まさしく凶器
次に俺が見たのはライムが俺に【生体魔法】を掛けている光景。
ぼんやりした頭で周囲を窺うと、周りには回復薬が入っていたであろう器が結構な数転がっている。
その少し離れた場所で正座している理熾と、仁王立ちで見下ろしているネーブルが居た。
「どんな状況だ?」
身体に力が入らないのだが、とりあえず聞いた。
頭は全く冴えないが、状況確認は基本だからな。
ライムが「とりあえずこれ飲んどけ」と口に押し込んだ丸薬は興奮剤だった。
おいおい、こんなもん飲ませんなよ…。
と思うがふざけてる雰囲気は無いから従う。
臭いと苦味が舌を痺れさせるが我慢。
すぐに水を口に含ませてくれたことに感謝する。
これで舌が平和になる。
「お前が死にかけた」
次にライムが口にした言葉はシンプルだったが、それなりに衝撃を受ける内容だ。
最後に確か主人が「切り札を使う」と聞いたところから意識が無い。
いや…違うか、何だか凄い勢いで杭が飛んできたはずだ。
軌道上からは辛うじて逃れた覚えがあるんだが…どうなってる?
少なくともあの攻撃を食らったらしいことだけは分かるんだが、理由がはっきりしない。
「何を食らったんだ?」
「あぁ…お前でも見切れなかったのか」
ライムの声は呆れているように聞こえる。
一体何があったのだろうか?
戦闘カンで言えば俺は四人の中で群を抜いている。
つまり大国のシミルでも指折りだということだ。
俺自身、自惚れられる程度には強さを持っていると自覚している。
単体の戦闘能力で言えば、俺に追いつけるのはまさに一握りだからな。
そんな俺が分からない攻撃など誰も防げんぞ。
何をやったんだよ主人。
最近よく嘆くようになったと、思わず嘆く。
何だかもう頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「コレ、見た覚えあるか?」
取り出されたのは先ほど見た無骨な杭のような投剣だった。
確かに見覚えもあるし、全力で避けた恐怖の対象だ。
「食らう前には見たがそれが?」
「お前は避けれたんだよ。
だがその結果がこれだ」
何を言っているのかさっぱり分からなかった。
回避したのにこの様とは、回避してないじゃないか。
「この投剣には主人の血魔石が仕込んである。
中身は《結界》しか入ってない単純なものらしいが、こいつが恐ろしく凶悪なんだよ」
種明かしをするライムが持つ投剣を見詰めながら、内心首をかしげる。
だって《結界》だぞ?
あれは防御魔法なんだから、武器に付ける意味など無い。
主人自身も牙の首飾りの《結界》使ってたのに何やってんだ?
まさかそんな常識も知らんのか?
「主人はこの投剣の《結界》を、攻撃として利用してる」
「は?」
俺は耳を疑った。
防御魔法を攻撃に転用する?
うむ、意味が分からん。
「この投剣は総紅蓮鉄鋼製だ。
この意味が分かるか?
このなりで8kg以上あるらしい。
それをあの速度で発射して、そこに《結界》を纏わせる。
要はお前が認識できる速度以上で壁が飛んでくるんだよ」
おいおい。
何の冗談だよ?
なんつー使い方してやがる。
そんな使い方誰もしたこと無いぞ。
そう思う俺の内心を察したのかライムは
「あぁ、お前の疑問は良く分かる。
《結界》は本来、攻撃の遮断・吸収・拡散を目的とした魔法のはずだからな。
いくら投剣に纏わせても《結界》が守って威力が落ちるのが普通だ。
だから主人は《結界》が持つ特性を全部省いてその分『強度だけ上げた』らしい。
要は遮断・吸収・拡散しない、超硬度の壁を瞬時に展開して押し潰すんだとよ」
「そりゃ避けれんわ」
思わず出たのは正直な感想だ。
尋常じゃない速度で放たれるだけでも防御が難しい。
というか受けようとしたら貫通するだろあれ。
それを何とか逃げても『実は範囲攻撃でした☆』とか性質悪すぎだろ…。
結局防ぐには撃たせないってことになるんだろうが…アレの発射動作って《亜空間》だろ?
邪魔するには隙が少なすぎて、タメも不要。
しかも見た瞬間負け確定ってどんなだよ…。
後は使い切るまで耐えるとかか?
