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神様のおねがい  作者: もやしいため
第七章:楔の解放
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領主の采配

今回はフィリカへの謝罪編です。

「それで?

 そのまま契約して今に至る、と?」

「です。

 勝手にしてすみません…」


事の次第をあけみやの食事を食べながらフィリカに説明したのだ。

言葉自体は不穏な言葉が出ているが、声が楽しそうなのが救いである。


なるほどな(・・・・・)

 まんまとやられたな、リオ君」

「えー?」


「ギルバートからすれば工作員は最早邪魔者(ゴミ)だ。

 後は『どうやって処分するか』を考えるだけだろう?

 だが行動は縛られる。

 あいつは『領主』だからな。


 慣例やこれからを考えれば確実に死罪。

 その反面リオ君が言うように、殺すにしても面倒なんだよ。

 戦場であればすぐ傍に『生き死に』があるから、割と殺害に抵抗は無い。

 しかし罪人とはいえ、無力・無抵抗の相手を殺すのはなかなか心に堪えるもんだ。

 まぁ、それくらいの覚悟は誰もが持ってるから出来るし、やるがな?」


と血生臭い話を飄々と話す。

やはりこの世界の人の命は軽いのだ、と理熾は再認識する。

理熾はまだ人の命を手に掛けるということに覚悟は持っていない。

迫られれば出来るかもしれないが、出来ればそういう経験はしたくないとも思っている。


「加えて、遺体の処分や事務手続きが大変なんだ。

 敷地に埋めるのが一番発覚を恐れずに良いんだが、それも面倒だし嫌だ。

 だってそうだろ?

 自分の土地が『反逆者の墓地』になるんだから、普通の神経してたら嫌だろ。


 それにだ。

 余りにも秘密裏にやりすぎても問題なんだ。

 死罪は『見せしめ』という側面を持つ。

 少なくとも『工作員を処罰した』という体裁をとらなければならない。

 領民には秘密裏に、その反面他国には『わざとらしくない範囲で処罰を知らせる』必要があるんだ」


「面倒だろ?」とフィリカは続ける。

恐らくそのバランス感覚が一番面倒なのだろう。

何処まで知らせて、何処までを知らせないか。

範囲や情報の深度も含めてのバランス感覚を求められる。

それには現在の領地や国、他国の状況に加えて他国との関連性にまで発展する。

『殺す』という物質的な問題に加えて、情報的な面倒を抱え込みたいとは誰も思わないということらしい。


だから(・・・)だ。

 『リオ君が捕らえた』というのがポイントなんだ。

 君が言ったように、所有権は現在君にあるからどう扱おうが勝手だ。

 それこそ君が「死ね」と言っても「あげる」と言っても通るのだ。

 犯罪者の命はそれくらい軽い。

 だがいくら領主といえども、『個人資産』を独断で取り上げることなど出来ない。

 これが一番大きなポイントなんだ。


 ギルバートの目的は『処分すること』じゃない。

 『面倒の排除』なんだよ。

 だからリオ君に念入りに撒餌をした。

 そもそも死罪が決まっているんだから、『生かすことの利点』を聞く必要(・・・・)など無い。

 だって聞いたところで結果は変わらないんだからな。


 そして聞いた上で否定する(・・・・)

 しかもその話は確実にエリルから報告が上がっているだろう。

 『リオ君は工作員を殺したくは無い』という風にな。

 だからリオ君の感情を『思った風』を装って理由を聞き、それに対して明確に拒否した。

 理由は簡単だ、リオ君から『身柄を寄越せ』という言葉を引き出すための布石に使ったんだよ」


フィリカの説明に納得するばかりである。

面倒の排除を思えば、『領主の手に決定権が無い』というのはかなり分かり易い言い訳だ。

しかも今後の問題は『理熾が背負う』という話にも繋がっている。

ギルバートはまんまと面倒を全て理熾に押し付けたということになる訳だ。


「うはぁ…ギルバートさん凄いね。

 何か引っ掛かりはあったんだけど全然気付けなかったよ…」

「そりゃな。

 あいつも領主暦長いからそれくらいするだろ。

 むしろこの話を振ってきた時点で『リオ君を評価している』んだと思うぞ?」


「どういうこと?」

「『盗賊として引き取る』と言い出したのがリオ君だからだよ。

 領主側からはそんな打診(アドバイス)は絶対に言えない。

 それを言ってしまうと『押し付けた』事になるからだ。

 だから(・・・)、この話が『リオ君の奴隷』として終結しているのは評価されているということだ」


「ま、もう一歩踏み込んでいければ完璧だけどな」とも続ける。

この『もう一歩』とは、これまでの流れを読みきった上での交渉だ。

そうなればギルバートももっと譲歩案を出さざるを得ないし、理熾との対面もある。

出来る限りの配慮を行っただろう。

だが、既に契約は済んでいる。

今更条件を変えることはできないし、それこそ工作員として突き出すことも出来ない。

それをしてしまうと『雇用主(理熾)が主犯』になるからだ。

何とも手の込んだことをしたもんだ、とフィリカは思う。

ついでに「子供相手にやることか?」とも。


「嬉しいんだか、悲しいんだか…まぁいいけどさ」


評価されたとしても良く分からない感情にさいなまれる理熾だった。

何にしても嫌々押し付けられた訳ではない。

だってその場で理熾が報酬を求めればそれはそれで話は終わったのだ。

結果的に同じ様相を呈すことは自分自身で理解している以上、ギルバートに嫌悪感も無い。

むしろ「流石領主様だなぁ」くらいの感情しか浮かばない。


だからそれはもう良い。

終わった話だし、それよりも先を考えねばならない。

既に理熾は雇用主であり、部下(奴隷)の扱いを考えなければいけないのだ。


「あ、フィリカさん。

 あの四人の能力ってどんなもんかな?

