》へと剣と槍、そしてゾンビウルフの戦利品を取り込んだ。

弱点が剥き出しの精神生命(アストラル)体(それでも厄介)が、物質である肉へと宿ると不死者となるのだが、成立すると途端に対処が難しくなる。

精神生命体に本来無いはずの肉体が精神を守り、精神は壊れる肉体を補強・修復する。

しかも生者のように肉体の損耗が生死に直接関わることが無いとくればその討伐難易度が跳ね上がるのは道理だ。


対して理熾がすぐに本体の位置を見抜けたのはリザードの核を探した方法を使ったため。

ただそれでも激しく動く敵…それも交戦中では、見分けるだけの集中も出来ずに難しい。

わざわざ動きを止めて頭を落としたのは行動力を削ぐためと、二つに分ければ『どちらかが本体』という見分けを即座に出来るからだ。

これだけの手順が必要なことを思えばレモンの異常さが分かるというものだ。


(むぅ…)

(ましただいじょーぶ?)


(うん、大丈夫。

 慣れが必要だね。

 せっかくだから出来るだけ狩ろうか)

(はーい)


そんなやり取りをしながら移動を始める。

未開拓エリアとあって魔物の反応は随分多い。

ただこの階層だけで300を狩るのはまず無理だろう。

結局暫くは篭りっきりになる可能性は高そうだ。


次に見付けたのはゴブリン。

繁殖力が高く、殺し尽くすことが難しい、数の魔物。

つまりこの魔物は今抱えている【神託】にうってつけ。


思わず理熾はにやりと口角を上げ、【索敵】と【直感】(シックスセンス)を稼動。

【空間魔法】の空間把握能力を引きずり出して意識的に敵の配置を大雑把に確認する。

ほんの150m先に群れが存在するという結果をもぎ取り、最初に発見したゴブリンは走る勢いそのままに跳び蹴りを決める。

そのまま頭を『着地』に見立てて踏み切り、蹴り飛ばして方向転換。

頭が陥没して即死したゴブリンは空中で《亜空間》へと収納され、一瞬の足止めすら許さず群れへと近接する。


(リコ!)


先導する理熾をリコが追い抜き【重力魔法】で足止めする。

急激な加重を受けてうろたえるしか出来無いゴブリン達。

いきなりの強襲…しかも姿も見えず、方法も分からず、ただ地面へと縫い付けられる。

改めて確認した20という数の中に上位種が居なかったのも対応が遅い原因かも知れない。

そこへ理熾は服に突っ込んでいた手を引き抜いて(いってこい!)とオレガノを上空へと高く放り投下した。


高度を上げるオレガノは回転しながら粘液を触手のように伸ばして網目を作る。

頂点を越えて重力に引かれながらも投網のように群れ全体を包み込む。

一網打尽とはこのことだろうか。

オレガノは悠々と粘液に引っ掛っかけ、絡め取られたゴブリン達は身動きも取れずに引き摺り込まれて行く。

理熾からしてもあそこに巻き込まれれば恐慌以外の感情を持てそうに無いだろう。


ただこのままでは獅子猿の二の舞。

オレガノもリコも理熾の直属の配下(人が決めた奴隷制度とは別のもの)なので【神託】の内容を思えば理熾の手柄となるかもしれない。

が、今のところ詳細が分からない以上は理熾が討伐した方が良いだろう。

理熾は《亜空間》から【魔女の一撃】(イノセンスノヴァ)を取り出し、【重力魔法】でオレガノごと5倍の重力で圧し潰す。


ポルンの身体は液体、核は軽く頑丈なので5倍程度の【重力魔法】では倒せない。

ライムが理熾に教えたことだ。

であればオレガノはただ『動きにくくなるだけ』だから、巻き添えなど気にする必要も無い。


ただ絡め取られているゴブリン達は話が違う。

自重によって潰される身体はギシギシと悲鳴を上げる。

血は巡らず、声も出せず、脆い部分から皮膚が裂けて血がにじみ出す。

気付けば意識を飛ばし、そのまま物言わぬ骸へと変わっていった。


刻一刻とゴブリンの死体が生産されていくが、今更ゴブリンの素材や討伐部位を集めるのも大変だ。

いや討伐部位だけならオレガノに頼めば簡単かもしれないが、それを出すとランクを上げられかねない。

そこで絶命したものから順にオレガノのおやつとして(食べちゃって)と指示を出す。

嬉々としてという雰囲気ではないものの、骨も残らずゴブリンは数を減らす。


全てを消化し切り、ゴブリンの姿形どころか影や肉片すら残さず証拠隠滅。

最終的に掛かった時間は5分と少し。

オレガノが服へと戻って来るのを見て、理熾はオレガノの馬車(アッシー君)のような役目を担っているような錯覚を起こす。

まぁ、結局適材適所ということで話は終わるが。


そんなことを思い、少し苦笑いしながらスコップを《亜空間》へと戻す。

立て続けの2戦で使った時間は15分ほど。

そのほとんどが索敵と移動時間だ。


(急ぐわけじゃないけど、サクサクいこう)


アシュレイ達の場所は血魔石(ブラッディコア)のお陰で大体分かる。

鉢合わせしないように気を配りながら、リコへと視線を送って再度駆け出す。


ゾンビウルフ、ゴブリンと来て次に現れたのは骸骨兵(スケルトン)。

感知能力の差でまだ敵は気付いておらず、理熾は近場にしゃがんで潜み、今は観察中。

なのだが…骨にかろうじて肉が縋りついているという感じでほぼ骨格だけ。

どう見ても動ける状態ではないというのに、手に巨大な包丁のような片刃の大剣を握って歩く姿はまさしく骸骨の戦士。

しかも面倒なのが人ではなく、恐らく体格や頭蓋に付く角からオーガの骨だということ。


(オーガの骨ってくすんだ灰色なんだねぇ)

(んー?)


そんな感想を持ちながら、肉すらないアレはどうやって倒すべきか理熾は考える。

とりあえずということで最重要器官を探すと、丁度心臓辺りにそれらしいものが見付かった。

少し密度というか濃度というか…そういったものが薄い気がするが、憑いた側が弱かったのかもしれない。

であればあの骨を貫通して魔力を叩き付ければそれで終わるという訳だ。


確認作業も終わり、ゆっくりと足に力を溜める。

足場は悪くないが蹴り崩さないように注意して一気に踏み込む。

ドン、という小さな爆発にも似た音が響き理熾は突貫した。

お読みくださりありがとうございます。


今回は4日の更新ということで。

せめてもう一日くらいは短くしたいですね。

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