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鉄同盟-Iron Alliance-  作者: 無糖
第一章 人類襲来篇
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第7話 英雄の息子

「やめろおおおおっ!!!!」

 そこへ、校舎にいた兵士が援護射撃で空軍に圧力をかけた。

「下がれお前らっ!!」

 コーダは兵士に向かって叫ぶが、時すでに遅し。

 空軍は校舎に標的を変え、機銃掃射を開始した。銃撃の為に身体を出していた兵士たちは、次々と弾丸に倒れていく。

「馬鹿野郎め…っ!」

 しかし、コーダへの攻撃が止まったその一瞬。

 コーダは蛇腹剣をバネのような螺旋形状に変形させ、後ろに構えた。

「おおおおおおっ!!!!」

 直後、コーダはその身を跳躍させた。

 蛇腹剣をバネにしたことで得た速度と跳躍力は凄まじく、帝国歩兵の撃つ銃撃は掠りすらしない。

 気づけば、敵陣の中央にコーダはいた。

「龍神龍、奥義…」

 バチバチと、幾つもの小さな破裂音が響き、コーダの剣が紫電を纏う。

「乱龍撃ッ!!」

 長い鞭の様な剣は、コーダの回転に合わせ、その半径20メートル内を渦巻状に回る。範囲内にいる帝国兵は腹部を抉り取られ、両断された。

 僅か1秒の出来事だった。その一瞬だけで、帝国歩兵部隊はほぼ壊滅した。

 残存兵は、その鬼神の如き剣技に恐れをなし、散り散りになって逃げていった。

 それに合わせ、校舎の兵士と戦闘を続けていた空軍も撤退。コーダの未知数の戦闘力に、体制を立て直すこととしたのだ。

 こうして、コーダはひとまずの避難所防衛を完遂した。

「かはっ…」

 コーダは胸を抑え、その場にうずくまった。心の稲妻、パトスを生み出すのは、サーレの持つ右胸の第二心臓、心核だ。そこへの急激かつ過剰な負担。無理の代償は、必ずその身に帰ることとなる。

「衰えたもんだな、クソ…」


「ほう、それで衰えたとは。最盛期の貴様は一体どれほどの剣士だったのだろうか」


 瞬間、コーダは剣を振り抜く。とても肉眼で追える様な速度ではない。しかし、その一撃は容易く声の主に止められた。

 素手で、刃先を摘んでみせたのだ。

「なに…?」

 そして、刃先を振り切ろうとしても、刀身は全く動かない。

「任務は貴様らサーレをこの場に集めたことで半ば完了したようなものだ」

 足で地面を軽く叩く。地下に隠れる避難民のことを指していた。

 身長は2メートルを超えるほどあり、色黒の肌と紺色の短髪、丸太の様に太い腕。階級章を見ると、帝国軍大尉であることがわかった。

「私としてはこんなことをしている暇などないのだが、命令だった。しかし一つ見つけた光明。貴様の様な剣士と戦う機会を得たかと喜んでみれば、既に満身創痍とは嘆かわしい」