現実的じゃねぇなぁ…。
「威力だけならお前を越えるしな」
「そりゃそうだ。
重さと速度の貫通能力で単体攻撃。
《結界》併用で範囲攻撃。
しかも威力が下がる範囲攻撃でさえ威力は俺が死にかけるレベル。
確かに切札とか言うだけあるけはあるが、俺殺されるようなことしたっけ?」
「その辺は今ネーブルがマジギレしてる。
つうかその投剣。
今回のルールでは『刃を潰した打撃武器』扱いだから、主人の反則負けでもないんだよな」
「そこまで見越してかよ…嘘だろ…?」
「いや、本人が言ってた」
俺は思わず「信じられん」と呟いた。
だってそうだろ。
あんだけ俺にバカスカ殴られてて、何とか逃げた直後の攻撃がアレだぞ。
つまり殴られてる間にそこまで考えて行動してんだぞ?
信じられるか。
「レモン大丈夫?」
不安そうな顔で俺の顔を見に来るのは件の主人だ。
大型の馬車に轢かれて無事な奴が居るなら、見てみたい。
そいつは多分大丈夫だろうが、少なくとも俺は無理だった。
実際死にかけたらしいしな。
「まぁ、そこそこ?
てか身体動かんのだが大丈夫なのか?」
「ライムが麻痺掛けてる。
じゃないと発狂するらしいよ」
マジか。
頭回せないから視界に身体が入らないが、そんなズタボロか。
その割に主人普通だな…俺要らない子か?
って、あぁ…【肉体修復】か。
ユニークに入ってるけどあれ基本的にパッシブだからな。
意図的に止めることは出来るが無意識なら勝手に発動するし、この分なら問題無さそうだな。
「良く考えればリザードでも貫通する威力なんだから危ないよね」
「ちょ、おま!
そんなもんぶっ放すなよ!?」
『良く考えれば』ってその切れる頭で考えた結果が俺の惨状だぞ?
思わず叫ぶわまったく。
ホントにその辺ちゃんと考えてくれよ…。
HPとか半分切ってるじゃねぇか…って、一撃でか?
怪我のせいでHP削られるのをライムが魔法使ってトントンってところか。
一撃で俺のHP半分吹き飛ばすとかどんな攻撃だよ…味方居なきゃ100%死ぬぞ。
「てかやたら眠いんだが…」
「あぁ、【生体魔法】を全力で掛けてるからな。
体力ガリガリ減ってるはずだ。
その分回復薬をしこたま掛けてるから安心しとけ。
半日で全快させてやるから、今日は寝て過ごせ」
いや、待て。
ライムの【生体魔法】を全力で掛けて半日掛かるってどんな状況だよ?
死にかけたのは冗談じゃねぇんだな…。
そんなことを思いながら俺は意識を手放した。
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《亜空間》を感知した瞬間、ハッサクの【超感覚】が「アレはヤバイ」と全力で知らせてきた。
その知らせを【以心伝心】で繋がるネーブルも共有し、即座にライム、レモンに【以心伝心】を繋いだ。
次の瞬間には投剣が姿を現し、その危険性に全員が貫かれ、ネーブルはレモンに【群雄割拠】による能力強化を施す。
ライムはスミレとの戦闘を完全に放棄し、【生体魔法】での《結界》に加え【重力魔法】をレモンが飛んだ方向にそれぞれ全力展開した。
さらにハッサクも拙いながら【初級魔法】の《結界》をレモン基点に構築。
レモン当人は無意識に全ての処理能力を総動員して【皇気】を全開(特に防御力全振り)にしていた。
《亜空間》の出現と共に放たれた投剣が飛来する、1秒にも満たない間にそれぞれが対抗手段を放った。
魔法は物理速度を越えられないのが普通ではあるものの、処理能力さえ高ければその限りではない。
理由も『魔法構築に時間が掛かるから』なのだから、当然である。
それぞれがそれぞれの処理能力のみであれば絶対に間に合わないこれらの行動を指揮官はやり遂げた。
【以心伝心】で繋いだ全員分の処理能力を最適化して再配分して間に合わせたのだ。
だから「この件の一番の功労者は?」という質問があるなら、全員が「ネーブルだ」と口を揃えるだろう。
しかし理熾が放った投剣はその程度を諸共もせずに突き進んだ。
ハッサクの《結界》は時間稼ぎにもならず貫通。
ライムの《結界》が阻むも「バシャン!」と大質量の水を打つような衝撃音を放つだけで止まらない。
能力を底上げされ、【重力魔法】で跳び下がったにも関わらず、高速の壁は全てを薙ぎ倒してレモンに到達。
【皇気】と【群雄割拠】を全開にしてさえ、レモンは投剣の壁に轢かれて錐揉みして弾き飛ばされた。
ここに来てようやくスミレが状況を把握し、《転移門》でレモンを受け止め地面への激突を回避。
対となる《転移門》は先ほどハッサクが飛び出した地面に繋がっていたので、上空へと弾き出された。
そこからはライムとリコが重力を緩和して着地させ、ライムが全力で【生体魔法】を掛け始める。
すぐさまネーブルが理熾に【以心伝心】を繋いで
(今すぐ手持ちの回復薬吐き出せ!)
