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神様のおねがい  作者: もやしいため
第九章:口煩い貴族様
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イルマ迷宮

領主館を後にしてからはいつもの日課である。

フィリカの元で食事を取り、打ち合わせ。

念のためにフィリカに『幽霊との戦い方』を教わる。

要約すると魔力をぶつければ倒せるとのこと。

その効率を上げる為に魔法を使うらしい。


つまり物理法則に従おうが、魔力を使った攻撃はダメージを与えられるということ。

しかし【重力魔法】は重力を増したところで足止め以上の意味が無い。

『魔力をぶつける』に相当する使い方が無いからだ。

何とも制限の多い魔法である。


【空間魔法】はむしろ空間を削る際に攻撃できる。

肉体がある場合は肉体の防御力に魔力の抵抗力が加わるが、精神生命(アストラル)体の場合は剥き出し。

そのため抵抗値はかなり下がるらしいが、それでもやはり難しいらしい。

ただ、魔力で作った《障壁》を叩き付けれれば一応攻撃になるらしい。

だとしても勢い良く相手がぶつかってくれなければ意味が無いのでかなり難しい。

毎回岩石兵(ロックゴーレム)のように組しやすいわけではないのだから。


初級、生活はそれぞれある程度の応戦能力はあるがその程度。

とはいえそもそも威力として役に立たないレベルなのでお察しである。

唯一ネーブルの持つ【衝撃魔法】がまともに威力として通るとの事。

やはり理熾ご一行は対物系に特化しすぎているようである。


「フィリカさん、何とかならない?」

「それは簡単だ。

 武器に魔力を纏わせれば良い。

 普通に殴れるし、切れるはずだ」


何とも簡単な解決策もあったものである。

色々と頭を捻っていたのが馬鹿馬鹿しいくらいだ。

そもそもの話だが、精神生命体は魔力を媒介に存在する

つまり魔力が肉体の代わりをしているという訳である。

逆に考えればその魔力の塊を霧散、消滅させれば倒せる。

だから魔力で殴ったり切ったりすればいいというわけだ。


「そういう風に使うとなれば魔力の親和性が必要になる。

 だがリオ君以外の装備には魔術回路やらを入れてあるから問題ない。

 だから問題はリオ君の装備なんだが…どうする?」


と付け加える。

理熾が持つ武器にはそういった補助的なものが無く、完全な物理装備。

包丁と同じ。

ただし凄まじく使えるというだけで。


「補助無しで魔力って流せるの?」

「問題なく出来るぞ。

 【魔闘技】(まとうぎ)と同じ要領だ。

 だが伝導率は悪いからなかなか難しいはずだ」


「んー…なら頑張る。

 どうせ作るなら弓みたいにちゃんとした材料を…って、僕の場合弓があるじゃん」

「良く気付いたな。

 レモンの二刀も相当だが、恐らくこの中だと一番攻撃力が高いぞ。

 距離、速度、威力で群を抜いているからな」


「…フィリカさん、さては新しいの作りたいんだね?」

「何のことかな」


というような一幕があったりしたが、とりあえずどうにかなるらしい。

魔法での迎撃は難しくとも、武器で倒せることが分かれば十分である。


その上でオークとアラクネ・ポルンの討伐を話す。

オークにはネーブル、スミレ、レモン。

アラクネには理熾、ライムで対応する。

