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13話 人の噂

「なぁ聞いたか?」


「どうした? 新しいマヨネーズの使い方でも開発したか?」


ジョニ男が女子に振られる理由の1つの調味料バカ。目の前の弁当に尋常ではない量のマヨネーズをかけている。作り手側の作りがいなど完全に度外視されている。


とはいっても、女子の中には料理が得意ではない子もいるわけで、そういう女子に人気が出る。というか、ジョニ男は基本的にいいやつなので、普通に料理ができる子でも人気がある。目の前のマヨネーズがあってもモテるのはおかしい。


「違う。ほら、橘と最近樹は最近まぁまぁ話してるみたいだから知ってるかと思ったが、どうやらその様子だと知らないみたいだな」


「何のことだ?」


「最近橘に彼氏ができたという話がある」


「まじかよ」


さすがに驚いた。


「びっくりしたか?」


「驚いたぞ。どこの御曹司だ?」


「……意外とあっさりしてんだな。狙ってたんだろ?」


「まぁそうだが、まだ俺はそういう土俵に上がれてないからな。まだ友人関係以下だぞ」


わずかずつ仲良くなれてはいたと思うが、シャーベットに彼氏ができたことを残念に思えるほど俺にチャンスがあったとは思えない。


「そうか、まぁでも誰だろうな?」


「具体的にどんなやつかは聞いてないのか?」


「全然だな」


「おい柏木、何か聞いてないか?」


「はぁ? こっちに話振ってくんな」


超不機嫌だった。これは駄目か。


「でもそういう話は全く聞かないぞ。最近も告白されて振った話を2件ほど聞いてるけど、OKした件は聞いてない」


「教えてくれんのか? ありがとな」


「別に……」


訂正。今日はまぁまぁ機嫌よかったようだ。


というか、シャーベットと柏木思いのほか仲いいんだな。そういうレベルの話までしてるとは。俺の悪口意外でも仲良くできる件があって何よりだ。


「うーん、そもそも学内じゃないんじゃないか?」


「やっぱりどっかの御曹司か?」


「皆。もっと詳しい話知ってるか?」


ジョニ男が周りの女子に話を振る。


「えーとね、そこまで詳しくないんだけど、そもそも橘さんって、男相手のガードが固くて、告白をOKしたことは1回もないし、どっかに一緒に出かけることもまずないんだって。昔食事くらいならってOKして揉めたことがあるから、気をもたせるようなことは絶対にしないんだって」


女子の1人が説明してくれる。そうか、シャーベットはそもそも男子と食事すらしないっと。


「でも優しいから、絶対に相手に悪口を言ったり暴言を吐いたりはしないし、そのクールな感じでうらみは買わないらしいけどね」


なるほど、シャーベットは悪口言わないし、暴言も吐かないし、クールか。


…………それは俺の知ってるシャーベットこと橘さんとは違う気がするんだが。この学校にはハーフの橘さんがもう1人いたか?


めっちゃ普通にこの前一緒に食事したし、俺に対して嫌いやらなんやら、柏木ほどではないが、罵詈雑言あるし、ラーメン食って顔をへんにゃりさせて足ばたばたさせてて全然クールじゃない。おかしいな。


「でもねー、この前同い年くらいの男子と食事をしてるところを目撃した人がいるんだって」


「なるほど、そういう気を持たせるようなことをしてるってことは、付き合ってるかどうかは別として何か深い関係にあるってことか。でもそれだけじゃ付き合ってることを確定できる情報じゃないな。まだチャンスあるんじゃないか樹、樹?」


「…………ちょっと聞いていいかな?」


俺は女子の1人に話しかける。


「何? 言っとくけど、桐林君じゃ橘さんには月とすっぽんよ」


「いやそうじゃなくて」


事実でもそんな真顔で言わないで頂きたい。そういうのは冗談っぽく苦笑いで言うのがマナーじゃないのか。


「その目撃証言ってさ、どっかのラーメン屋とかじゃないよな」


「へー、桐林君も噂に目ざといんだね。そうだよ、ラーメン屋さんだよ。男子と一緒に入るのを見たんだって。でも橘さんには似合わないから、橘さんが断れない相手なのかなとも思うんだよね」


