命拾い
俺はこのEランクパーティのリーダーをしているダン、という。
女性討伐者はかなり少ないんだが、うちのパーティには女三人も居る。
火魔法士アイリ、槍兵ルーチェ、弓兵レーン。
男が斥候兼細剣士の俺と盾士マドックの五人パーティだ。
全員同じEランクの討伐者だ。
同郷だからこそ一緒だが、女の討伐者は魔物以外に男にも気を付ける必要があるから余りパーティを組みたがらない。
大体は女だけのパーティか、幼馴染や恋人と組む。
襲われる心配が無い安心できる相手か、そもそもそういう仲かという訳だ。
まぁ、女だけだと結局危ないんだけどな。
それは今は置いておこう。
とにかくこのパーティで組んで2年。
ようやくランクもEに上がり、これを契機にとEランク迷宮のイルマに潜っている最中だ。
やはり迷宮。
外とは遭遇率が倍以上に違い、討伐証明はすぐに溜まる。
しかし荷車や馬車を持ち込むことも難しいので手に持てる分だけだ。
2年もこの生活をしているが俺達はまだ駆け出しも良いところで、金が無い。
オークの肉なんかは良い金になるらしいが、持ち帰れなくて残念だ。
そんな訳で階層を重ねる程、時間が経つ程に疲労や荷物が多くなり、帰り道も遠のく。
その分危険度はどんどん上がっていく訳だ。
ギルドが販売している地図も欲しかったが、全部で500カラドとは言え出費はしたくなかった。
潜り始めた当初はいくらかの討伐部位を握り締めて、日帰りで逃げ帰っていた。
それだけでも俺達にとっては十分な収入になったからな。
保存食料も馬鹿にならないし、それなら店で食う方が断然美味い。
宿も取ってあるから飯は無料だしな。
そんな風に一月ほども続けて少し慣れてきたからと滞在時間も延ばして来た。
3層まではほぼ網羅したはずで、今回は5層を拝んで帰ろうと踏み入れたのは間違いだった。
浅い層は往復の距離が無い分、俺達みたいにうろつくのも簡単だ。
しかし5層ともなるとせめて1泊くらいはする。
そこまでしても特に種類は変わらないのだから、それなら浅い層で温く稼ぐ方が良いに決まっている。
逃げ帰る距離も短いから当然の話なんだがな。
つまり階層が深くなる程人の手が入っておらず、危険度が高いというわけだ。
そんなことすらも5層へと続く下り道を見つけたことで失念した。
危険度を勘違いし、観光気分で5層に降りた。
それがこの様だ。
「レーン!
後先は考えるな!
全部つぎ込め!!」
「やってるよ!」
「マドック、受け止めるな!
弾き返さないと潰されるぞ!!」
「分かってる!」
「今だルーチェ!
右のオークをやれ!」
「了解!」
「アイリは魔法薬使え!
死んだら意味が無い!
回復したらオークの顔を焼いてくれ!!」
「うん、でも後30秒待って!」
まさかオークが8体もたむろしてるとは思わなかった。
むしろここまで近付かれるまで気付かなかったことに驚きだ。
いくら側面が森で、俺達がいる場所が開けた場所だとしても、俺の感知が働かないなど…。
いや、環境変化に紛れてたまたま行き当たったんだろうな。
運の無いことだ!
「マドック!
お前もこまめに回復しておけ!
赤字とか気にするな!」
「分かった…が、きつい!」
盾職一人でオーク8体を抱えるのははっきり言って無理だ。
熟練者ですらせいぜい3体程で、がっちりと囲まれれば身動きも取れない。
本来なら攻撃順序を見分けて弾き飛ばして数を稼ぐんだが、8体も居るとそれも難しい。
それを決め手のルーチェと牽制役の俺も含めて何とか支えている状態だ。
一人でもでかいのを貰えば一瞬で押し負ける。
だからと言って後衛が無能なわけじゃない。
きっちりとオーク共には攻撃を与えているし、常に前衛を盾にしている。
単に俺達の…いや、俺の攻撃力が足りないだけだ。
役に立たんリーダーで申し訳ない。
苦しい戦いの中、ルーチェが1体を沈めてくれた。
これでマドックが少し楽になる。
後は細心の注意をしつつ1体ずつ倒せば何とかなる。
あぁ…全く、後どれだけの時間この緊張感に耐えればいいんだ!
押し潰されそうな緊張感に晒されながら何とか5体まで減らした。
まさかこのしんどい戦いで20分も前衛で支えねばならないとはな。
俺は牽制役だから本当は1体でも正面から打ち合うのは勘弁願いたいんだよ。
そんな少し緩い思考を挟んだ時だ。
オークの横合いから悪夢が2体現れた。
残念ながら目標は俺達らしい。
その瞬間、俺は死を覚悟した。
他の面子も同じようなものだろう。
…オークが居るから正直この先は考えたくないな。
とにかくこうなれば逃げに徹するしかない。
即座に俺は全員に撤退の合図を送る。
反論など当然無い。
むしろ一人でも逃げられるかすら怪しいのだから。
オーガ1体だけなら倒せるんだがな…と無意味な自嘲する。
オークを俺達とオーガの間に挟んで壁に見立てながら何とかじりじりと移動する。
しかしそんなものは小細工だ。
即座に追いつかれるし、だからと全力疾走したところで後ろから殴られる。
結局手詰まりに違いなく、時間稼ぎの内に何か手を考えている真っ最中だ。
そこへ
「手助けは必要!?」
と高い声が響く。
「この状況で聞くのか!?」と完全な八つ当たりで思うが、背に腹はかえられん。
オーガが参戦した以上、1秒でも早く加勢が欲しい。
むしろ1秒長くなるごとに死ぬ確率が上がるのだから。
「誰かは知らんが頼む!」
俺は力いっぱい叫んだ。
そのすぐ後にオークの1体が武器を取り落とした。
しかもバランスまで崩して膝を付いている。
その数秒後には2体目、更に後には3体目と気が付けば30秒もしない内に武器を持つオークは居なくなった。
攻撃も一時的に止み、ほんの一瞬ではあるものの、危険度の高いオーガのみに集中できた。
余りの出来事に唖然としているメンバーを「オーガはまだ居るぞ!」と正気に戻すが…まぁ、俺も同じ気分だ。
そして武器を取り落としたオークは総じて背後を気にしている。
やはり加勢を頼んだ誰かがやってくれたらしい。
と思っている内にオーガの方が背後の加勢者の方に走りこむ。
この戦闘でオーガが抜けるのはありがたい!
