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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子

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理熾の逆鱗2

俺達が立つ闘技場の中央の戦場(アリーナ)は、粗悪に組まれた建物の残骸に埋め尽くされている。

これは元々この場に遺跡や住居が存在した訳ではなく、すべてがただの障害物。

ただただ真っ平らな場所で殴り合えば単純に強い者が勝つ。

それは単なる力比べでしかなく、迫力や面白みに欠け、逆転劇のようなことも起こり難い。

故に障害物を配置し、身を隠す場所や、瓦礫などの環境を利用する戦闘が行えるようにしてある。

戦闘能力に乏しい斥候でも、その力を存分に発揮出来る状態という訳だ。


戦闘を面白くさせるための要素の一つである建築物はその実大したことは無い。

単に廃材やら撤去する家屋をこの場にばら撒いただけだからな。

それを街並みを形成するように堆(うずたか)く積み上げ、目の前(こ)のように廃墟を模している。

命のやり取りをするこの場には、苛烈さを求めた狂気とも言える妄執が見て取れる。

まぁ、この場は他の闘技場に似せてあるだけなので、本場のように空気から滲み出る気味悪さは存在しないけれど。


それにしてもあれは何だ。

あの子供は一体…。

アシュレイを宥め賺(すか)すのは一介の護衛者では絶対に無理だ。

身内ですら手を焼き、著名な武芸者や仁徳者を宛がっても意味がなかったと聞く。


あいつは赴くままに行動し、被害や利益を吐き出しつつすべてを気にしない。

ある意味で災害のような存在だ。

それでいて結果だけは最良だと思われるところに行き着くのだから、本当に手が出せない。

むしろ手を出すだけ損を見る可能性が上がるのだから放置するしかない。


だから俺はあいつがこの場に居ること自体がとてつもなく嫌だった。

敵対すると…いや、関わると損をすることは分かり切っていたからな。

しかしそれでも迷宮(ダンジョン)の成績は手に入れたい。

記録云々よりも前に突破出来るかどうが問題なのだから。


そのために送ったオーエンはあっさりと捕まった。

C・Dランクの中でも随一の斥候能力を持つ者がだ。

アシュレイの加護は直接的な介入の場合に特に強く効果がある…らしい。

つまり斥候を使った情報収集という、間接的な方法ならほとんど効果が無いと見込んで送り込んだ。

結果は残念なものではあるものの、オーエンの機転で俺一人がアシュレイに借りるだけ(・・)で他者よりも早く『鬼ごっこ』への情報を得た。


鬼ごっこのルールを全員が最低10回は熟読し、その結果出した答えが『斥候を新たに雇い入れる』ということ。

ある程度の戦闘職は気配察知やカンが鋭くなるが、それでも生粋の情報収集者には劣る。

条項にも『何でもあり』と書いてあるし、『パーティ内であれば情報開示は構わない』となっている。

であればパーティ編成を変えて対応する方が余程良い。


恐らく俺達が登録したパーティの面子を見て気付いたのだろう。

俺達よりも後に登録した者達は、更に一手踏み込んだ。

新たに雇い入れた上に『パーティの枠』を広げて対応したのだ。

先じて斥候職を捕まえて登録した俺達は修正や変更を受け付けられず、仕方なくそのままで参加した。

いくら能力が高くとも、数が多い方が有利に決まっているからな。


そうして参加した鬼ごっこは見事に空振りした。

ガーランドに居ないかのように、宿泊していた宿から一切の痕跡を断っていた。

高位の斥候職を5人も臨時で雇い入れてこれなのだから、複数の斥候を雇った他のパーティでも途方にくれているだろう。

宿からの痕跡を辿れない以上、結局街をぐるぐると周回して見付けるしか方法がなくなった。

結局あの契約書に名を連ねた400名もの参加者は、誰一人としてあの『リオ』という討伐者を見ることすら叶わなかった。

『他人に迷惑を掛けない』という制限(ルール)がある以上、見付けさえすれば走って逃げるしかないというのに。


こうして何も出来ぬまま敗北を刻まれた。

それは俺達だけに限らず、参加者全員に共通する思いだ。

その余りにも鮮やかな隠れっぷりに、ガーランドの実力者の間で『神隠し』の二つ名が付いたらしい。

どんな子供だ…。


そこで次善策として用意していた、別働隊を使うことにした。

が、まさか昨日の今日で平然と迷宮に向かうなど思わなかった。

しかもその日の内に出てくるというのも想定外。

報告を受けた内容によるとどうやら攻略したらしく、学長室に呼ばれたとのこと。


