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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
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野営の心得

森を歩く。

その言葉だけを拾えば楽しそうにも思える。

しかしこれが未整備の森林と考えれば途端につらく険しい『踏破』という言葉にすり替わる。

スフィアに到着直後の頃、理熾はまさしく原生林を歩いた。

その時はほんの数mで平原へ出るという場所ではあったが、それでも相当に体力を消耗した。

それと同じように今は道なき道を歩くハメになっている。


「しっかし鬱陶しいな。

 足場が悪い上に視界が遮られるってのは」


とネーブルが悪態をつく。

事実苔むした木の根や石は滑るし、引っ掛かる。

土がそこまで水気を含んでいないのが救いだろうか。

もしこれで足元が沈むような泥のような状態であれば更に嫌気がさしてしまうだろう。


「全くだ。

 貴族様は何でまたこんな森へ分け入ろうとしたんだ」


答えるのはパーティ内で一番体力が危ういライム。

それでも一般人よりも遥かに動けはするが、だからと言ってわざわざ『疲れたい』という馬鹿ではない。

魔法士はどちらかと言えば技巧派なので、こんな地味以外に言いようがない肉体労働はごめんなのだ。


冒険者(ベンチャー)を名乗ってるらしいから、何となくじゃない?」


ある意味一番失礼な答えを提示するのは理熾。

今回は遊撃と斥候を担当する。

理熾の索敵能力は仲間内で二番目、そして貴重な<空間使い(ディメンショナー)>である。

故に理熾はハッサク、スミレとは組めない運命にあったりする。

更には周囲を舞うリコと、服の《拡張空間》内にはオレガノが待機している。

共にスキルを強化する方向で行動するように指示してある。

戦力だけを考えるなら理熾だけでも全く問題なかったりする。


「はた迷惑な話だ。

 ところで主人(マスター)、気になってたんだが…」

「うん?」


「一人だけ楽してるよな、確実に」

「あ、ばれた?」


とライムにズルを指摘された。

理熾はこっそりと《障壁》を足場に歩いていたのだ。

前回アラクネを捜すために高度20mを歩いたのと同じ行動をとっていたのだ。

バレた理由はこれだけの悪路なのに余りにも理熾の頭が上下しないからだ。

ライムはライムで観察力があるのだ。


「主人…」

「いやぁ…いつ気付くかなぁって。

 意外と時間掛かったよね」


というのも既に一時間程ほぼ黙って歩いていた。

しかし敵と出遭うことも無く、余りにも代わり映えのしない木々のみの風景に全員がうんざりしてきたのだ。

それこそ迷宮(ダンジョン)で雑談を交わしていたパーティのように。

ただ特に気を抜いている訳でなく、警戒は怠っていない。

むしろこの面子だと戦力過多なので危険性は無いのだが。


「俺に【群雄割拠】使わせといてなかなかだな?」

「良いじゃん。

 ほとんどコストが掛からない反則級のスキルなんだし使わないと」


「いや、俺に負担来るだろうが」

「大丈夫。

 その分回復薬あげるから」


「そういう問題じゃねぇよ!」


といったように、相変わらずそんな感じである。

ちなみにライムが持つ【生体魔法】の《強化魔法(ブースト)》は使っていない。

アレは体力を前借するだけなので、結局しんどいだけなのだ。

また、ネーブルの【群雄割拠】もライムにしか掛けていない。

身体能力と体力を補完する用途で使用しており、他にも掛けてしまうと現状の能力差が出てやはりライムがつらくなるからだ。


理熾は改めて《障壁》を全員が乗れる大きさに張り、しかも高度を上げる。

森の木々が視界を遮るが、それでも地上から視覚を頼りに探すより遥かに楽。

特に【索敵】と【直感】(シックスセンス)、そして【瞬発】・【限界突破】を併用すれば半径500m周囲の全てを掌握出来る。


だが実際にやると過剰使用(オーバーフロー)で一時的にスキル使用制限を受ける上に非常に疲れるので余り使えるものではない。

なので精度をかなり落として処理を軽くし、その分範囲を広げて要所で使用している。

そんな話を移動しながら説明すると、二人は呆れたように「「スキルの調整うめぇな…」」と脱力した。

その甲斐あってか、出発からの1時間と《障壁》に乗ってからの15分との捜索範囲が同じというふざけた結果になった。

ハッサクに次ぐ斥候能力は伊達ではない。


「最初からしろよ…」


とネーブルが改めて告げるのに時間は掛からなかった。

依頼主にすら会えないなど、話以前の問題なのだから。


その日理熾達は夕暮れまで捜索したが、ハッサク達を含めても結局誰一人見つけられなかった。

夜は各パーティのタイミングで捜索の打ち切りを決定するようにしていた。

捜索出来た範囲は一般人が歩いて移動出来る距離の半分程度…約15kmほど。

少人数にしては十分な成果だと言える。


そしてせっかくの遠征である。

ダダ村に戻っても良いのだが、これまでお蔵入りにしていたフィリカ製のテントを使用するということで決定した。

また、夕食はパーティ別。

朝食は集まって話をしながらということで示し合わせてある。

夜ではなく朝に対策の話をするのは、今後の対策をパーティごとで一度話してから改めて話を進めるという形をとったから。


この提案はネーブルからで、今後指揮官(ネーブル)が常にパーティリーダーを務められるとは限らないからだ。

今回のように分割したり、ハッサクのように個人で動いたりするのに『個人の運用能力を上げるべきだ』という判断がされた。

事実今まで会話に入っていたのは理熾・フィリカ・ネーブルくらい。

『意見が無い』というよりは、余りにも分業化が進みすぎているという感じだろう。

今後それだけでは手が回らない可能性が高いので、最低限の能力を付けさせることで纏った。


「なんだかキャンプみたいだね」

野営(キャンプ)

 まさにその通りなんだが…。

 いや、そもそもこれを野営と言って良いのか?

