表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
246/537

獅子猿

俺がライムを見たのは疲労の程度を観察するため。

昨日歩いた最初の一時間ように悪路じゃなく、快適性を求めて《障壁》を歩いたので元気に見える。

貴重な魔力を『戦力温存の(疲れない)ため』とはいえ、消費することに一切の躊躇の無い主人(マスター)のお陰か。

この分ならライムも全く問題無いだろう。

余りにも単調な状況で、ようやく訪れた『気晴らしの機会』だ。

せっかくなのでちょっと運動としゃれこもうじゃないか。


俺の【群雄割拠】は過不足無く全員に行き渡っている。

面白いことに妖精のリコと魔物であるオレガノにも補正が掛けられるらしい。

まさか人以外にも使えるとは思っていなかった。

確かに主人が言うように、スキルってのは『使いこなしてこそ』という訳だな。


そんな主人達は既に森の彼方だ。

【群雄割拠】の補正者として捉えてはいるが…何とも素早い動きだ。

ものの10秒程で既に50、100mと視界の悪い森の中を突っ切っている。

恐らく《障壁》の足場を利用しているだろうが、ほとんど音も立てずに…だ。

特化能力なら俺達にもまだ分があるが、やはり総合能力や対応力という点で主人には誰も勝てなさそうだな。

『器用貧乏』とはよく言ったもんだよ全く。


っと、30m先の相手の斥候がようやくこちらに気付いたようだ。

斥候の癖にあの様子から見ると、うちの主人には気付かずか。

斥候相手に素通りするとか…全く、うちの主人は嫌になるほどの器用貧乏(優秀)だ。


反動を付けて木にぶら下がり、次の枝へと飛んで立体的に、それもなかなかの速度で近接してくる。

どうやら俺達の排除を決断したらしい。

が、それは悪手というもんだ。


(ライム潰せ)

(おう…2、1、ゼロ!)


【以心伝心】によるライムの秒読み(カウント)に合わせて一歩前に出る。

これだけで獅子猿共は俺に注目し、警戒する。

頭が良いからこその反応だが…残念ながらそれも想定内。

その瞬間には木々を飛び伝って移動してきた、空中を舞う3体の獅子猿達はライムの形成した重力場に囚われた。

倍率の設定は5倍。

全く重力の違う空間へ飛び込み次の木に手が届くはずも無く、そして体勢を整える暇も無く、地面へと勢いよく墜落した。


一瞬の視線誘導で囮役を終えた俺はそのまま前へと出る。

踏み込みと同時に掛けた【群雄割拠】は俺の身体を獅子猿の元へと運ぶ。

なるほど、【群雄割拠】(これ)は他人に掛けるより遥かに使いやすい。

何より『強化部位』を選択出来るのは大きな強みだ。

全身を覆う補正は制御が必要なく使い勝手が良い。

だが一時的に部位に補正を集中する方が結果的に大きな力になるし、【魔闘技】との併用も出来る。

俺のスキルなのに主人に指摘されるまで気付けなかったとは赤っ恥だな!

まぁ、この使用方法…多分<指揮官(コマンダー)>と<戦略家(タクティクス)>を持って、魔法を装填(ストック)する俺くらいしか出来ないけどな。


重力に潰され、身動きが出来ないにも関わらず、近接する俺を睨み付ける眼光はなかなか鋭い。

地面に伏せて「ぐぎぎぃ」と呻く姿は哀愁を漂わせるが、敵は敵だ。

視線を合わせる必要も無く、近付く俺に合わせてライムは【重力魔法】を解除。

フィリカが『手入れはしろ』と言った盾用の剣(・・・・)を鞘から引き抜き、切りつける。


立ち上がろうと必死になっていた身体が重力から解き放たれて跳ね上がった瞬間、俺の剣が滑るように通過する。

何の抵抗も無く首を飛ばすと残り2体が瞬時に逃走に切り替えたらしく、跳び退がる。

その判断力には大いに感心するが、距離を取れば…ほらみろ、ライムが逃がさんよ。


俺から離れた瞬間、改めて重力に引かれ、またも地面に激突する。

流石に硬い地面に5倍の重力で落とされ、潰されれば痛いだろう?

二度の衝撃で脳を揺さぶられてふらつくだろうことすら俺等の手の中だ。

というか急激に変わる重力に耐えられるのはそうそう居ないからな。

二連続でそんな魔法を受ければ叩き付けられなくても気分が悪くなるもんだ。


後は1体目と同じ工程だ。

近付いて首を落とす。

抵抗するなら足を、次に腕を。

武技すら必要ない、確実な殺害方法。

相手の戦力を削ぎ、行動を限定し、確実な殲滅を行うだけ。

主人と離れてから数分で終わってしまった。


まぁ、獅子猿程度ならこの程度だろう。

獅子猿のランクはF。

低級の風属性の魔法を操り、距離がある場合は魔法。

近接すれば木々を渡る、その腕力を揮って攻撃する。

ランクが低いことから分かる通り、低級ながら扱う魔法にさえ気を付ければ大したことはない。

そもそも魔力も多くないから、何度か回避か防御をすれば枯渇して結局殴りかかってくるしな。


群の大きさでDランク扱いになるらしいが、俺達にとっては障害物ですらない。

だからこの程度の相手にそこまで必要ないと思うだろう?

