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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
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許されざること

アルスに戻り、まずはと理熾は領主館へと足を運ぶ。

カルロの下にアシュレイを連行するのと共に、無事の報告とギルバートにも一言挨拶するためだ。

このため理熾のお供はスミレとアシュレイの二人。

その他は自由行動とし、久々のアルスを満喫せよとのお達しまで出した。


あっさりと領主館の門を通される理熾達にアシュレイは驚きを隠せない。

貴族という位は軽く無い。

むしろ『重く見せるため』に堅苦しいイロイロがあり、それを無視すれば『下賎な』と蔑む。

貴族内でもあるのだから、人によって庶民というだけで見下しの対象だったりもする。

それを普通に挨拶し、身分証(ギルドカード)の提示だけで通れてしまう理熾。

アルス領が緩いのか、理熾が凄いのかはアシュレイには分からなかったが、驚きしかなかった。


「お久しぶりですカルロ兄様(にいさま)

「え、見つけたのか? もう?」


一ヶ月以上の間、本気で(・・・)雲隠れしていたアシュレイ。

それをほとんど情報が無い状況から半月程で見つけ出した理熾達。

運も確かにあったが、圧倒的な移動力や捜索能力が無ければ不可能だっただろう。

だからそういう言葉が出るのも仕方ない。

むしろアシュレイは行方を眩まし、帰ってくるまで誰も見つけられなかった過去がある。

そのことを思えば半月という時間は相当早い。

だが


「…何その反応。

 すっごく引っ掛かるんだけど」


理熾はそんなことなど知らない。

いや、概要は知っているが、その程度。

それにカルロは『「見つけられないだろうな」と思って依頼をした』というのが問題なのだ。

徒労を押し付けられる可能性が高かったのだから。


「いや…すまん。

 何と言うか、もっと掛かると思ったんだ」


と宥めるカルロにアシュレイは不機嫌そうに「兄様ボクを無視ですか」と告げる。

拗ねているのかもしれないが、それならそもそも逃げ出してはいけないだろう。


「はぁ…それくらいが何だ。

 お前のせいで周りがバタバタするんだぞ?

 いい加減、少しくらい大人しくしてくれ。

 そろそろ嫁に行くことも考えないといけないんだからな」


カルロはアシュレイを半眼で眺めながら溜息混じりにそんなことを言う。

確かに嫁入り前の者がするような行動ではないだろう。

だがそこで


「………嫁?」

「ん?」


「え、女の子?」


思わぬ状況に理熾が驚き、不躾な視線をスミレとアシュレイに送る。

スミレの体型や服装は女の子らしく、それは顔も同じく丸みのある柔らかい曲線を描いている。

対するアシュレイはどちらかと言うと鋭さのある顔に、男物の服。

そして二人の違いは更に顕著に見受けられる…胸の辺りが特に。

スミレは首を傾げつつ理熾を見返すが、アシュレイは眉を吊り上げ身体を隠して


「何処見てるんだよ!!」

「いや、気にしないで」


理熾はあっさり視線を外す。

別に下心で見てた訳じゃない。

単に不思議、そして比較対象(・・・・)として見ただけなのだから。


それにしてもアシュレイの外出は女の一人歩きというレベルで絶対に収まらない。

このいつ何処で何に襲われるか分からず、果ては尊厳や命まで失いかねない世界での一人旅。

カルロ…というか公爵家が躍起になってアシュレイの護衛を探すのは良く分かる理由だった。

『ただの末っ子の護衛にしては力の入れようがおかしい』と疑問に思っていた部分が氷解した瞬間でもあった。


「おや言ってなかったか?」

「ボクが女に見えないってこと?!

 リオ様は僕に対して失礼だよ!」


兄妹はそれぞれ違う反応をする。

しかし理熾からするとカルロの言葉は情報不足。

アシュレイの言葉は知ったことでない。

むしろだとしたら『分かる格好をしろ』という一言に尽きる。

少なくとも美形なのだから、服装を女物に変えるだけで間違われることなど無いのだから。

そんな二人は言い合うように


「というかお前がそんな紛らわしい格好してるからだ。

 まぁ、女の一人旅などどう考えても良いカモだから間違いではないが…」

「でしょう?

