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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
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ポルンの生態

フィリカ製のテントは個人部屋が三つもあるため、全員が個別で使えて想像以上に過ごし易い。

ネーブルとライムに関しては普段の四人部屋から個人の部屋になったのだから、開放感は理熾の比ではない。

更にベッドには理熾の服にも使われている布を使用。

いや、糸を使うモノは全てフィリカが糸から作成した自家製である。


魔力の導線代わりの役目がある銀鎖糸(ぎんさし)はほとんど使われていないが、他の機能は万全だ。

【最適】を初めとした各種の快適特性がふんだんに使われており、その辺に転がるだけで睡眠欲を掻き立てられる程である。

だがそれらの特性を引き出す際には魔力を必要とするため、テント内部で必要な魔力量は異常に高い。


理熾達のように快適性に注げるだけの魔力を持てば良いが、普通はそうはならない。

パーティ内最低であるレモンの魔力量ですら一般的な魔法士の魔力量と同等か、少し上程度を持っているのだ。

ちなみに今のところスミレはレモンよりも少し多い程度だが、未だLvが低い上にスキルを習得する可能性が高く、将来を考えると魔力量は期待出来る。

むしろその程度の魔力で遠距離渡航を可能としている技量と、瞬間的な出力を褒めるべきである。


また、魔力量の少ないレモン、スミレ、ハッサクが同じテントに入ることになったのは班分けのためだけではない。

現にネーブルは一時的な配置換え…つまりライムとレモンを入れ替えることを提案していた。

しかしそれに待ったを掛けたのは理熾。


「えー、せっかくだから寝てる時も魔力を鍛えた方が良い(・・・・・・・・・・)よ」


とのこと。

使えば使うほどに能力値は強化される。

つまり『ギリギリの搾取量』であれば、それだけ全力を振り絞った訓練と同じ意味となる。

理熾は日常的にノルン作成の吸魔・吸命の装備を身に着けている上にリコに魔力を吸われている。

これと同じことをしろ、との意見だ。

ついでに


「魔力が無ければ魔法薬を飲めば良いじゃない」


とブルジョアな言葉を言い放って周囲を呆れさせた。

しかし金で一生使う能力値が買えると思えば安いという意見にはネーブルも思わず同意してしまった。

こうしてとんでもなく楽な修行が理熾周囲で広まっていくことになる。


そんな訳で。

フィリカの作るものは基本的に過剰能力(オーバースペック)で使い手を選ぶが、その分性能は保証されている。

理熾達はテントの中に二人以上(つまり一般の魔法士レベルを二人より多く必要)が居れば快適に過ごせる空間を手に入れられた。

ありがたい話である。

ちなみにただの一般人だと最低でも10人は必要で、しかもそれはテントを維持するだけである。

空調・水・熱・明かりなどを使うには更に魔力が必要なので、やっぱり現実的では無かったりする。


閑話休題(それはさておき)

