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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
二章
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感動の再開

どうでもいい裏設定。ジルは兄様の元カノ……。

「!?」



 鈍い音共に一斉に笑い声が落ちる。――自業自得だとか、百年早いんだよとか。それは悪意のある物ではなく、ただの日常のようだった。



 何が起こったのか分からなくて私が目を白黒させているとジルは表情変えることなく頬杖を付いていた。



「死にたいなら止めん。――久しぶりだな。オーエン」



「え?」



 兄――の名前。思わず顔を上げるとそこには『記録』の中で見た少年――いや、青年が立っていた。黒い髪。黒い目。彼は私を見ると目を細める。何だろう? そのわきわきとしか言いようのない指の動きは。よく見ると――口端が何かを耐えるように引き攣っている。



 え? 少し、怖いんですが――。



「兄様?」



 その私の言葉で彼の中、何かが弾け飛んだようだった。勢いよく私の身体に抱き付く青年はまるで子供のようだった。



 ――ええと。注目の的なんですか。……生暖かい目で見るのは止めていただきたいと考えながら助けを求めるようにジルを見たが彼女は目を反らす。当然周りにいた男たちも同じような反応だった。



 いや――それどころか何も見ていない。私たちは存在もしていない。そんな雰囲気で風に元の雰囲気に戻るのは止めて欲しいんですが。



「う、ぁああああん!」



「……えっと」



 ともかく離してほしい。苦しくなって身を捩るが彼が私を手放す気配はどこにも無かった。――シスコンだと聞いていたけど。ここまでとは情報が来ていない。ワザと遮断したような気さえする。



 私はひきっつた顔を浮かべていた。



「可哀想なライラ! 護ってやるからな。兄様が、この国――人類を滅ぼしても護ってやるからなぁ!」



「僕って……むしろあんたが私たちの国を攻め入らなかったことが不気味だわ」



 ありがとう。水を運んでくれた人にそう言うとジルは半眼で兄様を見つめる。その兄様は私をしっかりと胸に抱えたままにっこりと微笑んだ。



「意味が分からないですネ。誰も彼も人を悪魔みたいか何か言わないでほしいから。大体――君が思っているほど僕は力を持ってませんし」



 嘘つけ。そう顔が言っているようだったがジルはそれ以上それに対して言う事は無かった。軽く口許に水を運んでから『ああ、そう』と興味なく呟く。



「そんな事より、君の事は以下オーエンが担当するから――私はここまでだ。私の『顔』では中枢に入り込めないしね」



 なら、兄様は入り込めると言う事だろう。と私は理解した。その間ようやく兄様は私を放すと口許をへの字に曲げる。



 椅子に座るとむくれた様に肘を付いた。



「――嫌ですよ。誰が喜んでかわいい妹を死地に送るものですか」



 当然可愛くはない表情。それを見たジルは呆れたようにため息をつく。



「オーエン。これはボスの意向だが?」



「死ねばいいのにねぇ? ソルト」



 騎士団長に向かっていい笑顔を浮かべる兄様。近くに居たら絶対殺しに掛かりそうな雰囲気に私は大きくため息を吐き出していた。



 ――どうやら兄様は私の願いを叶えてくれる気はないらしい。でも、私はそのためにここに来た。諦めるわけにもいかなかった。



 がたんと勢いづけて立ち上がると椅子が足元に転がった。



「あのっ!」



「なぁに? ライラ」



 ニコニコ。せっかく勢いを付けて、声を出したのに兄様は子供を見る様な眼で私を見つめていた。おそらくこれから言う言葉は兄様にとって『戯言』としか思っていないのかもしれない。



