お誘い
気付けばブックマークが400超えていました。
ありがとうございます。
「リオ君、どうする?」
カルロの謝罪を受けて、ギルバートの第一声がこれである。
「この場面でこっちに振るのか!」と理熾は思ったが仕方ない。
被害者は理熾であり、ギルバートは単なる友人枠である。
代弁者にはなれてもそれだけであり、勝手に話を進めるわけにもいかないのだ。
理熾は「ふぅ」と息を抜いてから
「気にしなくて良いですよカルロ様。
ただ、それだけだときっと気が済まないと思うので、また今度何かお願いしますね」
と理熾は言い放った。
ギルドマスターやアルス領主が全力で拒否した『貸し』を、他の貴族の前で明言してやったのだ。
しかも『カルロの心情を思って』と付け加えて。
カルロが謝罪している以上、この言葉は絶対に断れない。
下手に「いや、お気付かいなく」などと言って辞退でもしようものなら『謝罪する気が無い』と取られかねない。
むしろそういう風に受け取るために理熾は声を掛けたのだ。
ギルバートは内心で「大人しくしていれば良かったのに」と密かに思っていた。
そして田舎であるはずのアルスの方が王都よりも余程刺激のあるやり取りをさせられるとも。
「そ、そうか…感謝する」
カルロも思惑に気付いたらしく、少しだけ詰まりながら礼を言った。
普通は理熾が『怪我をさせたこと』に対して謝罪する場面なのだ。
それを謝った上に貸しまでつけられるのだから、カルロとしては目を剥くような状況だ。
対する理熾は「これでとりあえず一回はカルロが何とかしてくれるはず」と適当に考えていた。
相手は公爵家の息子なのに。
「当人達が良いと言うならわしは何も言わんがな。
しかしカルロ殿。
『好奇心が身を滅ぼす』などとアシュレイ殿を言えないな?」
「……あぁ、全くだ。
それより辺境伯、大捕り物の討伐者の紹介を頼む」
と身を正してカルロは答える。
今更見栄を張っても遅いのだが、それはそれ。
貴族と言うのは体裁が大事なのだ。
そんな様子を見て「さっさと話を戻したか」とギルバートは苦笑しながら返す。
「名前はハッサクだ。
今日はもう遅いから、続きは明日以降に頼めるか?」
「ハッサクか…承知した」
と軽いやり取りを経てカルロは部屋を出て行く。
ギルバートはソファーに沈み込んで「はぁ…」と深い溜息を入れ、理熾に視線を向ける。
「リオ君、肝が冷えたぞ?」
「僕もだよ。
いきなりだったから反射的に動いちゃったよ」
「いや、普通は背後からの攻撃に反射的に動けないからな?」
ギルバートに理熾が答え、最後にルルガが突っ込みを入れるが、この場での功労者は間違いなくルルガである。
理熾の行動に介入しなければどう転んでも大問題に発展していた。
貴族に怪我を負わせることになっていたのだから。
少なくともギルバートの目の前で起きていることなので最悪には至らないだろうが、それでも大変面倒なことになる可能性は高かった。
「とりあえず次からは回避するだけにしてもらいたいものだ」
「いやぁ…それが防御って下手なんだよね。
僕って何だか攻撃特化みたいで。
そんなに攻撃的じゃないんだけどなぁ…性格とかは」
「その割りに綺麗に巻き込んでいたじゃないか」
「配下にもっと凄いの居るしね」
という理熾の言葉に「なるほどな」とギルバートもルルガも納得するしかない。
理熾の避雷針としてカルロに名前を告げたが、実際ハッサクがほとんど倒しているのだ。
それくらい出来るだろう。
というよりレモンの方が能力高いと言うことなのだから、恐ろしい面子を抱えているものである。
「それじゃ僕はこれで」
「あぁ、長々とすまなかったな。
後ハッサクの件は適当に断れば何とかしておこう」
「ありがとうギルバートさん」
そう言って理熾は《転移門》を開く。
『向こう側』の設定を理熾の部屋にすれば、まず誰かに見付かることは無い。
見付かったところで身内のはずだから問題は無いし、この場に居るのも身内ばかりだ。
「おやすみなさい」と言いながら《転移門》をくぐる。
今日も色々と濃い一日だったと思い返しながら、さっと風呂に入って就寝した。
ハッサクの食事代は翌日セリナに渡せば良いだろうと考えて。
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翌朝、理熾はまたも珍しく人に起こされた。
特に寝坊したわけでもないのだが、ハッサクが呼びに来たのだ。
「主人、困ったことになった」
第一声でそんなことを言う配下をぼんやり眺めて欠伸をしながら理由を聞く。
すると昨日の今日で既にカルロが手を回してきたらしい。
しかもハッサクだけでなく、ネーブル、ライム、レモンに加えてスミレにまで声が掛かっているとのこと。
特にスミレへの勧誘が激しく、ハッサクがこっそりと抜けてきたというわけである。
とはいえギルバートが釘を刺している以上強く出れないはずである。
その辺を聞くと
「それが、条件を変え続けている。
『絶対に嫌だ』といっても、流石に条件次第だろう?