相変わらずの五里霧中な状況下。

たった2パーティにも関わらず、捜索範囲は数十人規模の山狩りと同等の範囲を網羅した。

それでもなお一切の痕跡を見付けられないのだから、周辺にはいないと考えるべきかも知れない。

一直線に歩けば倍以上の距離が稼げるから仕方ないが。


そして朝食は夕食とは違い全員で取った。

今朝も外で食べたのだが、料理はせずに理熾とスミレがそれぞれ《亜空間》から朝食を取り出して配った。

相変わらずあけみやの食事は美味しい。


「とりあえず捜索期間を決めよう」


そう提案したのはネーブルだ。

実を言うとネーブルは、最初はちょっと行って戻ってくれば良い程度に考えていた。

しかしこの面子…というか二人の<空間使い(ディメンショナー)>のせいで驚くほど快適に野営が出来る。

衣食住がほぼ完全に揃っているので大して苦にならないのだ。

故に当初の『疲れたら見切りを付けて帰る』的な緩さの考えはありえない。

何が言いたいかと言えば、食材や消耗品の補充さえ出来ればこのテント生活を一・二ヶ月…果ては一年でも平気で続けられてしまう。

よって適当な期間で打ち切らないと、後は泥沼と化す可能性が出てくる。


「目標は既にダダ村を出発して三日になる。

 だから今日も含めて残り四日…一週間を目処にと考えていたが…」

「が?」


「そもそも俺達みたいにそこまで物を持ち運べるわけじゃない」

「あぁ、そうだね」


相槌を打つのは理熾だ。

周りの面々もその辺りは昨日の夜の時点で話を進めていたらしく、一様に頷く。


「フィリカ製の服に付いている《拡張空間》の容量は大体で大き目の鞄一つ分ほど。

 そこに必需品である装備や整備用具、多少の薪、寝袋などを入れると食料は大して入らん。

 そうだな…干し肉と干しパンみたいな質素なもので大体2日分ほど。

 水も少量持ち歩いていると考えてもそれくらいが妥当だろう」

「ならもう食料がない?」


「そうとも限らないのが面倒なところだ。

 食料用の荷物袋を別に持てば単純に倍以上になるからな。

 要は『荷物』としてどれだけ持ち歩いているかが問題だ。

 だから補給無しで最長一週間と見ていたんだが…『往復』を考えれば食料の持ちは半分になる」


食料を多く持てばそれだけ長期間の探索が可能。

だがそこに新たな要素が加わると途端に期間が短くなる。

スミレが不思議そうにしているのを補足する。


「単純な話だ。

 一週間分の食料があるからと、一週間の全てを『探索』に当てられるはずが無い。

 出発した段階から様々な消耗が始まり、尽きる前に次の補給場所に到達しないと破綻する。

 つまり目標もそろそろ折り返していると考えられる。

 逆に言えば明日までに見付けられないなら、一度戻った方が賢明だ」


ネーブルはそう言って期間を区切る提案をした。

単純に探し続けることは出来るが、それに意味があるのかというのも含まれている。

理熾が奴隷達を使うのは『主人の権利』だが、カルロがネーブル達を使うのは話が違う。

ネーブル達は別にカルロに仕えている訳では無いのだから、無駄な努力などしたくは無いのだ。


「なるほど。

 どっちにしても五日で折り返してないなら餓死の可能性が高いってことだね」

「そうなるな。

 間で魔物でも狩って補給してるなら何処かで形跡があるだろうしな。

 後、今から一度ダダとアインに戻って情報収集した後、改めて探索を推す」


「入れ違いを考えて?」

「そうだ。

 せっかくある機動力を使わない手は無い」


「分かった。

 それじゃスミレ、それぞれに《転移門》よろしく。

 ハッサクは一人、ネーブルはスミレ連れて行って。

 時間は一時間ってことで。

 こっちはこっちで片付けとか色々しとくよ」


時刻は8時。

あっさりと一時間を過ごし、集まるもやはり戻っては居ないらしい。

森に居ることを確認して再出発を行う。


「それじゃまた後でね。

 今日見付けられるように頑張ろうか」


理熾の言葉で出発した。

森の探索は相変わらず順調である。

むしろ昨日・今日と魔物が一切出てこない。

アルス周辺を思うとこの平和すぎる状態が気持ち悪い。

ただ、半日程の探索の末に野獣は出たのでオレガノの戦いぶりを見るために狩ることにした。


「オレガノ、あの猪(あいつ)食べて良い(・・・・・)よ」


服の《拡張空間》から這い出したオレガノへの指示はこれだけ。

ポルンの戦闘と言うのがどういうものなのか知らないからだ。

ネーブルとライムは興味深そうに『ポルンの狩り』を眺める。


服からずるりと地面に降り立ち、音も無くするすると体液を延していく。

【隠密】などの気配を殺すスキルを持たないにも関わらず、その透明な歩み(?)は目を凝らさないと分からないくらいだ。

猪はフゴフゴ荒い息を立てながら周辺を嗅ぎ回っては土を掘り返して食事中。

オレガノには一切気付いていないらしい。


さらに体液を延長し、猪から半径5m程の距離を取ってぐるりと囲った。

上空から見ればネットの張っていないテニスラケットのような形だろうか。

時間にして数分だが、30m程度の距離をこんなにも掛けて移動することを思うと物凄く遅い。

流石に最弱カテゴリーの魔物である。


(ねぇ、これ大丈夫だと思う?)