「あの――ローエルのところに行きたいんです」



「……」



 ニコニコ。ニコニコ。沈黙のままの笑顔。それに注目するのは私だけではない。なぜか息を飲むようにして周りも見つめていたのだ。



 ゴクリ。


 唾を大きく飲むような音に兄様は目の前のグラスを相変わらず笑顔のまま投げつけていた――。しかも投げつけた方向など見てはいない。



 ぐっ。鈍い声がして倒れこむ一人の男。それを周りの男たちが『ばかっ、お前は――』などと言いながら慌てて抱き起すとどこかに引きずられて奥に消えていく。



「うるさいでかすね――僕が考え事をしているのに」



「……唾を飲み込んだのはあいつなのか――」



 ポツリと引き気味で呟いたジルを無視して再び兄様は機能停止。一体どうしたらいいのやら――誰か兄様の他に入れるものはいるだろうか。考えながら辺りを見ると私の思考が分かったのか全員と言っていいほど目を反らした。



「――」



 なぜだか、悲しい。ともかく私は兄様にもう一度お願いしようと覗き込むとようやく意識が戻ったように私の方をしげしげと見つめた。



 再び鮮やかな笑顔に、さらに何か周りとこちらの壁が作られるのを感じた。



 一体この人は何なんだろう。私は小首を傾げる。かなり疑問だけれど――聞いても誰も答えてくれなさそうでジルでさえ苦笑いを浮かべているだけだ。



 兄様は軽く私の肩に手を置いた。何をどう考えたのだろう。なぜか感動したように目元が潤んでいるのが不思議だった。



 情緒は大丈夫なんだろうか――と心配になる。後で両親に手紙を書かないとと本気でそう思った。



「分かった」



「え?」



 どうして、どうなったのだろう。予想外の言葉に私は目を丸くしていた。



「かわいい妹の為です。兄様は涙を飲んであのクソガキに会わせて――」



「何を企んでいるんだよ? 何を? 変な行動はよせよ? 私達の工作が無駄になる」



 ジルが言うと兄様は辺りを凍り付かせるような冷気を孕ませた双眸でジルを見た。薄笑いを浮かべた顔が――悪魔に見えるのは気のせいではないかもしれない。



 ただ、泣きそうなほど周りにさらに厚い壁が立つ中、ジルは表情一つ変えないのにはすごいと思う。



「え? そんなものなんてどうでもいいでしょう? 変な行動? 貴方たちこそ邪魔したら潰しますよ」



「……」



 何言っているんだろう。この人は。――何となく以前の私に同情の目を向けたくなったが、これから私に降りかかるとなると憂鬱に思えた。



 私は顔を引き攣らせたまま、止めに入る。この人の場合冗談が冗談に見えなかったからだ。



「……いや、兄様? 潰さなくても――いいんでは? それに一応私たちの国の人だからね? ベネッサや両親だっている国だからね?」



「ああ――避難させないと。あの領主は役立たずだし」



 違う――。 私は心の底で悲鳴を上げていた。この話の通じなさは何だろうか。何を言っても無駄な気すらする。



 疲れる。



「オーエン。なら『ライラ成長記録』は渡さないぞ? とボスが言ってたけど?」



 ……。



 ……え?



 私の首がぎっぎっぎっと音を立てるようにしてジルの方向に向く。彼女はどこか意地悪く私にニコリと笑いかけた。



「ああ――学院内での評価や――お昼何食べた――とか、だった? あと、絵師に描かせた幼い頃とか――」



 戦慄に皮膚が粟立った。



 何を――。あの人は何をしているだろう? 私の個人情報………だいたい兄様はそこまで変態では……。とは思ったが見ると、明らかに悲しそうな顔を浮かべている。



「え?」



 変態だった。



 一体私はどんな表情をすればいいんだろう。思いとどまった事を喜べばいいのかこの状況に憤ればいいのか、もはや分からなかった。



 低く『分かった』と不服そうに言う声に私は軽く項垂れる。



「ついでにベネッサのも付けると言っていたが?」



 目が――光った気がした。怖い。なんか、怖い。私が怯える横でジルは軽く笑う。相変わらず扱いやすい男なだ――と。



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