【幕間:日本】最後の元日
明けましておめでとうございます。
さて、元日という訳で番外編を書いてみました。
用意とかしてなかったので、おかしなところ満載かもしれません。
少し長いですが…いえ、過去最長ですねw
楽しんで読んでいただければ幸いです。
「いらっしゃい、いらっしゃーい!
こっち美味しいよー食べてみてー!」
「一等はなんと今大人気キャラの大きな人形!
一回くらいやってみてもバチはあたんないよー!」
「たこ焼きどうっすかー?」
「寒いでしょ?
豚汁いりませんか!」
そんな賑やかな呼び込みを掛ける声を少し遠くに聞き、僕は寒さにぶるりと震える。
冷たくて少し暗い鈍色の空をぼんやり眺めながら、はぁと白い息を吐き出した。
昨日から頭を過ぎるのは「どうしてこうなった」という言葉。
何だかいつも思ってるような気もするけれど。
今日はこたつでぬくぬくとテレビを見るか、パソコンを眺めるか。
家族でぼーっととか、ゲームしたり、はたまた色々気にせず布団に入ってぐっすりだったはず。
親戚が集まるのは明日だから、今日はホントにゆっくり暇な一日を過ごす予定だったんだよね。
…なのに『年越し』…じゃなくて『初詣』だね。
そんなイベントにあの二人は僕をまたも連れ出した。
いや、連れ出してくれたと言った方が良いかな?
そんなことを考えながら少し前…昨日のことを思い出す。
・
・
・
待ち合わせ場所は寒空の公園。
ふと視線を落として携帯を見る。
手袋越しだと使いにくいから、電源ボタンを押して立ち上げるだけに留めた。
時間を見るだけだから、別に外すほどでもない。
お昼なのに天気は曇りだからかな、少し暗い。
誰も居ない公園で、僕は携帯から視線を外してぼんやり空を眺めた。
思うことは「風が強くて寒いな」くらい。
約束の時間は1時だから、まだ10分くらいあるしすることも無い。
携帯をいじっても良いけれど、この寒さで手袋を外すのもなぁ…とか思っていた。
子供っぽさないなぁって?
いつも通りだよ。
すると
「理熾君、理熾君」
と待ち人が現れた。
この声だけで分かる。
僕が知る中で一番可愛いくて賢い子。
ちなみに一位が二人居るから、二位は居ないんだけどね。
「や、詩織」
「待ったー?」
「少し?
けどまだ時間前だからね」
「ここは『今来たところ』って言うもんだよ?」
と笑いながら言う詩織。
相変わらず可愛いなぁと思いながら
「穂波はまだかなぁ」
「ひどい流した!」
「え、そんなことないよ?
今は穂波がまだか気になるだけだから」
「穂波が気になる?!」
何故だか詩織が声を上げてはしゃぎだした。
穂波の事になると詩織が慌てだすんだよねぇ…。
まぁ、仲良いし…良いか。
あ、女の子同士だけど好きなのかな?
「理熾君おまたせー!
何か話題の中心、穂波登場!!」
勢い良く突っ込んで来て僕へ体当たり…というか、飛びついてくる穂波。
無理だよ、僕に受け止める運動神経とかないってば!
知ってるよね!?
「ぎゃー」と変な声を上げながら穂波に吹き飛ばされて地面に転がる。
というか穂波は綺麗に着地を決めて、僕を見下ろして
「あれ、理熾君何寝てるの?」
「お前のせいだよ!!」
と指差しながら叫ばずには居られない。
毎回怪我は無いけど、『毎回』って付く程度には転がされてるんだよね…。
そろそろ受け止められるようになるか、避けられるようにならないとなぁ…。
なんか避けたら怒られるか、追尾機能が追加されそうだけど。
「へへへ。
で、私が何だって?」
こいつ笑ってごまかしたぞ…まぁ良いか。
いつも通りってことで。
僕がそんな言葉で思いを片付けてから立ち上がって
「そろそろ集合時間だけど、穂波来ないねって」
「あれ、間に合わなかった?」
「丁度かな」
「なら良かった!
