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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動
195/537

救出準備2

今回は切りが悪くて普段の倍近くの文字数があります。

気長に読んで頂ければな、と思います(‘‘

理熾が告げた言葉にフィリカは眉を潜ませる。

何をもって貴族と、アルス以外を拠点にする商人なのか。

そして何故アルス領民以外が確定なのかと。


「領民で無い理由は?」

「領民なら領主に逆らって生きるのは難しい。

 今回は良くても、今後この街で生きられるはずが無い。

 もし今回のことでアルスを逃げ出すなら、どれだけお金を積まれてもしんどいと思う。

 新天地で一からっていうのは思ってるほど簡単じゃないしね」


と理熾自身の体験を元に話す。

スフィアに来た当初は無力、無知、無一文という無い無い尽くしだった。

流石にこの世界に基盤があるはずなのでそこまで苦しいわけは無いだろうが、それでも行動を起こすには結構な勇気が必要だ。

日本の引越しの様にそう簡単には出来ないのだ。


「逆にアルスに残るなら、例え証拠を残さなくともギルバートさんなら犯人を見つけ出す。

 そのことを思えば領民の線はありえないし、何より目星が付いているんだから、捕まえるのは簡単」

「なるほど。

 捕まえていない時点で領民ではないと言うことか」


「多分ね。

 後、外に出ていない法案を知っているってことは『知る立場』に居るって事。

 それには権力者側でないとその情報は絶対に手に入らないから、貴族は確実に犯人の一人」

「そこに商人が混じるのは?」


「貴族だけで行動を起こすのは難しいと思うから。

 私兵を使えばバレるし、例え傭兵を雇っても『○○が集めてる』って広まるから一緒。

 情報が漏れたらそれまでだし、結局ギルバートさんが見付ける」

「それだけでは少し理由が薄いが…」


「そうかな?

 別に商人じゃなくても良いんだけどね。

 でも貴族と直接のやり取りがあって、しかも戦力を持たない人物。

 もし本人が戦力を持ってるなら護衛を雇えないからね。

 つまり今回の件で言えば数が合わない(・・・・・・)って話になる。

 それにやり取りしている人が戦力を持っていたら、貴族とのツテを持っている時点でかなり目立つ。

 さっき言ったように『戦力を集めてる』ってバレる可能性が一気に上がるからね。


 なら逆に。

 戦力を集めても不思議じゃない人物は?

 護衛を必要とする行商人が一番に思いついたんだけどどうかな?