と指示。
ついでに(足りなきゃ今すぐ買いに行け!)と重ねて指示する。
余りの事に混乱していた理熾も我に返り、回復薬を片っ端から吐き出す。
【生体魔法】は体力を糧に回復するので、瀕死状態で使うと体力を根こそぎ奪われて衰弱死する。
そうならない為に回復薬をガンガン浴びせるのだ。
しかし理熾の手持ちはコボルトキングとの戦闘で手持ちが少なく、5つしか持っていなかった。
すぐに5万カラドをスミレに渡し、「値段は気にせずギルドの回復薬を持てるだけ全て買ってきて」と送り出す。
品薄になるなど知ったことではない。
今はそれよりも重要なことがあるのだから。
すぐに《転移門》を潜ってスミレはギルドへ向う。
ほんの1分程で戻り、『取り合えずすぐに出せる分』として受け取った回復薬を持ち帰る。
それでも数は20程手に入れられた。
延々と回復薬を掛け続けて体力を回復させつつ、【生体魔法】で大量に消費して身体を治す。
体力が足りないことは無いが、もう少し欲しいとライムが告げる。
すぐに理熾が《転移門》を開き、軍資金を渡して体力回復系の道具をハッサクに集めてもらう。
効果の高い丸薬に心当たりがあるらしいが、ギルドで手に入るかどうか微妙らしい。
それからスミレはこの場とギルドを行き来して合計300ほどを掻き集めてくれた。
倉庫を漁ればまだ出せるが「もう勘弁して下さい」と泣き付かれたらしい。
とりあえず足りれば問題ない。
足りないのならば奪いに行くつもりで理熾はスミレに「ありがとう」と礼を言う。
ハッサクも何処からか丸薬を入手してきてくれた。
飲み薬なので起きるまで与えられないのが悔やまれる。
ライムも魔力を振り絞っているので魔法薬が必要になってきた。
理熾の手持ちは3つ。
改めてスミレにお使いを頼み、あっさり50本手に入れてきた。
それだけで確か最低でも5万カラドに相当するはず。
そうなると回復薬の分が完全に足りなくなる。
理由を聞くと相手が最初から「これ以上無理です!」と50本出して来たらしい。
準備が良いというよりは完全に買い上げられることに臆した販売員が先手を打ったようだ。
手持ちが足りないことにそこでようやく気付いて代金を取りに戻ると告げたのだが、「手持ちで良い」と押し切られたらしい。
恐らく足りない分を取りに戻った際に「もっと買え!」という指示を恐れたのだろう。
大口顧客ではなく、ただの一般客。
だから個数による割引はさほど必要ないが、そもそも数が揃わない。
大口の販売では前もって連絡を貰い、それに応じて商品を用意するが今回はいきなり。
用意できるはずも無く、他への影響を考えて「とりあえず早く帰れ」と追い返されたようだ。
もしかすると今後販売数に制限が掛けられるかもしれない。
まさか買うことで迷惑を掛けるとは思わなかったが、ギルドには後ほど謝罪に行くことを決意する理熾だった。
そんなこんなで治療10分ほどで取り合えずの危機を脱した。
その辺で理熾はネーブルから痛烈な一言を貰った。
「主人、威力の分からん攻撃をするな」
「うん…」
『死にかける』というのは確かに多少オーバーな表現ではあったが、自力で回復するレベルのダメージでは無いのだ。
戦闘訓練で行うような攻撃じゃない。
理熾はシュンと綺麗な正座をして凹む。
まさかアレほどまでに大事になるとは思っていなかったのだ。
何せハイオーク戦では腕に穴を開けただけ。
改良された投剣もリザード戦では投剣だけで決められずに《結界》と《障壁》を併用してようやく勝てた。
ゴブリン戦では確かに数十ものゴブリンを真っ二つにしたが、所詮ゴブリン。