あれ、詩織どうしたの?」
「なんでもない!」
僕と穂波のやり取りを見て、詩織はぷいとそっぽを向いた。
ホント何なんだろう。
そんなこんなで集合した僕達は、この寒空の下遊び始めた。
ボールを投げたり、ブランコこいだり。
かけっこじゃ絶対に負けるから余り好きじゃない。
鬼ごっこならまだ大丈夫なんだけどね。
散々走り回ってはぁはぁと息切れして、ベンチに座って休憩。
そんな時、穂波が僕に声を掛けた。
「ねぇ、詩織、理熾君」
「んー?」
「なにー?」
「明日ねー初詣に行こうと思ってるんだよね」
穂波の話に詩織も「いいなー」と羨ましがった。
初詣ってお店とかあって、美味しい匂いがして良いよね。
金魚すくい(は夏かな?)とか、射的とか、輪投げとかくじ引きとか。
あ、スーパーボールすくいっていうのもあったかな。
食べ物だけじゃなくて、色々あって楽しい場所なイメージ。
僕も少しは興味があったけど
「そうなの?
気をつけて行ってきてね」
と答えた。
寒いし、お父さんもお母さんも連れてってくれなさそうだし、お兄ちゃんは…何となく行く気がなさそう。
チャレンジ精神っていうのかな?
そういうのがあんまり無いんだよねお兄ちゃん。
その分は妹が全部持ってる感じかも?
「違うよ!」
急な変わりように僕達は二人して「「え?」」と声を出して穂波に振り向いた。
少し怒ってる感じ?
何だろう…別に変なこと言った覚えないんだけどなぁ。
「三人で行くんだよ!」
「うん!」
「えっ!?」
「行くのは夜須旗神社!」
「おー!」
「えぇ!?」
腕を突き上げるように伸ばす穂波に詩織も釣られる。
良く分からない間に詩織も行くことになってる!?
僕行かないからね?
というかダメって言われるに決まってるよ。
『元旦から遊びに行ったら皆に迷惑でしょ』ってよく言われてたし。
「理熾君は?」
「行かないかなぁ…」
「ダメ、連れてく」
「えっ!?
うーん…お母さんに聞いてみないと」
とりあえず聞くことだけはしよう。
それなら二人も納得するし。
「よーし。
じゃぁ理熾君の家に行こう!」
「え!?」
「うん、お母さんに『良いよ』って言ってもらわないとね」
あー…僕の話は無視かー。
そっかぁ…まぁいつも通りか。
流石にお母さんはダメって言うよね。
というか穂波は聞いてきたのかな?
あれ、詩織は今聞いたばっかりだよね?
大晦日に人の家で騒ぐって大丈夫なのかなぁ…?
まぁいいか。
二人はお母さんとも仲良いし。
そんな感じで僕の家に押しかけた二人。
・
・
・
結果から言えば。
神社の前で待ってる時点で分かるよね?
はぁ…本当にどうしてこうなった。
お母さんも「詩織ちゃんと穂波ちゃんが一緒なら安心ね!」とか言うし。
安心な訳無いでしょ…?
むしろ不安で一杯だよ。
朝ごはんは皆で。
お雑煮とおせちを食べて「明けましておめでとう。今年もよろしく」って皆で言い合った。
いつも思うけど、何が『おめでたい』んだろう?
一年の区切りの日なだけで、別にお祝いするようなこと無いような…世の中って色々と不思議だよね。
約束の時間は朝の10時。
待ち合わせ場所は夜須旗神社の鳥居の前。
ご飯も食べてゆっくりした後、僕は色々着込んで出発した。
お父さんとお兄ちゃんはコタツから手をひらひらさせて見送ってくれた。
お母さんは玄関まで来てくれて「忘れ物無い?」って言って、お財布と「無駄遣いしちゃだめだよ」ってお年玉を渡してくれた。
あ、そうそう。
妹が「行きたい!」って騒いでたけど、お父さんが抱き止めてた。
うんうん、あの二人が『珍しい場所』に行くんだからやめた方が良いよ。
それに風邪引いちゃうもんね。
あ、でもお母さんから「遅くなりすぎないように夕方には帰って来てね」って言われてる。
初詣なんだから、そんなに時間掛からないと思うんだけどなぁ…。
お賽銭入れて終わりでしょ?