 商人と貴族でのやり取りは別におかしなことでも無いし、商人が戦力を持っていても不思議じゃない。

 『商人自身が戦力を集める』のも単に『次の目的地に移動するのか』と思われるだけでおかしくないからね」

「なるほど。

 そこまで考えてあるなら納得も出来る。

 だがその情報を貴族以外が知って勝手に利用する線は?」


「ありえるけど、それだけ。

 内容にもよるけど、共謀しないとそんなに利益にならないと思う。

 法案関係なんだから、自分の思惑が少しでも入らないとやりにくいし。

 それにギルバートさんは『決まっていない案を外に出せない』って言ってた。

 だったらそれを周囲に知らせてる(知られてる)時点でその貴族はかなり問題って事じゃないかな」


理熾はギルバートや騎士団の能力に疑いを持っていない。

それだけの事はするし、出来るとも確信している。

少なくとも【神託】によってズルをしている理熾よりも遥かにカンも能力も高いはずであると。


「なるほど。

 つまり貴族は共犯者として必ず居るが、表立ってはいない可能性が高い。

 まぁ、確かに対立の図式を演じている中で凶行に走ったら断罪されるだけだからな。

 商人を介して辿り難くした上に人を集めて実行させたというのがリオ君が考える筋書きか」

「うん、その通り。

 ただそれをするにも条件がいくつかあると思います」


「さっき言った拠点がアルスではない商人?」

「えぇ。

 拠点がここだとすぐバレるし、利益はあっても危険度が高すぎる。

 最初に言った『領民』にはこの街の商人も含まれるからね。

 それに比べて他の地域を拠点にしていれば、仲介する貴族との繋がりが出来る上に法案関連で利益がある」


この会話は理熾の【連携】とネーブルの【以心伝心】を通じて全員が聞いている。

しかし理熾とフィリカの会話に付いていくのは大変で、実のところ今はネーブル(辛うじてハッサクも)しか理解が追いついていない。

ネーブルにしても二人が語っている言葉は、論理的なので聞いていれば理解できる。

しかしだからと言って『同じ考えを導き出せるか』は別の話だ。


特に理熾の考えは完全に発想の飛躍によって構築されている。

ギルバートが語った言葉からの推察でしかなく、騎士団や領主の能力を過大評価している可能性もある。

つまり結果を見るまでは妄言としか言えないような内容なのだ。

だというのにその考えに同調し話を進められるフィリカは完全に異常である。

他人の思考を読んでいるかのような相槌に、横で聞いているネーブルですらもおかしなものを見る目しか出来ない。

そんな理熾とフィリカは気にせず話を続ける。


「なるほど。

 なら監禁場所は更に絞れるな」

「そうですね…。

 遠くともアルス周辺、半日以下の距離です」


「現状は、という注釈は付くがな」

「そうでもないと思います」


理熾は初日に手に入れたアルス周辺の簡易地図を《亜空間》から取り出してテーブルに広げて説明を続ける。

捨てることさえ忘れていた地図をまさか使うことになるとは思わなかったというのが本音である。

会話だけでなく視覚的にも見れば格段に理解が進む。

百聞は一見にしかずとも言うのだし。


「そもそもアルスの周囲は危険度の高い森です。

 平原もあるけど、そっちは最近オークが暴れた場所だし安心できない。

 特にアルス以南は過去に遠征失敗している土地なので、余程のことが無い限り近付かないはず」


アルスの周囲を円を描くようになぞって南の平原をコンコンと指で叩いて鳴らし、手持ちの石を置く。

オークの緊急依頼が発生した場所だから、理熾とフィリカには馴染み深い。

あの時のスキルや能力値でよくぞ戦ったと密かに理熾は思う。


「それに東側はオーク、その更に先にはオーガ。

 西側にはアラクネとポルンの群がある。

 北側にはゴブリン、コボルト討伐のために騎士団が派遣されてるからアルスの外に逃げ場は無い」

「あぁ…昼に言っていた危険度の高い群か。

 討伐の話を聞いてたからこそ、この予想が立つという訳か」


「えぇ、ギルバートさん(ご飯友達)からの個人的なお願いです」


それぞれ説明した箇所に石を置いていくと、アルスの周辺に安全圏が存在しなくなる。

今現在は東西南北全ての方角が『危険度の高い地域』なのだから当然だ。

続けて


「この状況下だとアルスの外に出るのは危険すぎ。

 特に『アルス外の商人』ですから、ここへ来た(・・)はずです」

「つまり『アルス周辺が危ないというのをある程度知っている』と言うことか?」


「うん。

 だから野営するにもかなり気合が必要。

 それに全部が表向き出ていない情報だけど、知らないはずが無い。

 逆かな…知らない程度のヤツなら、騎士と揉めた時にもっと大事になってると思う」


理熾が言いたいのはこれだけ計画的なのに、この程度の情報を知らないはずが無いということ。

そしてこれらの情報を掴んでいるなら『護衛対象を連れて危険の中を移動する』なんて暴挙は行わないということだ。

人質としての価値が必要な現在のセリナは人攫い達にとっては逆に傷つけてはいけない『護衛対象』となるのだ。


「犯人は『逃げ込む』ためにも遠くには行けない。

 アルスの状況も確認する必要もある。

 むしろ外に逃げたと思わせられる分、街中の方が安全だと考えて潜伏中か」

「可能性は高いと思う」


そう締め括り、情報の整理を終える。

断言的に語る理熾達に結局ネーブルは全く口を挟めなかった。

ただの通信役にしかなれずに歯噛みする。


「素晴らしい考察だ。

 が、リオ君は少し落ち着け」

「え?」


「【限界突破】で能力値を酷使しているだろう。

 ついでに牙の【瞬発】も使っているみたいだし、壊れるぞ」


突き合わせている額をコンコンと小突かれながらそんなことを言われ、そこで初めて理熾は気が付いた。

確かに頭を過剰に使っている感じはあったが、【限界突破】や【瞬発】まで併用しているとは思わなかったのだ。


「セリナはあれでその場の役割を演じられる程に思慮深い。

 そう簡単には危害を加えられることは無いはずだ。

 それに制限時間に余裕は無くとも、助ける時間は残っている。

 その時にリオ君が頭を焼き切っていたら助けられないじゃないか」

「…うん、ありがとう」


謝罪にも聞こえるお礼を言って、スキルを解除すると異常な倦怠感に襲われる。

理熾自身気付かずに使ったスキルと能力値の過剰使用による副作用だ。

一時的なものなので休めば治るがそういう問題ではない。

無意識にそんなことが出来るというのは能力を最適化して使い切る【体術】のお陰だろうが、かなり危険な使い方だ。


フィリカが言うようにこのままでは『戻れる限界』を超えてしまって身体が持たない。

それで無くとも限界値(リミット)を外しているのだ。

壊れてからでは遅い。

これまでは頭を冷やすには時間や情報が足りず、何よりも第三者の言葉が必要だった。

しかしこの場に至るまでは当事者しか居らず、理熾の状況を指摘できる者も居なかった。

ようやく休めたパンクしそうな理熾の頭は休息のために強制的に意識を落とす。


それをフィリカが掬い上げるように理熾の身体を拾ってネーブルに忠告する。


「この子はこれだけ出来てもまだ13歳だ。

 感情の制御は上手いが、閾値を超えればこうなる(・・・・)