…………それ俺じゃね? まじか、そんな噂になってんのかよ。


「どうした樹」


「い、いや、やっぱりあいつはラーメンが好きだったのかなって思っただけだ」




「柏木、お願いがある」


「嫌だ」


「まだ何も言ってないだろ!」


「嫌だ、この噂を利用して恵梨香をどうにかしようとしてるんだろ」


「違う、むしろ逆だ。頼むから話を聞いてくれ」


俺は柏木に相談した。


「ふーん、その噂の相手があんたなの?」


「あいつにここ最近そういう話がないなら多分確実だ。だがあいつが俺に何のアクションもしてきてないところを見ると、おそらく橘自身の耳にはまだ入ってないんだ」


「それで私が何をするんだ?」


「柏木のほうからさりげなく橘に伝えて、本人から否定してもらえるようにしてくれ」


「別にあんたが言いにいけばいいんじゃないの?」


「いや、あいつは意外と抜けてるから、俺が下手に行うと、訳のわからん発言をして、墓穴を掘る可能性がある。柏木は橘とそういう話もしてるし、俺のことを分かってるから、うまく伝えれそうじゃん」


「それなら、山本先輩とかいうのでもいいんじゃないか?」


「いや、山本先輩はこういう恋話が割と好きで、ちょっと相談しづらいのと、そもそも山本先輩を橘が尊敬してるから、かっこつけて彼氏いますよ発言とかしかねないんだ。だから、ある程度対等に話せてて、俺のことをある程度分かってる柏木に頼みたい」


「…………。分かった。それくらいならいい。でもあんたももったいないね」


「何でだ?」


「この噂をうまく使えば、良くも悪くも恵梨香の意識があんたに向いたんじゃない? あんた彼女ほしいんでしょ。恵梨香なら超大当たりじゃん。仮にも一緒にランチしてるなら、もういうほど恵梨香には嫌われてないんじゃない?」


「いや、あいつは俺のことは嫌いさ。あれは食欲が勝っただけだ。それに、ちゃんと彼氏彼女の関係になるなら、段階を踏む必要はある。俺はまだあいつと友人でもないんだ。そこを飛ばしていきなり変な付き合いになってギクシャクするくらいなら、一応話してもらえる今のほうがいい。それに橘にも悪いしな。あいつは普通に頑張りやでいいやつだから、こういう変な噂で困らせたくない」


「…………ふーん。割と考えてるんだな」


「ちなみに柏木も同じように思ってるぞ。お前は周りが思ってるよりずっといいやつだからな」


「……ふん、余計なことは言わなくていい。分かった恵梨香にはそう言っとく」


「うまい話が思いついてなかったら、親戚の子がラーメン好きだったって口裏を合わせとけ。あいつアドリブ力低そうだから、テンパりそうだったらそういう話にしとけ」


「……分かった」


そう言って柏木は教室を出て行った。




「なぁなぁ、聞いたか?」


「どうした。ケチャップの新製品か?」


今日は弁当にケチャップをかけまくっている。サラダや焼き魚には合わないのでは? 量も問題だが、かける食材にも問題がある。


「違う。どうやら橘の噂はただの親戚の子と一緒に食べただけらしい。本人が昨日聞かれて否定したらしい」


「嘘じゃないのか?」


「いや、すぐにそういったし、全然焦ってなかったから多分ほんとだ。良かったな。まだチャンスがありそうだぞ」


「ああ、良かった良かった」


根回ししといてよかった。というか俺の言ったまんまじゃん。


グッ!


ぷいっ。


俺はミッションの成功の感謝を込めて、柏木にグッっと握りこぶしに指を立てたがそっぽを向かれた。


周りはなぜ柏木に俺がそういうポーズをしたのか分かるはずもなく首をかしげるばかりだった。



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