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血赤のディナ  作者: 紫藤てる
第二章「成長」

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13.妹

「お、おきてー……」「おーきろー」

 遠慮がちな声と間の抜けた声に起こされ、ディナはむくりと体を起こす。

 まだ起床の鐘が鳴る前の時間だ。

 

 隣でジールが抵抗を続けるように丸まる。

 ディナはひとつ伸びをすると、ぺしりと隣の毛布の塊をはたく。


「ゔっ……」

 ジールは呻きながら、もぞもぞと起き出す。


 リヴとラヴが朝食の準備を始めている。トーナとアリスは見えない。昨日洗濯をすると言っていたので、きっと外にいるのだろう。


 ――イェラがいなくなってから、しばらくが経つ。

 あれから、ジールは毎日のように泣いていたが、まもなく訓練が始まると、へとへとになって帰っては眠る生活を送り、次第に落ち着きを取り戻していった。


 起きたジールと二人で協力して寝床を片付けていく。

 ばさりと、藁下の敷物を揺らすと、ディナは藁をまとめようと中央に寄せ出す。


(ちょっと待て、あそこの藁は腐りかけだぞ)

(……!ほんとだ)

 藁をよく見ずに混ぜようとするディナを注意する。


「ディナ!まだまぜないで!そこのくろくなってる!」

 内心の会話を知る由もないジールからも同じ注意が飛ぶ。


「……いまとろうとおもってた」

 本当にそうなのだが、屁理屈にしか聞こえないから困る。


「また言いわけして!それじゃーいいお姉さんになれないんだから!」

「きづいてたならジールがとればよかった」

「それは……ディナが一人でもできるよーにわざととらなかったの!」

「いいわけした」

「むきー!」

 顔を真っ赤にして怒るジール。


 大体においてジールが正しいのだが、ディナの自立心を刺激する言い方をするので、こうやってよく衝突している。……すまない、ジール。そろそろディナ()の扱い方を学習してくれ。


「ど、ど、どうした……の?」

 朝食の準備をしていたリヴがやってくる。


「リー(ねー)!ディナが言いわけばっかりする!」

「ジールがくろいのとらなかった」

「だからっ、それは!」

「う、うん……?」

 二人の言葉足らずの主張に困惑するリヴ。


「はい、うるさいのはこっちー」

「え?……わあ!」

 音もなく近づいていたラヴに担ぎ上げられ、そのまま玄関から退場するジール。


 イェラがいなくなってから、何故かラヴの無意味な奔放さは鳴りを潜めている。

 ラヴが無駄に場を荒らして、リヴが止めるというお決まりの流れも無くなって久しく、長姉として頑張っているリヴの補佐に徹している。

 以前からリヴのことを何くれと助けていたから当然と言えば当然かもしないが……大人になったということか?

 

「あっ……そ、それで、どうしたの?」

 連れ去られたジールを一瞬心配げに見るが、すぐにしゃがむと、大きな背をできるだけ小さくするように丸めて、ディナに目線を合わせる。


「うん……片付けしてて、くろくなってるのとろうとしたのにやってないっておこられた」

「そっか……やろうとしてたのに怒られたのは嫌、だよね」


「うん、あといいお姉さんになれないって言われた」

 なんだ、気にしてんのかそれ。


「そうなんだ……」

「うん……」

 そしてしばしの沈黙。リヴは目線を彷徨わせながら、口を開いては閉じる。


「え、っと、その……ね?ジールは、その、イェラ姉さんが大好き、だよね」

「……?うん」


「だから、ディナにも、イェラ姉さんみたいになってほしくて、すぐ怒ったり、お姉さんになれないよー……って言っちゃうの、かも」

「うーん?」


「えっと、あと、なんだろう……ディナは、ジールが怒った時、今からやるところだったって言ったの、かな?」

「言った。言いわけって言われた」


「あ、あぁ〜……そ、そうなんだ、ね」

 再び、目線が彷徨いだす。まずい流れだ。


(いやでも、ジールは知らなかったし、それに俺が気づかなかったら、お前はそのままにしていた、だろ?)

(うーん……そうかも?)


(ならそれは、お前がやろうとしてたってのは違うな)

「むー……」

「あっ、あっ、ご、ごめんなさい、なんか嫌だった、かな……?」

 急に不機嫌になるディナに焦るリヴ。


(とはいえ、ジールも言ってることは間違ってはなかったが言い方が悪かったな)

「……うん」

「えぇ!?」


(まあ、その、なんだ……気にしないで受け入れた方が、お姉さんぽくないか?)