オーガが去ると残るはオークのみ。
背後を気にするオーク共は既に武器を拾い上げているが、気にせずに攻撃を加えた。
注意力散漫なため2体まではあっさりと倒せたが、残りの3体は俺達の迎撃に力を入れ始めたために少し手間取る。
加勢者が何人かは知らないが、オーガ2体を抱えている現状を思えばオークなど即座に切り倒して向かわねばならない。
これでもし加勢者がオーガにやられていたら顔向けなどできない。
その思いで満身創痍の身体を動かし、5人掛りでオークを倒していく。
何とか3体のオークを地面に這わせてオーガを探すと既に2体のオーガは横たわっていた。
その光景を見て俺達は驚くしかなかった。
だって当然だろ?
どう見ても子供にしか見えないヤツが、たった一人弓を片手にぽつんと立っていたんだから。
そしてそいつはオーガに無用心にも近付き、討伐部位を切り落としてたんだから。
しかも2体のオーガは俺達から見ても相当にズタボロで、一体どうやれば弓であんなことになるのかさっぱり分からなかった。
ようやく訪れた休養の時間にそんなものを見せられたら気も抜ける。
アイリは魔力使い果たして潰れてるし、他の三人もへたり込んでる。
辛うじて俺が立ってるが…この時の衝撃は筆舌に尽くしがたいものがあるな。
いや、オークを倒した後はオーガだとは理解していたぞ?
それでも一段落付けば息も士気も緊張さえほぐれてしまう。
そんな時にあんなもの見せられたらそりゃ膝から崩れ落ちるくらいには気も抜けるだろ?
とりあえず目の前の子供は疲れた様子も無くトコトコと歩いてきて「大丈夫ですか?」と問いかけてくる。
アレだけの死闘をくぐり抜けてこの態度を取れるとは末恐ろしい。
「本当に助かった。
危うく全滅するところだった」
見栄を張って言ってしまったが、危うくも何もあのままじゃ確実にやられてたはずだ。
そんな小さな大人代表の俺の言葉など気にせずに
「そう、なら良かった。
それよりあの人大丈夫ですか?」
とこちらの心配までしてくれる有様だ。
念のためにアイリに声を掛けてみるが、後衛には指一本触れさせていない。
力なく手をふらふら振って無事を知らせた。
それと助けられた手前、事情説明はせねばならない。
本当に命の恩人なのだから。
というかこの子、一人だけか?
単身でここまで来れるものなのか…?
そんな思いを込めて「まさか君一人か?」と聞いてみると
「です。
休憩入れるなら一緒にしましょうか」
とあっさり返されて改めて俺はぽかんとする。
それから先は更に驚くべき光景だった。
その子の背後からぽんぽんと道具が取り出されるのだ。
「あ、《拡張空間》とアイテムボックスを持ってるんですよ」
と言っていたが、《拡張空間》は特性としてはかなり上位のものになる。
重量や体積を無視して持ち歩けるのだから、有用性を考えれば値段は言うまでも無く高い。
当然俺達が手に出来るものではない。
辛うじてギルドが販売している『荷物袋』にしても、それほど大容量のものは存在しない。
そのことを思うと旅には無駄とも思える調理器具や食器、茶葉を持ち歩けるのは相当に凄いことなのだ。
なおかつそれらを使って俺達全員に暖かいお茶を振舞ってくれる。
手際もいいことを思うと日常的に行っているのだろう…何とも豪勢な話だ。
そんな光景を俺達はぼんやりと眺めていた。
そして改めてオークを見ると、背後から両肩に矢が2本ずつ突き刺さっている。
しかも矢の半分ほどしか見えないことを思うと結構な深さまで刺さっているようだ。
確かにこれではいくら鈍いオークと言えども武器を持っていることは無理だろう。
むしろ関節に矢が突き刺さってるのに良く武器を握ったもんだと呆れてしまう。
そのお陰で空白時間が生まれ、数が減らせたのだ。
疲労困憊状態で5体を仕留めるには流石に荷が重いのは間違いないからな。
加えてオーガも矢があちこちに突き立っている。
オークほども刺さっていないが、それでもあの防御力を突き破るのは凄い。
細剣士の俺の剣だと掠り傷、ルーチェの槍でようやく負傷。
それも『きちんと当てれた場合に限る』んだから、弓なんて武器で仕留めるのは難しいというレベルではない。
少なくともDランクのオーガを苦も無く倒せる討伐者であるはずなのでCかBに属するはずだ。
そんな討伐者に出会えたことこそが幸運だと思い、全員死なせずに済んだと命があったことに安堵する。
というかこの子供は何なのだろう?
交戦中からとはいえ、たった15分程度の情報にしては多すぎると思うんだが俺だけか?
そんな俺の疑問は結局解決していなかった。
お読み下さりありがとうございます。
【18話:野うさぎハンター】を修正しました。