 ネーブルも気をつけてやれ」

「…えらく難易度の高い任務だな」


フィリカの言葉にネーブルは思わず自嘲気味に笑ってしまう。

この『犯人はまだアルスに潜伏している』という終着点に至るまで口を挟めなかったのはネーブルだけではないのだ。

ただただ二人の掛け合いに圧倒され、理熾の状況などさっぱり気付けなかったのだ。

大人として、そして指揮官として失格(・・・・・・・・)だとネーブルは反省する。


「まぁ、リオ君がこうなるのは珍しいと思うがな?」

「全くだ」


ネーブルはセリナを連れ去った犯人を許す気は無いが、理熾を怒らせたという一点でだけは同情した。

楽に死ねないな、と。


理熾が意識を失い、フィリカのベットに寝かされて1時間ほどでライムとスミレは帰ってきた。

それに伴い、フィリカは理熾を起こして一緒に報告を聞く。

とはいえ理熾はベットから出さずに寝かせたままだったが。


「待ったか?」

「いや、十分早いと思うよ」


理熾は素直に褒める。

声を掛けてから約1時間半ほどで表に出していない法案を調べてきたのだ。

賞賛こそされ、非難などありえない。


「たまたまスラム街に対する案件が1つしかなかったからな」

「なるほど。

 情報を出さないんじゃなくて、出す必要が無かったのか。

 流石ギルバートさん…必要なところを抑えているよね」

「いや、ハッサクの手助けが無いとこの速度で情報は手に入らないからな?」


最後の言葉はネーブルだ。

呆れたように言うのは『他のやつには求めるなよ』という裏の意味からだ。

今回の働きはライムは勿論、ネーブルの【以心伝心】とハッサクの調査能力の補助によるものが大きい。

パーティとしての調査能力なので、他人に求めても絶対に無理なのだ。

後で念押ししておこうとは密かに思っているが、先に一言だけでも断っておいたのだ。


「ともかく。

 法案の内容はアルス内でのスラム撲滅のための法案だ」

「スラム撲滅って、追い出すって事?」


「その逆だ。

 スラムに落ちると通常の働き口は無くなる。

 ある意味であそこは『安価な労働力の宝庫』。

 スラムで労働力を買う者が居ないから安いという理由だから、いくら安くとも売れない。

 結果的に犯罪者の下っ端か、犯罪者そのものか、あとは身体を売るくらいしか方法が無い。


 衣食住の保証が無く、元手がゼロだから、まともに生活が成り立たない、

 つまり道具を手に入れられない以上は『技術のみ』で対応せざるを得ない。

 だが、そもそも技術を持つならスラムになど落ちないのだから、完全に詰んでいる」

「スラムに居るって事は、能力、技術、資金の全てが無いって事?」


「そういうことだ。

 その状態で『這い上がれ』と言う方が無茶だ。

 だから領主側で衣食住を提供する代わりに労働力を手に入れようという案のようだ」


ハッサクが説明した内容は領主側でスラムの住人用の居住区を作り、そこに住まわせる。

その住まいには食堂を配置し、服も支給する。

住居、食事、服装全て共通の物を用意するため、費用としては個人が個別に手にするよりも遥かに安い。

これでスラムの住人の健康や労働環境の管理が行える。


この世界はほとんどが人の手によって運用されているのだから、やることはいくらでもある。

いくら何も出来ないからと言っても雑用くらいは出来るし、やらせる。

当然無償という訳ではなく、非常に安い金額ではあるものの、給料も保証する。


この時に仕事として振り分けるのは公共事業。

雑草引きや、土木関連で技術の必要が無い段階の下準備、果ては農業などの一次産業までを指す。

主に民間事業として行いづらい開拓がメインだが、その他にも労働力を貸し出すことも行う。


ギルドに似た事業を行うことになるが、基本的には『生活保障』を目的としているために給料は安い。

それでも以前に比べて衣食住の保障と、貯金が出来る可能性があるということで雲泥の差だと言えるだろう。

技術が必要の無い労働とはいえ、やればやるだけ身に付くし、基礎が出来れば応用の技術にも手を付けられる。

それで身を立てるのも良いし、貯金によって居住区を出るのも問題ない。

外の世界への理解とすり合わせられる機会。

そしてそれらを行う余裕を提示するのが目的なのだから。


これらの構想は随分前からあって、実験と調査を繰り返しやっていた。

そのお陰でアルスのスラム街は最悪には至っていないらしい。

