第二十二話 迫りくる危険
明日は終業式。つまり明後日からは待ちに待った夏休みに入る。
そのせいかクラスメイトたちも浮き足立っている。放課後だというのに、友達同士で集まって夏休みの計画を立てる姿が見られた。
なにごともなければ、私だって楽しい夏休みを想像してワクワク感で胸をいっぱいにできたのに。
「はー……」
私はスマホを見つめたままため息を吐いた。
そこには昼休みに送ったメッセに時也からの返信がついていた。
<ごめん。メッセージ気づかなかった>
そっけない。理由すら書かれていないその返信は、疑念を強めるには十分だった。
本当なら時也にブレスレットを壊してしまったことを明かして、きちんと謝罪するつもりだったというのに。
「こんなんじゃ……」
夏休みに時也に会えなくなってしまう。
学校が休みになれば自然に会う機会は失われる。気まずい現状のまま夏休みに入ってしまうのは、かなり危機的状況だ。
けれどそれを理解していても、時也にもう一度連絡を取って会う約束を取り付ける気にはなれなかった。
だってもし拒否されたら? もっと時也のことを疑ってしまう。
もしもさっきと同じように他の女子といるところを目撃する羽目になったら? そしたら……私は……。
「……帰ろ」
今のネガティブな思考回路ではいい結果なんかつかめるはずがない。
私はスマホをカバンにしまって教室を後にした。
いつもの帰り道を重い足取りで歩く。
そういえば一人で帰るのは久しぶりだ。いつも時也か尊と一緒だったから。
「たまには一人もいいかな……」
そんな風に思っていたけれど、後悔したのはすぐ後のこと。
向こうから誰か来る。その姿に、すぐ思い当たる友人はいない。けどどこか引っかかる人だった。
「あんた……昨日の!」
「あ!」
声をかけてきたのは尊と険悪な雰囲気だった西田という男だった。
「こりゃあラッキーだなぁ」
「っ!」
私は反応したけれど、少しばかり遅かった。伸びてきた腕に掴まれ、動けなくなる。
「離してよ!」
何かが私と西田の間を横切った。
びぃんっ、と音を立てて塀に突き刺さる。
――包丁だ。
「あ、あげは……っ!」
「ひ、ひいっ!」
非日常的な包丁の襲来に驚き、西田は情けない声をあげて後ずさった。
「きったねぇ手で真里菜先輩に触ってんじゃねーよ」
すぐに思い当たった包丁の持ち主。予想と違わず、近づいてきたのはあげはだった。
久しぶりに顔を合わせるけど……どんな顔して会えば良いのか分からない。
「大丈夫ですか?」
「……ありがとう」
なんかナチュラルに助け出されてしまった。
「ほ、包丁なんて投げやがって、あぶねぇじゃねーか」
私にとっては西田の方が危険人物ではあるのだけど、言ってることは正論だ。
「は? まだごちゃごちゃ言ってんなら次は当てるぞ」
スッと次の包丁を取り出したあげはに西田は顔を引きつらせた。
さらに投げる体勢を取ると。
「お、覚えてろよっ」
もたもたと足を動かしながら逃げていく。よっぽど怖かったんだろうな。
――そうして私はあげはと二人きりになってしまったのだった。