今までのアシュレイの行動から考えると、迷宮を突破した今、すぐにでも学園を飛び出すに違いない。

つまり今まさにこれが最後のチャンス。

急遽パーティを呼び寄せるのに奔走すると共に、アシュレイ以外を連れてくるように使いを出した。


アシュレイは天才(馬鹿)だが、約束は極力守る。

鬼ごっこで勝利したリオが持つ情報を引き出すことは叶わないだろう。

逆にリオ達は今まさに護衛契約を終えたばかり。

つまり『利に聡い討伐者』であれば、今こそ『最高額で情報を売れる』という絶好のチャンスなのだ。

そしてあのリオという討伐者はまさにそのタイプ…『誰か』にばら撒かれるくらいならば俺が先じて買い上げる。


元々交渉を前提とした情報引き出しを画策していたのだ。

食堂で声を掛けたのもそのためだったのだが…リオの態度は貴族(俺)相手でも気にせず平然としていた。

そんなリオの態度に面食らっている内にアシュレイが戻ってきてしまった。


通常とは余りにも違う反応が返って来たからか、思わず高圧的な態度を取ってしまったとも席を立った時に反省した。

そしてそれくらい図太くないとアシュレイを御せないのだろうと納得もした。

席に戻ればリオとアシュレイの二人は平然と談笑している。

身分違いもはなはだしいというのに、お互いが平気な態度で接せるのが羨ましかった。

結局その場ではアシュレイに突っ掛かれ続け、リオとほとんど話も出来なかった。

本来ならばあの場面で約束を取り付け、場所を移してから交渉を始める予定だったのだ。


オーエンを派遣したのも、アシュレイと分かれたタイミングで交渉を打診するためだった。

何かしらの秘密が暴ければという下心も確かにあったが…まさか捕らえられるとはな。

それと今回も同じ。

もし攻略法を引き出せなくとも、多少の情報を掴めれば奔走した甲斐もある。

『情報が無い』というのが最も危険な状況なのだから。


だというのに。

アシュレイの加護のせいか、それとも駄賃を渡した二人が余りに馬鹿すぎたのかは定かではない。

いや、そのどちらもなのだろう。

何故か相手パーティ全員が居たことに俺は苛立ちを止められない。

少なくともアシュレイだけはどうしても外したかった。

関わると碌なことが無いからな。


パーティを集めるためにメンバーを割いたがために急ぎで人を使ったのだが…あの程度の者しか手配出来なかったのが悔やまれる。

いくら急いでいたからといっても、もう少し精査すべきだった。

万全とまでは難しくとも、後もう一歩どうにかならんのか…。

いや、一応連れて来たのだから良しとしよう。

最悪呼び止められずに帰られていた可能性もあるのだから。


だが、何故だか雰囲気がおかしい。

特にリオの選ぶ言葉が余りにも攻撃的だ。

俺も思わず言い返してしまうが、余りにも俺達の内情を知り過ぎている。

恐ろしいほどの冴えに、ある意味で『なるほど』とも納得する。

こいつが居たから攻略を終えているのだ、と。


「闘技場に呼び出したのは《非殺結界》が施されているからやりすぎても大丈夫…用意周到とはこのことでしょうか?」


いや…闘技場を選んだのは、単に借り受ける施設がここくらいしか空いていなかったからだ。

流石に公衆の面前…食堂などではこんな話は出来ないからな。

とはいえ、《非殺結界》のあるこの場を抑えられたのは、荒事になった時に『最悪の排除』を思えば運が良いとも考えられる。

あの魔法士もアシュレイパーティの一員…ただの魔法士だと思わない方が無難だろう。


しかし余りの煽り文句に気が付けば売り言葉に買い言葉といえる状況となってしまった。

ただし出された条件は『3回の命令権』だったが、破格にコチラ寄り。

逃げ隠れするだけの斥候がただ一人だけ。

しかも今回は目の前に居るのだから、昨日のように負けるはずも無い。

こちらには生粋の戦闘職も、魔法士も、ましてや斥候職までいる。

どれだけ隠密性能が高かろうと、14人を相手にまともな戦闘が出来るはずが無い。


それに負けたところで『勝負後の設定』がされていない。

であればどうとでもなる。

渡すのは『一定の命令権』であって、命を絶つまでの話ではない。

鬼ごっこの件でもそうだったが、著しくこちらが損害を受けるような内容を指定出来ない。

掛け金が試験の近道(カンニング)情報な上に、命令ではなく『お願い』と表記しているからだ。

そこが優しさなのか、甘さなのか、それとも参加に際してハードルを下げたのかは知らんが、それでは行動を縛りきるのは難しい。

負けることなど考えるべきではないが、負けたところで交渉の打診は行える。


「あぁ、それと。

 アレン様は気付いているかもしれないですが、念のため。

 この決闘では『今後』を掛け金に乗せていません。

 どういう意味か分かりますか?

