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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
33/61

間話――無

※さらっと流してますが残酷描写有

前回からの続きですが視点が違うので間話扱いです。

勿論読まなくても本編は問題ないです。詰め込み過ぎて少し駆け足。

ちなみに誰だお前は( ゜Д゜)と盛大に突っ込んだ私がいる。

 まただ。


 スローモーションのようにゆったりと動く世界を見つめながら彼は考えていた。目に映るのは小柄な少女。その身体に突き刺さるのは無数の刃――。



 振り向く彼女の双眸には光など宿っていない。先ほどまで震えていたはずの唇は軽く開かれ血が溢れだしていた。



 嫌な鈍い音を立てて、少女の右腕が足元に落ち、それをまた刃が貫いていく。



 形さえも残らないほどに。



「ライラ!」



 彼は持っていた剣で雨の様に降り注ぐ刃――氷の刃を叩き折りながら半ば悲鳴のように叫んでいた。



 答えはない。辛うじて立っていた足ももぎ取られ彼女はまるで人形のように――いや、肉塊の様だ――足元にできた水たまりに鈍い音を立てて横たわった。血を吸っていく白い衣服は黒く闇に混ざり合う。



「ライラ――っ!」



 手を延ばしたかった。肩を掴みたかった。だが、現実はそうもいかない。頬を刃が切り付けるのを感じて彼はぐっと目の前の『それ』に集中する。氷の刃。弾きながら垣間見える者は人ならざる者――。



 ぐっと彼は切り付けるようにそれを睨み付けた。



 ライラの友人――悠然とそこに構えるデリオロンの姫を。



『あら? ライラ。どうして出て来たのかしら?』



 まるで氷の彫刻のような美しい身体。固く無機質な頬を軽く歪めると氷の割れる軽い音がする。彼女は元からあった青い両眼を冷たく輝かせながら親友――もう顔だけしかまともに残っていない少女に目を向ける。そこには何の感情も読み取れない。美しい横顔だけが白く付きに浮き上がって輝いていた。



『命を賭けるほど好き――っていうわけでも無かったですわよねぇ。むしろソルト様たちを苦手としてたし。――そこまでの博愛精神って持っている子でしたかしら?』



「どうでもいいことです」 



 ここにあるすべての物を足しても追いつけないような冷たさを宿した声。ふわりと月明かりに照らされる青年の手に握られた剣はすべての氷を裂きながら振り上げられていた。ハラハラと割れて床に落ちる氷の破片は雪のよう。ただそれは一瞬ですぐに水滴に変わり彼自身を湿らせていく。



 ピタリと額に濡れた髪か付いても気にする様子も無く、彼――ソルトは彼女の首に切っ先を突きつけていた。刹那――さっとすべての氷刃が水と化したのは彼女の集中力が逸れたためだろう。



 少年――ローエルはそれを確認すると真っ先に倒れている少女を抱き寄せた。震える手。顔は驚くほどその原型をとどめていたが目線を下肢に配ると形すら残していなかった。



「……ライラ」



その見開かれた眼は何も映すことはない。赤かった『色』は垣間見えもせず、ただ漆黒に塗りつぶされていた。事切れている。それは誰にでも、ローエルさえにでも分かることだった。



 ダメだ。



 ぐらりと頭が揺れる。眼の奥で焼き付くような熱が発生したと思うと脳裏に彼女と出会ってからすべての記憶が彼の中で駆け抜けた。



 図書館――いいやと思う。



『……剣で私が倒せると?』



 チガウ。



 どこか楽しげに喉を鳴らす声を聞きながら彼は小さく呟いていた。駆け巡る記憶の中――入学式の祭典が行われている。そこで見たのは困ったように固まっている少女の姿。左の赤い目を不安そうに揺らしながらいつも下を向いていた事を思い出す。自信と同じ眼を持った彼女が気になって、それからひたすら観察していたけれど――兄の事は頭に入れてなかった――こちらの事など気づきもしない。



