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10話 ひたすら柏木に絡んで余計なことをする

「くー、くー」


現在の時間は6時間目が終わったところ。もう後は帰るだけなのだが、横の柏木が完全に寝落ちしている。


6時間目の途中から完全に寝ていて、全く起きる気配がない。


俺と柏木の席は最も後ろの席で、柏木の前の席には割りと体格の大きい男子がいるので、あまり目立ちはしないが。


「あらら、柏木ちゃん寝ちゃってる~」


「こうしてると可愛いのにね~」


女子が何人か柏木の前に来る。


シャーベット効果で、去年の柏木を知らない女子生徒の一部は、何とか仲良くなろうと話しかけている様子もあり、相変わらず当たりはきついが、この柏木に絡む女子というのは必然的におせっかい。粘り強く話しかけていた。


(しかし本当にこいつのことは分からん)


仮にもクラスメイトで、そこそこ絡んではいるのに、本当に情報がない。


「ちょっと待って、何これ」


(ん?)


女子の反応が気になったので、ふと柏木の席を見た。


「何してんだ?」


「柏木さん、お肌つやつやなの。真っ白な卵肌よ」


「陸上部で砂とか顔にかかってて、紫外線も浴びまくってるのに、何これ?」


そこら辺については、よく俺は分からんが、確かに柏木の肌は綺麗である。屋外での部活動をしているとは思えないほど色白ではある。さすがにシャーベットには負けるが。あいつは単純に人種的な意味で白いからな。


「つんつんっと。わ、ほんとにぷるぷるー」


「ううぅん……」


女子の1人が柏木の頬をつつく。眠りが深いのか唸りはするが起きる気配がない。


「私も触るー。あーほんとだー」


「この感触は癖になるわー」


すっかり女子に囲まれる柏木。


こいつがどういうケアをしているか分からんし、普段がさつに見えるが、初めて会ったときの感じを見ると、身だしなみは割と気を使っているのがよく分かる。


本当に人が嫌いなら、部活にも参加しないだろうし、そもそも身だしなみに気を使いはしないだろう、もっと素直になれないものか。


「桐林君も触ってみたら?」


女子の1人が俺に自殺しろと言ってきた。


「冗談だろ。俺は柏木に嫌われてんだ。触った途端怒られるわ」


「そっかなー。まぁいいか、部活行こっ」


そして教室から次々と生徒が出て行き、いつの間にか俺と柏木だけになる。


「…………、全然起きないな」


時間は15時を回りそうである。そろそろ部活にいつもこいつが行ってる時間だ。


「……柏木ー」


俺は耳元で柏木にささやいてみた。しかし起きる様子がない。


「すーすー」


しかもさっきは無かった寝息まで聞こえてきて、より深くなっているようだ。


そうだこれなら起きるな。


「最近シロクマの様子はどうだー」


「むにゃむにゃ……、レスターって言ってるでしょー、むにゃ」


反応はあったが、思い切り寝たままだ。こいつ寝言でも突っ込みをいれてくんのか。すげぇな。


……、しかし本当に肌綺麗だな。これだけやっても起きないなら本当に触ってもいけるんじゃないか?


俺の悪い部分が誰も回りにいないことで目覚めてしまった。


ちょっとつつくくらいなら……。


ツン。


「!?」


なんだこれ? 本当に俺と同じ人間の肌か? やわらけぇ!


えーと何だ? これは何か知らんがめちゃくちゃ気持ちいい。俺の語彙力では表現できない。


プリンみたいにぷるんぷるんと震えるのに、妙にモチモチしててさらっとしてる。


うわぁ。癖になる。ほわわーん。


そして俺は正気を失った。


ブス。


そして、それによって手元が狂い、俺の指が思い切り柏木の耳に刺さるのも良く考えれば想定された。


「…………」


「…………、おい何のつもりだ?」


「おはようございますお姫様。部活に遅刻いたしますよ?」


「言いたいことはそれだけか?」


「すいませんでした!」


「何であんたは私にやたら構ってくるんだ! 嫌がらせか! ほっぺも突きやがって!」


バレテ―ラ。


「悪かった! お礼に俺の肌も触っていいから」


何言ってんだ俺?


「よぉし。じゃあこの鋏で突くからな」


何言ってんだこの娘?


「勘弁してください!」


俺は全力で逃げた。





「しかしここのパンはうまいと思うんだ。パンズも柔らかくてほんのり暖かいし、挟む焼きそば、コロッケ、カツもいずれも美味い。パン人間の俺でもこれには驚愕する」


「何であんたが私の前でご飯食べてんだ?」


次の日の昼休み。俺はジョニ男とその周りの少女と食べる昼ごはんを放棄し、柏木を追いかけていた。


案の定1人で食べてたので、その前の席を頂いたわけだ。


「今日はちょっと柏木と一緒にいたいと思ってな」


「は?」


何言ってんだこいつという感じで首を傾げられる。


「ほら、俺達ってクラスメイトじゃん」


「私はあんたのこと嫌いだけどな」


「選択授業も一緒じゃん」


「不本意だけどな」


「その授業でも席近かったり、体育でもよくグループ一緒になるじゃん」


「というか、あんたが死ねばいいんじゃない?」


「ほら、こんな感じで悪口ばっかりのコミュニケーションじゃん。でも縁がこれだけあるんなら、もっと仲良くしたいんだ」


一言ごとに俺の心を抉ってくるが、まぁそれくらいはいい。


「あんたバカだろ」


俺の熱弁は一言で却下された。バカなのは否定しねぇけどさ。


「私かなり近づくなオーラ出してるだろ。正直これだけでも男子は誰も話しかけてこないんだぞ。女子だって、恵梨香と知り合ってから、少しは女子も話しかけてはくるけど、それでも数は少ない。なのに、あんたは何でこっちに向かってくる?」


