許されざること2
アシュレイが女ってばれてたみたいですね…切ない。
名前が女性のものなので仕方ないかもしれませんね。
「…何のことだアシュレイ」
先程までと打って変わって重い口調で問うのはカルロ。
その変わり様に理熾は驚き、アシュレイは口を噤んだ。
そんな中スミレは移り変わる状況を追うので必死だった。
ガーランド国にとって迷宮は一種の公共物である。
それは存在するだけで恩恵を与え、災厄を撒き散らすモノだからだ。
故に管理し財産とするか、討伐し後顧の憂いを絶つか、放置し悩みの種とするかを領主が判断する。
人里が近ければ討伐か、管理のいずれかを。
遠いのならば大氾濫を警戒するだけに留めるか、討伐かの選択を。
どちらにせよ『迷宮』という魔物の取り扱いは難しく、必ず領主決済が必要になる。
当然アルス領においても同じ。
一般人が私欲のために隠すというだけでも大罪。
逆に言えば報告するだけで多くの報酬とある程度の陳情を聞いてもらえる。
迷宮ハンターなどと呼ばれる未開拓迷宮を探す変人まで居る程度には多くの報酬がもらえるのだ。
だから『アシュレイという個人がやった』と言うには問題が大きすぎる。
特に『報告できる環境下でありながら、報告義務を怠った』のは言い訳のしようが無い。
それらの事情を確実に知っている貴族が隠匿などしようものなら家にまで累が及ぶ。
カルロの声が硬くなるのも分かるというものだが、隣に居る理熾はそんな常識など知らなかった。
しかし『しまった』という顔をしているアシュレイを理熾は見逃さなかった。
恐らく一人でまた行く気だったのだろう。
管理迷宮以外であれば、最下層に存在する核を奪っても構わない。
特に未開拓の迷宮は、難易度設定がされていないために誰でも入れる。
基準による取締りがある訳ではないが、挑戦者の目安になる。
逆に言えばアシュレイが行けば色んな意味でカモにされる可能性が高いのだ。
それらの思惑も今は過去。
既に口に出した以上は黙っていることなど出来ない。
だから
「アルスとラッフェルを繋ぐ街道の、中間よりもアルス側の南に迷宮を見つけました」
とアシュレイは報告した。
『隠すつもりは無く、単に報告が遅れただけ』と暗にそう告げるためにアシュレイは迷宮の情報を切り出す。
「そうか」
対するカルロはそれだけ言って深く息を吸った。
ぎしり、とソファーを軋ませて次の言葉を探す。
はっきり言ってアシュレイのやろうとしたことは『貴族』として最悪だ。
他者の領地を荒らそうとしたのと何ら変わらない。
そして『子供だから』と許される内容でも無く、賠償で済めば幸い。
最悪なら内戦にまで発展しかねないような内容なのだから。
口を滑らせたことで発覚したが、普段であればそこまでの緊急性も無い。
アシュレイも報告義務があるのを知っていたため、『少しだけで様子を見て報告を』と思っていたのだろう。
だが『今のアルス領』では、その『時間稼ぎ』は許されなかっただけ。
そしてカルロもおぼろげながらも、ギルバートの悩みを理解していた。
まさに『間が悪い』としか言いようが無い。
「アシュレイ。
二度は、無い。
次は『私の裁量』で裁かれると思うなよ」
そんなことを言いながらもカルロは『甘いな』と自嘲する。
言ったことを要約すると『今回は大目に見てやる』ということに尽きる。
そして今後も同じようなことをするなら報告として上げ、『公式見解からの処罰を下す』と言ったのだ。
内戦の引鉄に手を掛けた者に対する処置ではないものの、逆に『発見者』であることを思えばアルス領の利益に他ならない。
特にギルドや騎士団は『あるかも分からない迷宮の捜索』を打ち切れる。
秘密裏に行われていたこれらに掛かる莫大な経費が浮いたことを意味するのだから。
「…はい」
「分かればいい。
はぁ…ほんとにお前は…。
とりあえず暫くは静かにしててくれ」
と締めくくった。
また、領主館にカルロとは別のアシュレイ用の部屋が用意され、報告後はそこから出ることを禁じられた。
軟禁状態だが、翌日にはガーランドの私邸に連行される。
そう考えるとたった一日なので、カルロが思ったように『だだ甘な処分』だった。
少し凹んだアシュレイを連れ、カルロと理熾とスミレはそのままギルバートの執務室へと向かう。
理熾は帰還報告と、観光でガーランドへ向かうこと。
そして迷宮への橋渡しをスミレが行うかもしれないので相談である。
アシュレイとカルロは言うまでも無く迷宮発見の報告である。
執務室に入りるとギルバートは当然仕事をしていた。
立ち上がろうとするのをカルロが手で制し、机越しに報告を始めた。
これは『お仕事』なのだから。
「なるほど。
ラッフェルから出てダダで馬車を降り、徒歩でアルスへ向かう最中にふと森の中を探索。
その結果迷宮を見つけ、報告のための帰還途中で獅子猿に襲われ、そこをリオ君が助けたと?」
まとめるとそういうことになった。
アシュレイの行動は明らかにおかしなものではあるものの、足取りを辿れば『護衛が待ちきれない』という言い訳も立つ。
『興味を引かれて森に入った』というのもアシュレイならありえるし、何より本当の話。
全てを繋げると結果的に状況としては好転しかしていなかった。
これでは確かにカルロも叱りにくい。
結果、末っ子は放任されるという訳だ。
「報告に感謝する。
残念な知らせではあるものの、迷宮が存在してしまったのは仕方ない」