「うーん……」

「ど、どうしたら……」


(そうだな……そういうのを"上を立てる"って言うんだが、姉を立てるの方がわかるか?)

「お姉ちゃんを立てる?」

「え?た、立てばいいの……?」

 困惑しながら立ち上がるリヴ。


(そう、かっこいいお姉さんはそれができるもんなんだよ)

「かっこいい……!」

「えっ、あ、ありがとう……」

 照れて大きな背を縮こまらせるリヴ。


(さ、この話は終わりだ。リヴも困ってるしな)


 そこでディナは我に返ったように改めて立ったままもじもじしているリヴを見る。


「どうしたの?おしっこ行きたいの?」


「えっ……?」

 突然の裏切りに固まる。

 すまないリヴ。途中から気づいてはいたが……面白くてつい。


 軋む音が聞こえ、玄関を見る。扉が開かれ、ジールを先頭にトーナ、アリス、ラヴと続いて入ってくる。

 すると気まずそうな顔をしたジールが口を開く。


「ディナ、その……」

「大丈夫、ディナは立っている」

 ジールの言葉を遮って自信満々に言い放つ。――倒されていないから効いていないという、傑物(けつぶつ)の心得を教えた訳ではないのだが……まあ、いいか。


 そして、その場の全員が疑問符を浮かべるなか、落ち込み膝を屈するリヴ。


「うぅ……わからない、助けてイェラ姉さん……」

 助けを求める呟きが聞こえてくるのだった。



 その後はつつがなく、朝の点呼の時間となる。

 いつものように整列していると、まもなく管理者がやってくる。その手には紐。辿っていくと――子ども?

 薄茶の肩まである癖毛の女の子が、きょろきょろしながら紐に引かれてやってくる。


 管理者は並ぶディナ達の正面の定位置に着くと、いつものように号令を始める。

 女の子は突然の大声にびくりとすると、続いて管理番号を名乗っていくディナ達の方をぽけっとした表情を向ける。


 髪だと思った薄茶の癖毛は獣耳だったようで、白いざん切り頭の左右から、くっつけたように垂れ下がっている。

 歳はかなり幼く、俺がこの世界で目覚めた時のディナと同じくらいだろう。


(あの子、だれだろう?)

(そりゃディナ(お前)と同じだろ、新入りじゃないか?)

(!……そうかも)

 少し考えればわかることに回答する。


 以前のディナは思考が感情の波でしかなかったが、最近は言葉になって格段に意思疎通が取れるようになった。

 しかし、考えずに何でも聞いてくるのはいかがなものか、と思う。

 俺が取り憑いた弊害ではあるのだが、この先が心配になる。……まあ、俺がディナから離れられない以上、杞憂か。


 点呼が終わると、管理者は紐を引っ張る。

 引かれた女の子はつんのめるように管理者の前に出る。


J-225(ジュイトゥイフヴァ)だ。今日一日はこれの世話をしろ」

 短くそう指示すると、女の子の紐を解き、さっさと立ち去ってしまう。


 それを見送るとリヴが女の子に真っ先に駆け寄って抱きしめる。ラヴがその後に続き、観察するように一歩後ろの位置で止まる。

 残った四人はその場で顔を見合わせる。


「あー、とりあえず入らないか?」

 トーナが全員に声をかけつつ、肩越しに親指で家を指し示す。



「えーと、ジュイトゥイフヴァだったか?」

 新入りを伴ってぞろぞろ家に入るなり、トーナが口を開く。

「?」

 当人はリヴの足にしがみ付きつつ、こてん、と首を傾げる。

「そうだよなー、わかんないよな。リヴ姉、ラヴ姉どっち?」

 トーナが二人に水を向けるも、ラヴは(はな)から興味がないといった様子で奥に歩いていくと、寝床にどっかりと腰を下ろし、そのままぱたんと後ろに倒れ込む。


「リヴよろしくー」

 ラヴは仰向けに倒れたまま、片手だけひらひらと降ると、ごろりと横に転がる。


 何が始まるのだろうか、ディナと二人、脳内に疑問符を浮かべる。

 

「あっ、えっ……と、ジュっ……」

 一斉に視線を向けられ、目まぐるしく視線を彷徨わせるリヴ。


「「「「ジュ?」」」」

 疑問と期待混じりの声が重なる。

 