だが、『それでもやる』のが鉄則。

『あの時こうしていれば』という言葉を使わないためのな。


(敵が40ほどなんだけど先にやっちゃって良い?)


俺達の戦闘が終わった直後に先行していた主人からそんな報告を受ける。

待てコラ。

それ普通に大群だからな?


(俺達もすぐ追い付くから少し待てよ)

(…あ、ダメ。

 誰か襲われてるから乱入するよ!)


この会話はライムも聞いている。

振り向くと首を振って『言っても無駄だ』というようなジェスチャーをする。

語るまでも無いってことかよ…。

まぁ蠱毒を抑えた主人にとって40くらい数ですら無いか。

危なくなれば投剣飛ばせば大概何とかなるし、何とかならない時用に血魔石(ブラッディコア)持ってるしな。

主人の行動を曲げることは不可能と判断して(分かった)と了承する。

だが条件付だ。


(こっちもすぐに向かう。

 それと他人より自分の身を優先でな)

(あーい)


あぁ、もう…相っ変わらず緩いなぁ…。

分かってんのか、あのガキんちょは。

敵対ってのはただ危険性を増やすだけで、弱いとか強いとかは関係ない。

勝利条件の最高峰は『戦わないこと』なんだぞ?

見て見ぬフリしろとは言わないが、もう少し何とかしろよ…。

そんなことを考える俺の表情から思考を読み取ったのか、ライムは


(残念なことに主人は解決(どうにかする)力があるからな。

 こっちがいくら諭してもその辺はもうどうにもならん。

 だから逆に一度『絶対に無理な状況』に置かれたら退くことも覚えるんじゃないのか?)


などと言う。

なるほど、一緒に蠱毒を走っただけあるな。

つーか、通常の魔物が起こす蠱毒以上の生命の危機って何なんだ?

竜種(ドラゴン)の大群にでも遭遇すりゃ良いのか…?

いや、それだと逆に無理過ぎて立ち向かおうとも思わんな。

うちの主人の性格矯正に役立つ事件ってのは無いもんかねぇ…?

いや、そもそも事件とかいらないんだがな。

まぁ、良い…とりあえずさっさと行こうか。


(ライム、急ぐぞ)

(了解、|《脚力強化》《レッグブースト》を掛ける。

 後、【重力魔法】(とっておき)も使うから転ばないでくれ)


(説明は道中で頼む)

(おう、すぐ掛ける)


ライムが『とっておき』と言った方法は、重力の倍率を下げて移動すること。

まさに跳ねるように走れる現状を思えば早くて爽快だ。

が、この目測に対して着地の違和感は速い戦況では混乱しか招かん。

ただし移動時には十分な効果があると考えて良いだろう。

そんなライムの魔法の使い方を目の前にして俺は溜息しか出ない。

『主人と関わると変な使い方が板に付く(・・・・)』と。



理熾がネーブルに黙っていた…いや、伝えなかったことがある。

一つは最初から少し遠くで小さいながら戦闘音を感じ取っていたこと。

もう一つはそれなりの数が居ることを理解して急いで突っ切って来たこと。

伝えたところでやることは変わらないし、急ぐ必要があったので省略した。

乱入する際には一言添えるが、まずは状況の確認をと斥候としての役目で走った。


目の前に繰り広げられている光景を何と表現して言いのだろうか。

多くの獅子猿が群がり、『誰か』に敵対している。

これだけの数に囲まれも生きながらえている理由は、周囲に横たわる獅子猿の死体が物語っている。

『誰か』は既に十数体を屠り、未だ健在と言うわけだ。

でなければ一箇所に集中している理由が分からない。


理熾は『違う気配』を探すべく、周囲に満ちる獅子猿の気配を排除する。

【直感】(シックスセンス)を併用した探査能力は、獅子猿の気配に塗り潰されている一角に『誰か』の微かに漂う気配を捉えた。

その感覚を元に一気に気配の情報を引き出す。


『誰か』は群れの向こう側に位置している。

『誰か』から伝わる動きの気配は、獅子猿への対応のためか激しく動く。

『誰か』の息が荒く、酷く疲労しているよう。

『誰か』が踏み締める足が不定期に揺れることを思えば傷も負っている可能性もある。


数に対して下がりながら対処し、なおかつ結構な数を倒しているのは確か。

けれどいくら十数体を倒していたところで、そのまま残り数十もの数を蹴散らせるとは思えない。

以前のように問いかけることなどせず、理熾は即座に介入を決断。

すぐにネーブルへと【連携】を通じて報告し、行動を開始する。

『手遅れ』などにはならないように。

お読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