 そうしてあの日が来た。思わず眠ったふりをして――いや。彼は記憶に頭を振った。



「やってみましょうか?」



 違――う。



 どこかの庭。話している少年少女。大きな黒い双眸の少女は彼に笑いかける。とはいっても笑ったのかどうかと疑いたくなる表情だったけれど。



 それでも笑いかける。脅えていた彼に。小さな手は温かくて心地良かった。



 刹那――まるで頭の中を風が抜けていくようにすべての『記憶』が心の中に入って来る。何もかも。自身が彼女を忘れてしまった理由さえも――。



 血だまりの中。泣き叫ぶ自分は今と何も変わってはいないのだ。身体ばかりが大きくなっても何も護れていない。



 ぐっと引き寄せるように彼女の顔を胸に埋める。どこか縋るようにして。抱き竦めた彼女の顔は未だ微かな熱が伝わってくるようだった。



「ライラ――ごめん。護れなくて、ごめん。俺――」



 冷気が増した部屋の中。全てが凍り付いていくようだった。季節など関係ないかのように生きは白く、足元の血だまりは、ぱりぱりと音を立てて急速に凍り始める。



『ほら、どうしたのでしょう? 剣。凍りましたわよね。それで私の首を貫こうなんて――』



「そうですか?」



 すっと低く言うソルトと共に、ローエルは立っていた。



『?』



 くっと顔を上げるその両眼は『赤』それは怪しいまでの強い輝きを放っている。ローエルは軽く口を歪めて見せた。



「もう一度、無茶を言う――光の精霊<ルミネ>何でもいい。俺に時間を」



 生き返らせろ――とはもう言えない。と彼は分かっていた。今までだって彼等の記憶と眼。精霊の力を対価にして彼女を生かせていたのだ。彼女にだって言う事などできない。生きるとは死ぬと言う事と同義語だ。もう一度死んでくれなんて言う事などできなかった。けれど。このままでは――このままでは何も伝えることも出来ない。



 ありがとうも、嬉しかったも――伝えられない。少しの時間でいいのだ。



 彼は、ぐっと奥歯を噛んで拳を握りしめた。



『ルミネですって?』



 眉を跳ねあげたリュートにソルトが嬉しそうに言う。



 それは当然だった。光の精霊とは高位精霊。――力のさなど歴然で、上位精霊が敵う存在では無いからだ。



「――ふふ。いいことを教えよましょう。ライラが持っていた――正確には宿していたのは『光の精霊』です。そして、その精霊は――ローエルが所有者です」



 言葉と共にポウッと蝋燭の炎が灯るように幾つもの明かりが辺りを照らし出した。それは見たかったものから、見たくないものまで映し出す光。



 血だまりの赤はより生々しく、少女の頬はより青く――。長い睫はやはり動くことなど無かった。



『――くっ!』



 熱も無くチリチリと溶けはじめる氷に顔をリュートは歪める。



「ったく。この結果は小娘が望んだことだぞ? 主よ。『お前ら』を護りたいって。まぁ、後ろ向きな理由には違いないがな」



 光を収束した先に現れたのは一人の男か女か分からないような顔立ちをした人だった。いや――人ではない。その身を――輪郭を大気と溶けあう様にして淡く輝かせていたからだった。まるで太陽を柔らかくしたような光だ。



 その人はローエルの隣に立つと<グラス>を一瞥する。



 微かに肩が跳ね、じりじりと後退しているようだがどこからか生まれた『光の環』によって四肢を拘束され動けれなくなっていた。まるで――空間に磔にされたように。



『な!』



「――よかった。殺さなくて済みました。ありがとうございます」



 微笑むソルトだったが、その言葉は決して彼女を思って出た言葉では無かった。それを分かっているだけにルミネは軽く眉を潜めた。



「下らん。どうせ情報を聞き出すならもっと前にやっておけば良かったんだ。心を陥落するなら等にできたはずだ。いらぬ欲を描くからこうなる」



 ソルトは聞かなかったように倒れている少女を見つめた。この事で議論する気はないのだろう。すでに『遺体』となった彼女を見て改めて優美な眉を寄せた。口許は『酷い事を』と呟いていたがローエルが聞いている様子は無かった。