まぁいっか。
小学6年生の僕達の門限は6時って言われてる。
詩織と穂波も同じ時間なのは、多分お母さん達が決めたんだろうなぁ。
ご飯の時間が7時だから、ご飯までに帰ってきてねってことなんだろうね。
真面目な僕や二人は門限を破ることがほとんど無い。
ごめん、嘘ついた。
僕は怒られるのが面倒なだけ。
そんな僕と二人は遊ぶから、結局間に合うって感じかな。
だから今日もそんなに遅くならないはず。
僕はただ待ってるだけ。
人が歩く風景を、ゆっくりと眺めるだけ。
曇り空の少し暗い中、蛍光灯や電球がキラキラ光って辺りを照らす。
見せ付けるようなクリスマスの光とは違う、ほんのりと温かい感じ。
普段見ないような、そんな光景だけで僕は十分楽しかった。
そんな中、僕は一瞬で惹きつけられた。
ぎょっとした、と言っても良いかもしれない。
「理熾君、どう?」
「似合ってるでしょ?」
僕はいつも通りの服に、寒くないようにダッフルコートにストール、手袋までつけてる。
なのに二人…詩織と穂波は可愛らしい着物。
だけど足元は二人揃ってブーツで、首元はいつものマフラーだった。
それでも凄く似合ってる。
「うん、びっくりした」
僕はそれ以外言葉が出ない。
だって本当にびっくりしたし。
いや、それより寒くないのかな?
あ、だから靴とマフラーなのか。
「どっちが良い?」
「怒らないから言ってみて」
「え…うーん…どっちも良いんだけど」
「「ダメ」」
「え゛…んー。
詩織はやっぱり可愛いくて、穂波はいつも綺麗だし。
二人とも良く似合ってるから順番なんて付けられない」
困りながらもそう答える。
少し心配になるけど、二人はガッツポーズをしていた。
何だろう…勝負でもしてたのかな?
この二人に順位つけるの凄い難しいんだよね…テストとは違うし。
テストでも二人が同じ点取ったら『どっちが賢い』なんて決められないし。
それってもう好みでしょ?
二人が凄いのは良く知ってるしさ。
「いこ、理熾君!」
そう言って手を引くのは穂波。
すぐに反対側の僕の手を取って詩織も「何食べよっか?」とか言ってる。
…ぁーそっか、二人もお年玉貰ってきたんだね。
二人に引かれて僕は鳥居をくぐって行った。
周りは大人ばかり。
子供も居るけど親子連れ。
僕達みたいに子供だけっていうのはほとんど居ない。
皆が皆、僕達を…いや、僕の手を引く二人を見る。
まぁ、二人が『特別』なのは今に始まったことじゃないし何とも思わないけどね。
それより何か起こらないかが心配。
二人は本当によく目立つ。
それに頭が良いから、周りの『子供扱い』を真正面から叩き潰しちゃう。
子供に「それは違うよ」って言い負けたら大人は立場が無いからね。
だから二人を知っている大人は『大人扱い』する。
二人が知っているかはどうかは関係なくて、誤魔化さないだけなんだけどさ。
知らないなら知らない、って答えないと納得するまで聞いちゃう。
適当なことを言って変なところが出てくると二人も混乱しちゃって余計に言い方がきつくなる。
『子供は知らなくていい』って言葉も、二人にとっては単に『何で?』となる。
逆に『15歳まで待ってね』とか、そういう返しだと納得するんだけどね。
それを知らない人がしてくれるはずが無いし、人が一杯居るところに行くと『そういうこと』が起きるからなぁ…。
そんなこと考えながら境内へと続く屋台で挟まれた道を歩いていると
「弟とか放っておいて俺達と遊ばない?」
「おいおい、鬼かお前」
と二人組みがけらけら笑いながら声を掛けてきた。
二人は背が高くて大人びて(老けてる訳じゃない)て、高校生と間違われることもある。
僕は背が低いし、『連れられてる』から弟だと思ったんだろうね。
だからこんな感じで声を掛けられるのも日常だ。
なのに
「遊ばないよロリコン」
軽い感じで声を掛けただけなのにこの仕打ち。
見下すような笑いであっさり返答したのは穂波。
綺麗な顔して出る言葉はびっくりするくらいに鋭い。
割と見栄えの良い顔をひく付かせて固まる二人組みは…お兄ちゃんより上っぽいから、多分高校生かな?
