維委、その一日(前編)
05:30起床
「……おはようございます」
もともと広いが、家具が少ない性で更に広く感じる私室で、誰に言うとでもなく挨拶をする維委。
起きたかどうかの自分なりの確認、毎朝の儀式のようなもの。
勇者の剣が定位置にあるのを確認してから、そのままフラフラと、続きの浴室へと向かう。
ぬるま湯で長い黒髪を洗っているうちに眠気に誘われたが、ガマン。
朝の沐浴が終わり制服に着替えていると、時間を見計らった従者がノックする。
「姫様。朝食の用意が出来てございます」
「わかりました。すぐに行きます」
髪をリボンでくくり、今日はサイドアップにする。
たまに同級生がしているシュシュが欲しくなるものの、ため息をついてガマンする。
王族に計上される予算は莫大だが、個人的な予算、所謂お小遣いは実は一般庶民より少ないから。
07:00朝食
「おはようございます、お母さま、お兄さま」
こんまりとはしているものの、格調高く歴史を感じさせる王族専用の食堂で家族がそろう。
「おはよう維委。良く寝れた?」
「おはよう維委。今日もいい天気だよ」
視察や外遊、儀式に講演等々で忙しい王族だからこそ、食事は出来るだけ一緒にとるようにしている。
これは維委の母親、初めて民間から嫁いだ多佳子の希望がかなえられた形である。
質素ながらも選別された素材を使い、手の込んだ朝食を三人で摂る。
給仕もいなく気軽な食事風景であるが、そこに会話はない。マナーだから。
でも個人的には、お喋りしながらの食事がしたいと思う維委であった。
「維委さん。今日は継命さんも帰ってきますから、晩御飯は楽しく食べましょうね」
「! はい、お母さま」
維委の気持ちを察した多佳子が食後の紅茶を楽しみながら、のんびりと笑いかける。
「お母さまは維委に甘すぎると思いますよ」
「いいじゃない。家族なんだし、甘くでも」
「私はそうは思いませんが」
コーヒーの香りを楽しむ経盟は、口を尖らせる多佳子に肩をすくめて応える。
いつものやり取りに維委のほほが自然とほころんだ。
07:50登校
公共機関を利用して登校。商店街で開店準備中の、顔見知りに挨拶して通る。
当然、従者が側にいる。警護員達もぞろぞろ着いて歩く。ちょっとした大名行列である。
いまではカルガモ親子並みの朝の名物になっていた。
08:40学校到着
警護員達は所定の場所に移動、従者も控え室へ、維委は一人で教室に向かう。
「みなさん、おはようございます」
「あ、姫様おはようー」
「おはようございまーす」
クラスメイトに挨拶すると、素直に返事が返ってくる。
が、どこか余所余所しい。
クラスメイトが余所余所しいのにはわけがある。
王族が通う学校である。持ち物検査は授業に必要ない物をチェックするのではなく、危険物を持ち込まないかどうかをチェックする。
それにタブーや怠慢等なく、折り畳み傘も開き、筆箱もチェックされる。年頃の女の子にはとても恥ずかしいことだが、秘密のポーチも開けられてしまう。
自分で選んだ進路とはいえ、毎日毎日行われると、慣れるより厄介と思ってしまう。
その元凶とは、そうそう仲良く出来ない。
いつもの事ながら、すこし悲しくなる。
08:50ホームルーム
特に問題なく、担任から連絡事項が伝えられる。
維委のクラスの担任は、初老に入りつつある人族男性。
長いひげが特徴で、生徒からは仙人というあだ名が付けられている。
09:00授業開始
午前中は現国・物理・歴史・体育である。
体育は見学したが、それ以外は特に何もなく終了。内職などせず真面目に授業を受ける。
12:50昼休み
「本日は卵焼きとソーセージ。から揚げにはレモンがかかっています。デザートはウサさんりんごです」
専用の控え室で、従者からお弁当を受け取る。
従者が側に控え、維委は一人で昼食を摂る。とても美味しいが、ちょっと寂しい。
クラスメイトと和気藹々と食事したいが、警備上の観点から却下されている。友達といえるほどの相手もいないし。
官立御門院高等学校には豪勢な食堂もあるが、安全性を考えてのお弁当なわけだ。
予算は莫大にあるが、無尽蔵ではない。食堂のおばちゃんたちまで雇う余裕はないのだ。
それにお弁当も中々楽しい。だって箱がクマちゃんだぜ。
13:45午後の授業開始
数学(幾何)と古文。
それなりに優秀な維委、特に問題なく終了。
15:35下校
部活動が推奨されているが、維委の身体機能では運動部に参加できない。
維委の運動能力は、アスリートどころか人間の範疇を余裕でぶっちぎっているから。
なら文科系はというと。実はとても不器用かつ、ちょっと脳筋はいっている維委は、体験入部した部全てからお断りされていた。
「今日は黒岩様のところに向かわれないのですか?」
側の従者が尋ねる。
最近はこのまま、もしくはいったん帰ってから鎧を身に着けて、魔王へ挑戦するのが日課になっている。
「いえ。今日は寝不足でしょうから、今日はこのまま帰ります」
「寝不足、ですか?」
「はい。お知り合いが『愛は地球を救う25時間TV』に出演するそうで、徹夜予定だと昨日おっしゃっていましたから」
「…………」
「似合わない。そう思っていますね」
「顔にでていましたか……気をつけます」
「いえ。累子さんも『愛で地球救えるわけないじゃーん』とか『金よこせっていってるタレントがギャラ貰ってるー』とか『制作費40億で募金10億ー』とか皮肉をいっていましたから」
「はぁ」
「私は、それほど嫌いではないのですけどね」
苦笑しながら続ける。
「しない善よりする偽善という言葉もありますし」
「小さな親切大きなお世話、という言葉もございますよ」
「難しいものですね」
ちなみに、その累子の知り合いは深夜に10分間出て、笑いもとれずに退場させられたらしい。
若手芸人といえども、少し可哀想。
長くなったので前後に分けました
折りたたみ傘までしらべられるのは、体験談です
私の場合は皇太子ご夫妻がこられた時の話ですけれど
出入りするたびに調べられて、めんどくさかったです
24時間TVは、別に嫌いではないです
好きでもないですが
視聴者や募金者は余剰金で免罪符が買えて
スポンサーは高い視聴率で広告効果狙えますし
TV局はイメージアップ狙えますし
いわゆるWin-Winの関係ですしねー
まあ、見ませんが