こちらには本気で受ける気が無くとも、一般論では『交渉中』を維持できる。
しかも相手は公爵子息ということで、簡単に断ることも難しいという状況だ」
先日のガウス子爵は条件すら言わずに勧誘してきたことを思うと流石である。
というか条件変更は1度だけだった。
どれだけ子爵が無能かということがここでも証明されたかと思うと残念でならない。
むしろ現状のカルロが優秀なのかもしれない。
「むぅ…能力のある馬鹿は嫌いだ!」
と理熾は悪態をつく。
朝っぱらから困った事態を引き起こしてくれている。
そこに「リオ君すぐに来て!」とセリナが血相を変えて飛び込んできた。
何事かと聞いてみるとやはり先ほどのカルロの件である。
「スミレを『見学』って言って連れて行こうとしてる!」
「あぁ、もう!
すぐに行きます。
ハッサクも少しだけ時間稼ぎしてきて」
「承知した」
そう言って二人は出て行く。
カルロの狙いは恐らく二つ。
このまま五人(プラス理熾)を手駒に出来れば最善。
それで無くともこの事態を理熾の『貸し』で解決させるのが次善。
ハッサクたちを諦めざるをえないが、貸しさえ無くなれば大手を振ってアルスで引き抜きが出来るようになるからだ。
いつまでも一討伐者に遠慮しているわけにはいかないというわけだ。
出鼻をくじいたと思ったのに…。
まさか『使わせに来る』とは思わなかった。
ここでギルバートさんに声を掛ける…?
いや、流石に迷惑は掛けられないかな。
というか…このままだとフィリカさんに迷惑掛かるんじゃ…。
手練と言うなら確実にフィリカも含まれる。
彼女は優秀な魔法士であり、生産者だ。
文句無く該当するだろうし、『ハッサク』という名前だけでここまで辿り着いたカルロを思うと、時間的猶予は余り無い。
故に理熾は改めて叩き潰すことに…
って、アレ?
【神託】があるや…いつの間に…?
昨日から存在していた《!》にようやく理熾は気付いたのだ。
相変わらず猪突猛進というか、一つのことに集中すると周りが見えなくなる。
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【神託】
ドラ息子のお願いを聞いてみよう
達成内容:アシュレイ・メルカノの護衛
アシュレイの次の興味は迷宮だ
現在ラボリという迷宮を目指して準備している
公爵家たる者、そこら辺で野垂れ死ぬ訳にはいかない
聞く耳を持たないアシュレイのためにカルロが護衛を探している
刻限は迫っている
どうか彼に力を
報酬:拡張パック
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「……………………」
理熾は思わずベットにボスンと沈み込んだ。
それはそうだろう。
昨日アレだけ苦労して突き返した内容なのに、まさか【神託】が後押ししてくるとは思わなかった。
いや…それよりも何で『メルカノ家の支援』が【神託】として出てくる?
