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血赤のディナ  作者: 紫藤てる
第一章「目覚め」

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9.模擬戦

 ラヴは、ちらりと左から後ろに抜けていく一人を見送ると、走りながら抜剣、両手それぞれに剣を持つ。相対するは、三人。

 リヴはまだラヴの後方を走っている。


 相手は迫るラヴの正面に一人残して、囲むように左右に動き出す。

 するとラヴは右に小さく尻尾を振り、直後、両手の剣を右肩に担ぐように振りかぶり、右前方に跳ぶ。

 それを追って正面と左の二人が緑光を放つが、後ろを走っていたリヴが滑り込むと、()()左側面に構えていた大楯で防ぐ。


「うぅ……ま、ま、まに合った……!」

「リヴありがとー」

 緊張感のないお礼を言いつつ、振りかぶった両手の剣を相手に叩きつける。


 が、相手は左手から緑光を円盤状に展開。

 バチンとした電気が爆ける激しい音、緑の火花が飛び散り、ラヴの攻撃は防がれる。

 しかし想定内だったのか、ラヴは間髪入れずに叩きつけた剣の反動で後ろに飛び退る。仕切り直しだ。


「あー!イー姉(ねー)!」「ムクス(にい)いけー!」

 隣から甲高い歓声があがる。


 その声にディナは視線をラヴ達からジール達の先へと移す。

 赤茶髪に黒い立ち耳の男獣人――ムクスの長さのある両手剣に、イェラの剣が持っている右手ごとかち上げられる。

 そのままムクスは両手剣を振り下ろす体勢になったところで、唐突に後ろに下がる。


「来ないの?ムクス、ざぁんねん」

 そう言って挑発的に笑うと、イェラの足元が緑の光を放ち、小さく爆ぜた。


「剣が得意じゃない君が剣で受けていたからな」

「あら、言われるほどじゃないわよ」

 言って剣を構えて身を沈める。


 白兵戦に移るかと思いきや、そのまま大きく後ろに跳ぶ。

 虚を突かれたムクスは、ぽかんとその大人びた雰囲気から一瞬だけ年相応のあどけない表情を覗かせる。

 すぐに挑戦的な笑みを浮かべると下がるイェラを追って駆け出す。


 魔法が次々と飛んでくるが、ムクスはものともせず、長剣で斬り払い、時に片手に緑光を纏わせて打ち払っていく。

 距離を空けたいイェラと詰めたいムクス、近づいては離れ、くるくると入れ替わり立ち替わり、踊るように一進一退の攻防が続く。


 急に視界が下がると、端から右手が現れ地面を弄りだす。今後の為にも終わるまで見ていたいんだが、ディナは何をしてるんだ?


(おい、前を見てくれ)

 指で渦巻き模様が描かれる。……おーい。


「イー(ねー)のほうがつよいもん!」

「ムクス兄がかつ!」

「ぜーーーったい!イー(ねー)!イー(ねー)がさいきょーなんだから!」

「ムクス兄のほうがつえー!」

 ジールとヴァスの争う声。渦巻きが丸で囲われる。


「強さで言うのでしたらお二人ではないですね」

「うん、どうしたってラヴさんだよね」

 アリスとウィルが二人に水を差す。


「あー」

「むー!ラヴはちがう!イー(ねー)のほうがすごいもん!」

 ラヴってそんなに強いのか。渦巻きを囲った丸から線が放射状に伸びてくる。


 (ディナ、いい加減前を見てくれないか)

 声をかけると何故かディナはふらり立ち上がり、どこかに行こうとする。


(どこに行くんだ)

「あきてしまいましたか?」

 すかさずアリスがディナに声をかける。


「うん、あとマサキがうるさい」

 なんだと?ディナの為でもあるのだが、親の心子知らずとはこのことか……違うか。


「マサキは分かりませんが……きっともう少しでおわりますよ」

「ほんと?」

「はい、ラヴ姉さんを見ててください」

「……わかった」

 不承不承といった様子で座り直すディナ。さっきの抵抗はなんだったんだ。


 そして視線が中央付近で戦っているラヴ達に移る。

 大楯を構えるリヴと背中合わせにいるラヴ、それを三人が囲んでいる。

 大楯の裏、ラヴが相対するは、白茶の髪から生える、先が垂れるように折れた獣耳が特徴的な少年。


「こっちこっちー」

 ラヴが片手を頭上で緩く振り、少年を挑発。


 他の二人はリヴが大楯を突き出し、振り回し、視界と進路を塞いで合流できないでいる。


「このっ!」

 ラヴの正面の相手が水平斬りを放つ。


「おそいなー」

 一歩下がり上半身を逸らして躱わすと、続く袈裟斬りに左脚を軸に半回転、足捌きだけで躱す。

 至近で真横についたラヴは、ゆっくりと左の剣を持ち上げ、

 

