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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
29/61

侵入者

 暫くして、ソルト様は満足したのだろう。厳しい顔を見せて『闇』に目を戻す。その唇は皮肉気に歪められていた。



「――いい加減、出てきてくださいよ? こうして無防備な姿をさらしているんですから」



 見据えた闇が微かに蠢いたような気がする。



 いつからいたのか――どこから来たのか。はたまた初めからそこに居たのかは分からない。小さく金属の擦れる音が下と思うと窓から差し込む月明かりの下、二人の『人』が現れる。



 闇夜に紛れる様なローブ。顔を覆うようなフードを頭からすっぽりと被っていたが、一人は必要ないと判断したのだろう。ゆっくりと顔を月明かりの元に晒して見せた。



 暗闇を映したような漆黒の両眼――。



 一瞬、頭に映像が流れ込んできて私は少し眩暈を覚えた。反応するようにして微かな動悸。未だ色褪せる事の無い記憶の中であの時の男が漆黒の双眸を浮かべている。



 今と同じように。



「無防備な……ねぇ」



 独り言のような小さな声。まるで口許で紡ぐ程度だろうか。それでもその声が聞こえのはこの部屋が静寂に包まれていた為だろうか。自嘲気味に歪める口許には焦りも何も感じられなかった。それどころか余裕さえ見て取れる。



「てめぇ! どこに隠れてたんだよ!」



 『びしっ』と指を差して男に向けて吠えるローエルに、ソルト様が『黙りなさい』の代わりに右手で制する。不服そうな彼をソルト様は一瞥した後で男に目を向けた。ニコリと笑顔を浮かべて。ただし――その目は笑ってはいない。警戒の色が浮かんでいた。それに合わせるように空気が緊張の色を濃くしていく。



「まぁ、積極的に探しませんでしたし。それは仕方ないことですけどねぇ――。どうせ、学院に手引きした者が『匿っている』だろうし。労力の無駄です。であるならば、おびき出した方良いかと思ったんですよ」



「え?」



「兄上」



 言っている内容は『囮』だろうか。私も知らなかったことだけれど――当然だが――ローエルも聞かされていなかったのだろう。非難するようにローエルはソルト様を見つめた当の本人は肩を小さく竦めて見せただけだった。当然悪びれた様子なんて無い。



「にしても。二人だけとは。なめてらっしゃるんですか? 私を――近衛騎士団を?」



 ――怖い。冷気を放ち始める笑顔に私は思わず目を反らしていた。ローエルもさすがに何かを感じたらしい『ここ寒くねぇか?』と私に呟いている。

 ただ、それにもめげず向き合っている男はやはり只者ではないのだろう。彼は面白そうに喉を軽く鳴らした。



「いいや、まさか俺なんかに勝てるはずなど無いさ。近衛騎士団長様。まぁ、あんたがここに居ると報告を受けてね。大人数はあんたには無駄だしな。だから簡単に『勝てる』方法を持ってきただけだ。まぁ、まだ不安定だけどな」



「報告ねぇ――たとえば? その人ですか?」



 ソルト様は片眉を上げて男の隣――ローブの人間に目を移した。男か女かも分からない――小柄なので女なのかもしれない――闇に溶けてしまうようなそれは一歩を踏み出す。微か影の間から色味の少ない長い髪が光に反射して揺れた。



「そうかもしれないですわね?」



 一瞬。何が起こっているのか分からなかった。ふわりとフードが取れると闇夜でも輝くような金の髪。光に跳ね返る青い双眸は銀色にも見えた。



 見覚えのある少女はいつもと変わらぬ優しい笑顔で私を見ている。



「リュート?」



 どうしてここに居るのだろうか。



 捕まったのだろうか。つれてこられたのだろうか。そう考えたが彼女の表情には悲しみも苦しみも浮かんではいない。どう見ても捕まって連れてこられたようには見えなかった。



 私は困惑の表情を浮かべ近くにいた兄弟を窺う。答えを求めるように。だがローエルは私と同じように困惑。ソルト様は眉間に深く皺を寄せている。到底聞くことのできる雰囲気ではなかった。



「私を彼女でどうにかできると? リュート様は私の弱点には成りえませんが。何かあるんですよねぇ?」



 ソルト様が言うと彼女はコロコロ笑う。


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