 つまりこの決闘の勝敗に関わらず、うちのハッサクが『寝首を掻ける』ってことです。


 オーエン以外は分からないかもしれないですね。

 簡単に言えばオーエンに一切気付かれること無く無力化する斥候が、いつでも狙うってことだよ?」


な…んだと…。

同じようなことを考えていたということか。

しかし何だその脅しは…いや、周りが浮き足立っている。

なるほど、これが狙いか。

流石情報を扱う側、という訳か…侮れんものだな。


「お、俺は抜ける!!」

「残念、もう遅いよオーエン。

 条件はお互いに確認して、立てた審判は既に外。

 もう戦うしかなくて、戦ったところで何も得られないこの勝負、楽しくやろうよ?」


っく…まさかただの会話だけでこのパーティに綻びを入れられるとは…。

だがオーエンにも腹を括ってもらわねば困る。

責めるつもりは無いが、それで無くとも相手に囚われたことで俺はアシュレイに『借りている』のだからな!


「二組とも、いいかな。

 それでは…はじめ!!」


誰も『良い』状況ではなかったが、アシュレイはあっさりと号令を掛けた。

中立であるが故に、状況を読まずに時間通りに開始してしまった。

こうなれば仕方ない。


「相手は一人だ!

 これで負けては今以上に好きにされるぞ!

 気を引き締めて叩き潰すんだ!!」


そう奮い立たせる。

いくら効力が弱くとも命令権を持たれてはやりにくいのは確実だからな!

そう思い前へと駆け出す。


どちらにせよ死亡ダメージを与えなければ勝てないのだから思い切りは大事だ。

それにしても…今更だが、何故あの子供はただ広場のど真ん中で突っ立っているんだ?

武器も持たず、障害物にも隠れずに…逃げ隠れしてこその斥候だというのに全く意味が分からん。


駆け込んだ俺達前衛が近接するよりも早く、後衛の魔法が届く。

火、風、土が重複しないように放たれた。

これで終われば大した後遺症も無い。


魔力の消費や他の魔法を壊さないように配慮された魔法は、速度や角度を変えて降り注ぐ。

たった一人相手への攻撃とは思えないほど広範囲に高威力を叩き付けた。

何だ近付く必要すらなく終わったじゃないか。

そんな思いと共に、足を止める。


オーエンが怯えるのは単に『ハッサク』という者が優秀なだけなのだろう。

そう思う俺の耳が、土煙が舞う中からザッ、ザッとわざとらしいほどの足音を拾った。

まさか、そんなはず無いだろう。

いくら魔法が派手で、放ったのが初級の弾丸(バレット)系で、たとえ狙いがブレるとしても、ほぼ『面』とも言えるあの魔法群だ。

ただの弾丸系でもあれだけの数と威力で撃ち込めば、ダメージの有無はともかくAランクでも慌てる。

それ程の攻撃を受けても足音は一切止まない。

魔法とは一発でも被弾すれば相応のダメージを受けるのだぞ!?


「もう終わり?」


土煙を振り払うように現れたのは全くの無傷の小さな子供。

手には何処からか出した工具(スコップ)の柄を適当に握り、地面をカラカラと引き摺って、こちらへと歩いて来る。

余りにも平然なその様に、身体が一瞬強張るがそれどころではない。


「やれ!!」


即座に叫んだ指示で魔法士は中級魔法で畳み掛ける。

巻き添えを食らわぬように前衛は一旦距離を置き、弓による攻撃まで加わればもうどうにもならない。

一方的な蹂躙劇。

数の暴力は乱戦にこそ強いのだからな!