あ、顔は僕と比べてじゃなくて穂波と詩織の二人と比べてね。
それにしても穂波は意味分かってるのかなぁ?
見た目と年に差があるから『ロリコン』って言えるのかなぁ?
まぁ、年だけ見れば間違いなくロリコンだろうけどさ。
ぼんやりいつもの光景を眺める僕とは違い
「穂波ひどーい。
でもあたしもおじさん達とは遊ばないよ」
と追撃して火を注ぐ詩織の言葉も鬼だった。
きっと『おじさん』って年じゃないと思うんだけどなぁ…。
というか穂波のフォローじゃなくて追撃なんだね、うん。
それより何を二人はそんな怒って煽ってるのさ。
いつものことでしょ?
「お前等!」
声を掛けてきた方が怒って近付いてきた。
あぁ、これはまずい。
本当に。
見た目と力は全然違うんだよ。
それでなくても華奢な二人で、しかも小学生。
普通にやって勝てる訳が無い。
「理熾君助けて!」
「煽っといてそれは無い!!」
「ほらほら!!」
二人が楽しそうに僕の肩にしがみつく。
いや、逃げも出来ないってどういうこと!?
相手も勢い良く一歩踏み込んで来てるから、もうすぐ僕に手が届くよ!?
仕方なくさっと手袋を外して携帯を取り出す。
いつこんなことが起きても良いように仕込みはしている。
すぐに携帯画面を開いて突きつける。
「はぁっ!?」
相手はその突きつけられた携帯画面を見詰めて固まる。
そりゃそうだよね。
そんなの表示されてたら普通はびっくりする。
だからさ。
「ねぇ、周りをよく見てよおじさん」
僕の落ち着いた声と言葉を受けてはっと周囲を見渡す。
つかみ合いになりそうな僕達の周囲がぽっかりと空いていて、皆が僕達を避けている状態。
まぁ、こんな馬鹿みたいなことに首突っ込む人も少ないよね。
避ける方法は簡単。
相手を見て近寄らないこと。
逆に言えば騒動の様子を眺める『野次馬ばかり』ってことだよ?
「二人は僕の同級生なんだよね。
ねぇ、ロリコンさん。
これでもまだ二人に声を掛けるの?」
「っぐ…」
僕が突き出した携帯に表示されていたのは110が押された画面。
後は通話ボタンを押せばすぐに掛かる状態。
「それでも別に良いけど電話しますよ?」
そんなのを突きつけられれば動きは止まる。
一度止まれば僕の話を聞いて、周りを見渡せれば頭も冷える。
馬鹿ならそのまま突っ掛かってくるから、その時は屋台に逃げ込んで宣言通り通報すれば良い。
どっちが悪いかなんて明らかだし、年の差を考えても絶対勝てる。
ほら、目撃者も一杯居るしね?
「おい、行くぞ」
「くそっ!」
二人は悪態を付いてどっかに行っちゃった。
ふぅ…やっぱり二人と居るとこうなるんだよね。
とりあえずあの二人組に遭わなきゃ良いんだけど…。
「さすが理熾君~!」
「ほんと頼りになるよね!」
「………」
僕はじとーっと二人を見たけど、気にせずきゃっきゃとはしゃいでるだけ。
何でわざわざこんなことさせるんだか。
はぁ…周りの目も冷たいしさ。
新年早々何してるんだろう?
さっさと場所を移動してお参りしてこよう。
終わったらお昼ご飯を屋台で食べれば良いかな。
元々目立つ二人がこのままここに居たら他に何に巻き込まれるか分からないし。
そう思って今度は僕が二人を引っ張っていく。
…自分でも何だか『お姉ちゃんを引っ張る微笑ましい光景』に思えてきたよ。
まぁいいか。
境内へと入ると人の数はもっと多くなった。
『賽銭に並ぶ』って変な話しだよなぁ…?