「ジュ、ジュ、……」

 俺が知る限り、かつてないほど注目されているリヴは、顔を真っ赤にして必死に何かを言おうとする。


「ジュジュ!」

 呂律の回らない呟きを受けたジールが目を輝かせて声を上げる。


「あ、ち、ちが……」

「あなたは今日からジュジュね!」

 リヴが小さな声で否定を口にしかけるが、続くジールの興奮した大声に掻き消される。

 そして視界の端で、アリスがジールを止めるべく動きだしたところをトーナに止められている。


 なるほど、愛称を考えていたのか。リヴとラヴに振られたところを見るに、その時の一番の年長者が決めるしきたりなのだろう。ということは、ディナの愛称はイェラが決めたのか。

 ははあ、と得心がいく。あれで意外に不器用な彼女らしい、他に比べて安ちょ――うん、それぞれ個性的な愛称なのはこの為か。


「じゅじゅ……?」

「そー!ここではあなたをそー呼ぶからね!」

 ジュジュはぽけっとした表情から一転、にこにことした人好きのする笑顔になると、リヴの足からジールに飛び移る。


「わっ!」

 ジールは勢いに驚き、尻もちをつく。


「あはは!びっくりしたー!じゃー、これからいっしょにいるお(ねー)さんのお名前をおしえるね!」


「おねーさん……?」


「そー!お(ねー)さんはなんでもできてすごいんだから!」

 それを聞いたジュジュはにこにこと舌足らずな言葉でお姉さん(サスタル)と無邪気に繰り返す。

 大分神格化された概念になっているが、ジール(こいつ)は姉教団でも作るつもりなのか?


「リー……リヴ(ねー)でしょー、あっちにいるのがラヴ……(ねー)でしょー、こっちが――」

 ジールは順々に自慢の姉達を紹介していく。


 イェラが居なくなり、しばらくしてからジュジュが入ってきたことを見るに、獣人はありふれた存在ではないのだろうか。

 どこかで子どもの獣人を捕らえてここに連れてくるのか、いやしかし、ここに住む彼らは入ってくる年代は下から順番になっている気がする。いや例が少ない上に、正確な年齢がわからない、それは早計だ。そもそも――


「ディナ!」

 ぺしり、と頭に衝撃があり、思考が中断される。


「もー!しっかりして!わかってるのー!?もーお(ねー)さんなんだよ!」


「お姉さん……」

 ディナは呟き、ジュジュを見つめる。


「それで、このぼーっとしてるのがディナ!」


「ディナねぇね!」

 抱きついてくるジュジュ。随分と懐っこいな。


「ディナがすぐ上のお(ねー)さんだからね!ディナにいろいろおしえてもらうこと!」

「はーい!」

 ジュジュは元気に返事をすると、ディナに抱きついたままぴょんぴょんと跳ねて喜びを表現する。


「あっはっは!ジールの時も笑ったけど、ディナが姉か!いやー、面白い!がんばれよー」

「ディナ、みんないますからね、安心してください」

 バシバシと背中を叩いて茶化すトーナに、安心させるように声をかけてくるアリス。

 すると背後から、長い腕がディナ達を包むように抱きしめてくる。

「わっ!」「どわっ!?リヴ姉?」「リヴ姉さん?」

 ディナは左右にトーナとアリス、背後にリヴ、正面にはジュジュに挟まれぎゅうぎゅうだ。


「その、なんか……うれしくて……」

 リヴはそう呟くと一層と腕に力を込める。


「ジールも!……あっ!ラヴもきなさーい!」

 そこにジールが気乗りしない様子のラヴを引っ張ってきて押し込むように無理矢理輪に加える。

 団子状態の中心にいるジュジュはきゃあきゃあとした甲高い笑い声を上げ、時折、押してくるジールに抗議の声を上げるトーナの真似をしている。


 ふと、ジュジュのくりくりとした桃色の瞳と合う。


(そっか……イェラお姉ちゃんはいなくなったんだ)

 その顔を見て、そんな当たり前のことをディナは改めて自覚する。


「ディナ、お姉ちゃんだよ、よろしく」

 姉達にぎゅうぎゅうに囲まれながら、初めての自称で名乗る。にこりと愛らしく笑う末妹(ジュジュ)


 イェラが居なくなった穴を埋めるように、リヴを中心として、彼女達はまとまっていく。

 ここではこれが繰り返されてきたのだろう。

 殊更に楽しそうに騒ぐジールとはしゃぐジュジュ。

 新しい日常の始まりに、ディナは喜びと一抹の寂しさを感じるのだった。

次回 14話『剣』

5/15 20時更新

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