 未開の森のど真ん中にベッドとトイレと風呂があるんだが」


理熾のうきうきとした声にネーブルが訝しげに答える。

これほどまでに快適な野営などしたことが無いという風に。

ライムはその横でせっせと得意ではない属性魔法を使って調理の準備である。

「大自然で食べる方が美味しい!」との理熾の一声でキッチンがあるにも関わらず、テントの外での食事作成となったからだ。

とは言え理熾が《亜空間》から道具を取り出すので必要なのは主に火を起こすことくらいである。


実際の野営というものは本来過酷なものである。

そもそもテントを筆頭に、食器、寝袋など必要なモノは数多い。

それらを全て持ち歩き、周囲の環境確保、テントの設営、食事の用意、見張りを経て翌日に全ての撤収作業の後、改めて背負って移動である。

いくら《拡張空間》を利用した道具があろうとも、設営道具を『荷物』として考えた時にこれほど邪魔なものは無い。

邪魔だと思って備品を削ると快適性が失われ、結果的には疲労が増すことにもなりかねない。

つまり大変シビアな環境下での予測とバランス感覚が問われることになる。


それらを全て踏み倒しての現在の快適性。

それもこれも理熾とスミレが持つ《亜空間》があればこその手軽さだ。

相変わらず荷物持ちとしての性能が圧倒的である。


ちなみにこのテント。

強度はフィリカお墨付きのため、余程の危険地帯でなければ見張りすら要らない。

そもそも『テントを壊せる相手』というのが竜種(リザード)を狩れる者だけなのだから当然とも言える。


「ぁーうん、そうだよね。

 僕の居たところって都会だからさ。

 わざわざ川とか森とか山に行って『野営(キャンプ)する』って遊び方をしてたんだよね」

「あぶねぇな…」

「遊びでって馬鹿なのか…?」


日本のように整備された…というか管理された土地がほとんど無いからの反応である。

そんな話をしながらテキパキと作業を進めていく。

理熾は火の側に投剣を踏み込み、《結界》を起動する。

最早慣れたもので、手際の良さはセリナ譲りである。

とりあえず水をお湯に変えるべくヤカンを掛けてはいるが、そこで理熾は


「何食べたいー?」


と贅沢な質問をする辺り、野営ではなく完全に日本のキャンプである。

日が翳ってるにも関わらず、周囲が明るいのはテントの効果。

その分魔力は食うが、痒い所に手が届くフィリカ仕様である。


「俺の『野営』の常識が…」

「大丈夫だネーブル。

 俺も同じ…一蓮托生だ」

「男同士で何手を握り合ってるの?」


言外に『気持ち悪いぞ』と言う理熾に容赦は無かったが、ネーブルとライムはそれどころではなかった。

まさに価値観が崩壊する事態なのだから。

とはいえフィリカが作ったテントと、<空間使い>が揃えばこうなることは予想出来たことである。

一通り馬鹿をやり、今夜のメニューを適当に決める。


「何でも」

「同じく」

「んじゃ、前のパーティで余ったので適当に作るね。

 パンと麺どっちが良い?」


「「さっきと同じで」」

「一番めんどくさい返事だ…」


そんなことを呟き理熾は調理へと向かう。

《結界》を引き伸ばして『まな板』を作成。

今更ながら包丁が無いことに気付き、装備欄にもある【手ごろなナイフ】を手に取り調理開始。

セリナ救出時に縄を切った時も感じたが、相変わらずの使い勝手のよさである。


ブロックベーコンを薄切りで20枚、厚めに6枚。

さらに厚めに切ったベーコンを食べ易いように一口大になるように3分割する。

干し肉を1つ取り出して手で割いて鍋へと放り込む。

更に白菜を真横に真っ二つ。

根っこの部分も落とし、そのまま下の部分を鍋に投下。

その状態で少し広げながらほぐして薄切りベーコンを葉の間に挟みこむ。


水を浸す程度に入れて蓋をし、《結界》に乗せて火に掛けた。

トマト2つを取り出し、オレガノに「皮剥きよろしく」と投げ込むと瞬時に皮が剥かれたトマトを返却してきた。

ポルン最高である。

その光景に二人が驚愕の視線を向けていたが、気にせず進める。

これを機にポルン信者を増やすのもありかな、とこっそり思いながら。


トマトをさいの目に切り、鍋の蓋を開けて追加して蓋をする。