理由は単に理熾が見たこと無い敵を見たいからというもの。

それに対する反対は無かった。


午後からは最近の日課である迷宮探索へと一人で出掛ける。

せっかくなので最下層まで行く予定だ。

管理迷宮(イルマという名前らしい)の受付にカードを見せて一人で入る。

初めて入った時は同じランクの迷宮ということで止められた。

しかしギルドマスターの認可が下りている為、しぶしぶながら通してくれた。

ギルド職員でちゃんと受付をやっている人を初めて見た瞬間だった。


そんなことを乗り越えてイルマ迷宮に潜る。

階層は5つ。

環境変化はそれほど無く、入口からの距離によって階層分けしているらしい。

この辺に存在する魔物を取り込んでいるため、ウッドウルフやオークなどが大半である。

森蜘蛛(スパイダーフォレスト)やオーガも少し。

飛行タイプでスライサーバットや以前倒した猛禽類であるフォレストイーグルというのも居る。

理熾は【直感】(シックスセンス)と【索敵】、座標認識の併用で相変わらず攻撃範囲に入った瞬間に撃ち落とす。

今回は寄り道なし、手加減なしで最短距離を踏破する予定だ。


 といっても結構距離あるんだよね…。

 少し走ろうかな。


相変わらずリコには【精神力吸収】(メンタルドレイン)を貸しっぱなしである。

しかし対象は理熾ではなく敵に設定している。

【連携】で繋がっている為、理熾が敵を発見した瞬間にMPを掠め取っているらしい。

射程距離の関係でダメなこともあるが、Lvが上がるごとに効率は上がっているようだ。


対する理熾のHP・MPはノルンが作った吸収装備にて保管されている。

吸収率の調節が出来るので、回復分と相殺出来る量で調節している。

つまり減ったら回復しないという訳である。


 今は魔力は減っていないし、足りないなら魔法薬を飲めば良いか。

 せっかくノルンさんのがあるんだし活用しないとね。


そう判断して速度を上げる。

移動速度が上がる分対応する距離が縮まり、リコの出番も増えるという寸法だ。

いつぞやの全力疾走ではなくちょっと走る程度ではあるものの、処理能力を酷使する。

地形把握に加えて周囲警戒、回避・迎撃の判断など、多岐に渡る処理を同時進行で進めなければいけないからだ。

遭遇率が高い迷宮内では外で走る感覚とは訳が違うのだ。


過去に踏破した3層まではそれほど時間が掛からず、1時間ほどで到達してしまった。

ここまで行程にして約16km程。

そのままの勢いで4層を突っ切り、5層に入ったところで【直感】が異変を感じ取った。

少し距離があるようだが、念のために行くことにする。

するとオーガ2体とオーク5体が何かに群がっている状況に遭遇した。


 …混成?

 いや、違う系統が一緒にっておかしい。

 特にオークとオーガじゃ鬼に連なるオーガの方がオークを狩るよね。

 だとすると相手は…人、かな?


誰かが魔物の群れに襲われているようだが、魔物の影に隠れてどういう状況かが分からない。

迷宮に入る際に確か2パーティが中に居るというのを聞いた覚えがある。

『人が居る』ということを知らしめる為と、『協力するか、せめて無干渉で居ろよ』という確認である。

そして『生存確認』の為に他人を見付けたら報告を必要とする。

長期間出て来ないパーティには捜索願を出せるように管理しているのだ。

ギルド員が勝手に失踪するというのも困るからの処置である。


 うーん…スルーした方が良いのかな?