スフィアにとってそこまで重要な家…?
むしろ『アシュレイ』って人が重要人物?
てか『拡張パック』って何だよ…。
疑問は深まるが、とりあえず次の指針はアシュレイの護衛になるらしい。
果てしなく面倒ではあるものの、カルロへの貸しを使わずに【神託】までこなせるのだから事態が好転したと思った方が良いかもしれない。
理熾にとって有利なのは護衛として十分な力があり、しかも現在『求められる立場にある』ということ。
過剰とも言える追い風状態なのだから、色々吹っ掛けることを決めてしまう。
そうして方針を決めると共に、《亜空間》を使って服を着替えて部屋を出る。
以前と同じく身支度を整えてから顔を出す。
相変わらず<空間使い>であるスミレを口説いているようだが、当人はそっぽを向いている。
理熾は「カルロさん相当美形なのにスミレ全くなびかないんだなぁ」と感心しながら声を掛ける。
「おはようございますカルロ様。
僕の配下に何か用かな?」
スミレは理熾の姿を見るや否や即座に背後に回って隠れる。
余程カルロに辟易していたらしい。
そんな様子に苦笑いを浮かべながらカルロは返事をする。
「おはよう、リオ。
何だ、君の部下だったのか?
譲ってくれるとありがたいんだがな」
既に知っているだろうに。
白々しく告げるカルロはに理熾はそんなことを思いながら「スミレが頷けばね」とギルバートにも言った言葉を掛ける。
当然スミレは「嫌です!」ときっぱり断るのだが、カルロは気にせず条件をころころと変える。
朝っぱらからこんなことをされてはスミレもさぞ迷惑だろう。
「とりあえずカルロ様が勧誘している五人のご主人様としてこの場にいるんだよね、僕」
「おぉ、それは気付かなかった!
まさかこの面子全てを従えているとは思いもよらなかったな!」
相変わらず白々しく告げる内容に理熾は内心「よく言うよ」と嘆息する。
その横でセリナが冷や汗を掻いているが、彼女がカルロを気にする必要など無いのだ。
公爵家の家長ではなく、ただの息子である。
確かに一般人やその辺の貴族よりも遥かに権力を握っているかもしれない。
しかしそれを言えばセリナも同様で、むしろアルスにおいては圧倒的にセリナの方が上である。
理熾からすると対等に話せるはずなのに、それを出さない(出せないのかもしれないが)ことに首を傾げるしかない。
「そうですか?
ではとりあえず主人としての返答を。
カルロ様が求める個人契約の一切を拒否します」
「では条件を変えよう」
「いや、それはもう不要です。
僕が今お話した内容が全てですので」
「私が求める個人契約の一切を拒否する、だろう?
ならばアシュレイの代役として改めて交渉をしよう」
「なるほど」
と一つ間を置く。
カルロではなく、アシュレイとして引き込み工作を始めるという訳だ。
だがそれも理熾が同じように拒否すればそれで話が終わってしまう。
だから次は公爵の名で勧誘をするのだろう。
流石に貴族の申し出を二度三度続けて断るというのも外聞が悪い。
しかも最後に一番力を持つ『公爵』を残している辺りが実にいやらしい。
なので理熾は方法を変えてみることにした。
「例えばの話ですが、代役として交渉をして万が一僕が頷いたとします」
「ほう、それは大変ありがたい例え話だな」
「アシュレイ様との顔見せの際に断られた場合は『代役』という言葉が嘘になりますね?」
「それは無いだろう。
私はアシュレイに頼まれて探しているのだから」
「…貴方の目が悪かっただけ、という事ですか?」
「残念ながらな」
相変わらず態度だけはそれらしく振舞う。
だが問題はそこでは無いのだ。
人の時間を使っている自覚が無さ過ぎる。
だから理熾は当然のように
「あぁ、なるほど。
カルロ様って馬鹿なんですね」
と思ったことを素直に伝えた。
お読み下さりありがとうございます。