しかし


足音はザッ、ザッと静かに。

引き摺る音はガ、カラカラ…と滞ることなく聞こえる。


魔法士が放つ魔法の大音響とド派手な着弾炎や舞い上がる土煙、逆巻く風圧などをまったくものともしない。

ただただ歩くだけ、そして工具を引き摺られる極々小さな音を、やけに耳が拾う。

あれは何だ。

俺は思わず自問する。


「そろそろ攻撃しても良いかな?」


そんな言葉が耳に届いた瞬間、何かが駆け抜けた。

あれは…《岩石弾(ロックバレット)》か…?

狙われた先は魔法士達。

3連射されたそれらは運良く杖で防御し、身体は無事らしい。

それならばまだ戦える!


「相手はただの斥候じゃない!

 魔法士だ!

 土属性、それもかなりの練度…だが距離を詰めれば勝てる!」


魔法士だと分かれば話は早い。

高い魔力で魔法をことごとく無効化し、そのための装備で固めている可能性は非常に高い。

大方あの鬼ごっこでも土に埋もれて俺達をやり過ごしたに違いない。

流石に地面を掘り返すとなるとガーランドは広すぎるし、何より一日くらい飲まず食わずでも生きられる!


改めて距離を詰める俺達に《岩石弾》を打ち込む子供。

狙いが粗すぎて、そんなものは当らん!

発射されるものを回避して突っ切る。

いくら近くを掠めようとも構わない。

近接すれば勝てるのだからな!


「これで、終わりだ!」


パーティの前衛三人がそれぞれの武器を振り被り、リオへと殺到する。

俺も二陣で控え、波状攻撃を準備する。

例えどうにかして耐えたとしても、後詰めの俺達四人で押し潰せば良いだけの話だ!


「舐めすぎ」


不機嫌そうに呟かれた言葉は、やはり何故だか耳が拾う。

そんな言葉を発しながらぞんざいに横薙ぎに振られたスコップは、近接した三人を根こそぎ吹き飛ばす。

全ての手順を奪い取ったかのように、こちらの攻撃が届く前に割り込まれたのだ。

ありえない、と俺は思わず目を剥くが、そんなことに頭を割く暇など無い。

次の攻撃は俺達の番なのだから。


「おぉぉぉ!!」

「黙って攻撃しろ」


振り切ったスコップを引き戻さずに投げ捨て、くるりと一回転していた。

それに気付いた時にはリオの手の平が目の前に迫ってきていた。

余りの危機感に反射的に、握り締めていた剣を咄嗟に放してリオと同じく投げ捨てた。

空いた腕を何とか跳ね上げ、迫る手を弾き飛ばそうとしたが、周囲の光景は前方へと流れていた。

腕を上げたことでがら空きになった鳩尾を蹴り飛ばされたことを知ったのは数瞬後。

瓦礫の壁に叩き付けられて地面を転がり、身体…特に腹部に痛みが走ってからだ。


「…っが!

 げほっ…」


衝撃のせいで呼吸の仕方を忘れ、息が詰まった。

絞られるように苦痛の悲鳴を上げる内臓の不調を気力でねじ伏せ、息を吸い込む。

閉じた紙袋に息を吹き込むように…少しずつ、早く満たす。

何とか数秒で「はぁ…はぁ…」と荒いながらも呼吸を行えるようになった。


瓦礫に背を預けて上を向き、呼吸を落ち着かせながら状況を鑑みる。

魔法は通らず、接近戦は的確に…しかも余裕を持って迎撃されている。

たかが一合打ち合っただけで俺がこれでは勝敗以前の問題だ。

前衛は得物の違いはあれど、俺と同格かそれ以下だから時間稼ぎにすらならない。


ダメだ、これは、絶対に勝てない…。

アシュレイのように加護による幸運などなく、ただ一方的に蹂躙するだけの力がある魔法士など聞いたことが無い!

何なのだあの子供はッ!!


だが逆に腹は決まった。

がらがらと体重を預けていた瓦礫を崩しながら立ち上がる。

まだ若干視界がふらふら揺れるが仕方ない。

壁に手を付いて支えながら建物を出て宣言する。


「ま、参った!!

 俺達の負けだ!」


『巻き戻り』などを起こせば数日は起きられない。

全員がその状態になれば、更に準備の時間分が余計に掛かる。

それに無駄に引き伸ばしたところでリオの心証を悪くする。

これ以上の被害を出さないように、俺は負けを認めた。

しかし返ってきた言葉はまさかの絶望的な答えだった。

お読みくださりありがとうございます。


………勘違いってありますよね(‘‘

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