「詩織も穂波もお賽銭持った?」
「うん」
「いくらにしよう?」
「5円で良いんじゃない?」
「そうだね」
「うん、そうする」
賽銭箱に放り込み、拍手を打つ。
ちゃんとしたやり方なんて知らないけどね。
祈る内容は…『面白いことに出会えますように』。
他力本願だって?
いやいやこういうのは『神頼み』に限ると思うんだよ。
だって運勢を占うためにくじ引きもするんだしさ。
「さって、くじ引きして屋台だね」
「うん。
それより理熾君何お願いしたの?」
「そうそう、気になるよー」
「そっちこそ何お願いしたのさ」
「「秘密ー」」
「だよねー。
って、それなら僕も同じだよ」
「っちぇ…」
「しけてやがんなー」
「口悪っ!?」
「あははー」
そんな会話をしながら社務所(だったっけ?)に歩いていく。
もう人の流れもそうなってるから、付いていくだけで良い感じ。
こんなところで流れに逆らっても転ぶだけだしね。
あ、おみくじ100円で引かせてくれるんだ…子供用?
そんなのもあるんだね。
開けてみると
---+---+---+---+---+---
【末吉】
《勉強》
がんばりすぎないこと
やる気を無くさず、つづけましょう
《健康》
体力を付けるのにいい年
いろいろためしてみて
《恋愛》
意外な人に好かれそう
《さがしもの》
みつからず
あきらめずに探してみて
---+---+---+---+---+---
「す、末吉…超残念ッ!」
「あはは理熾君らしいね!」
「うんうん!」
「二人はどうなの?」
「ふふ…私はやっぱり大吉!」
「あたしもー」
「ぐぬぬ…」
「「ふふふ」」
二人に勝てると思ってないけどさ。
運試しでもこれだしなぁ…困ったもんだよね。
そういえばおみくじって気に入るまで何回でも引きなおして良いとか聞いたっけ。
まぁ、お金もったい無いだけだから僕は末吉で良いんだけどさ。
境内から出て屋台を回る。
二人が着物だから、『たれるもの』はダメかなと思ってたのに、穂波はたこやき、詩織はクレープ。
穂波、ガッツリ零しやすいものを選んでんじゃん!?
いや、そんな失敗するとは思えないけど…ほら、予防的なものとかないの?
それと詩織。
生クリームとかチョコソースとか零すって…僕が。
というかお昼ご飯代わりなんだからクレープは後にしようよ。
二人とも知らない間に買ってたんだけどさ。
そんな僕は焼きそばを持ってる。
うん、美味しいよね焼きそば。
家とかお店で食べてもそんなことないのに、屋台で食べると何故だか。
たまたま空いてたベンチに、僕が巻いてた厚手のストールを敷いて座る。
二人は「ありがと、理熾君」って喜んでくれた。
ストールは洗えばいいけど、着物は汚れちゃダメだからね。
こういうことするためにお母さんが僕に巻いてくれたんだよきっと。
いつもはマフラーだし。
それぞれ買ったものを三人で変わりばんこに食べる。
あ、キャベツ落とした…。
くぅ…何で僕ばっかり!
緊急回避で服は無事だけどさ!
「あ、理熾君。
私焼きそば食べたい」
「じゃぁあたしのクレープあげるね」
って詩織が笑顔で渡してきた。
でも僕、間にクレープとか嫌なんだけど…。
いや、もう断れないよね。
「うん、ありがと」
返事をしている間に穂波のたこ焼きは詩織が持ってた。
焼きそば、クレープ、たこ焼きかぁ…。
すこしぐったりするけど美味しいことには変わりない。
満腹まではいかないけれど、後はちょっとしたものだけにしよう。
屋台を見ながら神社を出て行く。
間でわたあめ、いちご飴、フランクフルトをそれぞれ買って交換しながら食べる。
落とさないように気をつけて。
今度はわたあめ、フランクフルト、いちご飴の順番で食べる僕。
ちょっと待て。
何で今フランクフルトなんだよ詩織!
さてはお前等、確信犯だな!?