「そうか?」


「もう男子は視線すら合わせてこないぞ。あんただけ明らかにおかしい」


「まぁそうかもしれないけどさ、でも俺、そこまで柏木に嫌われてない気はするんだ」


「いやいや、私実際に嫌いだし、嫌いって思いっきり言ってんだぞ。鈍感か? いや、都合の悪いことは聞こえないのか?」


「そんなこともないが」


「分かった。そのいつまでも犬の名前を覚えない耳と頭にも分かるように具体的に言ってやる。まず私はあんたの存在そのものが嫌いだ」


「ふぅん、でも具体性がイマイチだな。どれくらいなんだ?」


「ど、どれくらい? そ、そうだな……。あ、あそこからあそこくらいだ」


柏木は窓の外を指してグラウンドの隅からクラブハウスくらいまでを指す。


「80mくらいか?」


「いや、100mだ」


なるほど、俺は柏木に100mくらい嫌われているらしい。


「これで分かりやすいな。後は、顔も嫌いだな」


「存在自体嫌いと被ってないか?」


存在自体が嫌いで顔が好きだとただの面食いになる。


「そういうところも嫌いだ。やたら私の発言に揚げ足をとって、のほほんとしてるところが気に食わない」


「そうか……」


「少なくとも私と仲良くなりたいなら、その空気を読めないような発言や行動は直すんだな」


「俺は超読めてるぞ。そして読んだ上での行動だ」


「そういうところが駄目だって言ってんだろうが!」


超大音量で食堂がしんとなる。いや、お前こそ空気読め。


「後は、私に突っ込みをさせるくせに、攻撃を全部避けてくるのも気に食わない。そのせいで私のストレスになる」


「全く、お前は他の男にもそうだったのか?」


「今はそもそもよってこないから知らないが、1年生のときに近寄ってきた男子は皆こんな感じでいたら、避けてった。男なんて皆嫌いだし。男はいやらしいし、バカばかりだし、女子の都合を考えない身勝手な生き物だ。絶対に私とは相容れない」


「だったら何で女子とも敵対してんだ? その理論じゃおかしいだろ」


「……ちゃらい女は嫌いだ。男の影がある女も無理。特にあんたの友人の近くにいる恋愛バカみたいな女は特に無理だ」


「はぁ……、でも橘はいいのか?」


「恵梨香は別だ。あんたの件で話はできるし、空気もしっかり読めてる。男があまり得意じゃないところも同じだし、自分の意見を押し付けてこないから気楽だ。でもそれはあいつが高校生とは思えないほど落ち着いているからだ。他のやつは駄目だ」


「基準が橘とかきつすぎるだろ」


俺の知っている限り、橘より上の女子などいないぞ、それこそ山本先輩くらいか。というか、いうほどあいつは落ち着いてないし。


こいつがそれでもいいならいいんだが、どうも孤立してるのが無視できない。


孤立を良しとしてるなら俺も何も言わない。だが、初めて出会った日に変わろうとしてたのは間違いない。それを知ってるからこそ、関わっていきたいし、こいつの決意に水を差したのは俺が原因でもある。


「ほら分かっただろ。さっさとパンを食ってどっかいけ」


こういうところもだ。俺をすぐに追い出さずに、食べるまではいてもいいという。多分だが、根はいいんだと思うんだがなぁ。


「仕方ないな。じゃあ今日は電話番号とラインだけ教えてもらってあきらめるよ」


「そうか……、えーとスマホスマホ……って、さっきまでの会話の流れはどこいったんだ! 病気か!」


「分かった。余計な粘着はやめる。今日の用件はこれなんだ」


そして俺はあるものを差し出す。


「……なんだこれは?」


「柏木も知ってるだろ。この学校ではボランティアをすると、学食で使える金券がもらえるって」


「ああ、説明は受けてるからな」


「昨日のことは本当に俺が悪かったと思ってるし、いろいろ俺が迷惑をかけてることもあるし、ちゃんとわびたいと思ってな。これがあれば3回くらいはそのそばが食える。使ってくれよ」


「…………」


「どうした?」


いつもの怒り顔でもなく、橘といるときのちょっとした笑顔でもなく、きょとんとした表情をしていた。


なんだろう? 俺が急に謝ったから驚いてるのか?



「……別にいい、そういうのはいらない」


「なんだ? 遠慮しなくても俺はいうほど学食は使わないしさ」


「違う。私は確かにあんたのことは嫌い。昨日のことはむかついてる。でもちゃんと謝ってくれるなら、昨日のことはいい。それはあんたがボランティアをして、その対価でもらったもの。それを私が使うわけにはいかない。それはあんたが使うものだから」


急にしおらしくなって、優しい声で俺にそう言ってくる。意外だな。ちょっと怒りながらもらってくれれば御の字。むしろこんなので全てをチャラにしようとしてんのかと怒られることも覚悟しての謝罪だったのだが、ものすごく優しく対応されてしまった。


やはり人間というのは複雑だ。性格とかを1つのものでまとめることはできないんだな。


「じゃあな」


そう言って席を立ってしまう。


嫌われっぱなしではあるが、100mのうちほんの1cmくらいは縮まった気がした。



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