第13話 既に終わっていたもの
意を決したわけではないが、
俺は辞表をキャップに手渡した。
キャップはずっと謝っていたが、
仕方がないことだと理解している。
誰かに遭うと気まずいと思い、
足早に基地を去ろうと歩く。
「ヒロセさん、クビになったって」
資料室から声がした。
「あぁ、聞いた。
でも、クビは酷いよね」
「ねー。
一番先頭で戦わせてたクセに、
都合が悪くなったら切り捨てだもん」
「私たちも、切られるのかな」
どうやら二班の女性隊員たちだ。
俺は思わず立ち止まってしまう。
「でもでも、もっと酷いのはセキグチさんだよね」
「ねー。
かなり前からミズノさんと浮気して、
クビになったら、はい、さよならー。
自分は悪者にならないように立ち回ってるし」
「二人がよく小会議室に行くの見たわー」
「え、それって……。
マジ? ここで?!
ちゃんと掃除してるの?」
「知らないよ。
不潔だから近寄りたくないし」
聞こえてきた内容があまりにショッキングで、
俺は膝から崩れ落ちそうになり壁に手をついた。
「ミズノさんから早めにクビのことを聞いて、
二人で色々仕込んでたらしいし」
「色々って?」
「あの人、
本当に有能で凄かったから、
色んなとこから引き留める声が大きかったんだよ。
それを、コネとカネとデマで黙らせてた。
うちの班長もかり出してね」
「マジで酷い。
正義って何?」
足が震える。
どんな異世界人相手でも震えたことがなかった俺が、
小鹿のように震えている。
「セキグチさん、
うちの班長とも関係があるんだって」
「言いたくないけど、
完全に悪女じゃん」
「ねー。
ヒロセさん、カッコいいし素敵だと思うのに」
「本当に。
あたし、彼女がいるからいかなかったのになぁ。
いっておけばよかった」
俺は、なんとか歩きだした。
これ以上は気付かれる恐れがあるからだ。
だが、同時に逃げ出したくてたまらなかったからだ。
信じられない。
だが、火のないところに煙はたたない。
ふらつく足をなんとか動かす。
壁やドアに手をつきながら、かろうじて前に進む。
「うまく行ったか?」
手をついたドアからミズノの声が聞こえた。
手を離すと、そこには『会議室』と書かれている。
「えぇ。
別れ話はすぐすんだ」
セキグチさんの笑い声と共に、
ミズノの笑い声が聞こえる。
「でも、すぐに、ってのはヤバイから。
三ヶ月くらいしてから、
付き合ってるって言う?」
「そうだな。
それくらいならいいだろ」
「本当は二年前からだけど」
二人は楽しげだ。
「アイツ、どうだった?」
「かなりやられてたみたい。
彼が悪い訳じゃないけど、
あれだけ頑張っててクビは酷いよ」
「あれは俺も関与してない。
上層部が、というか。
本部からの通達だったんだ」
ため息混じりにミズノは続ける。
「俺としては、
別の部隊のリーダーかどこかに行くんだと思ってたんだけどな」
「彼のこと、憎んでないの?」
「実力は買ってるよ。
俺の出世の目の上のたんこぶみたいな、
うっとうしさはあったけど。
憎んだりはない。
まぁ、ツイてないヤツだなぁ、と思うよ」
衣擦れの音がする。
「もう……。
三ヶ月って話したばっかりでしょ?」
気付けば俺は、
基地から遠くの見知らぬ公園にいた。
どうやってここに来たか覚えていない。
俺はベンチに腰かけて、青い空を見上げていた。
「マジか……」
それがなんとか吐き出せた言葉だった。