ものめずらしい屋台を見て、くじびきとか射的、輪投げに釣られつつも我慢して歩く。
二人なら輪投げだと良い線いくと思うけど、最初から目立ってるのに一等とか取ったら後が怖すぎるからね。
鳥居を出る少し前に「なぁ」と呼び止められた。
あ、また二人のナンパかな?
「さっきはよくも…」
「さっき?」
首を傾げながら僕は思い出す。
あぁ、さっき二人が煽った高校生(仮)。
思い出した辺りで詩織と穂波が僕に寄った。
今度は煽りじゃなく、本気で引いてる。
そりゃそうだよね。
んー…どうしようかなぁ?
『小学生に言い負かされてやり返しに来る高校生』の対応とか分かんないんだけど…。
「なぁ、やめとこうぜ?
馬鹿なことすんなって」
「うるっせ!
俺はこいつ殴んないとおさまんねぇ!」
「…小学生相手に熱くなんなよ。
いくら子供でも捕まるっての」
穂波にあしらわれた方が熱くなってるのを何度か止めたのかな?
いい加減面倒そうにしてる。
んー…とりあえず一回殴られれば二人無事かなぁ?
それならそれで別に良いんだけど…。
「理熾君に何する気?」
と詩織が庇ってくれるけど、それきっと逆効果だからね?
穂波も僕の腕をぎゅっと引き寄せて
「何かしようとしたら反撃するから」
とか脅してる。
いやホントやめてください。
女の子二人に守られる僕、ってのもなかなかひどい絵だけどさ。
女の子に庇われてる僕相手に本気になってる大人って…世の中大丈夫かなぁ?
「だからやめとけって」
「どけよ怪我するぞ」
「ほら、お前等もさっさと行ってくれ」
言われるままに二人を引っ張って鳥居をくぐる。
そのまま僕はコンビニに入って少し休憩。
着物は目立つしね。
んー…でもこのまま帰ったらもしかすると家まで来ちゃうかもなぁ…?
よし
「んじゃ二人とも。
今日はここでお別れしようか」
「ヤダ」
「イヤ」
即答かよおい…。
仕方ない、それなら巻き込もうか。
「………はぁ。
んじゃ手伝って?」
「「うん!」」
即答ってお前等…。
これで僕が殴られて終わりってのは無理になっちゃったなぁ。
そんなこと知ったら二人が暴れちゃうし。
「なら鬼ごっこでもしようか」
「いいねー楽しそう」
「うんうん」
「でも走れるの?
着物でしょ?」
「んー上げれば余裕?」
「うん、ちょっと寒いけどさ」
それだけなんだ。
恥ずかしくないのかなぁ…まぁ、着慣れない服だし良いのかも?
「んじゃ場所の説明ね」
そう言って僕は携帯の地図アプリを開いて、目印を置いて説明を始める。
「こうしてこう、リレー的な?」
「あー、良いんじゃないかな」
「でも向こうの方が足速いんじゃないの?」
詩織も穂波も僕の話を頷きながらも直していく。
分からないところも聞いてくれるし、僕より頭が良いから考えるのも楽。
「僕は負けるかもしれないけど、二人が追いつかれるとかありえない」
「信頼されてるっ!」
「頑張らないと!」
「でもまぁ、危なかったら叫べば良いよ。
二人なら目立つし、追っ掛けてる方が絶対悪者に見えるからね。
正月だから皆家に居るし、さすがに家の前で叫び声したら窓くらい開ける」
僕らは何にも悪くない訳だしね。
「理熾君相変わらずだね!」
「うんうん、こういうの凄いよね!」
「いや…二人がやるって言うからでしょ…?」
「だってそうしなかったら理熾君謝りに行くでしょ?」
「そうそう、私達悪くないのに」
「むぅ…」
バレてる…何でこんなに察しが良いんだろう。
いや、僕が勝てるなんて思ってないけどさ。
今に始まったことじゃないし、気を取り直して。
「それじゃ、がんばろっか」
「「うん!!」」
そう言って準備を始めた。
正月から変な小学生がこんな話して、やり返す準備までしてごめんね店員さん。
内心そんなことを思っていると二人が着物の前を広げて、裾の先を帯びに突っ込んでトイレから出てきた。
普通なら何だか変な格好なんだけど、二人がすると単に着崩してるだけで可愛く見える。
素足…じゃなくて二人とも黒いタイツにブーツを履いてるから余計に。
でもうん、寒そうだね。
これもあるし嫌だったんだよなぁ…。
準備が出来た僕は携帯で時間を見て、まずは全員でコンビニから出た。
うっわぁ…間が悪い。
何で丁度あの人居るかなぁ…?
