解除
立ち直り早いわけではないんです(-_-;)
要は都……(゜o゜;
「だ、め――いや。どう……なん――」
言葉が繋がらない。ただ、ただ現実を拒絶しようとする思考だけがここにあった。
『バカ女はバカ女だな。殺されかけてたのに、愁傷なことだ。そんなにもこの女が好きだったのか?』
分からない。――分からなかった。『私』はリュートとは面識はない。鏡の中にいた『私』が見せてくれた映像のみでしか分からない。けれど『殺す』や、剣を自身に突き付けられた以上にに悲しい。悲しくて仕方なかった。それはどこか心が引き裂かれてしまう――そう思うほどに。
それはきっと記憶の断片。リュートをきっと私は大好きで大切だったのだろう。そして信じていたのかも知れない。また元の関係に戻れると。
きっとリュートは『馬鹿みたい』そう笑うだろうけれど。
『誰も信じないでしょうね。姫様はとても優しいと言ったら』
「……」
いつの間にかグラスは私の隣に立ってリュートを表情無く見下ろしていた。溢れ出る血液は凍り付き、顔や体に付いた血糊は固まり、軽い音を立ててから弾けて消えていく。
そこにはただ安らかな顔がある。何の憂いも苦しみも感じられない。――まるで眠っているようだった。
『とても優しいのよ――』
「……知ってる」
私は呟く様に言っていた。身体に力が入らない。何もかも抜け落ちたようだった。感情さえも。涙一つ出ない双眸は瞬きを忘れたかのようにリュートを見つめている。
「ライラ」
「兄様――どうしよう?」
助けて。そう言いたかった。けれど私の望みは叶わない。何も誰もかなえることなんて出来ない。分かっている。それでも『どうしよう』と呟いたのはやり場のない悲しみをどこに持って逝けばいいのか分からなかったからだった。
ため息一つ。音も無く隣で兄様が私を覗き込んでいた。
黒い両眼が不気味に輝く。
「生き返らせてやりましょうか? 兄様がありとあらゆる方法――この世のすべてを壊してでも、ライラの願いを叶える」
「……」
私は思わず声を無くしていた。パチパチと瞬かせて見つめる先の兄様は優しく微笑みかけている。どこまでも私には優しく――どこまでも深い闇が広がっている気がする双眸。
兄様の言葉は酷く現実味を帯びていて私は乾いた唇のまま『だいじょうぶ』と言うしかなかった。
『――いい選択です。姫様の為にも、この世界の為にも』
「そうですか? 残念。この世のゴミを消せる――」
すべて言わせない。そう言いたげに子犬がポンッと兄様の頭に乗った。相変わらずしっぽはパタパタと動いている。兄様は不快そうに顔を顰めて見せたが振り払う事は無かった。頭の上に毛玉を乗せながら兄様は立ち上がると視線を近くで這いつくばっているローエルに向けた。
「さぁて、と。じゃあそんなところで凹んでる場合ではないんですよ。ライラ。泣くことは後でもできます。問題は『今』何ですよ」
「……」
確かに。言われればそうなんだけれど、抜けてしまった気持ちはなかなか建て直すことは出来なかった。私は言われるがままにゆっくりと立ち上がるとローエルに目を向ける。
彼は地面に縫われるように細かな氷柱であらゆる所を刺されていた。とはいっても身体を貫かれている訳ではなく衣服そのものを縫い留めてある感じだ。ぼんやりと感情なく彼は抵抗もせぬまま宙を見つめていた。
「ローエル」
「――何の為にここまで来たんです? なら、殺しても?」
私は子供の様にフルフルと首を横に振って見せる。
「なら、しゃんとしてください。――霧。ついでに氷。『あれ』の暗示を解いてください」
言うとグラスが美麗な顔を歪めた。
『――そう言えば、何様ですか? 私が従うかとでも?』
「できないんですかぁ? 高位精霊でしょう? 所詮小娘に使われていただけの事はありますね。まぁ。なら、看板さっさとおろして隠居でもしてていいんですよ?」
『……』
嫌味たっぷり、半笑いで嘲るように笑う兄様に暫く固まっていたが――この時点でよく殺されないなとは思う――舌打ち一つ、足音も立てずに動き出す。その軌跡はぱりぱりと氷の道が出来て行った。
『諦めろ。あれは――悪魔だから』
子犬が喉を鳴らして楽しそうに笑う。その後で飛ぶようにして軽く跳ねるとローエルの前に獲物を狙う様にして構えてみせた。
ため息一つ。吐き出すようにしてグラスが言葉を紡ぐ。
『……暗示と薬の複合ね。薬はそっちが集めて排出。暗示は――ちょっと時間がかかるけど何とかなるわ』
「何とかしてください」
『……お前がしろよ』
にこにこと微笑んだまま指示を出す兄様の言葉に、そう美しい口許が動いたような気がした。