報告を聞いたギルバートはそう返答する。
エリルの件でも何かしら察していたので、もしかするとアシュレイの時間稼ぎを見破っているかもしれないが表情には一切出さない。
ここでメルカノ家の二人に喧嘩を売っても今のところ良いことは無い。
「それで、アシュレイ殿。
迷宮の名前は何にするね?」
椅子に深く座りなおし、アシュレイに聞く。
迷宮の発見者は報酬に加え、命名権を得る。
そしてその迷宮に対し、領主が認める限りにおいて一定の裁量を貰える。
例えば『もぐる際に入場料を取って欲しい』など。
とはいえ強制出来るほどの強い権限は認められず、結局陳情程度で収まってしまうが。
「ラボリ、と命名します」
アシュレイのこの言葉が耳に入った時、理熾はゾワリと寒気がした。
『あれでもやっぱり神様なのか』という風に。
分かり易いほどの未来の情報である『迷宮名』を事前に【神託】として出したのだ。
いくらネーブルが調べても、ギルドを頼っても見付からないはずである。
存在しない迷宮なのだから。
となると調べていたことが裏目に出そうな感じだが、その辺はネーブル達に何とかしてもらおうと理熾はあっさり棚上げした。
「ほう…何か意味があるのかね?」
「いえ、何となくです」
「そうか、普通は自分の名前や何らかの意味を含めてつけたりするんだがな。
リオ君ならアルスにあるEランクのイルマ迷宮を知ってるだろ。
あれは『イルマ・ルリ』という者が見つけて名前をつけたものだ」
何とも分かり易い。
だが迷宮の名前が自分だと、ギルド内でやたら自分の名前が呼ばれる気がしてならない。
名誉欲などが一切無い理熾からすると、邪魔になる可能性の方が高い。
逆にアシュレイのように適当に名前をつけそうな感じである。
「お願いがあります。
クライン辺境伯」
「何だね?
アシュレイ殿は未開拓迷宮の功労者。
アルスとしても許容できる範囲で応えたいと思う」
「ラボリ迷宮の探索を、ボクに依頼してください」
毅然と胸を張って告げるアシュレイに、カルロは溜息しか出ない。
『こいつはまだ言うか』という感じだろうか。
だがギルバートは「ほう」と感心したかのような声を上げた。
「カルロ殿。
アシュレイ殿はこう言っているが、どうだね?」
「クライン伯爵が許可を出されるというならありがたく頂戴します。
が、はっきり言ってアシュレイでは荷が勝ちすぎます。
聞くところによるとリオが助けに入らねば獅子猿程度に後れを取る始末。
とても未開拓迷宮への『先駆者』として放り込めるだけの実力はありません」
カルロはアシュレイの未熟を告げる。
末っ子が心配ということでは勿論ない。
単純に情報を提示しないのは友好関係に軋轢が生まれてしまうからだ。
なので判断は任せつつも、『それはやめといた方が良いよ』と忠告を含めて伝える。
『ギルバートが許可を出す』ということは、責任の一端を担うことに他ならないのだから。
そんなやり取りをアシュレイは歯噛みしながら見つめる。
一生にそう何度もあることではない迷宮の発見。
冒険者を名乗るならば、出来ることなら初めての攻略者となりたい。
しかし下る判断は『領主権限』により絶対だ。
固唾を呑んで言葉を待つ。
「リオ君からは?」
「カルロさんと同じ意見。
多分個人の戦力だとDランクとタイマンが出来るくらい」
「おぉ、そりゃ凄い。
カルロ殿、貴族としては破格の戦力だな?」
「それくらい無いと護衛から逃げ出せませんしね」
とカルロは苦笑しか出ないし、周囲も微妙な空気を醸し出す。
オーガとタイマンが出来る時点で十分に人外の域なのだが、それでも理熾は戦力としては足りないと考えている。
安全など何処にも無いのだから、何の力でもあればあるだけ良い。
だから理熾は自分の意見を伝える。
誰もが間違わないように。
「勝てるかどうかは時の運って感じがするけど…多分勝つ。
まぁ、僕は人の強さを見分ける力は余り無いから、確かじゃないと思うけど」
「だとしても少なくともEランクはあしらえるのだろう?」
「多分だけどね。
後、一番気になるのは何か知らないけど凄く運が良い。
僕が知る限りアシュレイさんは『最悪』を3度も回避してる」
一度目は獅子猿の群れに襲われていた時。
二度目は助けに入ったのが理熾だったこと(ネーブル達なら見捨てる、他の者なら追い剥ぎに遭っていた可能性もある)。
三度目はついさっき、口を滑らせた時。
迷宮の報告については教えてもらえなかったが、察するに余りある雰囲気だったのだ。
つまりこの出会ってたった半日ほどの間に三度もだ。
「気持ち悪いほど運が良い。
思い当たることは多そうだけど、理由とかあるの?」
アシュレイは無意識に『何とかなる』と高を括っている。
だから無遠慮に獅子猿の群れに出くわすし、理熾達を相手に油断もする。
挙句『黙っていることすら出来ない(結果は良かったが)』となれば、危機感が薄いという言葉では足りない。
むしろ運の良さについての原因が無ければ納得できないレベルである。
「あぁボク、加護持ちなんだよね」
「はぁ?」
あまりの事に理熾は訝しげな顔で思わずそんな反応をしてしまった。
お読み下さりありがとうございます。
神の依頼を受けてるのに、何故か全能力を全て自前で揃えている理熾の心を代弁するなら『加護とかせこい!』でしょうか。
次回、加護の説明を行います。