法案の為の部署作成、土地の確保、勤務者の選定やらの細かいところの微調整を現在行っているということだった。

施行が決まれば予算やら枠組み(ルール)やらを決定していけるので、明日が山場という訳だ。

施策の内容を聞いて理熾は気になった。


「それって働けない人はどうなるの?」

「一時的には引き取るが、その後は誰かが養うか、最悪奴隷か追い出すかだな。

 領主側にしても、資金や慈悲が無限じゃない。

 『住人として求めるもの』は税を納めることで、それが出来ないのならば『住人としては退場』させる」


「これからは税以外にも『労働力』って形でも住人として認めるってことかな?」

「そういうことだ。

 これでかなりの者が救われるはずなんだがな」


「うん、凄く良い事だと思うんだけど…?」


実際に多くのスラム街の住人を救える。

領主側も出費以上の労働力が手に入り、今まで回収出来ていなかった税が手に入る。

反面、今までスラムで暮らしていた者達は『スラムから追い出される形』になる。

そして何もせずに居るだけ、という者は追い立てられることになる。

それに


「今まで住人を安く使ってた者達が居るんだよ」

「…犯罪者とか?」


「荒事への勧誘もそうだが、人攫いも『狩場』が無くなる。

 『住人の管理』が行われれば摘発される可能性が跳ね上がるからな。

 それを知っていて(・・・・・)買い上げていた貴族や商人達も嫌がるだろうな。

 他にも、領主の施策が施行されれば他の領地からの移民が増えると予想されている」


ライムの言葉に理熾は「何で?」と首を傾げる。

スラムに対する対策であって、移民に対するものでは無い。

だからそこで何故いきなり移民問題にまで発展するのかさっぱり分からないのだ。


「『失敗できるから』だよ。

 義務が伴うとはいえ、最低限の生活の保障がされるのだから他の領地よりも遥かに冒険が出来る。

 既に成り上がっている者はともかく、『これから』な者達にはアルスを最初の拠点にする方が都合が良い。

 他の領主達はそんな未来の富豪を手放すリスクを考えて、この施策を潰そうとする者も居るだろうな」

「………真似すれば良いだけじゃ?」


良いことだと認めて、その結果に移民が発生するのなら同じことをすれば良いだけである。

こんなものは解決策でも何でもなく、単に真似れば同じ結果が得られるのだから簡単だ。

この世界に『著作権』と呼ばれるものがあるかは分からないが、ギルバートの性格上真似ても文句は言わないだろう。

それなのに行動もせずに妨害に走るとは意味が分からない。


「それが出来ないから潰そうとしているんだよ。

 アルスという領地は一度法制度が壊滅してるからな。

 シガラミも少なく、その分新たな施策が通りやすい。

 まぁ、それでも既得権益やら利権やらはいくらでも存在するから一概には言えないがな。

 例えば今の話でも、今までスラムの住人を秘かに使ってた者達は大打撃だろう?

 今後はわざわざ領主へ正規の手順を踏んで労働力を買わねばならないのだからな」


溜め息を吐く様にフィリカがまとめた。

結局のところ、『今のままが良い』という者達が暴走したということなのだろう。

ギルバートが目星を付いていると言うなら、余程強弁しているか、暗躍していたかのどちらかだ。

そして目星が付いていながら捕まえられない現状から、やはり相手は貴族で証拠が無い状態なのだろう。


「じゃぁ誰がやったと思う?」


という理熾の疑問に全員が押し黙る。

この情報を手に入れたばかりということもあるが、貴族が関わる話に明るい者などいない。

どうしたものか、と考えている時に理熾は一つ思いついた。


「よし、知ってそうな人に聞きに行こう」


照準は定まった。

後は行動するだけである。

お読み下さりありがとうございます。


ようやく二日毎の更新に慣れてきました。

慣れちゃダメだろ、って気がしますが遅筆になった訳ではなく時間が取れないというのが原因なのでご容赦を…。

それにしても更新をしていない日にもアクセス数も順調に伸びていて、ブックマークや評価をいただけるのは嬉しいですね。

それにしてもランキングに載っている方々は一体どんな経緯で載る事になったんでしょうか…?

ほとんど変動ありませんしね(。。;

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