 すぐに黙らせたんだから、多分それほどじゃないと思うけど」


と大して期待もせずに問う。

戦闘力やら思考能力を知らなければならない。

前情報を持つことの良し悪しは分からないが、相対したフィリカに聞くのは参考にしても十分な価値がある。


「そうだなぁ…。

 討伐者で言うならC・Dランクくらいの戦力か。

 情報収集能力にも長けているだろうが、残念ながら隙がある。

 私やリオ君で見付けられる程度…まぁ、周りに何にもなければだがな」

「え、それってめちゃ強いじゃん。

 フィリカさん良く瞬殺したね…」


「殺してないけどな。

 察知能力は高いが隠蔽能力が実力に見合わない。

 アンバランスな気はするが、恐らく『目撃者は()す』というのが基本なんだろうな」


情報収集能力が高いというのは脅した上での話しなのだろうか。

何にせよ結構恐ろしい集団だったらしい。

にしても、情報を扱う割りに余りにも短絡的に殺しをするのだなぁと言うのが理熾の感想。

だから思わず「何か本末転倒だね?」と聞いてしまった。


「工作員だからな。

 多少の強引さもアリだし、何より何処か壊れていないと出来ない。

 他人が、そして自分達が築いたものを壊すのが仕事だからな」

「それか、多少ばれても良いようなことがメインだったのかもね」


「あぁ、なるほど。

 むしろ言わなくても『シミルだ』と分かるような状況ってことか」

「うん、だから今回は例外。

 もしかすると手が足りないのかもね」


と適当に結論付けた。

特に今ここで話しても仕方の無い内容だからだ。

その辺が知りたいなら情報源は既に隷属しているし何とでもなる。

それよりも職である。

諜報能力と戦闘能力はあり、残念ながら隠蔽工作は苦手らしい

何か作れればそれでいいのだが…まさに荒くれ者の職などあるのだろうか。


「そんな訳で。

 あの四人どうしようかなぁと」

「ん?

 そんなものギルド登録すれば良いだろう。

 そもそもギルド員はそういう『犯罪者』も含まれる。

 ギルドは世界を渡る商会だからな。

 国によっては合法だったり、非合法だったりする。

 住んでいる国で非合法な行いさえしなければ追われることは無い。

 それに今回の場合はもうリオ君の奴隷だから何の問題も無い」


「なるほど。

 得意分野聞いてから割り振ろうかな。

 んー…討伐以外の能力が高ければ良いんだけどなぁ」

「理由は?」


「ん?

 情報収集的な。

 僕はモノを知ら無すぎる。

 生産、売買、流通、国際情報…何でもいいけど、知らないことを仕入れて欲しい」

「工作員から一転、諜報員扱いか。

 なかなか人使いが荒いんだな?」


とフィリカは笑う。

だが雇用主としては正しい判断である。

出来ないことや、やりたくないことをさせるものだ。

というよりは同じ事をさせても意味が無い。

何せ雇用主が出来るのだから。


「名前も過去も捨てたんだから、生き方変えてもらわないと。

 まぁ、今まで通りでも良いんだけどその場合は討伐で四人パーティーで働いてもらうしかないかな」

「うん?

 リオ君はソロなのか?」


「うん、動きが縛られる。

 多分一人の方が上手く立ち回れる性質だから」

「そうだな…。

 あの面子だとリオ君が本気で走ったら誰も付いて来れないだろうしなぁ」


「え、僕って今そんなに早いの?」

「というよりは持久力がな。

 一時的な速度なら私の方が上なんだが、何時間も走れん」


「ぁーなるほどね」


内心「命削ってるからなぁ」とか思う理熾だったりする。

そういえば、と理熾は考え始める。

使って始めて分かったのだが、それもこれも【限界突破】の下準備だったらしい。

【限界突破】は本来なら生命に負担にならないように掛けられている枷を外す。

ついでに言えば、足りていない能力は『足りていると誤解させるスキル』なのだ。

だから限界以上の力を振るえるのだが、それらは総じて【体術】が行っていた。


本来であれば生死の境を彷徨った上だったり、体力や精神が尽きても稼動させ続けることで習得する。

よくよく考えれば理熾は日常的に【体術】によって限界を引き出されている。

HPやMPが体力へ変換されるなどはまさにこのためだ。


そして【限界突破】を取得した今は今までよりも遥かに『高効率で無理が出来る』ようになったのだ。

何だかおかしな言い回しだが、命や精神を削るのは今まで通り。

でもそれに対する出力の比率が上がっていたのだ。


当然のことながら自身の体力などを他の能力値で補うのだから、ロスが発生する。

1のHPで1のMPが生み出せるはずも無く、今までの変換率は微々たるものだったのだ。

だから一気に生命力や精神力を根こそぎ持っていかれるような事態になっている。


それが今は今までに比べて倍の効率で使えるようになったのだ。

能力の置き換えに加えて、能力限界以上を引き出せるスキルなので、今後重宝するだろう。

だからアクティブスキルにも関わらず、【体術】が自動的に発動させるスキルとなってしまった。

これではパッシブと変わらない。


 ま、必要なときに勝手に枷が外れるんだから便利だけどね。

 『使う』という意識をしなくて使えるんだからホントに【体術】って万能だなぁ。


とか思うに留まっていた。

全くもって【体術】は英雄のスキルである。


「リオ君?

 それで私に聞きたいこと、とは?」

「あぁ、うん。

 実は妖精を手に入れたんだけども…これは何なの?」


分からないことは質問する。

理熾の基本であった。

お読み下さりありがとうございます。

謝罪編だったはずがギルバートの手際の良さの説明になりました。

やはり思惑が錯綜する場合、理熾に勝ち目はありません。

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