「あだっ!?」

 柄を頭に振り下ろす。痛みに頭を押さえて退がる相手に、


「そんなんじゃやられるぞー」

 腹に蹴りを放つ。


「ぐぉ!」

 鈍い音を立てて膝から崩れ落ちる。


「あそんでますね」

「……あそんでるね」

「あー!ラース兄!」

「もー!ラヴ!まじめにやって!」

「……うー」

 すぐに終わらなさそうな気配にディナが小さく唸る。


 これまでの動きから尋常ではないとは思っていたが、圧倒的だ。

 剣も魔法も使わずにいるのは引き延ばしたいからか。


 残りの二人はじりじりとリヴとラヴを中心に円を描くように、左右に別れていく。

 左の灰色の髪の少年をリヴ、右の赤茶色の髪の少年をラヴが追視、ちょうど全員が一直線に並んだところで右の少年がラヴに向かって魔法を放つ、と同時に反対のもう一人が倒れている味方に向かって走り出す。

 魔法はあえなくラヴの緑光を纏った剣一本に斬られ四散する。


 その隙に先程倒された折れ耳の少年――ラースが助け起こされる。

 集まった三人は顔を突き合わせて二言三言、言葉を交わす。


「おー?わるだくみかー?わはは、むだむだ」

「うるせーぞラヴ!ずるって言うなよな!」

 赤茶髪の少年がそう反論すると、それを合図に、三人はリヴ達と睨み合うように揃って円周に動く。


 リヴ達も警戒して動きに合わせて体を向ける。なんだ?なにを狙っている?


「なんだー?来ないならこっちから行くぞー?」

「今だ!」

 赤茶髪の少年は合図を出すと、ラースと共にラヴに向かって駆け出す、もう一人の灰髪の少年は、魔法をリヴから大きく外れて左前方、明後日の方向に撃つ。


 いや、リヴの更に後方――戦う二つの影、イェラか!

 リヴは素早くその進行方向を見ると、すぐさま駆け出す。


「リヴっ!!」

 ラヴは悲鳴のような声をあげるが二人に抑え込まれ追うことができない。


 魔法はイェラ達の方向へこれまでのものより()()()()と進む。

 リヴは体を伸ばすようにして大楯を魔法にぶつける、弾ける緑光。


「よ、よかっ――」

 無防備な体勢のリヴ、魔法を撃ったと同時に走り出していた灰髪の少年が剣を振りかぶっている。



 ――何が起こったのか、瞬きの後、緑光の残滓と轟音を残し、剣を振りかぶっていた少年は吹き飛んでいた。

 遅れて、剣が回転しながら地面に転がる。


 ラヴは伸ばしていた空の右手を下ろす。

 周りでは赤茶髪の少年は倒れ、ラースは尻もちをついて座り込んでいる。

 張り詰めた空気の中、ラヴは倒れた赤茶髪の少年の片足を掴むとずるずると引き摺ってリヴに向かって歩き、前まで来ると少年を置いてそのまま通り過ぎる。


「あ、あ、……ラ、ラヴ?」

 更にずるずると吹き飛んでいった灰髪の少年を引き摺って戻ってくる。


 戸惑うリヴの前まで来ると、灰髪の少年を赤茶髪の少年の上に放り投げ、無造作に少年達を積み上げる。

 そして、ぴょん、とその上に飛び乗る。


「ぐぇっ」「おげっ」

 更に少年達の上で飛び上がると――ガン!と剣の腹でリヴの頭を打つ。


「!?〜〜ッ!」

 頭を抱えてしゃがみ込むリヴ。


「ばか、あれは当たらない」

「うぅ……ご、ごめんなさい」

 ラヴは優しい手つきで先程打った頭を撫でる。


「ラヴだけを見て」

「う、うん」

 そして気が済むまで撫でると、折り重なる少年達から飛び降りる。


 近くに落ちている剣を回収、腰裏の鞘にしまいつつ、尻もちをついたままで二人を呆然と見守っているラースの元に戻る。


「ラース、立って、こっち向く」

「お、おう」

「そのまま右手を前に持ち上げる」

「……こうか?」

 背の低いラヴの頭の横に剣が来る。


 それを確認すると、ラヴはおもむろに頭を左に傾ける。

 こん、と小さく打つ音が響き、ラースの右腕が小さく揺れる。


「ぐえーやられたー」

「は?おい、何を……」

 それきり興味を失ったようにくるりと背を向けると、歩きながら右手を軽く持ち上げひらひらと気怠げに振る。


「ムクスがまだたたかってるぞー」

呆気に取られるラースだったが、やがて、戦うイェラ達の方に走り出す。


「やりたくなくなったようですね」

「……あはは」

「さっきのなげたやつ!すげーな!そのまえのも――」

「もー!ラヴはだめだめ!ヴァスうるさい!すごくない!」


 倒した少年達を一方は抱え、もう一方は引き摺って去っていく二人の背中を見つめると、


「……すぐおわるっていったのに」

 ディナはそう呟くのだった。

次回 3/31 20時更新

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