 余裕と自信、そしてそれを裏付ける技量と力。コーダは既に、相手の力量が自身の遥か先にあることを悟った。

 退避は不可能。であるならば、もはや打つ手はなかった。

「お前、ほんとに人間か?」

「ふ…よもや人外にすら人外を疑われるとはな」

 帝国大尉はわずかに自虐的な笑みを見せると、背負った大剣を抜いた。

「悪いが部下の弔いもある。貴様と立ち会えぬのは残念だが、ここで死ね」

「ちくしょうが…お前らの目的はなんだ?」

「貴様がそれを知る必要は、もうないな」

 男は肩に担いだ大剣を振り上げた。

「最後に問おう。貴様の名はなんだ」

「…コーダだ」

「私はバルハルト・レンブラン。地獄では通りが良いだろう」

バルハルトの言葉に、コーダは口角を上げた。

「あいにく、俺らの教えに地獄はないんでな」

「フン、異教徒め」

 バルハルトが大剣を振り下ろす。

「すまない、みんな…至天民様…」

 小さい最後の言葉。

 剣がコーダを切り潰す直前。

 紫の閃光が間に入り、剣で攻撃を受け止めてみせた。

「なに、やってやがる…てめぇら!!」

「キース!」

 間一髪だった。キースはバルハルトの大剣を返そうとするが、全く剣が動かない状況に冷や汗を流す。

「これを受けるか…サーレもなかなかいい戦士がいる」

 バルハルトは腕に力を込める。大剣はキースの剣をジリジリと押していく。

「なんて馬鹿みたいな力してやがる…っ!」

 ビームスーツとパトスを全身に流すことによる超反応と膂力の増強。それをしてなお、バルハルトは余裕の表情でキースを押し込む。

「っ!」

 コーダがキース腰から拳銃を抜き、バルハルトに撃つが、身体を捩ったバルハルトは、身に付けた装甲に銃弾を弾かせる。

「今だ!」

 そこへ、ランデとドルがバルハルトの両脇に飛び込んだ。

「ぬん!」

 一声と共に、バルハルトはキースを蹴り飛ばし、空いた大剣を横凪に振った。

 助走なしの片手大剣から出るとは思えない程のスピードが乗った斬撃。

 ランデとドルは辛うじて受け切るが、あまりの膂力に吹き飛ばされた。

「お前ら!」

「先生!下がってくれ!」

 蹴り飛ばされたキースが、再度コーダの前に立つ。

「なぜ立てる?それなりに力を込めたはずだったが」

「サーレは丈夫なんだよ…お前らクソ人類の何倍もな」

「…なるほど」

 バルハルトは顎に指で触れた。

 ランデとドルも起き上がり、剣を構えバルハルトを包囲する。

「伏せろ、お前ら!」

 校舎にいた兵士たちの生き残りが、一斉にバルハルトへ銃口を向けた。

 ランデらが伏せると、銃弾の雨がバルハルトへ集中していく。

「小癪な」

 バルハルトが大剣を構え、大きく校舎側へと振り上げた。

 生まれた爆風は、銃弾の威力を減衰させるに至り、銃弾はカランと音を立て地に落ちた。

「…化け物か…?」

 兵士の1人が呟いた。

 バルハルトはインカムに手を当てる。

「今だ。突入開始」

 その声と共に、校庭とは反対側で爆発音が響く。

 校舎が爆破されたのだ。生まれた入り口から、無数の軍靴の足音が響く。

 バルハルトが校舎側に注目を集め、その隙に校舎裏へ爆弾を設置。突破口を開き、一気に校舎内へ歩兵を突入させる作戦だったのだ。

 たちまち校舎内からは、銃声と叫び声が聞こえてくる。

「や、やめろ…」

 キースが呟く。

 その校舎の下には、避難所への入り口が隠されている。このまま突破されれば、家族の身は危うい。

「やめろてめぇらッ!!!!」

 キースが校舎に向かい走ると、その前にバルハルトが立つ。

「邪魔だ!」

「戦場にて冷静さを失うとは」

「くたばりやがれ!!」

 キースは勢いのまま突き攻撃を放つ。

「愚かな男だ」

 大剣を振り上げたバルハルトは、キースの振るう蛇腹剣を潰すように上から叩きつけた。

 その瞬間、大剣はまるで魚でも斬るように、キースの剣を断ち切る。

「…ぇ」

 そのままの勢いで、大剣はキースを袈裟斬りにした。

 噴き上げる鮮血。キースは地面に倒れ伏した。

「キース!!」

 ドルがバルハルトに向かい走り出す。

 バルハルトは再び大剣を構えた。

「ドル、ダメだ!」

 ランデは制止したが、ドルでさえ冷静さを失っていた。その警告は届かない。

 バルハルトの大剣が横薙ぎにドルを襲う。

 だが、キースの様を見て、大剣を受けることは不可能と考えたドルは、剣を受けるのではなく、自身の刀身で滑るように受け流すことで、初撃を防いでみせた。

「ほう」

「金獅子流、奥義ッ!!!!」

 バルハルトは滑るままに剣を振り抜いた。

 その一瞬の後隙に、ドルは己の全てのパトスを注いだ。

 天に向かって振り上げられる蛇腹剣は、バルハルト一点に注がれる。

「獅子王断破ッッッッ!!!!」

 その技は、サーレの大英雄にして、最強の奏士、アルマンド・ヒースレイヤーが開発した秘剣。

 パトスを瞬間的に、かつ爆発的に加える流派、金獅子流。摩擦熱を纏う剣は獅子の如く黄金の輝きを放ち、パトスの紫電と作用することでその刀身に衝撃が与えられると大爆発が起こる。