「頼む。ルミネ。――時間を」



 低く言うローエルにもう一度ため息一つ。



「私からも。出来るなら、お願いします。このままでは内部からオーエンにこの国を潰されますので」



 どうやら本気で言っているらしいソルトを横目で見た後、少し考えた後でルミネは口を開いた。



「オプスキュリテ」



 それは名前。闇の精霊<オプスキュリテ>の名前だった。光の対角線上にある闇は当然高位精霊である。一般的に邪悪な者と捉えられがちだが、『闇』は『闇』ただそれだけである。ルミネが『光』それだけであるように。



「え? 闇?」



「力を貸してもらう――なぁ? オプスキュリテ」



 そう言えば存在すらすっかり忘れていたのだが丁度部屋の影となったところに『侵入者』の一人は立っていた。リュートを冷たく見据えた後で、ルミネを見る男。漆黒の双眸に光は無くなりどこまでもその奥は闇に染まっている様にも見えた。



『ガロード?』



 どう見ても人でガロードと呼ばれた男は微かに眉を上げる。周りの意外そうな反応とは正反対で、不快そうに。



「断る。俺が助けて何の得が?」



 ふわりと龍のごとく足元から舞い上がる闇は彼のローブをふわりと舞いあげた。龍は部屋に点在する光を二、三食い荒らすとまるで飼いならされた蛇のようにガロード――否オプスキュリテ に絡まった。



「何でこんなところで人間ごっこしてるか知らんが――オプスキュリテだ。主よ。こいつ込みでなら何とかなるだろう」



 少しなら。と付け加えるとともに少年はオプスキュリテの前に出ていた。敵だと言う事も何もかも忘れ、それはソルトが止める間もない。彼はまっすぐに闇を見据える。光差すその双眸で。その光が精霊を惹きつけてならなかった。――昔から。



 それに抵抗する様にしてオプスキュリテは微かに顔をこわばらせた。



「頼む。お前が欲しいものは何だ? この国以外なら――俺だけならお前にくれてやる」



「……何でも? 俺が敵国の間者であるとも知っているな?」



 何か言おうとするルミネ。いつ、割って入ろうかと考えている兄。それを制するようにしてローエルは軽く手を上げる。『入って来るな』そう言いたげに。



「なら。姫の拘束を解いて――お前がかの国に来い。それでよければでいいなら。やっても構わん」



 別に予想外ではないその言葉。聞いてローエルは頬を軽く綻ばした。その表情にローエルは顔を顰め、ルミネは呆れたようにため息一つ。オプスキュリテは意外そうに眉を跳ねあげた。



「分かったよ――それでいいなら。この国は兄上も、父上もいる」



 この選択はおそらく間違っている事を彼は知っていた。全ての選択が間違っている。彼女をともう一度願う事もそのために身を投げ出すことも。戦争になるかもしれない。



 けれど――嬉しい。それが叶うなら。素直にそれだけ思う。



 後の事は考えないことにした。信頼する兄も父も優秀で、国と民の為なら命を投げ出す人だ。


 自身とは大違いで。


 囚われて質となっても彼らは余裕で見捨てるだろう。向こうに行くと言う事は彼にとっても『死』を意味していた。


「……俺たちに人を生き返らすことは出来ない。けれどすべての精霊に命じて組織を復活させることは出来る――見た目は」


 それと、生き返らすこととどう違うのだろうか。ローエルは続きを待った。


「魂はどうあっても定着などしない。少しの間留まっているだけだ。それでもいいか? 再び見える時が死ぬ時となるだろう――それでも、願うか?」


 軽く瞑目する。その後でゆっくりと赤い双眸はルミネを見つめた。


「……ああ。それでいいよ。ありがとな。これでようやく言えるぜ。俺も」


「馬鹿な奴だ。ただ、女に格好をつけたいだけだろ?」


 ルミネは軽く喉を鳴らす。それにローエルは肩を竦め、ソルトは苦虫を潰したような顔をしていた。


「かもね」



 言葉と共にすべてが収縮していく。闇と光が溶け合う様に。そして――彼の意識も。全てが『無』に溶けて行った。


オプスキュリテは暇人で隣国に留まっていた所、気が付いたらこんな事してたみたいな感じ。いろいろあるらしい。

※少しだけ修正しました。

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