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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
二章
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終着駅

 春の訪れを前にして私は王都を出発した。目的地は隣国の首都――。隣国と言えど近いようで遠く、また幾つかの小競り合いや荒れた街を避けていくと相当な時間を要していた。馬などでまっすぐ行けば三週間ほどかかるところを私たちは二か月を要し、ようやくデリオロンの首都にたどり着いた。



 連れの女剣士曰く、人助けをしなければもう少し早くたどり着けたらしいけれど、困っていたのだから仕方ない。それに旅の資金も尽きかけていたので一石二鳥ではないだろうか。



「へぇ――賑やかですね」



 麻色の髪と鳶色の瞳。背が高く、すらりとした美人が私の隣に立っていた。女性か男性か分からないほど中性的な容姿。この国――デリオロン軍の制服を身に纏い、その腰からは長剣をぶら下げている。尤も、この服は偽物なのだが。それを知っているのは今現在の所私だけだったけれど。



 彼女はジル=ヒュース。ソルト様の部下らしい。当初は男性を付ける予定で調整してたそうだけどなぜか皆が高熱を――どうやら『兄』に脅えているようだってソルト様は言っていた――出したらしく、彼女にお鉢が回っていったみたいだ。

 そんな彼女は最初不満げだったけれど、最近ではどこか楽し気だった。とにかく危機らしい危機は無かったからなのかもしれない。



「そうだね。結構にぎわっているみたいだ――軍事国家と聞いていたけど国民もごく普通の人のようだし――君。デリオロン語は話せるのかい?」



 街の大通り――メインストリートだろう――はどこも似たような感じだと私は思った。両脇には商店や酒場が広がり人々で溢れかえっている。行き交う人々の言葉は速くてよく聞き取れなかったけれど所々聞こえてくる言葉も子供や友達の話であったり、何一つ変わらない生活があることが感じられた。



「君――ライラ?」



「あ、すいません。――そうですね。少し」



 たどたどしいけれど簡単な会話なら何とかなるはずだ。



「そうか。なら、黙っておいてくれ。ここはよそ者には厳しい土地柄だ。――それにもう少しフードを目深に被ってくれるかい? その赤い目は目立ちすぎるから」



 言われて元々かぶっていたフードを深く被りなおした。通り過ぎる人々が好奇の目で見ていく限りこちらも十分に目立たないだろうかとふと疑念が過る。



「ほんとうにこれで?」



「その目を見られるよりはましだよ――ああ。こっちか」



 何かを探すようにして彼女はくるくると辺りを見回すと何かを見つけた様に長い脚でさっそうと歩く。それを私が小走りで追いかけるのはこの旅でいつもの事だった。



 果物屋の角を曲がり薄日の差し込む細い路地。陽だまりには猫が居眠りをしていて私たちに気付くと慌てて逃げて行った。そこを突き抜けながらさらに進み小さな階段。少しだけ溝の臭いが漂う突き当りにその小さな扉はあった。人が腰をかがめて入れるくらいの本当に小さな扉だ。一見倉庫か何かと見間違う。



 薄明りの中で軽くノックをすると彼女は呟く様にしかしながらしっかりした口調で言葉を紡ぐ。



「――私だ。ボスの命令により女を連れて来た」



「……あのぅ」



 何となく犯罪臭――いや、敵地なのだから仕様がないことなのかもしれないけれど。



『名を名乗れ』



 中から囁くような低い声。どこか警戒しているように聞こえるのは気のせいでも何でもないだろう。それよりも本当に中に誰かいることに私は驚いていた。



「ジルだ。近衛騎士団所属――ジル=ヒューズ」



『……連れの娘はライラ=ストローズか?』



「ああ」



『――』



 暫くの沈黙。木が軋む音と共に淡い――蝋燭の光が通路にこぼれた。そこから覗き込むのは一人の老人。彼は私のジルの顔を見た後でどこか緊張した面持ちで私に視線を向ける。軽くフードを外せと言うジェスチャーをしたので私がそれを取ると彼はようやく緊張をほぐしたようだった。『入れ』そう低い声とと共に小さな扉をくぐると思った以上に広い空間が広がっていた。



 何となく酒場に似ているだろうか。どこを見回しても屈強な男たちが酒を酌み交わし楽しそうにはしゃいでいた。しかもそのすべてが大人と言う心許無い状況に私は身を小さくするしかない。



 すすめられた席に落ち着くとジルは軽く笑った。



「そう固くなるなよ。ここは私たちのアジトで安全だ。――まぁ、むさくるしいのは事実だが」



「よぉ。ジル! 相変わらずいい女だな? どうだ今夜――おお。そこのかわいい嬢ちゃんでもいいけど?」



「え? あの――」



 寄って来たのは大柄で厳つい男性だった。何気に酒臭い。私が引き攣った愛想笑いを浮かべていると一瞬にして彼の身体は浮き上がり――壁に叩きつけられた。驚くほど簡単に。それはまるで『物』のようだった。


「可哀想に」


 大してそう思っていないジルの声だけが静かに響いていた。

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