 ただの狩りなら良いんだけど…。


と思うのも仕方の無いことだ。

例え劣勢だとしても『手伝いは要らない』という者も居るだろう。

そこに割り込むのは余り歓迎されるようなことではない。

ただの横殴りになってしまうからだ。

だからと言って放置しておく訳にもいかない。

なので


「手助けは必要!?」


問答無用で矢を放てば瞬殺ではあるものの、横殴りと言われない為にも理熾は念のために叫ぶ。

答えられるかは分からないが、余裕があってダメならダメと言うだろう。

何も言わないなら、劣勢である可能性が高いので理熾は攻撃をするつもりで声を掛けたのだ。


「誰かは知らんが頼む!」


と切迫した声で魔物達の影から許可が出た。

理熾は即座に魔物の背後から矢を番えて放つ。

乗せる武技はいつもの如く速射性が高く、隙も少ないため使い勝手がいい《二の矢》と《影矢》である。

それぞれオークの肩へと連続で叩き込み、ものの20秒ほどで全てのオークが持つ武器を落とさせる。

先日闘ったコボルトやゴブリン達とは違い数が少ないので早い。

『誰か』もこれでかなり楽になるはずだ。


流石に背後から攻撃を受ければ後ろを向きもする。

特にオーガは無傷なので行動が早く、後退しつつ向き直り体勢を整えていた。

目の前の獲物よりも脅威度が高い理熾を先に黙らせる腹なのだろう。


理熾は気にせず近接しながらオーガの膝を狙う。

膝さえ壊せば身動きが取れないので遠距離から悠々と仕留められるからだ。

しかし残念ながら放った矢は射線をずらされ、膝には当らず脚の肉を削るに留まった。

流石に一方的にやるには真正面から放ちすぎた。


理熾はオーガと30mほどの距離で足を止めて矢を放つ。

この距離を潰せなければオーガに勝ちは無いが、理熾はこの距離(30m)を保ちきる。

矢の雨をくぐりぬけて理熾に近付くには速度、数、射程が圧倒的に足りない。

オーガは次第にその身を削られ、1体ずつ膝を付く。

それでもオークと違って重要な関節部を最後まで守り切っているのは流石と言えるだろう。


流石にここまで一方的に打ちのめして最後だけ顔も知らない討伐者に「どうぞ」というのもおかしな話である。

なので理熾はオーガの頭を鮮やかに撃ち抜き、2体を沈める。

残りのオークは襲われていた者達が何とか仕留めたらしい。

苦戦などはしなかったのだが、使った矢の数は56本となかなかに多かった。

もう少しやり方を考える必要があるかもしれないと理熾は今後の課題にする。


「大丈夫ですか?」


理熾は疲れも見せずに見知らぬパーティに声を掛けた。

全員が荒い息をしていた。

やはりかなり苦戦していたらしい。

一人が仰向けに寝ていて、三人がペタンと座り込み、一人が理熾に近付いてきた。


「本当に助かった。

 危うく全滅するところだった」

「そう、なら良かった。

 それよりあの人大丈夫ですか?」


と仰向けに寝ている人を指差しながら問う。

服に血もにじんでいないし、怪我は無いように見えるが実際はどうかは分からない。

少なくともかなり憔悴しているように思う。


「魔力を果たしただけだ。

 怪我は無いはず…アイリ大丈夫か?」


その言葉にアイリと呼ばれた者が手を振る。

一応生きていて、大丈夫らしい。

理熾としても全員無事なら加勢した甲斐があるというものだ。


「オークとの戦闘中にオーガが横から乱入してきてな…。

 オークだけでも手一杯だったのにそこにオーガだから、死を覚悟したよ。

 牽制しつつ逃げに徹している時に君が来たわけだ」


と他の面子に「回復薬を使え」と指示しながら状況を説明する。

この男が恐らくこのパーティのリーダーなのだろう。

「しっかりしてるなぁ」と理熾は眺めながら相槌を打つ。

理熾も配下を抱えてはいるが、全員を使いこなすなど不可能だ。

そういう役目はネーブルに一任していることを思うと、やっぱり「凄いな」という感想になる。

そんなことを考えていると


「まさか君一人か?」

「です。

 休憩入れるなら一緒にしましょうか」


と理熾は適当に返す。

一人で居ることを突っ込まれても面倒だからだ。

どう考えてもここから即座に動ける者など居ない。

理熾は《亜空間》から焚き火セットと鍋と水、更に血魔石(ブラッディコア)付きの投剣を取り出す。

全員が唖然として眺めているのを尻目にてきぱきと準備をする。

その際に「あ、《拡張空間》とアイテムボックスを持ってるんですよ」と適当に理由付けしておいた。

彼等が理熾の言葉を聞いているかは疑問だったが。

お読み下さりありがとうございます。

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