少し心配になった理熾はネーブルへと【連携】で呼び掛ける。

首を横に振りながら(さぁ? そもそも『ポルンの狩り』なんて成功率低いはずだぞ?)と返すに留まった。

そう言われてしまえば仕方ない。

少なくとも失敗までは見届けようと思った時、猪がようやく異変に気付いたらしい。

「フゴー!」と警戒を示して周囲を見渡すが、透明な体液は見えにくい。

そして既に包囲されている現状、どう足掻いても突っ切るしかない。


理熾達も変わり行く状況に注目しながら見ていると、猪が駆け出した。

初速からなかなかの速度でスタートを切った猪は勢いに任せて突破を試みる。

瞬間


バクン


と音が聞こえそうなくらい綺麗な半球状に体液が迫り上がって猪の周囲を包む。

今までの緩慢な動きとは比較にならない急激な動きに理熾達は驚きつつも、『あの体液の薄さでは突破される』と考えていた。

一瞬の動揺を見せながらも猪は突っ切ろうと勢いよく体液へと激突する。


トパン


と柔らかいボールが割れたような音を立ててあっさりと体液を突破される。

理熾達が『あーあ』という思いを持ったのは仕方ないことだろう。

だが突破を許した箇所に次の瞬間、猪を囲っていた全ての体液が収束し、改めて


ビタン


という音を立てて猪をゼロ距離で捕獲。

…いや、最早体液の中に取り込んでしまっていた。

猪の足も地面から浮かすように取り込んでいるため、走って逃げることすら適わない。

猪はジタバタと暴れるが何をしても無駄。

すぐに窒息の憂き目に遭うのだろう。

その光景に諦めていた理熾達は改めて驚く…が、それでもまだ早かった。


「ヒュ」という音と共に、猪が捕獲されている30m先に、核が吸い寄せられるように瞬時に移動した。

捕らえた獲物を強固に縛るために体液と核との距離を詰めたのだと気付いた時には消化が始まっていた。

毛皮の表面が焼かれるように消化されていく光景が繰り広げられ、数秒後には皮膚が、更に数秒で肉へと到達。

ものの1分程で猪は文字通り居なくなった(・・・・・・)

スフィアにおいて巨体と言うほどではないが、それでも1mを超える体格の猪がだ。


普段と同じ30cm程のサイズに戻って悠々と帰ってくるオレガノを見て、理熾達はぽかんとするしかない。

オレガノの移動速度は確かに速くは無いが、既に身体の一部が存在している場所であれば瞬時に収束出来る。

【膨張】と【収縮】の併用なのだろうが、【収縮】が思っていたよりもえぐい効果を持っているらしい。


「オレガノお疲れ。

 普通の猪だから魔力とかそんなに無かったよね?

 これで口直しでもして…って、食べれないなら良いからね」


そう言って取り出したのはやはり蠱毒で原型が無くなった謎肉である。

《亜空間》からぽんと吐き出された肉は地面に落ちる事無くオレガノがキャッチし、消化してしまった。

満足したのかどうかは不明だが、心なしかつやつやしている感じがする。


(ましたー、何か来るー)


オレガノの観察に夢中になっていたところに、リコが緩い思念を飛ばしてくる。

一時的に渡していた【索敵】に何かが引っ掛かったらしい。

即座に返してもらい、【直感】(シックスセンス)を併用して『何か』を探る。


「ネーブル、ライム。

 数は3、多分…獅子猿(シシザル)かな?」

「獅子猿にしては少ないな…斥候か?」


「え、魔猿(まえん)系ってそんなことするの?」

「あいつら頭良いからな。

 ほら、風魔法も使うだろ?」


「うへぇ…」


少しだけ嫌な顔をする。

魔法戦をしたことが無い理熾としては良い相手ではある。

が、問題は


「どうしよ、斥候殲滅?

 それとも本隊も圧し潰す?」


という風に理熾が気にするのは『倒せるかどうか』ではなく、『どれだけ倒すか』なのだ。

ネーブルはライムを一瞥し、少し考え決断。


「うし、全部潰すか。

 俺が前衛、ライムは補助で、二人で斥候の相手。

 その間に主人(マスター)は斥候と思われる獅子猿の後方を探索。

 リコとオレガノは主人側で指示してくれ……よし、行くぞ!」


ネーブルがざっと指示を出して二人が頷く。

分かったとばかりリコはフード、オレガノは服の《拡張空間》に移動し、準備を整えた。

お読み下さりありがとうございます。

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