その間にパンを遠めに火に掛けて暖める。

手持ちの食材は全て《亜空間》に入っているので劣化しない。

干し肉があったのは単に調味料代わりというだけで、パンは当然柔らかい美味しいものを使う。


更にフライパンを取り出して油代わりに薄くバターを溶かすと良い香りが周囲に広がった。

最初に切った厚切りベーコンを全てフライパンに入れて軽く焼き目を付ける。

鍋の蓋を開けて白菜の体積が半分くらいになったことを確認し、フライパンを傾けた。

その際に少し焦げたバターと、焼き目の付いたベーコンが待ち惚けの二人に一瞬お目見えした。

二人は唾液が滲むのを感じたが、まだその時ではないとぐっと堪えた。

理熾がむさい男二人の胃袋を掴んだ瞬間でもある。


鍋には焼いたバターを全てと、ベーコンの半分を落とす。

少し脂っこいかもしれないが、とんこつラーメンを思えば全然問題ないだろう。

最初に半分にしていた白菜の上半分を適当に鍋に放り込み、またも蓋をして火から少し離す。

ベーコンのみになったフライパンを改めて火に掛けて表面をカリカリにし、《亜空間》行き。


鍋の蓋を取り、お玉を《亜空間》から取り出し浅い器によそって味見。

少しだけ胡椒を足して白菜とトマトたっぷりのベーコンスープが出来上がる。

この間約15分ほど。

手伝いを申し出るタイミングも無く、『美味そうな匂いがするな』と思っている内に出来上がってしまっていた。


一度鍋を《亜空間》へと仕舞い、コンロ代わりの《結界》を解き、役目を終えた投剣も同じく《亜空間》の中へ。

更に《障壁》をテーブルに見立てて腰の高さに広めに展開。

《亜空間》から取り出した鍋を《障壁》に置き、器にスープを全員分よそって二人に声を掛ける。

保温のためにも鍋は既に《亜空間》の中である。


二人に配られた器からは湯気と匂いが立ち昇り、野営の食事とは一切思えない。

そもそも鍋といった調理器具を持ち歩くなど贅沢なのだから。

更に配られた器に、理熾が《亜空間》から取り出したカリカリに焼いた厚切りベーコンを1枚ずつ追加する。

ラーメンで言えばチャーシューのようなものである。


「こ…これは…?」


おずおずとネーブルが告げるのは、単に驚きから。

既に十分に美味そうだというのに、そこへ食感や香りが違う食材を惜しげもなく追加するのだ。

雑な料理であるものの、ただの討伐者が行うにしては繊細過ぎた。


「んー?

 いや、一杯作ったから途中で飽きるかなぁって。

 元々干し肉とベーコンでダシ取ってるし、味は一緒。

 せめて匂いと食感くらい変わるものがあれば美味しいかなぁと」


そんなことを言いながら、理熾は暖めたパンを乗せた皿を《障壁》のテーブルへと乗せる。

『後は勝手に食べろ』という訳である。


「あ、バターも出しとくね」


そんなことを言いながら新たに《亜空間》からバターとバターナイフを取り出してテーブルに追加する。

そんな恐ろしいまでの手際の良さを見せ付けての食事となった。

その日ネーブルとライムは理熾が言った『外の食事の方が美味い!』という意味を存分に噛み締めたという。


結果、たった3人でどう少なく見積もっても5人分はあったであろうスープは完売。

パンも一人3つを食べたため、途中で足りずに暖めていないパンまで取り出した。

使った食器や道具は全てオレガノが汚れを食べ尽くし、さっと水洗いだけ済ませて《亜空間》へと収納済みである。

それだけでは可哀想だと思った理熾が、蠱毒で回収した『元魔物』をお礼と食事としてオレガノに与え、本日の捜索は終了となった。


ちなみにハッサク側はスミレが《亜空間》に保管してあった、あけみやの食事を堪能した。

いつも通りの食事だとはいえ、やはり野営中の食事としてはありえないような状況に、ハッサクとレモンは涙したという。

出来立ての温かさを保っているのだから、缶詰や冷蔵庫が裸足で逃げ出すような性能である。

改めて<空間使い(ディメンショナー)>の真価を理解した面々だった。

お読み下さりありがとうございます。


寒い…極寒って今日のような日を指すのでしょうか…。

あぁ、コタツが欲しい。

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