 ボクの判断は正しいんですよ」


「あぁ、もう…そうだな。

 アシュレイは根本的に間違ってるからな」


こいつはもう手遅れだ、というようにカルロは首を振る。

兄妹喧嘩というかじゃれあいを見せられる側はたまったものではないが。

たったそれだけで家出の話が終わってしまった。

行方が分からないことが問題なので、捕まりさえすればそれで良いという風にまで考える前科があるのだろう。

つまりこれらは全ていつものやり取りなのだ。


「そういえばお前そろそろ試験だろう?」

「はい、学力試験は終わりましたね」


「…お前の行動の中で何処にそんな時間があったんだ」

「ラッフェルを出る前に論文提出しましたから。

 今回のは大したものじゃないですけど、今までの筆記試験(ペーパーテスト)の成績から言えば落第出来ません(・・・・・)から」


と得意気に無い胸を張って答える。

それにしても論文なんてものが筆記試験の代わりとなるのだろうか。

そうは思うが、アシュレイの試験の出来など理熾には無関係な話なので聞き流す。

しかしここに聞き流せない者も居た。


「学園に顔を出さない気か?」

「ところで兄様。

 今日は何日でしたっけ?」


「全く…どんな話の逸らし方だ。

 今日は6月29日だが」

「筆記試験は明後日なので間に合いません」


『きゃは☆』という擬音が付きそうな良い笑顔で告げるのはボイコットのお知らせである。

ここから他の主要な街へ行くには大体一週間掛かる。

首都であるガーランドも、順調に行けばそれくらい掛かることを思うとこの時点で既に時間切れ。

だからラッフェルから逃亡する前に論文を書いて送ったのだろう。

丁度試験が始まる10日ほど前に論文を送っているので、試験前には到着する。

完全に計画的な犯行である。


「アシュレイお前…」


と呟き、呆れ果てるカルロ。

だがそれでも『落第しない』という布石を打っている時点で完全に疎かにしている訳でもない。

どう考えても叱る場面ではあるものの、変に予防線を張ってることで指摘しにくいところもある。

そこで理熾が


「カルロさん。

 僕達がガーランド見てみたいから送ろうか?」

「え゛?!」


と爆弾を放り込む。

学園に放り込めばとりあえず暫くはアシュレイも大人しくするはずと考えての話だ。

わざわざ時間切れを狙うのだから、間に合えばきちんと試験は受けるのだろう。

となれば最悪でも試験期間中は静かなはずである。

未だ『ラボリ迷宮』の資料が一切無いので時間はあればあるだけ良い。


「本当か!?」

「うん。

 距離と方角と、出来れば紹介状が欲しいかな。

 あぁ…念のためにガゼルさんにも貰っといた方が良いかな」


「すぐに書こう!

 良かったなアシュレイ!

 どうやら試験には間に合いそうだぞ」


あっさり連れ戻され、試験にも顔を出さねばならなくなった。

せっかく上手く行っていった諸々の全てを、理熾に持っていかれた形である。

アシュレイは「リオ様ぁ…」と恨めしそうな顔で理熾を見る。

それに対して


「そうだアシュレイさん」

「うん?」


「様付けやめよう」

「え…?」


「様付けを、やめよう」


ぽかんとするアシュレイに念押し、ごり押しするように理熾が鼻先に人差し指を突きつけて告げる。

『異議は認めない』というのを前面に押し出して。

だが末っ子とはいえ公爵家の出自から、家族以外の『命令』は極端に少ないアシュレイ。

慣れぬ状況下で顔も近く、完全に面食らった状態で心臓をバクバクさせながら


「う、うん。

 何て呼べば…り、リオ君で良いの?」

「うん、それで。

 ま、呼び捨てでも良いけどね」


何故だか少し顔を赤くする。

ただ呼び名を変えるだけだし、最初は『あの子供』とか言ってたはずなのだ。

急に様付けになった方がどうかしているのだから、君付けの何が悪いのか理熾にはさっぱり分からない。

そもそも年上なのだから、やはり呼び捨てでも構わないくらいだ。


「とりあえず明日にでも首都のガーランドに送るよ。

 帰りは何日後になるのかな?」

「そのまま置いてきていいぞ」


そんなことを言うのはカルロ。

どうやら灸を据えるつもりなのかもしれないが、確かに移動手段が無ければガーランドから出るのは難しい。

特に『逃げ出すだろう』という予想が立っているのなら、指示を出すのは簡単だ。

ラッフェルの時のように意識が緩んだであろう一ヶ月後に出発されれば別だろうが。

カルロと理熾は二人して緩い空気に包まれたとき


「そんなっ!

 せっかく迷宮(ダンジョン)を見つけたのに!」


と、アシュレイはアシュレイでとんだ爆弾を放り込んできた。

お読み下さりありがとうございます。


感想欄で『ボクっ娘』と指摘された時に「バレた!?」と一人衝撃受けてました。

この構想は「『末っ子』ってそういや『末っ子』って言葉だけで完結するなぁ」とか思いついたところからやろうとしてました。

理熾達にしても家出少女とは思ってもみなかったという訳です。

くそう…だからずっと性別伏せてたのに…(。。


この時点でお察しでしょうが、アシュレイの縁談は『公爵家』の肩書きを欲しがる有象無象からしかきていません(。。

普通の感性なら、放蕩息子ならぬ放蕩娘が欲しいとは思いませんよね。

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