 使い手はドル・ヒースレイヤー。父とは異なり、才能には恵まれなかった彼が得た、究極の一撃。

 それは血も滲むような努力の日々が生んだものだった。

 偉大過ぎる父親に対して、息子はなんら突出していない一般人。

 幼少期から、大人子供も変わらずに、彼の凡人っぷりを馬鹿にする声も多かった。

 心無い言葉に何度傷ついたかわからなかった。

 しかし、そんな彼を家族は愛していた。

 母は毎度泣いて帰る息子を励まし続け、父は優しく己の技術を息子に教え続けた。

 初めこそ、父の存在を疎ましく思ったこともある。凱旋し、賞賛の嵐に立つその背が憎かったこともある。

 だが、それでもドルは、その背中に憧れた。

 何を言われてもただがむしゃらに努力を続け、士官学校入学を果たした時、泣いて喜んだ父を見て、ドルは自分がどんなに愛されていたかを知った。

 出来不出来や、英雄の息子という色眼鏡で見ることもなく、自分という個を肯定してくれる両親の存在が、今までどれだけ助けになっていたかを知った。

 それからドルは戦う理由を得た。漠然とした英雄への憧れではなく、家族を守れる強さが欲しいと努力し続けた。

 そうして体得した秘剣。その輝きは、彼の魂の光だった。


「素晴らしい…っ!」

 バルハルトは振り抜いた剣を返す。

 これまでが手加減していたとわかるほどのスピード、そしてそこから生まれる破壊力は想像に容易い。

「おおおおおおおおっ!!!!」

「はああああああっ!!!!」

 互いが渾身の力を込めた剣は、激しく激突した。

 同時、蛇腹剣に蓄積されたエネルギーは一気に爆発する。

 爆風にランデは身を庇った。

 地響きが続き、土煙が舞った。

 やがてそれも晴れ、両者の姿が露わになる。

「見事だ…」

「…か、はっ…」

 立っていたのは、バルハルトだった。

 ドルは爆発によって自身の身を焦がし、パトス切れによって膝をつく。

 バルハルトは軍服が焼け、大剣が粉々に粉砕されていた。

 しかし、刃がその身に届くことはなかった。理由は、燃えた軍服から除く鎧にある。

「なんだ、それは…」

 その鎧はただの鎧ではなかった。

 胸部の大きな銀の鎧から太い管が伸び、直接四肢に繋がっていたのだ。

「パワーアーマーだ。当然この鎧自体にも特殊な駆動系によって強力な力を生み出しているが、この管を通して直接筋繊維に作用することで、数十倍の膂力を得ることができる。こうでもしなければ、単体でサーレに挑むことなどできんさ」

 脈打つように動く管。恵まれた体躯に強力なドーピング、加えて研ぎ澄まされている戦闘センス。

 これがバルハルト・レンブラン。人類において、単体では最強とされている戦士だった。

「く、そ…」

「その眼光に今の一撃。貴様はその歳で既に戦士なのだな」

 バルハルトは感嘆の言葉をかけ、吹き飛んだドルの蛇腹剣を拾った。

「名を聞かせろ」

「…ドル・ヒースレイヤー」

「さらばだドル。強き戦士よ」

 バルハルトは蛇腹剣を元の剣の状態に戻し、ドルに向ける。

「父さん…」

 最期の言葉で、父を呼ぶ。

 振られた剣はドルの首を断ち切り、一瞬で絶命に導いた。

 ドルの身体が倒れ、土煙が僅かに舞う。

 校舎内の戦いも終わった。今は銃声も聞こえない。

「さて、あとは貴様だけか…」

 静寂の中、バルハルトはランデを見据える。

 ランデは剣を抜き、ゆっくりとバルハルトの方へ歩いて行った。

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