「にげろー!」
「きゃー!」
「わー!」
僕が掛け声(?)を上げると、二人は僕とは別々に走り出す。
これで絶対に僕を追いかけて来るはず。
「待てッ!」
やっぱりね。
でも最初から全力なんてダメだよ。
すぐ追い付けるなら別だけど…この辺りを走り回ってる僕達より道を知ってるの?
もし知っててもそれは『最新情報』じゃないでしょきっと。
僕はさっと横道に逸れて、角で折れ曲がり、茂みを突っ切る。
破れたフェンスをくぐって、塀を登って壁に挟まれた細い路地を駆けていく。
距離?
うん、実は全然走ってないよ!
僕は短い距離の障害物競走が得意だからね!
後ろを見ると少し離してた。
うーん…他はともかく、やっぱりフェンスは上るしかなかったのかな。
僕も本気で走ってるから、息も切れてる。
この辺で詩織にバトンタッチ。
そっと違う道に入り込んでやり過ごすと、少し先で「キャーきたー!」と叫んでる。
「ま、まてっ!!」
うん、そうなるよね。
それにしても大人なのにごい(っていうんだっけ?)無いなぁ…。
これをされると追っ掛けて止めるか逃げるかしか出来ない。
それに『追い掛けてる状態』からいきなり切り替えられる心の余裕なんて無いよね。
僕を追い掛けるのに必死で、もう結構疲れてるしさ。
まぁ、どっちでも『悪者確定』なんだけどさ。
それじゃ僕は次に行こうかな。
詩織はいつも通りゆうゆうと穂波に繋ぐし、穂波もらくらく僕の前に相手を連れてくる。
離さないし、近付かない。
上手に距離を取って大人(笑)を連れまわす。
二人はそれぞれ誰かに繋ぐ時には、年寄りが居る家に玄関から入ることで逃げ切る。
だって『家に帰った相手を追い掛ける』とか、頭おかしい人だしね。
僕達は悪くないから、家族に文句も言えないはずだし。
着物の高校生に見える二人は入ったらすぐに裾を下ろして、「すみません、夜須旗神社へはどう行けば良いですか?」って道を聞く。
正月に道を聞くって良くないかもしれないけど…まぁ優しく答えてくれると思う。
おかしなところはないし、二人は可愛いからね。
さて。
もう走りに走ってくたくたな大人に見付かった僕は、ゴールに向かう。
「明けましておめでとうございます」
「おや、御巫さんのところの…理熾君か。
明けましておめでとう。
わざわざうちに挨拶に来てくれたのか?」
「うん、今前を通ったからね。
今年もよろしくお願いします」
「そうか、ありがとう。
こちらこそよろしくお願いするよ」
お互いに笑顔で新年の挨拶をする。
家主のおじさんは少し言いにくそうに
「わたしはそろそろ出掛けるんだが…」
「うん、お邪魔しました。
僕も迎えに行かないといけないから帰ります」
そう言って玄関を出ると、正面に例の人が壁に背中をもたれかけて息を整えていた。
睨むように僕を見るけど、一緒に出てきた人を見て硬直しちゃった。
そりゃそうだよね。
僕が目指して今居るのは警察官をやってる人の家。
「正月から仕事だー」って言ってたから、時間を合わせて入ったんだよね。
たまたま聞いてて良かったけど、お正月に仕事…しかも3時っていう微妙な時間だと嫌になるよね。
あ、ちなみに今は2時半ね。
玄関扉を開けて中に入ると丁度出掛ける支度をして出ようとしていたところだった。
いつも車で出掛けてるから警察の帽子を手に持って、制服で乗り込むんだよ。
「ん?
