姉参上、そして退場
「おねぇーさまぁぁぁー! 継命はいま戻ってまいりましたーっ! 開けてくださいおねぇーさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「継命? 何故にここへ」
予想外の訪問者に、動揺する経盟。
しかし累子は嘆息一つしたあとに窓を開け、経盟に「そこをどけ」と手を振る。
「ただいま留守にしております、30秒以内に回れ右して帰ってください」
堂々とした居留守もあったものである。
「留守なら仕方ありません……って、そんなわけないでしょうがぁぁぁぁっ!」
ノリツッコミしながら勢い良く入室したのは、黒髪の縦ロールという斬新なセンスをもった、経盟や維委と良く似た顔立ちの女性。
経盟の妹で維委の姉、縦ロールとフリルな37代目ゴスロリ勇者の天王継命その人だった。
累子は勢い良く突撃してきた継命を受け止めつつ、そのまま継命を窓の外に投げ捨てた。
「そおいっ」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ」
「ええええええええっ?!」
目の前を、妹が飛んでいくというあまりない状況に叫ぶ経盟。すぐに立ち上がり、窓の下を覗き込もうとする。
「継命、大丈夫か継命っ!?」
「あらお兄様、どうしてここにおられるの?」
ひょいっと窓から落ちたはずの継命が顔をだして、首をかしげた。
「……無事ならいいんだ。うん、無事でよかった」
色々と言いたいことや疑問もあったが、それで良しとしたらしい。
「維委がお世話になっているというのでね、お礼にきたんだよ。そういう継命こそなぜ黒岩さんのところへ?」
「決まってますわ。マジカル近代兵器魔術を習いに来ましたの」
マジカル? 兵器? いや、魔術? もう、何もかもについていけなくなりつつある経盟を無視し、フリルが幾重にもかさなった重そうなスカートを抑えながら、窓からはいる継命。
空を飛びながら再度累子に突撃する。
「継命は戻ってまいりましたわ、お姉さまぁ!」
「そおいっ」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ」
開きっぱなしの玄関から放り出された。
「ああ、これが天丼というやつですね」
今度は驚愕することはなかったが、頭のどこかが現実逃避しているらしい。
お笑い用語にも詳しい王位継承者というのも、きっと珍しいに違いない。
「で、マジカル近代兵器魔術とは何でしょうか」
「……うーん、説明しないとだめー?」
「可能であればお願いいたします。継命がこだわる魔術は、基本的におかしいものが多いですから」
「おかしくなどありませんは。素敵に近代兵器を模倣したマジカルな魔術ですもの」
おかしくない箇所がないほどにおかしいと思う。
「……玄関から放り出したのに」
「何故かまた窓から入ってくるんだい、継命。きちんとドアから入ってきなさい」
「また放り出されないようにですわ」
「普通に玄関から入ってきたら、追い出さないわよー」
「……入れてくれませんのに」
「いや、僕は入れてもらえたよ」
「卑怯ですわ、お兄さまのくせにっ!」
「仲いいのはいいけれどー。二人とも」
「お兄さまのくせに、というのも凄い台詞だね、継命。ここは『さすがですわ、お兄さま』とかじゃないのかい?」
「お姉さまのお部屋に侵入するお兄さまには、変態という称号をさしあげますわ」
「私の部屋で喧嘩はー」
「礼儀の正しさは、どんなときでも有効かつ必要ということだよ。継命はもう少し淑女らしくしたほうがいいね」
「私は立派なレディですわよ。淑女たれと押し付けるのは、殿方として狭量ではなくて?」
「………」
「淑女は男性に変態という称号をつけないものだよ」
「あらあら気になさっていたのですね。ですが変態であることは隠せませんよ、お兄さま」
「そいっそおいっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ」
右手で経盟を、左手で継命をひっつかみ、投げ捨てる。二人は悲鳴を上げつつ、見事玄関から放り出された。
「よし。二人とも二度とうちにくるな」
そう言った後、累子は玄関にも窓にも遮蔽結界を張り、鍵をかけた。
「お姉さまは本当にいけずですわ」
「いや、今のは僕たちがいけないだろう」
継命は口を尖らせて、経盟は肩をすくめる。
「しかしおかげで、迷惑をかけたお詫びにくるという選択肢が増えた。それを喜ぼう」
「抜け駆けは許しませんことよ、お兄さま」
「しないよそんなことは。マジカル近代兵器魔術には興味があるけれど」
「口調が昔のものに戻るほど、心を許しているのに。ですか」
「……そうだったかい?」
「『僕』と言っていましたわよ。私は嬉しかったですわ」
「気をつけよう」
「お兄さまもいけずですわね、本当に」
「……殿下がた」
二人の会話を、弱った声がさえぎる。
「私はいつまでこうしておればよろしいのでしょうか……」
それは累子の言いつけどおり、正座していたスーツ従者だった。
「さすがにもういいだろう。私も追い出されてしまったしな」
「あら、まだいましたの」
二人にそういわれてもスーツ従者は額の汗をぬぐうだけで、立とうとはしなかった。
「……どうしましたの、帰りますわよ」
「恥ずかしながら……足がしびれて、立てません」
「ぷっ」
いつもしかめ面をし、いかにも仕事が出来ますオーラを放っていたスーツ従者。
それが弱った顔をして弱音を吐く、とても珍しい状況に継命はついふきだしてしまった。
「笑ってはいけないよ継命……くく」
「お兄さまもですわ」
そういって継命は、スーツ従者に手を貸す。
経盟はそれを見て、和んでいる。
「……ねぇ、お兄さま」
「なんだい」
「私は、昔のお兄さまのほうが好きですの。もう、その仮面をかぶるのはやめにしませんこと?」
「そうだな……いや、『僕』に戻るのは、まだ早いな」
手を無理やり引っ張られ、文句を言うべきか感謝すべきかを迷うスーツ従者を横目に呟く。
「色々と、やるべきことがあるからな」
もう一度名前の読み方
経盟 けいめい
継命 つぐみ
維委 いい
です
今回は会話劇になるよう、兄妹のところだけだけど「」を私としてはかなり多めに使用しています
が
バランスが難しい
慣れないことはしないことだと悟りました
(=人=)なむぅ