よくよく考えると比類なき威力を持つ投剣なのだが、割と役に立っていないのだ。
だから理熾は見誤った。
貫通力はあるから、そのまま投げるとかなり危険。
《結界》を使えば『それ程じゃない』という風に。
しかし実際はリザードの突撃を真正面から止めるだけの威力を持つのだ。
今回の事に発展しても仕方が無い。
理熾が今まで戦ったのは完全な格上であり、身体の構造からして頑強な魔物ばかりなのだ。
技術や道具で弱さを補う人相手には余りにも威力が高すぎるのだ。
そしてネーブルも言えることはそれだけだった。
投剣の威力は勿論驚愕に値する。
それを苦も無く扱う理熾はまさに規格外だろう。
だがこんな攻撃を人が受けられるはずも無く、放ったことも無いだろう。
だからレモンに放ったのだ。
何を言っても、どう足掻いても現状の理熾よりも遥か格上のレモン。
まさに投剣は理熾の切札に等しい攻撃で、格上に対する唯一の武器だった。
人の枠内における格上はレモンしか知らず、どれだけの威力に耐えられるかも分からない。
であれば放つだろう。
通用するかどうか、通用するならダメージはどれくらいか。
それらを知るためにも『使わずには居られない』し、使うべきだ。
先ほどネーブルが「威力の分からない攻撃を使うな」とネーブルが言ったように、知るために使ったのだから。
とはいえ。
感知しづらく、タメが不要で出が早く、放たれた投剣の速度は圧倒的で、まず止められない。
加えて《結界》を介せば範囲攻撃に早変わりするのだから、余りにも実用的だ。
状況によって対策を変える魔法の特権を物理に乗せて実現させるのだから。
辛うじて全員が反応できるだけの速度であって良かったと内心ネーブルは胸を撫で下ろしたくらいだ。
それに話によるとスミレも使えるらしいから、弾数に制限があることを除けばいきなり最強の一角。
たかだか便利な【空間魔法】がえらく出世したものである。
そんなことを考えながら溜息を吐く。
張本人はやらかしたことに対して一番理解しているだろう。
冷静を欠いた場面を見たことの無い理熾が、まさに「あわわ」と慌てている状況だったのだから。
今なお、声には辛うじて出ていないが冷や汗と後悔を表情に滲ませ嘆いている。
味方を殺しそうになったのだから当然かもしれないが、それにしても深刻そうだ。
だから今さら言い募ったところで大した意味は無い。
追い詰めるより反省の方が大事だからだ。
そうこうしている間にレモンが起きた。
ライムといくらか会話をして、理熾が謝ると寝てしまった。
怪我は完全に治るらしい。
ユニークに【肉体修復】を持つレモン以外がダメージを受けたら無理だったろう。
相変わらずレモンも化物である。
とりあえず全員はしゃぐ時間は終わりだ。
理熾が【深化の竜牙】を手に持ち、レモンを抱え上げて《結界》を起動。
簡易担架の代わりにして運ぶ。
相変わらず器用なと全員が思ったが口には出さない。
便利なのだからそれに越したことは無い。
スミレが《転移門》を開き、あけみやの部屋へと繋ぐ。
レモンを寝かせ、セリナに事情を話してからギルドへ向う。
他の四人はレモンの看病組みと自由時間組で分かれた。
せめてガゼルにだけでも事の次第を説明しておかないと出入り禁止になるかもしれない。
しかし結果から言うと、ガゼルにはにこやかに対応された。
単に物を買っただけなのだから、非は無い。
しかもそこには正当性があったので余計に。
逆にわざわざ謝罪に出向いた理熾の評価は上がってしまった。
何というか、改めて申し訳なく思う理熾だった。
お読み下さりありがとうございます。