どなたかな?」
「あの人はね…」
僕はちらりと向こうを流し見る。
ふふ…息は整ってたよね。
でも凄く浅くて早いよ?
走ってかいた汗も引いてたんじゃないかな。
なのにそのおでこに光る汗は冷や汗かな、脂汗かな?
落ち着いた心臓がバクバクしてないと良いなぁ…無理だと思うけど。
「知らない人だよ。
それより遅刻しちゃうよ!」
「おぉ、そうだった。
それじゃ行って来るよ。
理熾君も遊びに行くなら気を付けてね」
「うん、いってらっしゃーい」
車に乗り込む警察官のおじさんに僕は手を振って送り出す。
門を出て、硬直している大人(笑)に近付く。
何でそんなにおびえているの?
おかしな話だよね。
自分が正しいことしてるなら全然大丈夫じゃない?
「しつこいと、言っちゃうよ?」
僕は耳元でそんな風にささやいた。
するとがっくりと項垂れるようにうずくまってしまった。
こうかはばつぐんだ!
夜須旗神社で即座に『110番』を持ち出す子供。
周りを見せて頭を冷やさせて身を守って、周辺地理を良く知っている。
ここに来るまでさんざん走らされて疲れていて、さっきまで息を整えていたところ。
そこに今一番会いたくない警察官に会って、びっくりして追い詰められてる。
そんなに色々重なったら…気が抜けたのと、恐怖で膝から崩れ落ちるよね?
全部合わせて考えれば、『お父さん』だと勘違いもするんじゃないかな?
ま、僕の家は三軒隣なんだけどね。
「二人にも手出ししないなら良いけどさ」
続けて言った僕の言葉にがくがくと頭を振って走り出す。
おー…元気だなぁ。
まだそんな体力あったのかぁ…やっぱり大人って凄いねぇ。
思わずひらひらと手を振りながら見送る。
さてと…二人を捕まえて送っていかないと。
僕は早速携帯を取り出して電話を掛けた。
携帯ってホント色々と使えて便利だよね。
・
・
・
「「助けてくれてありがとう理熾」」
集合場所を決めて集まって、初めて言われた言葉がそれ。
僕は「うん、そう思うなら次はしないでね」と絶対に無理だと思うおねがいをする。
多分すぐに同じようなことさせられると思うけどね。
って、アレ?
急に『君』が無くなった?
「『理熾』?
いきなりどうしたの?」
不思議に思って僕は聞いた。
視線を僕と合わせずに穂波が「え、うーん…何となく?」と言えば、詩織もきょどりながら「ダメかな?」と聞いてくる。
二人が急によそよそしくなって気持ち悪いです。
でも答えは決まってる。
「良いよ。
詩織も穂波も僕の事をこれからは理熾って呼んでね」
「「うん!
今年もよろしくね理熾!」」
今年も年明けからハードだったなぁ。
そんなことを思いながら僕の一年最初の日は過ぎて行った。
あ、そうそう。
やっぱりこの初詣は仕組まれていて、僕だけが知らなかったみたい。
詩織と穂波はそれぞれのお母さんに『いいよ』って言わせて、しかも着物まで着せてもらう約束もしてた。
僕のお母さんは二人が僕の家に来るより前に知っていて、嬉しそうに『二人が居れば安心』とかって言って送り出した。
うん、良く考えればそうでなくちゃマフラーがストールに変わってるはず無いよね。
後で聞いたんだけど「マフラーだと一人しか使えないけど、大きなストールだと皆で使えるでしょ」だってさ。
お母さんは『敷物にする』じゃなくて、『肩とか膝に掛けて使う』って思ってたみたい。
寒いからね。
それにしても何かおかしいと思ってたんだよねぇ…。
そだ、言い忘れてた。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
でもこれ、皆が唱えてるから呪文みたいに聞こえない?
お読み下さりありがとうございます。
それにしても相変わらず二人は高スペックで理熾は付いていけません。
というよりブンブン振り回されている感じですね。
ちなみにタイトルは『小学生最後の元日』という意味ですので、特にこれから転校するとか、死ぬとかじゃありません(‘‘
本年もよろしくお願いします。




